早期離職防止対策5つのポイント、原因調査の方法を解説

早期離職の対策 近年、若手社員の早期離職が課題となっている会社が多いのではないでしょうか?Web上で求人検索が簡単になった時代、従業員は、一つの会社に固執することなく、さまざまなキャリアの選択が可能です。本稿では、主な退職理由を踏まえた上で、対策のポイントについて考えていきます。なお、早期離職とは、入社した社員が3年以内あるいは、数年以内に離職することを指します。 ⇒お役立ち資料「早期離職を防ぐための3つのポイント」はこちら

早期離職の原因TOP5

独立行政法人の労働政策研究・研修機構(JILPT)が、2016年に当時21~33歳の被験者約1,000名に行ったWebアンケート調査によると、新卒3年以内、早期離職の原因TOP5は以下の通りでした。
  • ・肉体的、精神的に健康を損ねた
  • ・労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった
  • ・人間関係がよくなかった
  • ・結婚・出産
  • ・自分がやりたい仕事とは異なる内容だった
▼参照 調査シリーズNo.164「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)」,図表2|労働政策研究・研修機構(JILPT) お役立ち資料「早期離職を防ぐための3つのポイント」はこちら

早期離職防止対策の5つのポイント

前述の早期離職の原因を受けて、早期離職の対策について、以下の5つのポイントで整理しました。

1.健康管理(体調、精神) 2.コンプライアンス(労務、倫理) 3.良好な人間関係を作る仕組み 4.採用広報の見直し(労働条件、仕事内容) 5.会社の将来的な計画、経営状況の共有

1.健康管理(体調、精神)

給与等が良かったとしても、健康を損ねてしまっては、働き続けることができません。当然、働き方には持続可能性が求められます。 管理職や人事労務担当者は、新入社員の残業時間等の労務管理、業務量の負担度合い等を管理する役割があります。若いから大丈夫だろうと、自分の若い時の経験を元に考えるのではなく、本人がどのように感じているかを管理者として把握すべきです。本人の負担度合いを考慮した上で、部署内で業務量を調整したり、教育によって業務効率化を図ることが求められるでしょう。 また、身体的な不調だけでなく、外見的に分かりづらい精神状態の把握、管理にも配慮すべきです。現場の管理職だけでなく、組織として把握するためには、パルスサーベイや産業医等に協力を依頼してメンタルヘルスチェックを行う必要があります。 「健康経営」を掲げて、従業員の健康増進を重視し、健康管理を経営課題として捉える企業もあります。それら企業の取り組みが、参考になるでしょう。 参考:健康経営優良法人 取り組み事例集(令和2年, 経済産業省)

2.コンプライアンス(労務、倫理)

企業の法令遵守、コンプライアンス意識は、社会的信用だけではなく、従業員からの信頼に関わります。先述の労働政策研究・研修機構の2016年の調査で、「初めての正社員勤務先」で経験した職場トラブルとして、以下の内容が挙げられています。
  • ・残業代が適切に支払われない
  • ・人手不足で、一人でも休むと業務が立ち行かなくなる
  • ・希望した日に有給が取れない
  • ・暴言、暴力、いじめ・嫌がらせを受けた
  • ・自分が希望しない配置転換
  • ・業務上のケガや病気
  • ・商品の買取、業務に関わる経費の自己負担の強要
  • ・辞職を申し出ても、受け入れたもらえない
  • ・結婚、出産、育児、介護等を理由に、会社側から辞めるように言われた
企業コンプライアンスの基本となる、労働三法、民法等のポイントは、管理者として、最低限理解をしておきたいところです。 また、法律以外でも、社会通念や「ポリティカル・コレクトネス」と呼ばれる社会の特定のグループ、人種、信条、性別などの違いによる偏見や差別を含まない中立的な表現や用語を用いることへの配慮も求められます。 ▼参照 図表1「初めての正社員勤務先」で経験した職場トラブル, 調査シリーズNo.164「若年者の離職状況と離職後のキャリア形成(若年者の能力開発と職場への定着に関する調査)」|労働政策研究・研修機構(JILPT)

3.良好な人間関係を作る仕組み

離職要因のうち、「人間関係がよくない」という理由もあります。そもそも、「人間関係がよくない」というのは、もう少し具体的にどういう状態を指すでしょうか?

「職場に、自分にとって苦手な存在の人」がいる、あるいは、「職場の人間同士が敵対関係にある状態」

と言い換えることができるかもしれません。また、それらの人間関係により、自身がストレスを感じる環境でもあるでしょう。

人が人を嫌いになる仕組み

精神科医の樺沢 紫苑氏の、「脳が「嫌いな人」を生み出す驚きのワケ」(ダイヤモンド・オンライン)という記事によると、人間は、初対面の人と会う際、脳内の扁桃体が機能して、自分にとって安全な存在なのか、危険な存在なのか、好きなのか嫌いなのかを無意識的かつ、瞬間的に判断しているそうです。 これは、動物が自分の敵と遭遇した時に、瞬時に対応を取れるように脳が警戒信号を出し、身を守ろうとする仕組みと同じだと説明できます。森の中で、ヘビに会ったら、瞬間的に逃げようと思うのと同じだということです。 ▼参照 脳が「嫌いな人」を生み出す驚きのワケ | ストレスフリー超大全 | ダイヤモンド・オンライン

「危険、嫌いな存在」ではないと判断するには?

