早期退職の募集をスムーズに進めるには?条件設定や伝え方のポイント

中長期的な組織体制の見直しや人員構成の調整を進めるうえで、「早期退職の募集」は選択肢のひとつになり得ます。ただ、従業員に不安や誤解を与えることを懸念し、導入に踏み切れない企業も少なくありません。この記事では、早期退職の基本的な考え方や背景、リスクを整理した上で、条件設計や伝え方といった具体的なポイントを解説します。

早期退職とは?定義と背景

人員削減を進めたい・人員構成を見直したいという企業にとって、早期退職の募集は有用な手段です。早期退職制度の導入を考えているなら、定義から導入している企業の現状、増加している背景まで整理しておきましょう。

従業員が定年前に退職すること

「早期退職」とは、従業員が定年年齢に達する前に会社を退職することを指します。企業がこの早期退職を募る場合には、対象者を限定し、退職金の上乗せやキャリア支援などの優遇措置を提供する仕組み(早期退職優遇制度)が設けられるのが一般的です。

このような制度は企業ごとに内容が異なり、法令によって一律に定められたものではありません。企業の事情に応じて導入・運用される任意の制度であり、従業員に対して退職の選択肢を提示する取り組みの一つです。

制度設計においては、企業側の目的だけでなく、対象となる従業員のキャリアや生活設計にも配慮することが重要です。

企業が早期退職を募集する理由

企業が早期退職の募集を実施する背景には、事業環境の変化に対応した構造改革や、人員構成の見直しといった経営的な判断が関係しています。たとえば、2025年7月にパナソニックが発表した早期退職の募集も、グループ全体の構造改革を目的としたものでした。

また、無期雇用の従業員をやむを得ず整理解雇せざるを得ない場合、企業側にはその前段階として、早期退職の募集や出向の提案など、あらゆる努力を行うことが求められます。これは、整理解雇が認められるための要件の一つでもあります。整理解雇の法的な妥当性を判断する際には、以下のような条件(いわゆる「整理解雇の4要件」)が考慮されます。

  • 企業の維持・存続を図るために人員整理が必要である
  • 整理解雇の前に、退職者の募集や出向その他の余剰労働力吸収のための相当な努力が尽くされている
  • 対象者の選定に合理性がある
  • 従業員との間で十分な協議がなされている

このように、早期退職の募集は整理解雇に至る前の段階で選択されるべき措置としても、重要な役割を持っています。従業員にとっても、制度設計が丁寧になされていれば、前向きなキャリア選択の一環として受け入れられる可能性が高まります。

参考:整理解雇には4つの要件が必要|宮城労働局

早期退職の募集が増えている背景

東京商工リサーチの調査によると、2024年に「早期・希望退職の募集」を行った上場企業は57社で、前年から39.0%増加しました。特に大手メーカーを中心に、その動きが目立ってきています。

背景には、経営環境の不確実性が高まる中で、将来的な企業価値の維持・向上を見据え、組織体制や事業構造を見直す企業が増えていることがあると考えられます。

参考:2024年の「早期・希望退職」 3年ぶり1万人超 募集社数57社、募集人数は前年の3倍に急増 | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ

早期退職制度の導入が企業に与える影響

企業が早期退職優遇制度を通じて早期退職を募ることで、従業員との対話を重視しつつ、組織再編や人員構成の見直しを比較的円滑に進められる可能性があります。

一方で、制度の運用次第では組織や従業員にさまざまな影響を及ぼす可能性もあるため、慎重な設計とコミュニケーションが求められます。

有能な人材やノウハウが流出するリスクがある

募集の対象条件や設計によっては、豊富な知識や経験を有し、組織の中核を担ってきた従業員が早期退職を選択するケースも考えられます。

特に、専門性の高い分野を担当していた方や、長年の蓄積によるノウハウを持つベテラン人材が離職する場合、事業継続や若手育成に影響を及ぼすリスクがあります。

早期退職制度が本来の目的を果たすためには、対象者の選定や制度設計において、組織全体の知見継承・中長期的な人材戦略にも配慮が必要です。

残留従業員の不安や意欲低下につながる場合も

早期退職の対象とならなかった、または制度への応募を選ばなかった従業員が、将来に対する不安を感じる可能性もあります。「次は自分が対象になるのでは」といった懸念が広がると、心理的な安心感が損なわれ、意欲の低下につながる恐れがあります。

また、職場においてキーパーソンとなっていた従業員が退職したことで、業務負担が一時的に増加し、働き方が大きく変わるケースもあります。こうした変化は、組織全体のエンゲージメントや生産性にも影響を及ぼしかねません。

制度導入の際には、残留従業員へのフォロー体制や、将来の組織ビジョンを丁寧に伝えるコミュニケーションもあわせて検討することが重要です。

優遇措置にかかるコストへの配慮が必要

早期退職の応募を募る際には、対象者にとって納得感のある条件提示が求められます。たとえば、退職金の加算や再就職支援といった優遇措置が一般的ですが、企業にとっては一定のコストが発生します。

必要に応じてキャリアコンサルティング会社など外部機関と連携し、個別支援を行うケースもあるため、制度設計段階で費用対効果をしっかりと見極める必要があります。

優遇内容を手厚くすれば応募が集まりやすくなる一方で、過度な負担が経営を圧迫するリスクもあるため、経営状況に応じた適切なバランスを取ることが大切です。

早期退職の募集における条件設計のポイント

企業が早期退職優遇制度を導入して人員構成を見直すにあたっては、対象者の範囲や優遇措置などの制度設計が重要な鍵となります。
制度を通じて達成したい目的を明確にし、その目的に応じた対象者の条件や、応募を前向きに検討できるような支援内容を設計することが求められます。

