エンパワーメントとは?意味や使い方を簡単にまとめました

エンパワーメントとは、組織の中の一人ひとりが持っている潜在的な力を最大限に引き出し、自らの判断で積極的に行動することを意味します。星野リゾートやリッツカールトン、スターバックスコーヒージャパンなど、多くの企業がこの考え方を取り入れています。

エンパワーメントを取り入れることで、部下への権限委譲が進み、仕事への責任感が増すだけでなく、業務の効率やスキルの向上も期待できます。

しかし、すべてがメリットだけではありません。組織の目的や方向性がブレるリスクや、人によっては逆効果になることも考えられます。

この記事では、エンパワーメントのメリット・デメリットや、事例をいくつか紹介します。

エンパワーメントとは?

エンパワーメント(empowerment)とは、組織を構成する一人ひとりが本来持っている力を発揮し、自らの意思決定により自発的に行動できるようにすることを意味します。

「力(権限)を与える」という意味の どうし、empower(エンパワー)の名詞形で、「エンパワメント」と表記されることもあります。

もともとエンパワーメントという言葉や概念は、先住民運動、自由公民権運動、フェミニズムなど市民運動の場面で使われた言葉でしたが、現在は教育、福祉、保健医療、そして企業や組織でも注目されています。

企業や組織ではエンパワーメントは「権限委譲」「能力開花」といった意味で捉えられ、人材育成やマネージメントの手法の一つとして注目されています。

「権限委譲」とはつまり、本来管理者が持っている権限を部下に与え、仕事の遂行方法や意思判断を自発的に行わせるようにすることです。これによって、部下の持つ能力を引き出し、組織としてのパフォーマンスを最大化することで目標達成を目指そうとするものです。

エンパワーメントの使い方の例

  • エンパワーメントを図ることで、メンバーの能力を開花させる
  • 部下への権限委譲とフォローをセットで行い、エンパワーメント経営を推進する
  • 社員をエンパワーメントして能力を最大限に引き出すことで、企業の成長にも繋がる

エンパワーメントを高めるための取り組み事例

組織内で情報をオープンにする

エンパワーメントに取り組むなら、組織での情報公開が欠かせません。

もしも「教えてもらえない情報があるのに裁量だけ大きい」となれば、従業員は不信感を抱きます。権限委譲を進めるならば、前提として組織や企業の中で情報をオープンにする仕組みを作りましょう。

小さなところから権限移譲を進める

「権限移譲」と聞くと仰々しく感じるかもしれませんが、まずはそれまで上司がやっていた業務の一部を部下やメンバーが実施するなど、小さな部分から決定権や決裁権を持ってもらいましょう。

成功体験を積み上げてもらいながら、次はさらに大きな部分を任せるということを繰り返すことで、スムーズに権限委譲を進めていくことができます。

部下の意思や判断を尊重しつつ、適切なフォローをする

エンパワーメントに取り組むなら、部下の意思や判断を尊重しつつフォローすることが重要です。権限を得た部下が自己成長し更に力を発揮できるよう、サポートをしていくことが不可欠です。

部下の仕事ぶりを見て言いたいことや指摘したいことも出てくるかと思いますが、一方的に指示をしてしまうとエンパワーメントは機能せず形だけの権限委譲になってしまいます。「実作業だけやらせて、結局自分の好きに決めたいだけじゃないか」と不満を持たせてしまうことにもなりかねません。

一方、上司のフォローがない丸投げの状態でもエンパワーメントは実践されません。その時点で部下側に足りないスキルや視点を補うために、「こういう部分についてはどう考えてる?」「こういう場合はどうなると思う?」など、部下に考えるきっかけを与えるような適切なフォローが必要です。

トラブルが起きてしまった場合は、一緒に最初防止策を考える

部下に業務や意思決定を任せる中で、トラブルが起きてしまうこともあるかもしれません。

そのときは理由を聞いた上で、再発防止のための対策や仕組みを一緒に考えることが重要です。叱責するだけでは部下が「もう失敗できない」というプレッシャーを感じ、萎縮して力を発揮できなくなってしまうからです。

