後継者問題とは、経営を引き継ぐ人が決まっていないだけでなく、経営者の退任までに候補者の育成や株式・資産の移転、従業員・取引先への引継ぎを終えられない可能性がある状態です。後継者が決まっていても、本人の意思確認や経営判断の経験、資金面の準備が不足していれば、円滑に承継できるとは限りません。
自社の緊急度は、全国の後継者不在率だけでは判断できません。経営者が希望する引退時期、候補者の有無と準備状況、経営者に集中している業務や人脈を確認し、承継までに必要な準備を終えられるかを考える必要があります。
本記事では、後継者問題が起こる原因や放置するリスクを整理したうえで、親族内承継、従業員・役員承継、外部招聘、M&Aの違いまでわかりやすく解説します。後継者問題において、自社が最初に何へ取り組むべきか決める際にお役立てください。
後継者問題とは、現在の経営者が退任した後に事業を担う人や承継方法が定まらず、会社の存続や経営の引継ぎが難しくなる問題です。単に代表者を交代するだけではなく、株式や事業用資産に加え、技術、企業文化、顧客との関係なども次の経営者へ引き継ぐ必要があります。
経営者が営業、資金繰り、採用、価格交渉、主要取引先への対応まで担っている企業では、候補者の氏名を決めただけでは準備が整いません。どのような情報をもとに判断しているのか、誰との関係が事業を支えているのかまで整理し、候補者が実務を経験する期間を確保する必要があります。
中小企業庁の「事業承継ガイドライン」では、後継者の育成期間を含めると、事業承継の準備には5~10年程度を要するとされています。引退時期が確定していない場合も、仮の期限を置いて早めに準備を始めることが大切です。
まずは次の3点を確認すると、自社の緊急度を捉えやすくなります。
確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
承継までの時間 | 経営者は何年後を目安に退任したいか |
候補者の状況 | 候補者がいるか、本人に意思と準備があるか |
経営者への集中 | 業務、権限、情報、人脈が経営者だけに集中していないか |
候補者が未定でも、承継まで十分な時間があり、選択肢の検討や業務整理を始めている企業は、直ちに深刻な状態とは限りません。反対に、退任時期が近いにもかかわらず準備を始めていない場合は、社内の候補者だけでなく、外部招聘やM&Aも含めて検討する必要があります。
後継者不在率は依然として高い水準にありますが、調査機関によって対象企業や集計条件、推移の方向が異なります。一つの調査結果だけを日本企業全体の実態として扱わず、条件を確認して読み取ることが大切です。
以下の数値は、2026年7月31日時点で公表されている2025年の全国調査を確認したものです。
調査 | 調査対象 | 後継者不在率 | 前年からの変化 | 調査から読み取れる傾向 |
|---|---|---|---|---|
帝国データバンク | 全国・全業種の約27万社 | 50.1% | 2.0ポイント低下 | 7年連続で低下 |
東京商工リサーチ | 16万9,136社 | 62.60% | 0.45ポイント上昇 | 2019年以降、上昇が継続 |
出典:帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」、東京商工リサーチ「2025年『後継者不在率』調査」
帝国データバンクの調査では、後継者が「いない」または「未定」の企業は約13万8,000社で、後継者不在率は50.1%でした。前年から2.0ポイント低下し、7年連続で前年を下回っています。
東京商工リサーチの調査では、後継者不在率は62.60%でした。前年の62.15%から0.45ポイント上昇し、調査を開始した2019年以降、上昇が続いています。
数値の差は、調査対象や後継者の判定方法などが異なるためであり、単純に比較することはできません。帝国データバンクは全国・全業種の約27万社、東京商工リサーチは企業データベースから抽出した16万9,136社を対象としています。
後継者不在率は、社会全体の傾向を把握するための指標です。自社の対応を急ぐべきかは、全国平均よりも、経営者の退任時期、候補者の意思と経験、株式・資産の準備状況をもとに判断します。
