社員の看護休暇取得にどう対応すべき?条件や手続き、給与の扱いを解説
看護休暇は、社員が主に子どもの看護に集中できるように、設けられる休暇制度です。社員の安心感や職場環境の向上につながり、離職率の低下にも寄与します。看護休暇の基本的な仕組みや取得の条件に加えて、取得手続きや注意点について解説します。
看護休暇とは?取得の条件や日数
家族の看護や子どものケアなどに専念するため、特別に設けられるのが看護休暇制度です。まずは、制度の概要と、他の休暇制度との違いなど、基本的なところを押さえておきましょう。
子どもの病気やけがの際に取得できる休暇
看護休暇は、主に小学校就学前の子どもが対象で、病気やけが・予防接種・健康診断などに対応するために利用できます。詳しくは後述しますが、年間5日まで、2人以上の場合は10日まで取得可能です。
同制度は労働基準法に基づく特別な休暇であり、社員が家庭と仕事を両立するのに重要な役割を果たします。福利厚生の向上につながるため、離職率の低下や人材定着率の改善が期待できます。
他の休暇制度との違い
育児休業や介護休暇などとは異なり、看護休暇は短期間の利用を目的とした制度です。例えば、急な子どもの病気やけがの際に、迅速に利用できるため、子どもを持つ社員にとっては大きな安心材料となるでしょう。仕事中でも、急な病気やけがに対応する時間を確保できます。
また、取得に際して特定の手続きを必要とするものの、年次有給休暇とは別枠で提供されるため、社員が所定の休暇を犠牲にする必要はありません。有給休暇を温存しながら、家庭の急な事情にも対応できます。
一方、看護休暇は法定の権利として保障されているため、企業側は取得を拒否できません。社員の急な申請にも、きちんと対応できる体制にしておく必要があります。
時間単位での休暇の取得が可能
2021年1月に、看護休暇について定めた育児・介護休業法が改正され、時間単位でも休暇の取得ができるようになっています。それまでは休暇の取得単位は半日あるいは1日でしたが、法改正で全ての労働者が、時間単位(1時間の整数倍の時間)で休暇の申請・取得が可能です。
企業側は時間単位での休暇も認める必要があるので、代わりの社員を業務にアサインするなど、迅速に対応できるようにしておきましょう。
なお、社員の時間単位での休暇取得が難しい業務がある場合、労使協定の締結により、同取得単位制度から当該社員を除外することも可能です。ただし、事前に社員との間で話し合い、双方が納得するかたちでルール化しておく必要があります。
※出典:⼦の看護休暇・介護休暇が時間単位で取得できるようになります!|厚生労働省
看護休暇の対象や取得条件
看護休暇を適切に運用するには、対象や条件を正確に理解しておくことが重要です。制度の対象や取得条件について、まとめて整理しておきましょう。
全ての労働者が対象
看護休暇は、雇用形態にかかわらず全ての労働者が対象です。正社員のみならず、パートタイムやアルバイトも適用されます。ただし後述するように、勤務日数や労働時間など、社員は休暇の取得基準を満たしていなければいけません。
企業は取得条件をよく理解した上で、雇用形態にかかわらず、全従業員に対して公平に対応する必要があります。
休暇が認められる条件
社員が看護休暇を取得するには、子どもの看護や世話を必要とする状態でなければいけません。対象となるのは、小学校就学前の子どもや一定の条件を満たした家族であり、病気やけが・予防接種・健康診断などです。
たとえ簡単に治癒が見込める病気であっても、社員が必要だと判断した場合には、取得を認める必要があります。ただし企業は当該社員に対して、子どもの症状が分かる資料の提出を求めることが可能です。
取得可能な日数
看護休暇は、小学校就学前の子どもが1人の場合、年間で5日、2人以上の場合は年間10日まで取得が可能です。上記のように、年次有給休暇とは別に設けられている制度であり、社員が有給を消費せずに、子どものケアに集中できます。
また、夫婦は個別に看護休暇の取得が可能です。たとえ同じ会社の社員として働いている場合でも、子どもが1人の場合は、それぞれ5日ずつの休暇を取得できます。
看護休暇の取得手続き
