代休とは?振替休日との違いや、企業が知っておくべき法律上の注意点を紹介
企業活動において、健康管理を経営的な視点で考えるという観点でも、従業員の休暇管理は非常に重要です。企業によっては、様々な休暇制度を設けて、従業員の働きやすさを高めている企業もあります。
休暇制度の一つに挙げられるものとして、代休制度があります。代休とは、従業員が休日に出勤した場合に、労働日を休日に代替できること制度です。従業員の心身の疲労を回復するためにも有効な制度ですが、企業としてはイレギュラーな対応になる側面もあります。そこで本記事では、代休と残業代休・振替休日の基本的な定義の違いや企業が知っておくべき法律上の注意点についても紹介します。企業のコンプライアンス遵守と従業員の健康管理の両立を図るために、ぜひ参考にしてください。
代休とは?
代休とは、従業員が休日に出勤した場合に、あとでその替わりとして、労働日を休日にできることを指します。
代休制度は法律上義務付けられているわけではありません社内規則上で規定があって初めて、労働者に代休を申請する権利が発生します。しかし、労働基準法では、「使用者は労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない」と企業に義務づけています。なお代休の有効期限については、労働基準法の第115条におけるその他の請求権にあたるため、2年が時効であると考えられます。ただし、代休も含む休日を設ける目的が「心身の疲労回復」であることを踏まえると、休日の出勤日と代休取得日の期間が空かないように調整することが求められます。
また代休制度を設ける際には、賃金の支払いルールやポイントを押さえておく必要があります。同じく労働基準法上で、休日出勤があった場合には、休日手当として35%の割増賃金が支払われなければならないとも定められています。ちなみに、この35%は法定休日(労働基準法で定められている、週に1回の最低基準の休日)に出勤した場合で、法定外休日(土曜・祝日など。企業の社内規則で規定できるもの)に出勤し、なお且つ1 週 40 時間を超えた場合は 25%の割増賃金を支給することになります。
従業員が休日出勤をした場合には、割増賃金を支払うこと、代休を出来るだけ速やかに取得を促すことが、企業のコンプライアンス上、または社員の健康管理のためにも考慮されるべきでしょう。
代休と残業代休の違い
代休と似た制度として、残業代休という用語が存在します。残業代休とは、1日の所定労働時間を超えた場合に、1日分の代休を付与する制度です。例えば、残業代休制度がある所定労働時間が8時間の会社にて、毎日2時間以上の残業をした場合は、4日以上働けば1日の代休が付与される仕組みになります。企業によっては、残業の代休扱いと称されることもあります。
代休は、一般的に休日に出勤した場合に替わりの休みとして補填されるものである一方で、残業代休は残業の累積時間に伴い与えられる休みという違いがあります。
残業を代休にできる条件
累積の残業時間を代休として対応するためには、以下の条件を満たす必要があります。
- 就業規則に明記されていること。もし、就業規則の規定がない場合は、該当の従業員との合意が個別で必要となる。
- 残業代休の日の賃金支払いは発生しないものの、残業として働いた分は割増率25%で支払う必要がある。
前提として、代休の制度自体を、就業規則に明記しなくてはならないという決まりはありません。一方で残業代休が就業規則に明記されているのであれば、会社は従業員に代休を強制することができるようになります。また、会社として代休を設ける際には、トラブルが発生しないように代休にできる条件を具体的に定義して、従業員に丁寧に説明することが重要となります。
また残業代休という制度において、代休の日は給与が発生しませんが、給与としては残業を実施した分だけ支払う(割増し賃金として支払う)点には注意しましょう。これは、残業によって時間外の労働した事実が消滅することを防ぐためです。
代休と振替休日の違い
振替休日とは、あらかじめ休日だった日を労働日とし、そのかわりとして労働日を休日に振り替えることを指します。
例えば、休日である日曜日に出勤する代わりに、木曜日を休日にすることができます。したがって、あらかじめ「休日」と「労働日」を入れ替えておくことになります。
こちらも代休同様、法律で義務付けられている制度ではなく、労働基準法による1週1休の原則を守るために、就業規則で規定されている制度です。
振替休日は労働日の前後、どちらでも設定できます。日数をどれだけ空けるかについては特に規定はありませんが、厚生労働省では、「振り替えるべき日は、振り替えられた日以降、できるだけ近接していることが望ましい」と述べています。
また、振替休日の制度を利用したい場合は、最低でも前日までに振替休日となることを労使間で決定し、「労働日」と「休日」はどの日を入れ替えておくか決定しなくてはなりません。
代休の場合は、たとえば日曜日に必要に応じ出勤してしまったあとで、水曜日など平日を休日にしようとする流れです。まず休日出勤が最初に発生してから、後付けで休日について考慮し始めるのが代休です。
休日に急な案件が発生した、あるいは上司に呼び出されたなどの場合には振替休日ではなく、代休の適用範囲となります。
賃金・給与の支払い対応の違い
振替休日では、労働日が増えたわけではなく、「労働日」と「休日」の入れ替えを前もって行っています。もともとの休日に労働した分は「休日労働」とはみなされません。
詳細に言えば、振替の日は、出勤する休日の前後どちらでも設定することができますが、1週間以内であれば、同じ週に振替して週の法定労働時間40時間を超過していないようであれば、特に賃金を35%割り増しして支給する必要はありません。
ただし例外として、出勤日から1週間以上超えてから振替休日を取ってしまうと、結果としてその週の総労働時間が40時間(1日8時間)を越えてしまい、超過分の25%の割増賃金は必要となります。