目的に応じて対象者の条件を定める

制度の設計にあたっては、まず「なぜ早期退職の募集を行うのか」という目的を明確にする必要があります。目的が曖昧なままでは、対象者の条件が適切に定められず、期待する効果も得られにくくなります。

以下に目的ごとの対象者条件の一例を示しますが、これはあくまで各企業の戦略に応じて検討すべき項目です。

目的

対象となる従業員の条件

利益率の向上

業績評価や人事制度上の指標に基づいて選定された従業員

組織の若返り

一定年齢以上の従業員

なお、年齢を基準とする場合には、業務の引き継ぎ体制やスキル継承の仕組みを十分に考慮する必要があります。
仮に対象となる年齢層の従業員が複数退職することになった場合でも、組織運営に支障が出ない体制が構築されているかを事前に確認しましょう。必要に応じて、一部の職種や役職を対象から除くなどの調整も検討されます。

優遇措置は多角的な視点で決める

早期退職優遇制度において提示される優遇措置には、退職金の加算や再就職支援などが一般的です。これらは一定のコストを伴うため、自社の経営状況・業界水準・地域性などを踏まえて総合的に判断することが重要です。

たとえば、2024年に報道されたパナソニックの早期退職募集では、勤続年数や年齢に応じて数千万円の退職金加算が提示されたとされています。ただし、こうした手厚い支援は限られた大企業だからこそ可能な設計です。

中小企業においては、経営への過度な負担を避けつつ、従業員が将来に希望を持って次のキャリアを描けるような優遇措置を検討することが大切です。

参考:パナソニック 早期退職の募集 勤続5年以上40~50代が主な対象 | NHK | 働き方

条件設計の事例

早期退職優遇制度を導入している企業は年々増加しており、さまざまな事例が参考になります。設計の方針に迷った際は、他社の取り組みからヒントを得ることも有効です。

<事例:百貨店>

  • 対象者:定年後再雇用の契約社員および40〜64歳の正社員
  • 優遇措置:退職金の加算、再就職支援
  • 募集人数:200人(全従業員の約2割)

<事例:住宅メーカー>

  • 目的:年齢構成のアンバランス解消
  • 対象者:勤続10年以上の45〜54歳の従業員(子会社在籍出向者含む)
  • 優遇措置:退職金の加算

<事例:自動車メーカー>

  • 目的:電動化に伴う人材構造の再編
  • 対象者:55歳以上の従業員
  • 優遇措置:年齢に応じた退職金加算(例:55歳で年収の3倍、56歳で2.5倍)+再就職支援
  • 応募人数:2,000人以上

なお、企業によっては現在は募集を終了している場合もあります。最新情報や業界動向を確認しながら、制度設計を行うことが重要です。

早期退職制度の導入に納得してもらう伝え方とは

早期退職の募集は、従業員にとって将来の働き方や処遇に関わる重要なテーマであるため、不安や懸念を抱かれることも少なくありません。制度を円滑に導入するには、目的や背景を丁寧に伝え、納得感のあるコミュニケーションを行うことが重要です。

「前向きな選択肢」と捉えられる説明をする

早期退職の募集は、あくまで従業員の意思に基づくものである一方で、企業側の都合による一方的な判断と受け止められてしまう可能性もあります。
また、制度導入の背景に組織再編がある場合、従業員にとっては将来の雇用や評価への不安にもつながりかねません。

そのため、制度の趣旨や支援内容について丁寧に説明し、「今後のキャリアを考える上での前向きな選択肢」として受け止めてもらえるように配慮しましょう。
たとえば、退職金の加算やキャリア支援、再就職サポートなど、従業員が新たな環境に踏み出す後押しとなるような支援策があることを明確に伝えることが大切です。

対象者がまだ活躍の時期にある年齢層であれば、外部での活躍やキャリアの幅を広げる機会としても捉えられる可能性があることに触れるのも一つの工夫です。

透明性があって分かりやすい社内説明や告知をする

制度導入の背景や目的が不明確なまま進んでしまうと、従業員の間に不安や憶測が広がってしまいます。
そのため、なぜ早期退職の募集を行うのかという背景や目的を、丁寧に、かつ全社に伝わる方法で説明することが求められます。

対象者の範囲や選定基準が合理的に定められていることを示すとともに、優遇措置の内容や応募の流れについても、わかりやすく整理して伝えましょう。制度概要やQ&Aなどを社内ポータルなどで常時確認できるようにしておくと、従業員が自分のペースで理解を深めることができます。

制度に関する情報は、一方的に通知するのではなく、従業員からの疑問や不安の声を受け止める対話の場も設けながら、納得形成を進めていく姿勢が大切です。

企業にとって早期退職優遇制度は、組織の構造改革や人員構成の最適化を目指す手段の一つです。しかし、導入にはコストがかかるだけでなく、キーパーソンの離職や残留従業員の不安増大といったリスクも伴います。

特に、十分な説明や対話のないまま制度を導入すれば、現場の混乱や不信感につながる恐れもあります。
「なぜ今、この制度を導入するのか」「どのような支援を用意しているのか」を明確に示し、企業と従業員の双方にとって納得感のある制度運用を目指しましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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