エンパワーメントの事例 - 企業での例

株式会社星野リゾート

エンパワーメントを実践している企業として有名なのが星野リゾートです。

星野リゾートが一番大切にしているのは「組織」であり、それも「一部の経営陣の能力に依存する組織」ではなく、「仕組み・文化・価値観を保持する組織」だといわれています。

各施設には、トップに総支配人がいて、その下にユニット・ディレクター、その下にプレイヤーがいますが、総支配人とユニット・ディレクターは、上から任命された人がなるのではありません。

やりたいと思えば誰でも立候補することができ、どの人が役職に相応しいのかを皆で議論して選出するという仕組みがあります。このように自らが経営者の意識を持って仕事に取り組むことができる環境が人材の育成や組織力の強化につながっているのです。

リッツ・カールトン

顧客満足評価が高いホテルとして知られているリッツ・カールトンにはエンパワーメントにおいて3つのポイントがあります。

  • 上司の判断を仰がずに自分の判断で行動できること。
  • セクションの壁を超えて仕事を手伝うときは、自分の通常業務を離れること。
  • 1日2000ドル(約20万円)までの決裁権。

これらは、お客様にとって一番良いサービスの方法を考え、個々の従業員が迷うことなく最善の方法を選択することができる環境を整えることを目的として実践されています。

スターバックスコーヒージャパン

元CEOの岩田松雄氏は従業員の育成に関して次のように語っています。

ミッションを徹底教育した後は、権限委譲(エンパワーメント)をして、その実現のための自主性と創造性を発揮してもらうこと。それこそがスターバックスの接客の核心なのです

同社では、基本的に新入りのアルバイトは最初の1週間は店に出ず、教育を受けます。そこで学ぶのは、スターバックスの基本理念から、勤務に関わるシフト体制、衛生面で気をつけるべき点など。やりがいのある会社であることを伝えるプログラムも含まれています。

しかし接客に関してはたった1行、「お客様が何をしてほしいかを考えてサービスしよう」という内容のみで、接客には細かなマニュアルのようなものはありません。

マニュアル通りの対応をするのではなく、個人個人がお客様のことを思い最善のサービスが何なのかを自ら考えてを実践する。これこそが、スタバ―バックスの強みである顧客満足度の高さへと繋がっているのです。

※参考図書:ミッション 元スターバックスCEOが教える働く理由

エンパワーメントのメリット

企業がエンパワーメント・権限委譲を進めることのメリットは主に以下の5つがあげられます。

業務スピードや生産性が向上する

現場で何か問題が生じたとき、一般的にはその都度上司の指示や判断を仰ぐ必要があります。

しかしエンパワーメントによって部下にその権限が与えられていれば、上司の回答を待つことなく、部下が現場で即座に判断を下すことが認められます。仕事をストップすることが無くなり、課題解決に素早く取り組めるため、無駄な時間を削減することが可能です。

顧客満足度の向上に繋がる

例えば、店舗でお客様からクレームがあった場合、その解決に時間がかかる場合と、その場ですぐに対応して解決する場合では、同じ解決策を提示したとしても顧客に与える印象に大きく差が出てしまいます。

エンパワーメントを行なっており、顧客の要望に対して現場で柔軟かつ迅速に対応できれば、結果的に顧客満足度の向上に繋がるでしょう。

仕事に対する責任感が増す

エンパワーメントで権限を与えられ、自らが決定するということは、これまでのように上司に指示を仰ぎ、指示された通りに実行すればよかったケースとは違い、自分が決定した判断に対して責任が生じます。

どのように遂行すれば良いかというプロセスを含め、物事を自発的に考えざるを得ない状況になるため、当事者意識を持って仕事に取り組めるようになるなど、働く姿勢を見直すきっかけになるはずです。