犬を怖がっていた子供が、犬に慣れてきて、触れることができるようになる。若い頃、苦くて嫌いだったコーヒーや、ビールが歳を重ねて飲めるようになる。 これらの変化は、経験が増えることで、脳が刺激に対して危険だという判断を発しなくなったからではないでしょうか。だとすれば、人間関係においても、様々な人と交流する経験を持つことで、脳が瞬間的に危険、苦手だという判断をする機会が減るのではないでしょうか。

相手を理解しようとする

エン・ジャパン株式会社が、2018年に自社の転職サイト利用者約1万人に向けたアンケート調査によると、「職場での人間関係を良くするために、どんな工夫をしていますか」という質問に対する回答のトップ3は、以下の通りです。
「相手の価値観を理解する」(47%) 「相手の置かれている状況を考える」(47%) 「仕事以外のコミュニケーションを増やす」(38%)
言動が予測、理解できない相手に対して、不信感を持つのは当然だと思いますが、半数近くの人が「相手を理解しようとする」ことで、人間関係を改善しようとしています。相手の価値観、状況、思考回路を理解することで、相手が自分にとって、予測できない「危険な存在」ではなくなるのではないでしょうか。 ▼参照 1万人に聞く「職場の人間関係」意識調査 ―『エン転職』ユーザーアンケート調査 結果発表― | エン・ジャパン(en Japan)

4.採用広報の見直し(労働条件、仕事内容)

「労働条件が悪い」「やりたい仕事とは異なる」という離職要因も、重要です。この課題は、配属された後の業務環境が原因というより、入社前の期待と実態とのギャップが大きいことが原因になっているのではないでしょうか。 求人を公開する段階で、求人の詳細条件が、実態と合っているのか見直すべきでしょう。人事や現場の管理職が、採用人数だけを目標にしてしまうと、入社希望者が現場の理解を十分にせずに、入社が決まる場合があります。入社希望者の人生を左右し、会社のリソースを使う採用活動ですから、双方にとって、後悔のない判断をしたいものです。 また、入社後に同僚となる複数の人物と面談することや、労働条件通知書の確認、担当業務や期待値について書面で確認をすべきでしょう。新卒入社者に、具体的な業務内容を先に示すことは難しいことですが、できるだけ具体的に示し、相互理解を図るべきです。 ▼参考 リアリティショックとは? 4つの要因や対策、事例2選を紹介(TUNAG(ツナグ))

5.会社の将来的な計画、経営状況の共有

「仕事が上手くできず自信を失った」「会社に将来性がない」「キャリアアップする」といった、未来に向けた不安を元にした離職理由もあります。従業員自身のキャリアの方向性と、会社の将来的な姿が合わなければ、退職を判断することもあるでしょう。 先行き不透明なVUCAの時代において、会社としては、経営状況や、将来的な展望を共有し、従業員へ将来性を示すことが求められます。従業員のキャリアについては、会社の進む方向性に対して、各従業員がどのような役割を担うことができるのかを、会社と従業員の双方で擦り合わせるコミュニケーションが重要になります。

離職率の平均値

自社の離職率が高いのかどうかは、離職率の相場と比べることで見えてきます。厚生労働省の「雇用動向調査」によると、令和3年(2021年)における離職率は13.9%。なお、離職率は、年初(1月1日)の常用労働者数に対する割合で算出されます。年によって多少の増減はあるものの、平成19年以降は13.9%~16.4%の間を推移しています。また、令和3年における男性の離職率は12.8%で、女性の離職率は15.3%です。 ▼参照 令和3年雇用動向調査結果

業界別の離職率平均値

離職率の高さは業界によって様々ですが、令和3年で離職率が最も高かった業界は「宿泊業、飲食サービス業」で、25.6%(1,270.9千人)。次いで「生活関連サービス、娯楽業」の22.3%、「サービス業(他に分類されないもの)」18.7%でした。 また、同調査の過去5年間の結果で、「宿泊業、飲食サービス業」・「生活関連サービス、娯楽業」・「サービス業(他に分類されないもの)」が離職率1~3位という構造は変わらず、これらの業界の離職率の高さが目立ちます。 ▼参照 産業別の入職と離職|雇用動向調査|(厚生労働省)

新入社員の離職率

平成31年(2019年)3月における3年目までの離職率は、大卒者で31.5%、短大卒で41.9%、高卒者で35.9%、中卒者で57.8%となっています。入社から3年のうち、大卒者の離職率は1年目が11.8%、2年目が10.6%、3年目が10.0%です。 また、3年のうち離職する割合が最も高いのは、学歴に関わらず1年目になっています。早期離職を防止したいと考えている場合は、1年目の社員の離職率をどう改善するかが、まず重要なのかもしれません。 ▼参照 新規学校卒業就職者の在職期間別離職状況 (平成8年3月~令和3年3月)(厚生労働省)