後継者不在率は、若い経営者ほど高くなる傾向があります。帝国データバンクでは30代未満が83.2%、東京商工リサーチでは30歳未満が97.01%でした。ただし、創業や代表交代から日が浅く、現時点で後継者を決める必要性が低い企業も含まれています。
80代以上の後継者不在率は、帝国データバンクで22.2%、東京商工リサーチで24.97%です。若い世代より割合は低いものの、退任や健康上の変化までに残された期間を考えると、候補者の選定や育成が始まっていない企業では対応を急ぐ必要があります。
後継者問題の緊急度は、不在率の高さではなく、承継までに残された時間と準備に必要な時間の差で判断します。
候補者がいる場合も、本人が承継を希望しているか、経営判断を経験しているか、株式や保証の問題を整理できているかを分けて確認しましょう。
帝国データバンクによると、2025年に代表者が交代した企業では、役員・社員を登用する内部昇格が36.1%、同族承継が32.3%でした。後継者候補を分析できた企業でも、非同族の候補者が41.0%を占めています。
東京商工リサーチの調査では、後継者が決まっている企業のうち、同族承継が63.65%、外部招聘が19.67%、内部昇進が16.23%でした。調査によって構成は異なりますが、親族以外の人材へ事業を引き継ぐ企業も一定数存在します。
親族内に候補者がいない場合も、従業員・役員承継、外部招聘、M&Aを比較できます。
ただし、親族以外へ引き継げば問題がなくなるわけではありません。従業員承継では経営経験と株式取得資金、外部招聘では社内外との信頼構築、M&Aでは譲渡条件と承継後の運営が主な検討事項になります。
後継者が決まらない背景には、候補者の不足だけでなく、本人の意思、会社の経営状態、経営者への業務集中、株式や保証の負担、準備の遅れがあります。どこで検討が止まっているのかを確認すると、先に取り組む課題が見えやすくなります。
経営者の子どもや親族がいても、本人が事業を引き継ぐとは限りません。すでに別の地域や業界で働いていれば、承継によって仕事、居住地、家族の生活が変わる可能性があります。
親族内承継を考える場合は、経営者の希望を伝えるだけでなく、事業の現状や経営者として負う責任も共有し、本人が判断できる時間を設けます。
親族であることと、事業を引き継ぐ意思や適性があることは分けて確認します。
本人が希望しない場合は、回答を待ち続けるのではなく、従業員・役員、外部人材、M&Aへ検討を広げる必要があります。
候補者は、会社の良い面だけでは承継を判断できません。売上が減少している、特定の取引先への依存度が高い、設備更新が必要、借入れが多いといった課題が見えなければ、承継後の経営を具体的に想定できないためです。
また、従業員の雇用、取引先への支払い、採用、投資など、現在の担当業務とは異なる責任を負うことへの不安もあります。
候補者には、事業の強みと課題を同じ段階で開示し、何を引き継ぐのかを具体的に伝えます。
課題を隠すのではなく、承継前に解決するもの、承継後に取り組むもの、縮小や撤退も含めて見直すものに分けると、候補者が経営計画を検討しやすくなります。
中小企業では、経営者が営業、資金繰り、採用、商品開発、取引先との交渉まで担っていることがあります。候補者が社内にいても、判断に使っている情報や過去の経緯を知らなければ、経営者の退任後に同じ判断を再現できません。
契約書や顧客名簿として残せる情報もあれば、価格交渉の背景、顧客ごとの注意点、従業員の配置に関する判断など、実務を通じなければ伝えにくい情報もあります。
経営者に集中している業務、権限、情報、人脈を洗い出し、記録で残すものと経験を通じて渡すものに分けます。
候補者を経営会議や主要取引先との商談へ同席させると、判断の結論だけでなく、その理由や前提も共有できます。
経営を引き継ぐには、代表者の役職だけでなく、株式や事業用資産、借入れに関する扱いも決める必要があります。従業員や役員が後継者となる場合、株式を取得する資金を本人だけでは用意できないことがあります。
経営者保証も、後継者候補が承継をためらう要因になり得ます。中小企業庁は、経営者保証が後継者候補の確保や円滑な事業承継を妨げる要因になるとの指摘を踏まえ、事業承継時の保証解除に向けた支援策やガイドラインを案内しています。詳しくは「経営者保証」および「事業承継時の経営者保証解除に向けた総合的な対策」をご確認ください。