モチベーションが向上する・従業員満足度の向上に繋がる

指示待ちの状態で言われた仕事だけをするのと、エンパワーメントされ責任を持って自発的に考えて仕事に取り組むのでは、パフォーマンスに大きな差が生まれます。

さらに、課題を解決したり目標を達成できれば、やりがいや働きがいも高まります。このような成功体験を積むことができれば、モチベーションが向上し、従業員満足度の向上にも繋がります。

マネジメント能力が身に付く

エンパワーメントによって裁量権を得ることによって、自身の属するチームのリーダー的な立場になるケースも少なくありません。

これまで自身の上司がどのような判断や指示出しをしてきたのかを振り返り、そこにどのような意図があったのかを理解する良い機会にもなります。自身のことだけではなく、組織が結果を残すためにどうすればよいかを考えて行動する力を身につけることができます。

エンパワーメントを進める際の注意点

企業がエンパワーメント・権限委譲を進める際の注意点について解説します。

組織の方向性や目的にずれが生じるリスクがある

エンパワーメントが行われ権限を与えられたからといって、それぞれの考える基準で好き勝手に物事を判断してしまえば、様々な弊害が発生してしまいます。

例えば、店舗や支社によって顧客への対応にバラつきが出てしまえば、顧客の不満を招き会社全体への信頼を失ってしまうかもしれません。

また、全社の方針を理解してそれに基づいて動く部署と、そうではなく好き勝手に動く部署が出てしまうと、なぜその業務が必要なのかといった目的意識を共有できず衝突してしまう可能性もあります。

そのため組織の方向性や行動指針を共有する施策を行うことが重要になってきます。

人によっては逆効果で生産性が低下してしまう

自分で意思決定をして仕事を進めることが得意な従業員ばかりではありません。それが苦手な従業員や、まだそのレベルに経験や知識が達していない従業員もいるかもしれません。

そうった人に対して必要以上に権限を委譲してしまえば、精神的に大きなプレッシャーとなってしまったり、業務過多になってしまい、エンパワーメントで業務効率を向上させるどころか、逆に低下させてしまう事態になってしまいます。

失敗による損失が発生するリスクがある

エンパワーメントで権限を与えたからといって、すべてその部下へ任せきりというのは危険です。

部下が経験不足であったり、想像以上に困難な課題に直面した場合に、誤った判断をしてしまい、致命的なミスを起こしてしまうかもしれません。

上司は状況をみて適度なフォローをすることも大切です。

エンパワーメント推進のカギは「エンゲージメント」

エンゲージメントが高い組織では、エンパワーメントが推進しやすい

エンパワーメント推進の前提として、「エンゲージメント」(組織内の信頼関係)という重要な概念があります。エンゲージメントの低い組織(信頼関係ができていない組織)では、エンパワーメントを推進しようとしても上手くいきません。逆に、エンゲージメントの高い組織なら、エンパワーメントを推進しやすくなります。

エンゲージメント向上の取り組みとしては、社長メッセージで会社の方針や経営の想いを現場に伝える、1on1で上司と部下の相談やフィードバックの機会を作る、日報で部下の頑張りや悩みを見える化して適切なフォローをする、といった施策が有効です。

エンゲージメント向上には、社内施策のPDCAを

ただし、いくら効果的な取り組みを実施したとしても、やりっぱなしでは意味がありません。重要なのは、取り組みがどのくらい実施されたのか、より効果的に運用するにはどうしたら良いかを考えていくことです。

『TUNAG(ツナグ)』は、そうした社内施策のPDCAをまわすプラットフォームです。施策の設計から活用状況の分析、運用改善まで、ツールと専任のトレーナーの双方でサポートしています。

社内施策のPDCAをまわしてエンゲージメント向上に取り組むことは、結果的にエンパワーメントの推進につながります。まずは、エンゲージメントを高めることから始めてみてはいかがでしょうか。

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