キャリアオーナーシップを推進するには?離職防止・エンゲージメント向上につなげる方法

「キャリアは会社が決めるもので、社員の希望は反映されない」といった意識が、社員のあいだに広がっていないでしょうか。社員がキャリアについて自ら考えなくなった状況を放置すれば、成長の停滞や離職、エンゲージメントの低下を招きます。そこで注目されるのが「キャリアオーナーシップ」です。この記事では、その意味から推進のメリット、具体策までを整理します。

キャリアオーナーシップの基本

キャリアオーナーシップを掲げる企業は増えていますが、いざ推進しようとすると「何を、どこまで支援すればいいのか」で迷いがちです。その背景には、言葉の理解があいまいなまま進めてしまうことがあります。まずは正確な定義と、これまでのキャリア形成との違いを確認しておきましょう。

キャリアオーナーシップとは

「オーナーシップ」とは所有・当事者意識を意味します。つまり、キャリアオーナーシップとは、社員一人一人が自分のキャリアに主体性を持つ考え方です。自ら考え、選択し、行動していく姿勢を指します。

ここで誤解しやすい点があります。それは「個人任せ」とは違うということです。社員の主体性が前提ではあります。しかし、企業が対話や成長の機会を整えることで初めて組織に定着します。

従来のキャリア形成との違い

従来のキャリア形成は企業が主導するもので、配属も異動も会社が決めるのが一般的でした。社員は、その枠組みの中で経験を積んできたのです。

一方、キャリアオーナーシップでは主役が社員側に移ります。両者の違いを表に整理しました。

項目

従来のキャリア形成

キャリアオーナーシップ

主導するのは誰か

企業が主導する

社員が主体的に選ぶ

異動・配属の考え方

会社都合で決まる

本人の意思を尊重する

企業の役割

仕事を割り当てる

選択肢と機会を整える

前提となる雇用観

終身雇用を想定

雇用の流動化を前提

大きな違いは、会社と社員の関係性にあります。指示する側とされる側、という上下の関係ではありません。社員の意思を起点に、企業が支援する関係へと変わるのです。

キャリアオーナーシップが注目される背景

なぜ今、キャリアオーナーシップが注目されているのでしょうか。その背景には、社会や働き方の大きな変化があります。ここでは三つの背景を見ていきましょう。

終身雇用を前提にした育成の限界

これまでの人材育成は、終身雇用を前提にしていました。長く働く社員に、会社が一律に技能を身につけさせる方式です。

しかし、その前提が揺らいでいます。2019年、トヨタ自動車の豊田章男社長(当時)は「終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と述べています。

実際、転職は珍しいことではなくなりました。一つの会社で勤め上げる人は減り、雇用の流動化が進んでいるのです。

会社がキャリアの面倒を最後まで見る時代は終わりつつあります。だからこそ、社員自身が主体的に考え、企業の側も社員のキャリアを支える発想への転換が求められています。

出典:「終身雇用難しい」トヨタ社長発言でパンドラの箱開くか(日経ビジネス)

働き方と価値観の多様化への対応

働き方は、ここ数年で大きく変わりました。リモートワークや副業を認める企業も増えています。

価値観も多様になっています。昇進だけを目指す人ばかりではありません。専門性を深めたい人、家庭と両立したい人など、求めるものはさまざまです。

こうした多様性に、画一的な育成では対応できません。一人一人の希望に合わせた支援が求められています。

人生100年時代で広がる学び直し

「人生100年時代」という言葉が定着しました。寿命が延び、働く期間も長くなっています。

一つのスキルだけで定年まで働くのは難しくなりました。技術や市場の変化が速いためです。途中で学び直す「リスキリング」が重要になっています。

学び直しは、本人の意欲なしには続きません。会社に言われて学ぶだけでは身につかないものです。

ここでも主体性が鍵になります。自分のキャリアを考えるからこそ、必要な学びが見えてきます。キャリアオーナーシップと学び直しは、強く結びついているのです。

企業がキャリアオーナーシップを推進するメリット

キャリアオーナーシップの推進は、社員だけのための取り組みではありません。社員の主体性が高まることで、企業にもさまざまなメリットがあります。

ここでは、生産性、エンゲージメント、離職防止、採用力の四つの観点から解説します。

主体的な行動で生産性が高まる

社員が自分のキャリアに主体性を持つと、日々の仕事への向き合い方が変わります。指示を待つのではなく、自分の目標や成長課題と結びつけて仕事に取り組めるようになるためです。

例えば営業職であれば、「将来は顧客課題を深く理解できる提案型の営業になりたい」という目標があることで、日々の商談や振り返りの意味が変わります。単に数字を追うだけでなく、顧客理解や提案力を高める機会として業務に向き合えるでしょう。

