後継者問題の現状と主な原因。中小企業が取るべき解決策も解説

中小企業における後継者不足は年々深刻化しています。少子化や価値観の変化により、親族内承継が難しいケースが増え、廃業に追い込まれる企業も少なくありません。本記事では、後継者問題の現状や原因を整理し、中小企業が取るべき解決策を解説します。

中小企業における後継者問題の実態

中小企業の半数以上で後継者が決まっていない深刻な状況が続いています。経営者の高齢化だけでなく後継者不在や属人性の強さといった背景によって、多くの企業が承継準備に苦慮している実態があります。

ここでは最新の統計データから後継者不足の実態を明らかにし、廃業を選択する企業の特徴と経営者の本音に迫ります。

日本における後継者不足の実態

東京商工リサーチが2024年に公表した調査結果によれば、日本の中小企業における後継者不在率は62.15%に達しており、過半数を超える企業で後継者が決まっていません。

特に深刻なのは、代表者年齢が50代の企業における71.8%という高い不在率です。60代でも47.8%と約半数が後継者未定の状態であり、承継準備の遅れが顕著に表れています。

多くの経営者が日々の業務に追われる中で、承継問題を先送りにしている傾向が見られます。このような状況は、企業の持続可能性を脅かすだけでなく、従業員の雇用や取引先との関係にも不安をもたらしています。

経営者の急な病気や引退に直面した際、準備不足が致命的な結果を招く可能性があるため、早期の対策が求められます。後継者不在率の上昇は個別企業の問題にとどまらず、日本経済全体の活力維持という観点からも重要な課題として認識する必要があるでしょう。

出典:後継者不在率、1.06ポイント上昇の62.15% 誰のための「事業承継」か検証も必要 | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ

廃業を選択する企業の特徴と背景

日本政策金融公庫の調査によると、後継者がすでに決定している企業はわずか10.5%にとどまる一方、廃業を予定する企業は57.4%に達しています。この割合は2019年調査から4.8ポイント上昇しており、廃業選択が増加傾向にあることを示しています。

廃業予定企業の最大の特徴は、その45.2%が「そもそも誰かに継いでもらいたいと思っていない」と回答している点です。その理由として「経営者個人の感性・個性が欠かせない事業」(24.4%)、「自分の趣味で始めた事業」(23.8%)、「経営者個人の人脈が欠かせない事業」(16.6%)など、属人的な要素の強さが挙げられています。これらの企業の81.8%は従業者数1〜4人の小規模事業者で、自宅兼用での運営も多く見られます。

注目すべきは、黒字経営であっても承継を選ばない企業の存在です。廃業時の懸念として29.7%が「やめた後の生活費の確保」を挙げる一方、41.5%は「特に問題はない」と回答しています。

これは経済的な理由よりも、事業の性質や経営者の価値観が廃業選択に大きく影響していることを示唆しています。長年培った技術やノウハウが失われることは残念ですが、経営者自身の意思を尊重した選択であることも理解する必要があるでしょう。

出典:中小企業の事業承継に関するインターネット調査(2023年調査)

後継者問題が起こる主な原因

なぜ多くの企業で後継者が見つからないのか、その背景には共通する原因があります。後継者問題を正しく理解するために、原因を一つずつ確認していきましょう。

少子化・人口減少

少子高齢化が進行する日本では、若い世代の人口基盤そのものが徐々に弱まっているのが実情です。総人口は2008年の約1億2,808万人をピークに減少を続けており、2023年10月時点で約1億2,435万人と、前年よりおよそ60万人の減少となっています。

また、65歳以上の高齢者の割合(高齢化率)は2020年の28.6%から、2070年には38.7%にまで上昇すると見込まれており、将来的な労働人口や後継者候補の絶対数の減少が懸念されます。こうした背景の中、実子承継を前提とする中小企業では、「そもそも子どもがいない」「後継者候補が都市部へ流出している」といった事情が後継者不足を一層深刻にしています。

出典:国土交通白書 2024

子ども世代の価値観変化と事業承継への不安

若い世代の価値観の変化も、親族間での事業承継に対する不安を強めています。親の事業を継ぐことだけが選択肢ではなく、「自分のやりたいこと」「安定した働き方」を重視するなど、キャリアに対する価値観が多様化しています。その結果、家業を継ぐことにこだわらない若者が増えているのです。

また、実際に親族承継を前提としていた企業の中には、経営方針や意思決定スタイルの違いから親子間で対立が起きたり、後継者本人がプレッシャーを感じて承継をためらったりする事例も少なくありません。