反面、代休は、あらかじめ代わりの休日を特定しておく振替休日とは異なり、休日に出勤する事態が発生してから初めて、労働日を休日にしようという動きが発生することになります。
代休に関しては、休日労働がすでに起こったものとして、35%の割増賃金(法定外休日の場合は25%)が必ず発生することになります。
また、代休には独特の給与の計算方法があります。代休の際の給与は、休日出勤の通常賃金+割増料金から、代休日の賃金をカットできるという考えで月の給与を計算します。
しかし、代休が翌月以降に取得される場合、当月にまず「休日出勤の通常賃金+割増料金」を支払い、翌月以降に代休が発生した場合、その月の給与から1日分の賃金をカットする必要があります。
これは労働基準法第24条に「賃金の全額払いの原則」という「賃金は所定支払日に支払うことが確定している全額を支払わなければならないとする原則」を守るための方法です。
休日出勤と代休日の間隔が開いてしまった場合、給与計算上注意しなくてはなりません。
代休で企業が注意しておくべきこと
代休はいくつかの法律や規定に則って定める必要があります。ここでは、代休で企業が注意しておくべきことを解説します。
代休に出勤する際の扱い
代休申請をした日に出勤することを、「代休出勤」と呼びます。出勤したのであれば、賃金が支払わなければなりません。
代休に設定された日だからといって、賃金が発生しないままで扱うことは違法であるので注意が必要です。また週に1度の休日は別に確保されている必要があります。
参考:https://www.soumunomori.com/forum/thread/trd-207178/
従業員が代休を取れない場合の対応
業務の繁忙期などで、従業員が休日出勤をしても、代わりに労働日を休めないという状況もあるでしょう。代休は法律上の義務が無く、会社側の社内規則で規定ができるものです。
そのため、当月に代休を取れなくても、翌月やその先で代休を取ることも可能です。規定上明記しておきたい場合は「おおむね3か月以内」とする場合もあります。
注意しておきたいことは、未消化の振替休日や代休が溜まりすぎることで、労働基準法違反になってしまうことです。
「休日出勤があった場合、割り増し部分の35%が支払わればよい」と思ってしまいますが、これは実際に代休や振替休日を取った場合に賃金を1日分カットしてもよいと考え、相殺しているという前提での計算方法になります。
代休や振替休日が取れていないのであれば、本来は135%、125%として支払わなければ違法であると認識しなくてはなりません。
代休を強制取得させることについて
従業員には権利として認められている有給休暇がありますが、休日出勤をした代わりに休むのであれば、出来るだけ有給休暇ではなく、代休にしてほしいというのが企業側の希望としてあります。
理由には、代休のほうが有給休暇よりも賃金の支払いが少なく、人件費を節約できるというメリットが企業側にあります。
社内規則に代休を規定した場合、従業員にも有給休暇として申請するよりも、代休の取得を優先するようにという暗黙の了解を求めている場合もあります。
反面、従業員にとっては、代休を取ると、その労働日は無給ということになってしまいますが、上司から代休取得を促される前に、有給休暇を申請することが出来ます。この場合、文字通りその労働日は休んでも有給になります。
労働基準法上でも、従業員は理由を告げることなく有給休暇を申請でき、会社はそれを拒否できないと定められています。有給休暇を申請した社員に対して、代休に変えるように強制することは違法になりますので注意しておきましょう。
代休の期限について
社内規則上で代休を「〇か月以内に申請するように」と規定したり、「〇か月以内に取得しなくてはならない」というように規定することも可能です。
その場合、申請・取得期間を過ぎてしまった代休の申請に関しては、会社側は拒否することができます。ただし、休日出勤があったという事実があれば、35%の割増料金は必ず支払われなくてはいけないので、代休を却下したとしても賃金の調整は必須になります。
また、長時間労働がうつ病などのメンタルヘルスに影響が出てしまうことや、賃金不払い残業が常態化して企業の評判を落とすなどのデメリット、労働組合と会社の対立の問題も考えられます。
所定労働時間内に業務を終えることを評価して休日出勤を減らすことや、勤怠管理担当者が、社員の労働時間をデータ化して管理するなどの施策を行い、代休についても管理する対象とみなすことが求められます。
働き方・休み方改善指標について
厚生労働省では「働き方・休み方改善指標」という取り組みを行っています。
労働時間を適性化し、休暇を適切に取得することで、社員の能力が発揮され生産性も高まるという観点から、企業が自社の社員の働き方・休み方の見直しや、改善に役立つ情報を提供しています。
例えば、以下のような質問に答えることで、企業の勤怠管理状況が「ポジションマップ」と「レーダーチャート」上に表示され、「問題の有無」「具体的な課題」を知ることができます。
・1ヵ月あたりの残業時間が80時間以上(または週労働時間が60時間以上)の社員数
・1ヵ月あたりの残業時間が45時間以上の社員数
・年次有給休暇の年間延べ取得(消化)日数(対象の全社員の合計日数)
参考:https://work-holiday.mhlw.go.jp/
また、サイト上では「代休の取得促進」を促す企業の事例なども多数見ることができ、参考にすることが出来ます。
従業員の心身の健康や生産性を考えて制度設計を
長時間労働や、休暇が取りにくい、といった問題は日本社会において常態化していましたが、昨今は見直されつつあります。休暇制度がしっかり整っていることで従業員との信頼関係の構築にもつながります。
社員の心身の健康の維持や、生産性に及ぼす影響を考えれば、代休や振替休日も意義のある制度と考えられるでしょう。