エンプロイアビリティを高めると離職が増える?企業が取り組むメリットと正しい活用法を解説
「社員を育てても、結局辞めてしまうのではないか」と感じ、人材育成に踏み切れずにいる企業もあるのではないでしょうか。しかし、人材不足や働き方の多様化が進む中で、社員の成長を支える取り組みは、企業にとって欠かせないテーマになっています。そこで重要になるのが「エンプロイアビリティ」です。エンプロイアビリティは、単なる転職力ではなく、社員が変化に対応しながら働き続けるための力を指します。本記事では、エンプロイアビリティの意味や種類、注目される背景、企業が高めるメリット、具体的な取り組み方まで解説します。
エンプロイアビリティとは何か
エンプロイアビリティを理解するには、まず言葉の意味を正しく押さえることが大切です。転職市場で評価されるスキルだけを指すのではなく、社内外で価値を発揮し続けるための能力として捉える必要があります。
雇用され続ける能力という基本概念
エンプロイアビリティ(Employability)とは、「雇う」を意味するEmployと、「能力」を意味するAbilityを組み合わせた言葉です。直訳すると「雇用され得る能力」となり、一般的には「雇用され続ける力」を指します。
ここでいう能力には、専門知識や業務スキルだけでなく、課題解決力、コミュニケーション力、協働力、変化に対応する力なども含まれます。
つまり、特定の会社の中だけで評価される力ではなく、労働市場全体で価値を発揮できる力を表す概念です。
企業にとってエンプロイアビリティは、社員の転職を後押しするための考え方ではありません。社員が変化に対応し、自社の中でも外でも活躍できる力を育てることで、結果的に組織の成長力を高める考え方です。
内的・外的エンプロイアビリティの違い
エンプロイアビリティは、組織との関係から「内的エンプロイアビリティ」と「外的エンプロイアビリティ」に分けて考えられます。
内的エンプロイアビリティ
現在所属している企業で成果を出し、雇用され続けるための能力です。自社の業務プロセスを理解していることや、社内の人間関係・文化に適応できることなどが該当します。
社内での評価や昇進、役割拡大に関わるため、企業内でキャリアを築く上で重要な能力です。
外的エンプロイアビリティ
現在の会社を離れても評価される能力です。専門スキルだけでなく、課題解決力やコミュニケーション力、マネジメント力など、業界や会社を問わず生かせる力が含まれます。
雇用の流動化が進む中で、社員自身も「どこでも通用する力」を重視するようになっています。企業にとっても、社外で通用する力の育成を支援することは、社員からの信頼や定着につながります。
絶対的・相対的エンプロイアビリティの違い
エンプロイアビリティはスキルの性質から、「絶対的」と「相対的」の2種類にも分けられます。
絶対的エンプロイアビリティ
社会の変化があっても一定の需要が見込まれる能力です。国家資格を必要とする専門職などが代表例です。
景気や流行に左右されにくく、長期的に価値を発揮しやすい点が特徴です。
相対的エンプロイアビリティ
時代や市場の変化によって価値が変動する能力です。現在は需要が高いスキルでも、技術革新によって求められる内容が変わることがあります。
そのため、相対的エンプロイアビリティを保つには、継続的な学び直しが欠かせません。企業が社員の成長を支援する際も、今必要なスキルを教えるだけでなく、変化に合わせて学び続けられる環境を整えることが重要です。
エンプロイアビリティが注目される背景
なぜ今、エンプロイアビリティへの関心が高まっているのでしょうか。雇用環境の変化や価値観の多様化を背景に、企業と個人の関係そのものが変わってきています。
長期雇用を前提にしにくい雇用環境
かつての日本企業は、長期雇用を前提とした「メンバーシップ型」の雇用が主流でした。しかし、バブル経済の崩壊以降、企業が長期雇用を維持し続けることは難しくなっています。
リストラや早期退職制度の浸透、企業間競争の激化により、「会社に入れば一生安泰」という前提は崩れていきました。
個人が自らのキャリアを主体的に考えなければならない時代が到来し、雇用され続けるための能力が注目されるようになっています。
社外で通用する能力への関心の高まり
転職市場の活性化とともに、社外でも価値を発揮できる能力への関心が急速に高まっています。
年功序列的な評価ではなく、スキルや成果で評価されるジョブ型雇用の浸透もその一因です。また、副業・兼業の解禁が進み、一社だけに依存しない働き方が広がっています。こうした変化の中で、「どこでも通用する力」を持つことへのニーズが高まっています。
企業が求める変化対応力の重要性
産業構造の変化やデジタル技術の急速な進展により、企業が社員に求める能力は変化し続けています。