中途社員の離職率

中小企業庁の「中小企業・小規模事業者の人材確保と育成に関する調査」によると、中小企業における採用から3年目の離職率は、新卒が44.2%であるのに対し、中途社員は30.6%となっています。 小規模事業者においても新卒の離職率56.8%に対し中途社員の離職率は31.0%となっており、新卒社員よりも中途社員の方が離職率が低いことが分かります。 ▼参照 第2-2-27図中小企業における就業者の離職率(3年目) , 中小企業白書2015 (経済産業省)

離職率が高い原因の調査方法

離職率が高い原因を調査するためには、社員が離職する原因を調査する必要があります。社員が離職する原因を知るには、離職者に聞くのが早いように思うかもしれませんが、必ずしも退職する側が素直に回答してくれるか分かりません。組織の課題を把握するために、急遽社員アンケートを開始する会社もありますが、十分な準備ができずに課題が発見できなかったり、社員から不信感を持たれたりする恐れがあります。

社内アンケート等の量的調査と、面談等の質的調査の両方を

社員に対して離職率が高い原因を調査する場合には、社内アンケート等の量的調査と、面談等の質的調査の両方を行いましょう。 量的調査では、組織全体の傾向が分かりますが、なぜそのような傾向になっているのか、原因が分からないことがあります。面談やヒアリングを通して、社員の心理状態を把握したり、本音を聞き出すことができる信頼関係を築いているかがポイントになるでしょう。 ▼量的調査方法の例 ・社員向けアンケート:エンゲージメントサーベイ等 ・退職者向けアンケート(エグジットサーベイ) ▼質的調査方法の例 ・複数の関係者で、グループヒアリング ・1対1の面談

組織外部からの視点を活かす

社外の人との会話の中で、自社の特徴に気づいた経験はないでしょうか?特定の集団の文化的特徴は、外部との比較によって気づくことが多いです。日本文化の特徴を、海外の研究者や経済人が説明した本が、国内で売れていたりするのは、その一つの例ではないでしょうか。特定の集団における「当たり前」は、外部から見たときに必ずしも当たり前ではないです。 アンケート等のデータだけでは気づかないこと、社風の特徴、業界水準との比較等、外部の協力会社等から、客観的に組織の課題を指摘されることは、有益な視点ではないでしょうか。

慰留ハラスメントにならないために注意すべきこと

慰留ハラスメントとは、退職したいと申し出があった社員に対し、使用者が必要以上の引き止めを繰り返し行うことです。なお、労基法における「使用者」は、以下のように説明されています。
第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。
労働者の任意退職は、民法627条で認められており、強引なやり方で引き止めれば労働基準法第5条違反になる恐れもあります。 ▼参照 民法627条 (厚生労働省)

違法な引き止めをしない

以下のような方法で、退職者を引き止めることは違法です。自社の人材状況に関わらず、過度な引き止め行為にならないよう注意しましょう。
・後任がいないから退職を認めない(民法627条) ・退職したら損害賠償を請求する(民法627条) ・退職したら給料・残業代を払わない(労働基準法第24条) ・退職するなら有給休暇の消化は認めない(労働基準法第39条) ・離職票を発行しない(雇用保険法第76条3項)
▼参照 労働基準法(e-Gov法令検索) , 雇用保険法 (e-Gov法令検索)

関係者間での事前擦り合わせ

退職の相談をされた上司や人事担当者は、部下が退職することはマイナス評価になると考え、前述した強引な方法を使ってでも引き止めようとするかもしれません。また、退職の話が社内で広まってしまうと、退職撤回のハードルが高くなったり、他の社員のモチベーションが低下したりする恐れもあります。退職時の対応は、役員、人事担当者、管理職で事前に擦り合わせを行っておきましょう。

慰留・カウンターオファーの成功率の相場を知る

転職希望者に対して、上司等から、給与の増額、役職の用意等を条件に、退職を引き止める交渉のことを「カウンターオファー」と呼びます。 エン・ジャパン株式会社の2017年の調査によると、エン・ジャパンの中途採用支援サイトを利用する企業775社中、退職意向の社員にカウンターオファーをしたことがある企業は65%で、成功確率が20%以下と回答した企業が61%です。また、エン・ジャパン株式会社が人事担当者向けにした「退職慰留」に関する調査では、退職慰留に成功した確率は「1%~10%」が最多でした。カウンターオファー等で慰留できなかったとしても、一般的な成功率を把握して人材計画を立てることが重要でしょう。 ▼参照 「カウンターオファー」実態調査(2017)  | エン・ジャパン(en Japan)

まとめ

若手人材も転職しやすくなっている時代。退職する社員の行動を防止するという発想ではなく、採用期間、新入社員期間に、会社と従業員が相互に理解を深めることが重要ではないでしょうか。 お役立ち資料「早期離職を防ぐための3つのポイント」はこちら

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