次に、看護休暇の取得手続きについて、基本的なところを解説します。企業は、社員に対して看護休暇の取得方法を明示するとともに、スムーズに申請できる体制を整える必要があります。
休暇申請に必要な情報
看護休暇の取得に際し、企業は社員に対して、状況を説明するための資料の提出を求められます。具体的には、対象者の続柄や看護が必要な理由、希望する休暇日程などです。
ただし、申請の際に過度な書類の提出を求めることは、社員の負担となるため、簡易的な手続きにとどめる配慮が必要です。申請時の負担を軽減する工夫をすることが、制度の円滑な利用につながります。
取得方法は企業による
看護休暇の取得方法は企業が任意に決められますが、上記のように社員の負担を考える必要があります。証明書類の提出を求める一方で、状況によっては社員の自己申告のみで取得可能とする企業や、証明書の提出を後日にしている企業もあります。
子どもが病気の場合など、急な対応を要する事態も考えられるため、口頭やメールでの連絡を認める企業は少なくありません。
制度の導入に当たっては、社員が利用しやすいように配慮しつつ、申請手続きに関するガイドラインを明確に設けることが重要です。また、申請に関するルールを社員にきちんと周知しておき、適切に運用できるようにしておきましょう。
看護休暇中の給与・待遇について
看護休暇中の給与・待遇に関しては、現状において法律上の規定はありません。有給・無給のどちらでも問題はなく、企業の判断に委ねられています。有給休暇とは別枠であるため、原則無給としている企業がある一方で、未就学児の看護の場合は有給といった、条件にしている企業もあるようです。
無給・有給の選択は、社員の満足度や福利厚生の程度に関わる部分でもあるため、慎重に判断するようにしましょう。なお当然ながら、看護休暇は法定の権利であるため、取得した社員に対して不利な扱いをすることは禁止されています。
看護休暇に関して注意すべきポイント
看護休暇を適切に運用するために、以下の点に注意が必要です。制度を社員が安心して利用できる環境を整えるのに加えて、社員の勤怠管理も徹底しましょう。
看護休暇では時季変更権を行使できない
社員が休暇の取得を希望すると、状況によっては、事業の運営に支障が出るケースもあるでしょう。その場合、企業は他の時期に休暇を変更してもらう権利(時季変更権)があります。
しかし看護休暇の場合は、子どもの病気やけがに対応する目的の休暇であるため、企業は時季変更権の行使ができません。社員からの申請に対して、休むタイミングを変える依頼はできないので注意しましょう。
対象社員の勤怠管理を徹底する
社員の看護休暇の取得状況を、適切に管理することも重要です。特に、複数の社員が同時に休暇を取得する場合には、業務への影響を最小限に抑えるための調整が求められます。また上記のように、看護休暇は時間単位での取得も可能なため、勤怠管理には特に注意しなければいけません。
取得時間の合計が1日の所定労働時間に至った場合は、1日分の取得として扱う必要があります。一方、1日の所定労働時間が1時間単位ではない場合、看護休暇は端数を繰り上げた時間数で考えます。例えば、所定労働時間が6時間半の場合、7時間として計算するので管理者は注意が必要です。
※出典:子の看護休暇・介護休暇の時間単位取得について|秋田労働局雇用環境・均等室
就業規則にきちんと記載しておく
看護休暇の内容や取得方法を明確にするには、就業規則への記載が欠かせません。就業規則に明記することで、社員が制度を誤解するリスクを減らし、トラブルを防げるようになります。
企業が法的義務を果たしていることの証明にもなるため、きちんと記載しておきましょう。制度を正しく運用するためには、定期的なルールの見直しや改善も必要です。
看護休暇の制度を整備しておこう
看護休暇は、社員が家庭と仕事を両立するために重要な制度です。企業としては、社員が安心して看護休暇を取得できるように、ルールや手続きを明確にしておく必要があります。
制度をきちんと整備しておけば、社員の働きやすさを向上させることができるだけでなく、定着率の向上も図れるでしょう。法令を遵守しつつ、社員に寄り添った制度運用を心掛けることで、信頼関係を深められます。社員の勤怠管理を徹底するとともに、就業規則にもきちんと明記しておきましょう。