これらの変化は「親族だからといって自動的に継ぐものではない」という認識を若い世代に浸透させており、それが事業承継の障壁になっています。

事業承継準備の遅れと計画不足

事業承継は本来、後継者の選定から育成、株式や資産の承継方法の検討、金融機関・取引先との調整など、多面的かつ長期的な準備が必要です。しかし実際には、経営者が現役のうちは当面の経営に追われ、承継の検討を先送りにするケースが目立ちます。

その結果、突然の病気や引退に直面した際に後継者選びや資産移転が滞り、廃業リスクを高めてしまいます。公的支援や専門家の相談体制が十分に活用されていないことも準備の遅れを助長しており、計画不足は事業の持続性を脅かす大きな原因となっているのです。

後継者問題を解決するための選択肢

深刻化する後継者問題に対して、従来の親族承継にこだわらない新たなアプローチが注目されています。

子どもの価値観変化や少子化により親族内での承継が困難になっている今、企業の状況に応じた柔軟な選択が求められています。ここでは親族外承継を中心に、現実的で効果的な解決策を紹介します。

外部人材の積極的な活用

親族や従業員に適切な後継者が見つからない場合、外部から経営者を招聘する選択肢が有効です。外部登用の最大のメリットは、新しい視点や経営手法を導入できることです。

社内のしがらみや慣習に囚われず、必要な改革を推進できる可能性が高まります。異業種での成功経験や専門的なスキルを持つ人材であれば、事業の競争力向上も期待できるでしょう。

ただし、外部登用には社内外の理解を得るための努力も必要です。新経営者のビジョンや方針を丁寧に説明し、従業員の不安を和らげることで承継が円滑に進みます。M&A仲介会社や人材紹介会社を活用すれば、適切な候補者探しから就任後のフォローまで、専門的なサポートを受けることができるでしょう。

公的支援機関の活用

事業承継・引継ぎ支援センターは、親族内・従業員・第三者承継のいずれの場合にも対応可能な公的相談窓口です。全国47都道府県に設置されており、事業承継の相談は無料、秘密厳守で専門の相談員が親身に対応します。

センターでは、現状のヒアリングから承継計画の策定支援、株式や資産移転の準備、さらには譲受候補とのマッチングや専門家の紹介など、承継プロセス全体をサポートします。相談後は登録機関との連携で、具体的な譲渡交渉や契約書作成といった実務にも橋渡しが可能です。

出典:トップ|事業承継・引継ぎポータルサイト

従業員への承継と計画的な育成

従業員の中から後継者候補を選定し育成する方法は、企業文化を理解した人材を確保できる現実的な選択肢です。親族に適任者がいない場合でも、優秀な従業員であれば事業の継続性を保ちながら承継を実現できます。

まず複数の候補者をピックアップし、経営理念の理解、業界知識、リーダーシップなど必要な資質を明確に設定することから始めます。

育成プロセスでは、部門ローテーションを通じて幅広い業務経験を積ませることが重要です。営業から製造、管理部門まで経験することで、企業全体を俯瞰する視点が養われます。

育成には数年単位の時間が必要なため、計画的かつ継続的な取り組みが求められます。従業員承継の場合、株式取得資金の準備も重要な課題となるため、金融機関との連携や経営承継円滑化法の活用も検討すべきでしょう。

専門家への相談

経営者が後継者問題を解決するうえで、M&A仲介会社・税理士・弁護士・公認会計士などの専門家に相談することは非常に有効です。

特に親族内や社内に適任者がいない場合、第三者承継(M&A)を検討する際には相手企業の評価(バリュエーション)や契約書の法務・税務処理、買手・売手交渉など複雑なプロセスが発生します。これらをひとりで進めるのはリスクが高いため、専門家の知見を借りて準備を進めることで、ミスマッチやトラブルを未然に防げます。

さらに、専門家は市場動向や買い手候補情報に通じており、相応しい譲受側を紹介してもらえることもあるでしょう。こうした支援を受けながら進めることで、M&Aによる承継を成功させる可能性が高まります。

後継者問題を乗り越えるために早めの行動を

後継者問題は、経営者の引退間際になってから対応しようとすると、多くの困難が伴い、解決は非常に難しくなります。後継者の選定・教育、株式や資産の承継準備、関係者への周知には長い時間が必要です。

だからこそ、事業承継は早期に計画を立て、段階的に進めることが重要です。先送りせずに今から一歩を踏み出すことが、企業の存続と成長を守る最善の手段といえるでしょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
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