候補者としての適性と、株式・資産・保証を引き継げるかは別の課題として確認します。
株式の移転方法、税務、相続、保証の扱いは企業ごとに異なるため、金融機関、税理士、公認会計士、弁護士などへ早めに相談する必要があります。
経営者が日常業務を続けられている間は、事業承継を差し迫った課題として捉えにくいものです。売上、人材、資金繰りへの対応が優先され、引退時期や候補者との対話が後回しになりやすくなります。
しかし、候補者を決めた後にも、経営経験、権限移譲、株式や保証の整理、従業員・取引先への共有が必要です。
引退時期が確定していなくても、仮の期限を置かなければ準備は始まりません。
例えば「5年後に代表を交代する」と仮定すれば、候補者の意思確認や育成、主要取引先への紹介をいつ始めるべきか逆算できます。状況が変わった場合は、期限や計画を見直します。
後継者問題を放置すると、経営者が退任した際に判断を担う人がいなくなるだけでなく、従業員の雇用、取引先との関係、技術や顧客基盤にも影響が及びます。経営者が元気な時点で、緊急時の体制と承継に向けた準備を分けて進めることが大切です。
経営者が病気や事故で判断できなくなった際、受注、支払い、借入れ、人員配置などを決められる人がいなければ、日常業務を続けられても例外的な問題へ対応できません。
社内に候補者がいても、正式な権限がなく、財務状況や重要な契約を把握していなければ、すぐに経営を引き継げるとは限りません。
経営者が判断できなくなってから候補者や承継方法を探すと、選べる方法と準備時間が限られます。
まずは緊急時に誰が何を判断するのかを決め、重要な契約、口座、連絡先、支払予定を経営者以外も確認できるようにしておきます。
事業を継続できなくなれば、従業員の雇用や収入に影響します。退職までの案内が急になれば、転職や生活の準備に使える時間も短くなります。
取引先も、納品や仕入れが突然止まれば、短期間で代替先を探さなければなりません。独自の部品や技術を扱う企業では、ほかの企業へすぐに切り替えられない場合があります。
承継では、会社の所有者だけでなく、雇用と取引をどのように継続するかも決めます。
ただし、候補者や承継条件が固まっていない段階で情報を広げると混乱につながります。誰へ、どの段階で、何を伝えるかを事前に整理しましょう。
製造時の細かな判断、顧客ごとの要望、仕入先との交渉方法などは、設備や書類だけでは引き継げません。経営者や一部の担当者の経験に依存している場合、退任や退職を機に失われる可能性があります。
顧客が経営者個人との信頼関係を理由に取引している企業では、後継者を事前に紹介しなければ、代表交代後に取引が続かないことも考えられます。
事業承継では、株式や資産とともに、技術、判断基準、顧客情報、人脈などの無形資産を引き継ぎます。
後継者が決まっていない段階でも、属人化している業務や関係者を整理しておけば、どの承継方法を選んだ場合にも活用できます。
事業の引継ぎ方は、候補者との関係や株式の扱いによって異なります。本記事では、親族内承継、従業員・役員承継、外部招聘、M&Aの4つに分けて整理します。
承継方法 | 主な候補者 | 生かしやすい点 | 主な課題 |
|---|---|---|---|
親族内承継 | 子ども、きょうだいなど | 関係者が候補者を以前から知っている場合がある | 本人の意思、育成、相続、株式移転 |
従業員・役員承継 | 役員、管理職、従業員 | 事業や組織への理解を生かせる | 経営経験、株式取得資金、経営者保証 |
外部招聘 | 社外の経営人材 | 自社に不足する経験を補える場合がある | 社内外との信頼構築、権限設計 |
M&A | 他社などの第三者 | 社内に候補者がいなくても検討できる | 相手選び、条件交渉、承継後の運営 |
各承継方法や支援策は、中小企業庁の「事業承継」および中小企業基盤整備機構の「事業承継・引継ぎポータル」でも案内されています。
表から一つを選ぶのではなく、候補者の意思、準備期間、資金、関係者への影響を確認して絞り込みます。
