日本企業の人手不足はなぜ起こる?深刻な業界・職種や取るべき対策を解説
日本では、慢性的な人手不足に陥っている企業が珍しくありません。業界や職種によって深刻さは異なるものの、経済や社会全体にも影響を及ぼしている状況です。主な原因や問題点に加えて、人手不足の解消に向けて取るべき対策について、具体的に解説します。
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人手不足の原因とその問題とは
日本企業の人手不足は、さまざまな原因が絡み合い深刻化しています。まずは、人手不足の原因と現状について、基本的なところを押さえておきましょう。
日本の人手不足の現状
国内企業の人手不足の原因としては、まず少子高齢化や労働市場における需給の不均衡が挙げられます。特に、働き盛りの年齢層の人口減少が顕著であり、企業が求めるスキルを持った人材も不足気味です。都市部と地方での労働力の偏りや、非正規雇用の増加などもあり、安定した人材確保が難しい状況が続いています。
また、柔軟な働き方を好む労働者が増えたことにより、人材の流動化が進んでいるのも人手不足の原因の一つです。詳しくは後述しますが、労働者の価値観の変化や都市部への人口の集中などにより、特に地方の中小企業は人材の確保が難しい状況が続いています。
人手不足が深刻化している企業が多い
業界・職種によってかなり差はあるものの、深刻な人手不足に陥る企業は増え続けています。多くは求人を出しても応募が少なく、円滑に業務を進めることが難しくなっている企業も、決して珍しくありません。とりわけ中小企業は、慢性的に人手が足りない状態であり、事業運営が困難なケースも目立ちます。
さらに近年のコロナ禍により、多くの従業員が辞めてしまい、いまだに人手が戻って来ない企業も少なくありません。徐々に社会全体が通常の経済活動を取り戻しつつある一方で、労働市場における人手不足の影響は根強く残っています。
人手不足を理由とした倒産も目立つ
帝国データバンクの調査によると、ここ数年は人手不足を原因とした倒産件数も、かなり増加傾向にあります。従業員の退職や採用難・人件費の高騰などを原因とした、人手不足倒産の件数は2024年度の上半期だけで163件に達しており、年度として過去最高を大幅に更新している状況です。
人手不足が落ち着いたかのように見える統計もある一方で、労働市場の流動化が進んでおり、人材を確保できず倒産に至る企業が多いことが分かります。特に、労働集約型の業界で人手不足倒産が目立っており、今後も高水準で推移すると考えられます。
※出典:人手不足倒産の動向調査(2024 年度上半期)|帝国データバンク
人手不足と人材不足の違い
「人手不足」と「人材不足」は似ていますが、異なる問題です。人手不足は労働力の絶対数が不足している状態を指します。従業員の立場やスキル・勤続年数などは関係なく、単純に事業を運営するのに必要な人数が足りない場合に使われる表現です。
一方、人材不足はスキルや十分な経験を持つ従業員が、足りない状況を意味するのが一般的です。両者を同じ意味で使っている企業も多くありますが、厳密には意味合いが変わってくるので注意しましょう。
人手不足はなぜ起こっている?
上記のように、人手不足の原因には少子高齢化による労働力不足や、労働市場における需給の不均衡、人材の流動化によるミスマッチの発生などが挙げられます。代表的な要因を詳しくみていきましょう。
少子高齢化による労働力の不足
日本では少子化が進む一方で、高齢化も急速に進行しており、全体として労働力人口が減少しています。若い世代の労働者が不足し、多くの企業で人材確保が困難な状況です。とりわけ地方では、少子高齢化が顕著であり、都市部に比べて慢性的に人手が足りない企業が多くあります。
定年後も働き続ける高齢者の割合が増えている一方、体力的な問題や新しい技術への対応が求められる業務には制限があるため、完全な補完は難しいのが現状です。さらに、少子化による学校や教育機関の縮小も、将来的な労働力の供給不足に影響を与えています。
労働市場における需給の不均衡
特定の業界や職種において、求職者と企業が求める人材との間で、需給のミスマッチが発生しています。主に肉体労働や長時間労働が求められる職種では、全体として応募者数が少なく、ITやデジタル分野などの成長産業では、スキル不足の問題が目立ちます。
労働市場における需給の不均衡は、企業が採用活動に多大なコストをかけても、期待する人材を確保できない原因の一つです。求人倍率が高い業界であっても、雇用条件や職場環境の問題から離職率が高く、需給バランスが崩れているケースもあります。
人材の流動化によるミスマッチの発生
近年は労働者の転職が一般化しており、人材の流動性が高まっている状況です。人材の流動化は労働市場に柔軟性をもたらす一方で、企業側が人材に求めるスキルや経験と、求職者の実際の能力との間にギャップが生じる原因にもなっています。
特に専門性の高い分野では、即戦力となる優秀な人材が転職を繰り返すことで、経験の浅い労働者が残り、教育や育成に多くの時間・コストを費さなければならないケースもあります。
労働者の価値観や働き方の変化
現代では収入や経済的な安定性のみならず、職場環境やワークライフバランス、自己実現の機会などを重視する人材が増えています。職場に求める条件や価値観の変化により、旧態依然とした働き方の企業では、若い世代を中心に人材の確保が難しくなっています。
さらに、働き方改革により労働時間の短縮や柔軟な勤務形態が求められる中で、うまく対応できない企業は離職率が上がるケースも珍しくありません。テレワークや副業といった働き方も注目されているため、従業員の多様なニーズに応えられるように、雇用形態や職場環境の整備が求められています。
