試用期間に解雇する正当性とは?押さえておきたい判断基準と対応策

試用期間中の従業員について、解雇してよいものか悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。試用期間中の解雇が認められる条件や、過去の判例から正当・不当とされたケース、トラブルを避けるためにできる行動を詳しく解説します。

試用期間中の解雇は簡単にできる?

試用期間中の従業員に勤怠不良が目立つ、思っていたほど能力がないなどの理由で、解雇(本採用拒否)を考えている企業もあるでしょう。試用期間であれば簡単に解雇できるのか、法律や過去の判例から解説します。

試用期間でも労働契約は成立している

試用期間中も、労働契約は成立しています。つまり労働者には、労働契約法や労働基準法の保護が適用されるということです。

たとえ試用期間中の解雇であっても、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上相当であること」が求められます(労働契約法第16条)。

試用期間中の解雇は通常の解雇よりは広い範囲で認められますが、上記の条件を満たさない限り解雇権の濫用と見なされ無効です。本採用していないからといって、簡単に解雇できるとはいえません。

参考:労働契約法 第16条|e-Gov 法令検索

試用期間中でも解雇が認められる条件は厳しい

試用期間中の解雇が認められるには、労働者の著しい能力不足や勤務態度の不良など、客観的に合理的な理由が必要です。

重大な経歴詐称など、雇用契約の根幹を揺るがす事由がなければ、解雇が不当と見なされる可能性が高いでしょう。判例にも、試用期間中の解雇が不当として慰謝料請求を認められたケースが見られます。

過去に配偶者が同業他社に勤務している、仕事の習熟度が不足しているといった理由で、従業員が試用期間中に解雇されました。解雇された従業員がこれを不当として元勤務先に慰謝料を請求し、認められています(「ケイズ事件」大阪地判平16・3・11)。

企業側が主張した解雇理由は、「客観的に見て合理的である」「社会通念上相当である」と認められませんでした。企業としては、労働契約法に定められた解雇の条件は、試用期間中であっても厳しいと考えておきましょう。

参考:ケイズ事件(大阪地判平16・3・11) 試用期間中にクビにしたら慰謝料請求された… 解雇に正当理由ないと認容|労働判例|労働新聞社

試用期間中に解雇できる可能性が高いケース

具体的に試用期間中に解雇できるのは、どのようなケースなのでしょうか。法律と判例をベースに見てみましょう。まず有効と認められる可能性が高い解雇理由を、一覧で挙げます。

  1. 病気やケガで休職復帰後も就業が難しい
  2. 著しい勤怠不良が続く
  3. 期待していた能力や適性がなく改善の見込みがない

業務上の病気やケガで仕事ができず休職している従業員は、試用期間中でも原則30日間は解雇できません(労働基準法第19条)。ただ、復帰後も仕事に就くのが難しいと判断された場合に限り、解雇が正当と認められる可能性があります。

勤怠不良による試用期間中の解雇が認められた判例が、カジマ・リノベイト事件(東京地判平14・9・30)です。上司への侮辱的な発言がある、時間外労働に関する指示に従わないなど勤務態度の問題が複数見られ解雇されており、裁判所はこの解雇理由と正当と認めました。

重大な勤怠不良が見られ、改善の余地がない場合、試用期間中の解雇が正当とされる可能性が高いでしょう。

能力や適性の著しい不足も、一定の条件下で試用期間中の解雇理由として認められます。日本基礎技術事件(大阪高判平24・2・10)では、試用期間中の従業員が研修中に危険行為を繰り返し、指導を続けても技術社員としての能力が育つ見込みもなかったとして解雇は有効と判断されました。

参考:労働基準法 第19条|e-Gov 法令検索

参考:カジマ・リノベイト事件|労働基準判例検索-全情報

参考:日本基礎技術事件|労働基準判例検索-全情報

試用期間中の解雇で注意したいポイント

試用期間中の解雇には、企業としていくつか注意したい点があります。解雇するまでに企業が取った対応や判断基準には、特に気を付けなければなりません。

併せて、労働基準法に規定された「解雇予告手当」が必要になるケースも知っておきましょう。

改善指導なしの即時解雇は不当と判断されやすい

試用期間中でも、労働者に対して改善の機会を与えずに即時解雇することは、不当解雇と判断される可能性が高い行為です。

繰り返し指導や注意を行い、それでも改善が見られない場合に限り、解雇が正当とされます。先に紹介した日本基礎技術事件でも、再三の指導・注意にもかかわらず改善が見られなかったという状況を踏まえ、解雇が正当と見なされました。