親族内承継は、経営者の子どもやきょうだいなどへ事業を引き継ぐ方法です。従業員や取引先が候補者を以前から知っている場合は、代表交代への理解を得やすいことがあります。
一方、本人が別の会社や地域で働いていれば、承継によって仕事や生活を変える必要があります。経営者が一方的に候補者と決めず、事業の現状と経営責任を伝えたうえで意思を確認します。
血縁関係だけでなく、本人の意思、経営を担う準備、ほかの相続人との関係を確認します。
候補者が決まった後は、経営経験を積ませながら、株式や事業用資産の移転方法を専門家と検討します。
従業員・役員承継では、自社の役員、管理職、従業員が後継者となります。事業内容や社内の人間関係を理解しているため、現在の運営を踏まえて承継準備を進められる点が特徴です。
ただし、現場や管理職として成果を上げることと、資金繰り、投資、採用、取引条件を会社全体の立場から判断することは同じではありません。
候補者を指名した後、経営判断を経験させ、権限を段階的に移す期間を設けます。
株式取得資金や経営者保証が障害になる場合もあるため、人材育成だけでなく、資金・財務面の準備も並行して進めます。
親族や社内に適した候補者がいない場合、社外から経営人材を招く方法があります。業界経験だけでなく、財務管理、営業改革、事業再生など、自社が承継後に必要とする経験を基準に候補者を探します。
外部人材は社内の慣習に縛られず判断できる一方、事業の歴史や従業員との関係、顧客との約束を理解するまでに時間がかかります。
経歴や経営能力だけでなく、自社の事業を理解し、従業員や取引先と信頼を築けるかを見極めます。
就任前に役員や経営幹部として働く期間を設け、現経営者と共同で判断する方法もあります。
M&Aは、株式や事業を他社などへ譲渡する方法です。親族や社内に候補者がいない企業でも、事業や雇用を残せる可能性があります。
譲受側の販路、人材、設備を活用できる場合がありますが、承継後の経営方針や雇用条件は相手によって異なります。
譲渡価格だけでなく、従業員の雇用、会社名、事業、取引関係をどのような形で残したいかを条件として整理します。
相手探しや調査、条件交渉には時間がかかります。退任直前に一社だけと交渉するのではなく、早めに希望条件を整理して支援機関へ相談しましょう。
承継方法を決める際は、候補者との関係だけでなく、本人の意思、準備期間、資金、関係者への影響を合わせて確認します。一つの条件だけで決めると、育成や手続きの途中で計画が止まる可能性があります。
親族、役員、従業員のなかに候補者がいるかを確認し、本人へ事業の現状と承継後の責任を伝えます。
親族であれば現在の仕事や生活が変わり、従業員であれば同僚を管理し、採用、借入れ、投資などを判断する立場へ変わります。
後継者は、経営者が引き継がせたい人ではなく、必要な情報を得たうえで本人が承継を選べる人から検討します。
候補者が決まらない場合は、回答を待ち続けず、外部招聘やM&Aも並行して比較します。
候補者が決まっていても、財務、採用、取引、投資などを判断する経験が不足している場合があります。引退までに時間があれば、経営会議、予算策定、主要取引先との交渉を段階的に任せられます。
一方、退任時期が近く、候補者の準備も進んでいない場合は、社内育成だけに絞ると間に合わない可能性があります。
承継までの残り時間と、候補者の育成や手続きに必要な時間を比較して方法を選びます。
承継までの時間 | 候補者の準備状況 | 優先する対応 |
|---|---|---|
時間がある | 準備が進んでいる | 権限移譲と株式・資産の整理を進める |
時間がある | 準備が進んでいない | 育成計画を作り、経営判断を経験させる |
時間が少ない | 準備が進んでいる | 手続きと関係者への共有を急ぐ |
時間が少ない | 準備が進んでいない | 外部招聘やM&Aを含む複数案を比較する |
引退時期が未定の場合も、3年後や5年後などの仮の期限を置いて見直します。
会社の代表者を交代しても、経営権を支える株式や事業用資産が現経営者に残れば、承継が完了したとはいえません。
親族内承継ではほかの相続人との資産配分、従業員・役員承継では株式取得資金が課題になる場合があります。経営者保証についても、金融機関との調整が必要です。
候補者の適性と、株式・資産・保証を引き継げるかは別々に確認します。
