本当の退職の理由とは?傾向から読み解く課題と組織解決のポイントを解説

社員が企業に伝える退職理由には、本音と建前が入り混じるケースが多く、企業側が表面的な理由を鵜呑みにすると、本質的な課題を見逃すことになりかねません。その背景には組織やマネジメントの課題が潜んでいます。多くの人の退職理由の傾向から確認できる課題や、組織改善のコツを解説します。

社員が企業に伝える退職理由は本当か?

退職時に社員が口にする理由は、建前や表現の工夫が含まれることが多く、企業側がその言葉通りに受け取ってしまうと、本質的な課題を見逃す可能性があります。

無難な言い回しの裏には、職場内の人間関係に疲れていたり、評価への不満があったりといった、さまざまな問題が隠れていることが少なくありません。

企業としては、表面的な退職理由をうのみにするのではなく、在職中の社員からのサインや定期面談の内容など、丁寧に振り返ることが大事です。社員の本音からうかがえる組織的な課題に向き合わなければ、同じような社員の退職が繰り返され、優秀な人材が流出し続ける恐れがあります。

退職の理由として多いものは?

社員が実際に退職を決断する背景には、個人的な事情に加えて、組織や働き方に起因するさまざまな要因が複雑に絡んでいるケースが多くあります。実際に、多くの社員が本音の部分で挙げている、代表的な退職理由を見ていきましょう。

人間関係やマネジメントに不満がある

職場の人間関係は、社員の定着やモチベーションに強く影響する要素です。例えば、相談しても真剣に取り合ってもらえない上司の態度や、チーム内での情報共有不足など、日常の細かなコミュニケーションのストレスが積み重なり、居心地の悪さを感じて退職を選ぶケースがあります。

特に、マネジメント層の対応が一方的であったり、部下の声に耳を傾ける姿勢が欠けていたりすると、社員の信頼は簡単に失われてしまいます。

また、パワハラなど明確な問題でなくても、日々のやりとりで生じる小さな違和感やストレスの積み重ねが、離職のきっかけとなる場合も少なくありません。

給与・待遇に満足できない

給与や待遇に対する不満も、多くの人が退職理由として挙げています。特に、「仕事内容に対して給与が見合わない」「同業他社より給与水準が明らかに低い」「評価基準が曖昧で昇給しにくい」といった理由が目立ちます。

SNSや口コミサイトなど、周囲の情報が容易に手に入る時代において、企業は社員の期待値を見誤ると、離職リスクを高めてしまいます。

仕事が面白くない・自分に合わない

日々の業務にやりがいや面白さを感じられないことも、退職の大きな動機になります。社員が「この仕事は向いていない」と感じたり、「成長につながらない」と思ったりすれば、現状を変えたい思いから、退職に踏み切ることは珍しくありません。

単調な作業の繰り返しや、自分の強みを発揮できる機会の乏しさなどは、働く意味を見失う要因になります。また、配属された部署や職種が、本人の希望や適性と大きく異なっている場合も、理想とのギャップを強く感じることがあります。

特に、入社時の説明と実際の業務の差が大きいと、企業への信頼が低下し、短期間での離職に至ることも多いでしょう。

働き方や業務量に問題があると感じている

過重労働や柔軟性のない働き方に対する不満も、社員の疲弊を招き、退職の決断につながりやすい要因です。慢性的に残業や休日出勤が続けば、社員はプライベートとの両立が難しくなり、心身の負担が限界を超えてしまう恐れがあります。

特に、家庭を持つ社員や両親の介護などを抱える社員にとっては、勤務時間の硬直性が離職の直接的な理由になることも少なくありません。

また、業務量に対する企業側の配慮がない場合、努力しても仕事が終わらない無力感が生まれ、働く意欲が大きく損なわれてしまいます。組織の人員体制や業務分担が適切でない場合も、一部の社員に負荷が集中しがちになり、長期的には人材の流出と生産性の低下を招きます。

成長やキャリアアップが望めない

社員が自らの成長を実感できない環境も、将来に対する不安が募り、早期の退職につながることがあります。特に若手社員にとっては、経験を積み重ねてスキルを伸ばし、キャリアを築ける道筋が見えなければ、現在の職場にとどまる理由が薄くなるでしょう。

また、昇進や異動の基準が不透明であったり、限られた層にしか機会が開かれていなかったりする職場も、社員の意欲をそぐ原因になります。たとえ本人に意欲があっても、それを生かせる仕組みや支援が不足していれば、能力を十分に発揮できず、退職を考える人も出てくるでしょう。

世代別に見る退職理由の傾向

退職理由は、年齢やキャリアの段階によっても傾向が異なります。各世代が置かれているライフステージや価値観、働くことへの期待は多様であり、組織に求めることも変わるものです。世代別に、よく見られる退職理由も押さえておきましょう。

20代のよくある退職理由

20代の退職理由としては、長時間労働や休日出勤の常態化、先輩・上司からの無理な要求などの労働環境への不満や、「同世代の友人と比べて給与が低い」といった給料の問題が多く挙げられます。

特に、入社後に数年を経て仕事に慣れてきた頃、自分の適性やキャリアの方向性について、疑問を持ち始める人は少なくありません。その際、将来像が描けない職場にとどまることに、不安を覚えるケースが目立ちます。

また、20代は比較的転職へのハードルが低く、挑戦することを前向きに捉える人もいるため、環境や上司との相性が悪いと感じた場合は、早期に見切りをつけて転職を選ぶこともあるでしょう。SNSを通じて他社の働き方や評価制度を知る機会も多く、現在の職場に魅力がないと感じて転職を考える人もいます。

