人手不足が企業経営に与える影響とは?影響や改善策を解説

人手不足は今や企業の規模を問わず広く深刻化しています。人材が不足すれば、業務が回らず、現場の疲弊や生産性低下を招き、やがて経営全体に悪影響が及びます。本記事では、人手不足の背景から企業が受ける影響、そして今こそ取り組むべき具体的な改善策までをわかりやすく整理します。

人手不足の現状と背景

日本においては少子高齢化の影響もあってさまざまな業界で人手不足が叫ばれています。実際のところ、どの程度人手不足は深刻なのでしょうか?

日本の人手不足の現状や原因、業界別の深刻度について、独立行政法人労働政策研究・研修機構のデータを元に解説します。

日本における人手不足の現状

日本では少子高齢化の影響により、生産年齢人口が年々減少しており、企業の人材確保はますます厳しさを増しています。

実際に、労働政策研究・研修機構(JILPT)が公表している「雇用人員判断D.I.」では、2024年12月時点で中小企業の「人手不足感」を示す指数がマイナス40ポイントと、極めて深刻な状況となっています。

中堅企業や大企業でも人手不足感は年々悪化しており、業種や企業規模を問わず全国的に広がっていることが分かります。

参考:雇用人員判断D.I.:主要労働統計指標

人手不足の主な原因

企業が人手不足に陥るもっとも大きな要因は少子高齢化です。2023年における日本の合計特殊出生率は1.20となっており、2050年ごろには日本の総人口が1億人を下回ると言われています。

さらに、65歳以上の人口の比率は総人口の29.3%程度となっており、およそ3人に1人が高齢者という状況です。労働力が減少したことで、相対的に企業も人手不足に陥っています。

加えて、急速な技術革新や産業構造の変化により、新しい職種やスキルが求められる一方で、教育・訓練のスピードが追いついておらず、労働市場における「人材ミスマッチ」が拡大しています。

特定の分野では人が余り、一方で別の分野では深刻な人手不足が続くという非対称な状況が生まれているのです。

このように、人手不足は単なる「採用の問題」ではなく、人口動態・労働観・技術進化といった日本社会全体の変化と密接に関係しています。

企業側の対応だけでなく、社会全体での抜本的な取り組みが求められる時代に入っているといえるでしょう。

業界別にみる人手不足の深刻度

厚生労働省の「労働経済動向調査」によると、正社員では特に「製造業」において人手不足の声が強く、慢性的な人材確保の難しさが浮き彫りとなっています。

また、パートタイム労働者では「生活関連サービス業」「娯楽業」といった業種で人手不足感が顕著です。

産業別に見ると、「医療・福祉」や「運輸業・郵便業」「建設業」などでは、正社員・パートタイムを問わず、広く人手不足が報告されています。

これらの業界は、夜勤や肉体労働、専門的スキルが求められる業務が多く、離職率も高くなりやすい傾向にある上に、若手人材の採用や育成が思うように進まず、技能継承の難しさが現場の生産性や安全性にも影響を与えています。

参考:第1-(2)-21図 雇用形態別、産業別にみた労働者過不足判断D.I.

人手不足が企業に及ぼす影響

「業績が伸びない」「従業員が疲弊している」その背景には人手不足があるかもしれません。人材難がもたらす経営へのダメージと、その連鎖を断ち切るために企業が知っておくべきポイントを整理します。

生産性の低下と業績への影響

人手不足により業務がスムーズに回らなくなると、必然的に生産性が低下します。

納期の遅延やサービス提供の品質低下などが発生し、顧客満足度や信頼の低下につながるでしょう。

結果として、取引先の離反や売上減少といった業績への影響は避けられません。

慢性的な人員不足が続けば、業務改善や新規事業への取り組みも滞り、競争力の低下に拍車をかけることになります。

従業員の負担増加と離職率の上昇

人手が足りない中で業務を維持するためには、既存社員への負担が集中します。

残業の常態化、休日出勤の増加、業務量の過多といった状況は、社員のストレスや疲労の蓄積を引き起こします。

結果として、モチベーションの低下や健康被害、さらなる離職を招き、負のスパイラルに陥る可能性があります。

職場への不満が社内外に広がれば、企業のイメージダウンにもつながりかねません。

採用コストの増加と人材確保の難航

人材を確保しようとするほど、採用コストは上昇します。求人広告、採用エージェントの利用、採用イベントの参加など、あらゆる手法を試しても成果が出にくくなっています。

また、企業の魅力がうまく伝わらなければ、そもそも応募が集まりません。

知名度の低い企業や条件面で競争力のない企業は、他社との競争で劣勢になり、採用活動の長期化と費用増加が避けられなくなります。

人手不足に対する企業の取り組み事例

人手不足を乗り越えるには、採用だけでなく職場環境や組織づくりの見直しも不可欠です。定着率向上や業務効率化に成功している取り組みを紹介します。

労働環境の改善による人材定着

長時間労働や評価の不透明さは、離職につながりやすい要因です。

そのため、働きやすい環境づくりは最優先事項といえます。実際に、フレックスタイム制度や在宅勤務制度を導入し、社員のワークライフバランスを重視する企業が増えています。

加えて、成果に基づく評価制度や、育児・介護と両立できる福利厚生の充実も有効です。これらの施策によって、社員の定着率が向上し、採用コストの削減にもつながるでしょう。

デジタル化と自動化の推進

人手不足への対応策として注目されているのが、業務のデジタル化・自動化です。

例えば、日報や勤怠管理、経理処理などの定型業務は、ツールを活用することで大幅に工数を削減できます。

RPAやクラウドサービスの導入によって、一部の業務は人手に頼らず自動で処理可能となり、人的リソースをコア業務に集中させることが可能です。

ただし、導入前には業務フローの見直しや社員への教育も必要であり、段階的な運用が求められます。

シニア層やノマドワーカーの採用

働き手を拡大する取り組みとして、シニア層や地方在住のノマドワーカーを積極的に採用する企業も増えています。

定年退職後も働く意欲のあるシニア人材は、経験や知見を活かして即戦力として活躍できる存在です。

また、テレワークの普及により、地理的な制約を超えて優秀な人材を確保することも可能になりました。

固定観念にとらわれず、多様な働き方や人材像を受け入れる柔軟性が、今後の人材戦略には欠かせません。

人材育成とキャリアパスの明確化

若手社員の定着には、「この会社で成長できる」という期待感を持たせることが効果的な対策になります。

研修制度の充実や明確なキャリアパスの提示によって、社員が自分の将来像を描ける環境を整えることが重要です。

例えば、階層別研修やメンター制度、定期的なキャリア面談を通じて、個々の成長を後押しする仕組みを整えている企業もあります。

育成に注力することは即効性は薄いものの、長期的には優秀な人材の確保と組織力の強化につながります。

持続可能な人材戦略の構築が求められる

人手不足は一時的なブームではなく、少子高齢化が進む日本社会において今後も続くと見込まれる慢性的な課題です。

だからこそ、目先の採用活動だけでなく、長期的な視点に立った人材戦略の再構築が必要です。社員をリソースではなく資産として捉え、採用後の育成、キャリア支援、定着に至るまでの一貫した循環を組織の中に根付かせることが、持続可能な企業経営につながります。

人が足りないからこそ、人を活かす”経営のあり方が、今まさに問われています。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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