主体性は、組織全体の生産性を高める土台になります。自ら考えて行動する社員が多い組織ほど、変化への対応力や改善のスピードが高まりやすく、中長期の成果につながりやすいと考えられます。

キャリア対話でエンゲージメントが高まる

エンゲージメントとは、社員が会社に対して持つ愛着や貢献意欲を指します。キャリアオーナーシップを推進する上で重要なのが、上司と部下によるキャリア対話です。

社員は、自分の将来について上司と話す機会があることで、「会社が自分の成長を気にかけてくれている」と感じやすくなります。今の仕事が将来にどうつながるのかを整理できれば、業務への納得感も高まります。

だからこそキャリア対話は、形式的な面談で終わらせず、半期に一度など定期的に「将来の話」を扱う場として設計することが重要です。

役割理解が進み離職防止につながる

社員が自分のキャリアを考えるようになると、現在の仕事の意味も理解しやすくなります。今担当している業務が、自分の成長や将来の選択肢にどうつながるのかを捉えられるためです。

仕事の意味や役割に納得感がある社員は、簡単には離職しません。目の前の業務が単なる作業ではなく、自分のキャリアに必要な経験だと感じられるからです。

反対に、将来が見えない職場では不安が高まります。「この会社にいて成長できるのか」「自分のキャリアは広がるのか」といった疑問が解消されないままだと、転職を考えるきっかけになりかねません。

キャリア支援は、社員の不安を減らす効果があります。社員が自分の役割を理解し、今後の成長イメージを持てるようになることで、離職防止にもつながります。

成長支援が採用力を高める

キャリアオーナーシップを支援する企業は、求職者からも魅力的に見えます。学びや挑戦の機会があり、自分の成長を後押ししてくれる会社だと伝わるためです。

特に優秀な人材ほど、給与や待遇だけでなく、自分が成長できる環境を重視します。入社後にどのような経験を積めるのか、どのようなキャリアの選択肢があるのかは、企業選びの重要な判断材料になります。

採用活動において、キャリア支援の仕組みは大きな強みになります。「社員の成長を支援している会社」と伝えられれば、求職者の関心を高めやすくなるでしょう。

主体性を育てる社内施策

キャリアオーナーシップを推進するには、考え方を掲げるだけでは不十分です。社員が自分のキャリアを考え、行動に移せるようにするには、具体的な仕組みが必要です。 

主体性を育てるための、効果的な社内施策を紹介します。

キャリア研修で自己理解を促す

キャリアオーナーシップを育てる第一歩は、社員が自分自身を理解することです。そのために有効なのが、キャリア研修です。

キャリア研修では、自分の強みや価値観、これまでの経験、今後実現したい働き方などを整理します。自分が何を大切にしているのか、どのような場面で力を発揮しやすいのかを知ることで、キャリアを考える土台ができます。

年代別に研修を設計するのも効果的です。30代であれば専門性や今後の方向性、40代であればマネジメントやキャリアの再設計など、向き合うテーマは変わります。ライフステージに合わせた内容にすることで、社員にとってより実感のある学びになります。

キャリア研修は、結論を出す場ではなく、気づきを得る場として位置づけることが大切です。自己理解が深まることで、その後の1on1や学び直しにもつながりやすくなります。

1on1で将来像を言語化する

キャリア研修で得た気づきを継続的な行動につなげるには、日常的な対話が必要です。そのための仕組みが1on1です。

1on1では業務の進捗確認だけでなく、本人の将来像やキャリアの希望について話すことが重要です。どのような仕事に挑戦したいのか、どのようなスキルを伸ばしたいのかを言葉にすることで、漠然とした思いが整理されていきます。

上司の役割は、答えを与えることではありません。部下の考えを引き出し、本人が自分の意思に気づけるよう問いかけることです。「今の仕事でやりがいを感じる場面は何か」「今後どのような経験を積みたいか」といった質問が、キャリアを考えるきっかけになります。

社内公募で挑戦機会を広げる

主体性を育てるには、挑戦の機会が必要です。その代表が社内公募制度です。社内の空きポストを公開し、社員が自ら応募する仕組みです。

具体例として、ボストン・サイエンティフィック ジャパンの取り組みが参考になります。同社はキャリア・オーナーシップ推進の一環として、管理職を含む社内のオープンポジションを公開し、社員が自ら応募できる「社内公募制度」を運用しています。

挑戦の場があると、社員は自ら手を挙げます。さらに、挑戦のために自発的に学ぶ好循環も生まれるのです。

同社では、社内公募の次の段階として社内インターンシップも導入しています。今の仕事を続けながら、興味のある仕事を一定期間体験できる仕組みです。いきなりの異動をためらう社員も、これなら一歩を踏み出しやすいでしょう。