税務、法務、金融の判断が関係するため、承継方法を確定する前に、税理士、弁護士、金融機関などへ相談します。
新しい経営体制が従業員や取引先に受け入れられるかも、承継方法を決める条件です。
親族や外部人材が後継者となる場合は、社内でどのような経験を積み、いつから何を判断するのかを示します。従業員承継でも、同僚や上司だった人が経営者となるため、選定理由や役割の変化を伝える必要があります。
候補者が経営を担えるかだけでなく、社内外から信頼を引き継げるかまで確認します。
公表が早すぎると混乱を招き、遅すぎると関係者が準備できません。候補者の意思と承継時期が固まった段階で、共有する対象と内容を決めます。
事業承継は、候補者探しだけを先に進めるのではなく、経営者の希望と期限を起点に準備します。候補者と会社の課題を把握し、承継方法を比較したうえで、人材面と資産面の引継ぎを並行して進めましょう。
ステップ | 主に行うこと | この段階で決めること |
|---|---|---|
1 | 引退時期と承継後の希望を整理する | いつまでに何を引き継ぐか |
2 | 候補者と会社の課題を洗い出す | 誰が候補で、何が障害になるか |
3 | 承継方法を比較する | どの方法を優先するか |
4 | 育成と株式・資産の準備を進める | 誰が何をいつまでに進めるか |
5 | 従業員・取引先へ段階的に伝える | 誰へ、いつ、何を共有するか |
事業承継の進め方や支援制度は、中小企業庁の「事業承継ガイドライン」でも確認できます。
経営者が何歳頃まで経営を続けたいのか、退任後も会長や顧問として関わりたいのかを整理します。
会社名や事業の存続、従業員の雇用、取引関係、譲渡価格など、承継後に優先して残したいものも決めます。すべてを同じ優先順位にはできないため、譲れない条件と調整できる条件を分けることが大切です。
引退時期が未定でも、仮の期限と承継後に残したいものを決めます。
例えば、5年後の代表交代を仮定すれば、候補者の育成や主要取引先への紹介をいつ始めるか逆算できます。
親族、役員、従業員のなかから候補者となる人を挙げ、本人の意思、経営経験、資金面の条件を確認します。
同時に、経営者だけが把握する取引、特定の担当者しかできない業務、設備投資、借入れ、収益性の低い事業など、会社側の課題も整理します。
人材の不足と、会社そのものの引き継ぎにくさを分けて確認します。
候補者がいても会社の情報が整理されていなければ準備は進みません。反対に候補者が未定でも、財務、契約、顧客、業務を整理する作業は始められます。
親族内承継、従業員・役員承継、外部招聘、M&Aのうち、実行できる可能性がある方法を比較します。
候補者がいる場合も、本人の意思、育成期間、株式取得、経営者保証の条件を満たせるかを確認します。いずれかが難しい場合は、別の方法も残しておきます。
希望する方法と、期限内に実行できる方法が一致するとは限りません。
判断に迷う場合は、経営者の希望、候補者の有無、退任時期、財務状況を整理して、公的な支援窓口や金融機関へ相談します。
承継方法が定まった後は、候補者の育成と株式・資産の引継ぎを同時に進めます。
候補者には、経営会議、予算策定、採用、投資、主要取引先との交渉を段階的に任せます。株式、事業用資産、借入れ、保証については、専門家と移転方法や期限を確認します。
人材育成と財務・法務の手続きに共通の期限を設定します。
担当者と完了時期を一覧にすると、一方だけが遅れて承継できなくなる状況を防ぎやすくなります。
候補者と承継時期が固まったら、経営幹部、管理職、全従業員、取引先の順序を検討して情報を共有します。
伝える内容は、後継者の氏名だけではありません。選定理由、交代時期、現経営者の関わり方、今後の方針を示すと、新しい体制を理解してもらいやすくなります。
関係者が業務や取引を継続するために必要な情報を、適切な段階で伝えます。
株式や契約などの非公開情報と、従業員・取引先へ伝える情報は分けて管理しましょう。
従業員・役員承継では、現場や管理職としての実績だけで候補者を決めることはできません。企業は、承継後に担う役割を明確にし、経営判断を経験させながら、知識、人脈、社内外からの信頼を引き継ぐ必要があります。