特定の知識やスキルは技術革新によって陳腐化する可能性があります。そのため、知識そのものよりも、変化に対応する判断力・洞察力・対人関係能力が重要視されるようになっています。
厚生労働省の報告でも、業界や企業を越えて評価される職業能力の要素として、専門スキルだけでなく価値観や発想力、チャレンジ精神なども挙げられています。
採用・定着を支える育成投資への変化
人材不足が深刻化する中で、企業の育成投資に対する考え方も変わってきています。
特に「社員を育てても流出するのではないか」と懸念する企業は少なくありません。しかし実際には、エンプロイアビリティ向上を支援する企業ほど、社員の定着率やエンゲージメントが高い傾向があります。
育成によって「この会社は自分の成長に投資してくれる」という信頼が生まれ、かえって定着につながるためです。
人材育成は「コスト」ではなく、採用力・定着率・組織力を高める「戦略的投資」として捉える視点が、現代の企業経営には求められています。
エンプロイアビリティ向上のメリット
エンプロイアビリティを高める取り組みは、社員個人の成長にとどまらず、生産性・採用・定着・組織力といった企業の経営課題に直結します。ここでは代表的な4つのメリットを、現場で実際に何が起きるかという視点で整理します。
社員のスキル向上で生産性を高める
研修や資格取得支援を通じて社員の知識・スキルが高まれば、一人あたりが扱える業務の幅や処理スピード、アウトプットの品質が向上します。
さらに、「学んで成長することが当たり前」という意識が組織に根づくと、上司の指示を待つのではなく、自発的に学び、現場の改善に動く社員が増えていきます。
こうした積み重ねが、業務の標準化や属人化の解消、現場発の改善提案といった形で、組織全体の生産性を押し上げていきます。
キャリア自律が成長意欲を高める
エンプロイアビリティを意識する文化が広がると、社員は「この仕事を通じて何を身につけたいか」「次のステップに何が必要か」を自ら考えるようになります。会社から与えられた役割をこなすだけでなく、自分のキャリアを主体的に描く——これが「キャリア自律」と呼ばれる状態です。
キャリア自律は、経済産業省の「人材版伊藤レポート2.0」でも、変化の激しい時代に企業と個人がともに成長するための重要な要素として位置づけられています。
社員が目的意識を持って働くようになれば、目の前の業務へのモチベーションが高まるだけでなく、自ら学び、より難度の高い仕事に挑戦する好循環が生まれます。
優秀な人材を獲得しやすくなる
エンプロイアビリティ向上に本気で取り組む企業は、「ここで働けば力がつく」というメッセージを、採用市場で具体的に示せるようになります。
新入社員を対象とした調査では、働くうえで大切にしたいこととして「成長」を挙げる人が上位を占めています。給与や働き方と並んで、「この会社で成長できるか」は、人材が企業を選ぶ際の重要な判断材料の一つです。研修制度やキャリア支援の実績を具体的に伝えられる企業は、成長意欲の高い人材を引き寄せやすくなります。さらに、その人材の活躍が既存社員への刺激となり、組織全体の底上げにつながっていきます。
参考:リクルートマネジメントソリューションズ「新入社員意識調査2025」
次世代リーダーを社内で育てられる
エンプロイアビリティが高い社員は、専門スキルだけでなく課題解決力や対人能力も備えているため、管理職やプロジェクトリーダーなど、責任あるポジションを任せやすくなります。
こうした人材が社内に育っていれば、ポストが空いたときに外部から採用する必要が減り、自社の事業や文化を理解した人材に任せられます。次世代のリーダー候補を計画的に育てられることは、採用コストの抑制だけでなく、組織運営の安定性という面でも大きな強みになります。
自社でエンプロイアビリティを高める方法
エンプロイアビリティを高めるには、個人の努力だけに任せるのではなく、企業として仕組みを整えることが重要です。現状把握から学習環境の整備、実践機会の創出、制度の見直しまで、段階的に取り組みましょう。
チェックシートで現状を可視化する
まず取り組むべきことは、社員の現状を把握することです。エンプロイアビリティを高めるには、どの能力が不足しているのかを見える化する必要があります。
その方法として、チェックシートの活用が有効です。業務知識や専門スキルだけでなく、課題解決力、コミュニケーション力、変化対応力、主体性などを多角的に確認します。
現状を可視化することで、社員本人も自分の課題を理解しやすくなります。企業側も、どの層にどのような支援が必要なのかを把握し、育成施策を設計しやすくなります。
市場で求められる人材像を分析する