人手不足が深刻な業界・職種
数ある業界・職種の中でも、とりわけ人手不足が深刻な分野を紹介します。それぞれの業界の現状や、主な課題を確認してみましょう。
介護・医療業界
介護・医療業界は、最も深刻な人手不足に直面している業界の一つです。介護現場では、高齢化により利用者が増加する一方で、介護職に従事する人材が不足しており、現場の負担が大きくなっています。
また、医療機関でも医師や看護師・介護士などの人手不足が目立っており、患者対応や業務運営に支障をきたすケースが少なくありません。過酷な労働環境や賃金の低さも離職率の高さにつながっているため、業界全体で改善が求められています。
建設業界
建設業界では、インフラ整備や都市開発の需要が高まる中で、熟練した技能を持つ人材の不足が深刻です。特に大型のプロジェクトが集中する都市部では、建設作業員や技術者の確保が困難な状況であり、工期の遅れや品質低下のリスクが懸念されています。
また、高齢化により熟練工の引退が進む一方で、若年層の流入が少なく、次世代への技術継承も課題の一つです。労働環境の整備や外国人技能実習生の受け入れ、建設ロボットなどの新技術の活用が進められていますが、持続的な人材確保の戦略が必要とされています。
物流・郵便業界
物流・郵便業界ではEC市場の拡大により、配送需要が急増している一方で、ドライバーの不足が深刻化しています。長時間の労働により、従業員が過労で離職するケースも少なくありません。深夜や休日に及ぶ不規則な勤務体制が原因で、若い世代の労働者を引き付けるのが難しいのが現状です。
人材に関する課題を克服するため、自動運転車やドローンなどの導入や、労働条件の見直しを進める企業も増えていますが、根本的な労働力不足への対策が必要です。
IT・サービス業界
IT・サービス業界では、デジタル化の加速に伴い、プログラマーやエンジニア・データサイエンティストなどの専門職が不足気味です。とりわけ中小企業では、高度な技術を有する人材の採用が難しく、業務の効率化や新規プロジェクトの進行が滞るケースも目立ちます。
一方、労働市場では、IT分野のスキルを有する求職者が引く手あまたであり、大手企業への人材の集中が起きやすくなっています。一部の有名企業や資本力のある企業に人材が集まる傾向にあり、中小企業はなかなか必要な人材が得られない状況です。
また、過酷な労働環境や長時間労働が業界全体の離職率を高めており、その点でも人材確保が難しくなっています。企業は魅力的な職場環境の提供や、未経験者を育成するプログラムの導入などにより、積極的に人材の確保・育成を図る必要があります。
人手不足の解消に必要な施策は?
人手不足の解消を目指すには、以下のように人事評価制度やキャリア制度を見直すとともに、労働環境の整備が求められます。採用の幅も広げることで、多様な人材を生かすのも人手不足の解消につながるでしょう。重要なポイントをそれぞれ解説します。
人事評価制度やキャリア制度の見直し
人手不足を解消するには、従業員がやりがいを持って働ける環境を整えることが重要です。透明性の高い人事評価制度や、多様なキャリアパスを提供できるように、制度の見直しを図りましょう。
従業員一人一人のスキルや適性を適切に評価し、適材適所の配置を徹底することで、組織全体の生産性の向上も期待できます。また、成果主義の導入や定期的なフィードバックを通じて、従業員の成長を後押しすることも大切です。働きやすい環境の整備を通じて、優秀な人材を確保しやすくなり、事業の継続的な成長につながります。
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労働環境や就労条件の改善
労働環境や就労条件の改善は、特に離職率の高い業界において、人材確保に直結する重要な施策です。例えば、働きやすい環境を整えるために、テレワークやリモートワーク・フレックスタイム制の導入などが効果的です。
また、過重労働を防ぐための残業時間の管理や、有給休暇の取得推進といった取り組みも必要でしょう。女性や高齢者など、多様な人材が活躍できる職場づくりを推進することも、多くの人材確保につながります。
採用の条件や範囲の拡大
採用条件や範囲を広げることは、人手不足を解消するための効果的なアプローチです。年齢や経験にこだわらず、ポテンシャル採用や未経験者の積極採用を行うことで、応募者の幅を広げられます。地方や海外に目を向けた採用活動を進めるのもよいでしょう。
さらに、インターンシップや職業訓練を通じて、必要なスキルを持つ人材を企業内で育成する仕組みを整えることも重要です。柔軟な採用方針は、従来の採用基準に縛られることなく、多様なバックグラウンドを持つ人材を迎え入れるきっかけとなります。
結果として、企業の成長を支える新たな視点やスキルを取り込めるようになり、組織全体の競争力の強化にもつながるでしょう。
人手不足の原因を把握し適切な対策を立てる
人手不足の問題を解決するには、原因を正確に理解した上で、現実に即した対策を講じる必要があります。少子高齢化や労働市場の変化といった社会的な要因は、企業単独で解決できるものではありません。しかし状況に柔軟に対応し、組織として戦略的に人材の確保・育成を目指すことは可能です。
労働環境の改善や採用方針の見直しなど、取り組むべき課題を明確にし、優先順位を付けて取り組んでいきましょう。
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