出典:働き方 | キャリアサイト | ボストン・サイエンティフィック ジャパン

スキルアップ支援で市場価値を高める

キャリアオーナーシップを推進するには、社員が学び続けられる仕組みも必要です。その役割を担うのが、スキルアップ支援です。

例えば、手挙げ式の研修プログラムや動画学習、オンライン講座、資格取得支援などが考えられます。社員が自分に必要な学びを選べるようにすることで、受け身ではなく主体的な学習につながります。

市場価値とは、社外でも評価されるスキルや経験を指します。学びを通じて、社員はこうした社内外で通用する力を高められます。

特にデジタル分野やマネジメント、専門知識の習得は、今後さらに重要性が増していくでしょう。

「市場価値を高めると社員が辞めてしまうのでは」と不安に感じる企業もあるかもしれません。しかし、成長を支援してくれる会社に対して、社員は信頼を持ちやすくなります。学びの機会がある職場ほど、社員は前向きに働き続けやすくなるのです。

外部コンサルタントの知見を活用する

キャリアオーナーシップを推進したくても、自社だけでは何から始めればよいか分からない場合もあります。特に、制度設計や効果測定、相談体制の構築には専門的な知見が必要です。そのような場合は、外部コンサルタントの活用も有効な選択肢になります。 

自社課題を客観的に整理する

外部コンサルタントは、第三者の視点から組織の状態を整理できます。社員のキャリア支援において何が不足しているのか、どの層に課題があるのかを客観的に把握しやすくなります。

例えば、若手社員は成長機会に不満を感じている一方で、管理職は部下のキャリア支援に不安を抱えているかもしれません。こうした課題は、社内だけで議論していると見落とされることがあります。

施策を始める前に課題を正しく把握できれば、打ち手の精度も高まります。キャリアオーナーシップの推進では、最初の課題整理こそ外部の力が生きる場面です。

導入計画から効果測定まで伴走してもらう

キャリア支援の施策は、導入して終わりではありません。計画を立て、実行し、効果を確認しながら改善していく必要があります。

しかし、人事担当者は日々の採用、労務、評価、研修など多くの業務を抱えています。キャリア支援の施策を全て自前で設計し、運用し続けるのは大きな負担になるでしょう。

外部コンサルタントに伴走してもらえば、導入計画の作成から運用改善、効果測定まで支援を受けられます。どの施策から始めるべきか、どのような指標で成果を見るべきかも整理しやすくなります。

キャリア相談室の立ち上げを支援してもらう

社員が気軽に相談できる窓口を設けることも、キャリアオーナーシップの推進に役立ちます。その一つが、キャリア相談室です。

キャリア相談室では、社員が今後の働き方や成長、異動、学び直しなどについて相談できます。直属の上司には話しにくい内容でも、専門の相談窓口であれば安心して話せる場合があります。

ただし、相談室の立ち上げにはノウハウが必要です。相談員の配置、相談内容の取り扱い、守秘義務、運用ルールなどを整えなければ、社員が安心して利用できる場にはなりません。

外部の支援を受ければ、立ち上げから運用までスムーズに進めやすくなります。自社に専門知識がなくても、安定した相談体制をつくれる点は大きなメリットです。

安心して相談できる環境は、主体的な行動を後押しする土台になります。

キャリアオーナーシップを支援し、社員と組織の成長につなげる

ここまで見てきたように、キャリアオーナーシップは社員任せの考え方ではありません。企業が対話の機会や挑戦の場、学び直しの仕組みを整えてこそ、社員の主体的な行動につながります。

ただし、研修や1on1、社内公募などを個別に導入するだけでは、効果が限定的になることもあります。重要なのは、自社の課題を整理した上で、必要な施策を一つの流れとして設計し、継続的に運用することです。

そこで役立つのが「TUNAGコンサルティング」です。TUNAGコンサルティングは、組織・人事領域の課題に対して、制度設計や研修、文化醸成などを幅広く支援するサービスです。

キャリアオーナーシップの推進においても、現状把握から施策設計、現場への浸透まで伴走してもらうことで、取り組みを形だけで終わらせず、社員の行動変容につなげやすくなります。

社員の成長を支援することは、離職防止やエンゲージメント向上にもつながります。自社に合った支援体制を整えるために、TUNAGコンサルティングの活用を検討してみてはいかがでしょうか。

TUNAGコンサルティング

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

人材育成」の他の記事を見る

TUNAG お役立ち資料一覧
TUNAG お役立ち資料一覧