チェックシートで現状を把握したら、次は「目指すべき人材像」を明確にする必要があります。
自社が属する業界や競合他社の動向を調べ、市場で求められるスキルセットを把握しましょう。採用市場のトレンドや、技術革新によって求められる能力の変化も分析対象です。
社内の課題と市場の動向を照らし合わせることで、優先的に育成すべき能力要素が絞り込まれます。
個人の意欲を支える学習環境を整える
学習環境の整備では、「やらされる学習」ではなく、「個人の意欲を主体とした学習」を支援することが重要です。
業務外で行う研修(Off-JT)やeラーニングなど、社員が自ら希望して参加する「手上げ式」の学習機会を、複数から選べる形で提供することが有効です。
また、自己啓発の費用補助や、業務時間内での学習時間の確保も、学習意欲の高い社員にとって魅力的な環境となります。
制度を整えるだけでなく、「成長を支援する文化」があることも、学習環境の質を左右する重要な要素です。
学んだ内容を職場で実践する機会をつくる
研修や学習で得た知識は、実際の業務で活用されなければ定着しません。学びと実践をつなぐ機会を意図的につくることが、エンプロイアビリティ向上の鍵です。
例えば、研修後に「学んだことを業務に適用する課題」を設定したり、1on1ミーティングで実践状況を振り返る機会を設けたりする方法が考えられます。また、ストレッチ課題(少し背伸びが必要な業務)を意図的にアサインすることも、成長機会の創出として有効です。
人材流出リスクを前提に制度を見直す
エンプロイアビリティを高めた人材は、社外からも魅力的に映るため、流出リスクが生じることも事実です。この点を前提として、制度の見直しに取り組む必要があります。
具体的には、キャリア面談の定期実施、社内公募制度や社内FA制度の整備、評価制度と育成計画の連動などが有効です。また、社員が「ここで働き続けたい」と感じられるよう、やりがいの創出や組織への帰属意識の向上にも取り組みましょう。社員を引き留めるのではなく、「この会社でこそ成長できる」と感じてもらえる環境をつくることが本質的なアプローチです。
外部コンサルを活用すべきケース
自社内で育成体制を整えようとしても、なかなか前に進まない場合もあるでしょう。以下のような状況に当てはまるケースでは、外部コンサルタントの活用を検討してみてください。
育成課題を社内だけで把握できない
人材育成の課題は、組織の内側からだけでは正確に把握しにくいことがあります。社内での評価基準や慣行が固定化していると、見落としている課題に気づきにくいためです。
外部のコンサルタントを活用すると、客観的な視点から組織の育成課題を整理できます。業界の動向や他社事例も踏まえたアドバイスをもらえるため、自社だけでは気づきにくいボトルネックを特定しやすくなります。
研修が単発施策で終わっている
「研修は実施しているが、効果が出ているか分からない」という課題を持つ企業も少なくありません。単発の研修で終わってしまうと、学んだ知識が業務に定着せず、エンプロイアビリティの向上につながりにくいためです。
外部コンサルタントの支援を受けることで、研修を組織の育成体系の中に位置づけ、継続的な施策として設計し直すことができます。単発施策で終わらせず、育成を組織に浸透させるための設計が重要です。
育成と評価制度が連動していない
育成計画と評価制度がバラバラに運用されていると、従業員に「頑張っても評価されない」という不満が生じやすくなります。育成とキャリアアップの結びつきが見えないと、成長意欲も持続しにくいでしょう。
外部のコンサルタントは、事業戦略・組織戦略と連動した制度設計を支援できます。育成目標が評価基準に反映される仕組みをつくることで、社員が成長を実感しながら働ける環境が整います。
エンプロイアビリティ向上が選ばれる組織づくりにつながる
エンプロイアビリティは、個人の「転職力」ではなく、企業と個人が共に成長するための考え方です。社員の市場価値を高める支援は、一見すると人材流出のリスクに見えるかもしれません。しかし、成長を本気で支援する姿勢こそが、「この会社で働き続けたい」という信頼につながります。
採用難が続く中で選ばれる企業になるには、学習環境の整備や実践機会の創出、評価制度との連動を体系的に進めることが重要です。
こうした取り組みを自社だけで設計・運用するのが難しい場合は、「TUNAGコンサルティング」の活用も有効です。組織・人事課題の整理から、人事制度の設計、研修、文化醸成まで支援を受けることで、エンプロイアビリティ向上を一時的な施策で終わらせず、組織に定着させやすくなります。
社員に選ばれ続ける組織づくりに向けて、まずは自社の育成課題を見直すことから始めてみてはいかがでしょうか。