30代のよくある転職理由

30代も職場の給料の低さや昇給が期待できない点を退職の理由として挙げる人が多くいます。また会社の雰囲気の悪さや、将来への不安から転職を検討するケースも少なくありません。

仕事である程度の経験が蓄積される30代の場合、業務の中核を担う役割を任される人が多くいます。一方で、働き方と生活の両立や経済的な安定性、理想とするキャリアアップの実現など、複数の軸で職場を評価するタイミングでもあります。

そのような状況で、報酬面や昇進・キャリアに対する不満が強いと、職場への失望から外部に活路を求める人も出てくるでしょう。

40代のよくある転職理由

40代になると労働環境やキャリアへの不満から、退職を選ぶ人が増える傾向にあります。社内での昇進の見通しが立たない「キャリアの天井」に直面し、転職を検討する人は珍しくありません。キャリアチェンジの最後のチャンスと考える人も多いようです。

また、この年代では、会社の経営方針や事業戦略の変化などが、退職理由になることもあります。長年勤めてきた企業の将来性や安定性に疑問を感じたり、企業文化の変容についていけなくなったりすることで、新たな環境を模索し始める人も目立ちます。

50代のよくある転職理由

50代になると、定年後の生活や働き方を視野に入れた、キャリア選択が重要なテーマになります。職場や経営者への不満などから、退職を考える人も多くいますが、定年への不安をきっかけとして、別の会社に移ることを検討する人も増えているようです。

近年は人手不足を背景に、50~60代の層を積極的に活用する企業もあるため、新天地で定年後も働きたいと考える人は少なくありません。管理職としての経験を武器に、中小企業やスタートアップへの転身を図るケースもあります。

特に、現在の職場で長年勤務してきたにもかかわらず、十分な評価がなされていないと感じている場合、転職を考える人は多いでしょう。

退職の理由から考える組織改善のポイント

退職の理由は一人一人異なるものの、上記のように、年代ごとにある程度は共通した部分があります。企業の構造的な課題が潜んでいるケースも多いため、以下のポイントを参考にしつつ、きちんと対策を講じましょう。退職の防止には、表面的な対処ではなく、制度や文化の見直しも必要です。

キャリア支援制度の強化

社員の退職理由として「将来が見えない」「成長実感がない」といった声が多く聞かれる中で、キャリア支援の体制が整っていないことは、企業にとって深刻な課題です。

特に若手社員は、自らの理想とするキャリアの実現を重視している人が多く、明確な育成方針やサポート体制がなければ、早期離職に直結する可能性があります。定期的なキャリア面談の実施や、先輩社員によるメンター制度、外部研修や資格取得支援の提供など、個々の志向や成長意欲に合わせた具体的なサポートを整備しましょう。

企業が主体的にキャリア支援をすることは、組織と社員との関係性を深め、エンゲージメントを高める土台になります。制度の整備のみならず、日常的な対話を通じて、個人の成長と組織の目標が一致する環境づくりが求められます。

管理職の育成

退職の理由として、多くの人が挙げている人間関係やマネジメントへの不満を減らすには、管理職の育成が不可欠です。管理職の力量が従業員エンゲージメントや、人材の定着率に関係するケースは多いものの、適切なリーダーシップを発揮できずにいるケースは珍しくありません。

管理職に対して、定期的なリーダーシップ研修や、部下とのコミュニケーションを促す1on1面談の習慣化、心理的安全性を高めるための具体的な手法(傾聴・共感トレーニング等)を導入することが効果的です。

加えて、管理職がリーダーシップを発揮できる職場づくりにも注力しましょう。上司と部下の信頼関係を築くことで、職場の雰囲気が改善し、離職率の低下につながります。

労働環境の整備と柔軟性の確保

在宅勤務やフレックスタイム制の導入、勤怠管理ツールを用いた過重労働の防止、年次有給休暇取得の義務化など、具体的な制度改善を実施して社員が働きやすい環境を作ることが重要です。

社員がワークライフバランスを保ちやすい環境を整えることで、長期的な定着率向上が期待できます。

特に、子育てや介護など、ライフイベントに対応できる柔軟な制度設計が必要です。例えば、時短勤務や在宅勤務の選択肢を拡充し、急な事情にも対応できる体制を構築することで、多くの社員が安心して働けるようになるでしょう。従業員エンゲージメントの向上につながり、組織全体の生産性アップにも寄与します。

人事評価制度の見直し

上記のように、退職理由として、人事評価に対する不満を挙げる人も少なくありません。成果や努力が正当に評価されていないと感じたとき、社員はモチベーションを失い、他の企業に可能性を求めて退職する可能性があります。

人事評価制度を見直して社員の定着率を上げるには、客観性と透明性の確保が必要です。

業績評価と能力評価を明確に区別し、営業成績などの数字に加えて、チームへの貢献度や業務改善への取り組み、後輩の育成などの行動・プロセスも評価する仕組みを導入しましょう。

また、評価結果を定期的なフィードバック面談で伝え、透明性を確保することが大切です。

退職の理由をエンゲージメントの向上につなげる

社員の退職にはさまざまな理由がありますが、その背景には組織内の課題や、制度の不備などが隠れていることが多くあります。表面的な理由だけに目を向けるのではなく、一人一人の声に丁寧に耳を傾け、根本的な要因を見極める姿勢が求められます。

特に、人間関係やキャリア・人事評価・働き方など、日常業務の中で蓄積されやすい不満は、早期に把握し対応することが重要です。社員の変化や声を敏感に捉えて、柔軟かつ継続的に職場環境や制度の改善・強化を重ね、従業員エンゲージメントの向上につなげる必要があります。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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