勤怠不良や能力不足を理由に解雇したいと考えているなら、まず指導や注意が必要です。万が一解雇の正当性を争うことになったときに備え、具体的な指導記録や評価を残しておきましょう。

仕事の結果のみですぐに解雇はできない

経験者を採用するとき、即戦力としての結果を求めている企業は多いでしょう。しかし、経験者であっても結果が悪かったからといって、試用期間の終了を待たずに解雇するのは不当とされる可能性が高いでしょう。

ニュース証券事件(東京高平21・9・15)では、試用期間を6カ月と定めていたにもかかわらず、入社からわずか約3カ月で営業担当としての資質不足を理由に解雇したことを、早期に解雇するには正当性に欠けると判断されました。

試用期間の途中で解雇するには、より高度な客観的な合理性と、社会通念上の相当性が求められるということです。

参考:ニュース証券事件|労働基準判例検索-全情報

解雇のタイミングによっては予告手当が必要になる

労働基準法第20条では、労働者を解雇しようとするときは原則として遅くとも30日前に解雇予告を出す必要があるとされています。予告しない場合は、解雇予告手当の支払いが必要です。

同法第21条で試用期間中の従業員はこの規定から除かれてはいますが、14日を超えて引き続き試用する場合は除外しないとの規定もあります。

試用期間中でも14日を超えて労働させた(またはさせる)労働者を解雇するには、原則30日以上前に解雇予告を出すか解雇予告手当(平均賃金の30日分以上)の支払いが必要という点を認識しておきましょう。

参考:労働基準法 第20条・第21条|e-Gov 法令検索

試用期間中の解雇でトラブルを避けるために

試用期間中の解雇については、ここまでに紹介してきた判例からも分かるように、数々の裁判が行われています。それほどまでにトラブルの原因となりやすいのが、試用期間の解雇です。

試用期間中の従業員を解雇したいと考えているなら、トラブルの回避策をしっかり押さえて実践しましょう。

就業規則に試用期間中の解雇条件を明記する

試用期間中の従業員をトラブルなく解雇したいなら、就業規則に、試用期間中の解雇事由や手続きを明確に定めておくことが重要です。

試用期間中の解雇事由として、十分指導した上での能力不足・再三の注意にも改善が見られない勤務態度の不良など、具体的な項目を列挙しましょう。

就業規則の整備により、試用期間中の従業員にも解雇の正当性を納得してもらいやすくなります。

現場の指導記録や報告内容を残しておく

試用期間中の解雇が正当と認められるには、勤怠不良や能力不足に対して、企業として十分な注意・指導をしていることが必要です。

注意や指導の記録は、試用期間中の従業員に解雇を告げるとき、就業規則と合わせて納得を得る材料となります。評価シートや面談記録など、客観的な証拠を整備しておきましょう。

万が一トラブルになったり訴訟を起こされたりしたときも、注意や指導の記録は、裁判で解雇の正当性を証明するのに役立ちます。

直属の上司と人事・総務で判断を共有できる体制をつくる

試用期間中の解雇をめぐるトラブルを避けるには、「そもそも解雇が妥当なのか」を組織内で検討しなければなりません。

試用期間中の従業員の評価や指導状況について、直属の上司と人事・総務部門が情報を共有し、解雇判断を一元的に行える体制を整えましょう。現場と人事・総務が連携することで、本人の状況や注意・指導の履歴を把握できて適切な判断につながります。

定期的なミーティングや報告書で関係者間の情報共有を促進すれば、試用期間中の従業員の実態を把握しやすいでしょう。情報共有の仕組みを明文化し、社内規定やマニュアルに組み込むのも主観によらない判断に有効です。

ルール整備と記録で正しい解雇判断を

試用期間中の従業員も、労働契約が成立しています。試用期間の終了を待たずに解雇するには、労働関連法令や過去の判例からも、一定以上の合理性が必要だと分かります。

勤怠不良や能力不足に対して、改善指導をせず解雇すると「解雇権の濫用」として不当と判断される可能性が高くなります。

トラブルに発展したり裁判で不利になったりしないためにも、試用期間中に解雇できる可能性が高いケースを正しく理解しなければなりません。

従業員の納得感を高めるために、就業規則には試用期間中に解雇とする条件・具体例を明記しておきましょう。さらに試用期間中の従業員について、本人の行動とともに改善指導の記録を残しておくことで、トラブル抑止や裁判での証拠力担保につながります。

著者情報

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