候補者の準備状況は、次の項目から確認できます。
確認項目 | 確認する内容 | 不足している場合の対応例 |
|---|---|---|
本人の意思 | 責任や生活の変化を理解しているか | 事業の現状と承継条件を共有する |
事業への理解 | 商品、顧客、業務、人員を把握しているか | 複数部門や拠点を経験させる |
財務への理解 | 利益、資金繰り、借入れを確認できるか | 予算策定や月次会議へ参加させる |
判断経験 | 採用、投資、取引条件を判断したか | 一定範囲の権限を渡す |
社内外との関係 | 従業員や取引先から協力を得られるか | 会議、訪問、交渉を共同で行う |
資金・保証 | 株式取得や保証の条件を理解しているか | 金融機関や専門家と確認する |
現在の経営者と同じ仕事をそのまま引き継がせるのではなく、承継後に会社が直面する課題から必要な役割を整理します。
既存事業の維持を重視する企業と、新規事業や事業再編を進める企業では、候補者へ求める経験が異なります。
候補者は現在の役職や実績だけでなく、承継後に担う課題との適合性から判断します。
候補者本人へ判断する範囲と責任を伝えることで、本人も承継を受けるか検討しやすくなり、企業も育成内容を決められます。
経営者には、正解が決まっていない状況で情報を集め、選択し、結果に責任を持つことが求められます。
候補者へは、予算、採用、設備投資、価格変更、新規取引など、会社への影響を管理できる範囲から判断を任せます。実行前に判断の根拠を確認し、実行後には結果を振り返ります。
知識を教えるだけでなく、候補者自身が判断して結果を検証する機会を設けます。
現経営者が毎回結論を変更すると、候補者は判断を経験できません。重大な損失へつながらない範囲では、本人の案を実行させることも育成の一部です。
主要顧客が重視する条件、仕入先との交渉経緯、過去に失敗した施策、従業員の得意分野などは、書類だけでは残しにくい情報です。
経営者しか把握していない契約、連絡先、業務、判断基準を洗い出し、文書で渡すものと、会議や商談への同行を通じて渡すものに分けます。
何を判断したかだけでなく、なぜその判断をしたのかまで共有します。
主要取引先との関係も、連絡先を渡すだけでは移りません。候補者を商談へ同席させ、相手が新しい責任者の考え方や対応を知る期間を設けます。
従業員承継では、これまで同僚や上司だった人が代表者になります。候補者本人の実績だけに任せず、企業として選定理由と今後の体制を伝えることが大切です。
経営幹部や管理職へ承継計画を共有した後、候補者が会議や重要な判断を担う機会を増やします。
後継者への信頼は、就任の発表ではなく、承継前の判断と対話を通じて築かれます。
取引先へは現経営者と候補者が共同で訪問し、候補者自身が今後の方針を伝える機会を設けましょう。
事業承継には、人材育成、株式、相続、税金、借入れ、契約、M&Aなど複数の論点があります。一つの相談先だけですべてを判断するのではなく、全体計画を整理する窓口と、個別の専門家を組み合わせる方法が現実的です。
主な相談内容 | 相談先の例 | 相談前に整理する情報 |
|---|---|---|
承継方法・全体計画 | 事業承継・引継ぎ支援センター、商工会議所、金融機関 | 引退時期、候補者、事業概要、財務状況 |
株式・税金・財務 | 税理士、公認会計士、金融機関 | 株主構成、決算書、資産、借入れ |
相続・契約 | 弁護士、司法書士など | 相続人、契約書、資産の保有状況 |
M&A | 事業承継・引継ぎ支援センター、金融機関、M&A支援機関 | 希望時期、譲渡条件、残したい事業や雇用 |
後継者の育成 | 経営幹部、人事担当者、組織・人材開発の専門家 | 候補者の経験、育成期間、移す権限 |
「事業承継・引継ぎ支援センター」は、国が47都道府県に設置している公的な相談窓口です。親族内承継や従業員承継に向けた事業承継計画の策定支援、後継者不在企業の第三者承継、後継者人材バンクなどを提供しています。何から始めるべきか分からない場合の相談先として利用できます。
日本政策金融公庫には、事業を譲り渡したい人と、譲り受けたい人や企業をつなぐ「事業承継マッチング支援」があります。譲渡希望・譲受希望のいずれも無料で利用できますが、利用条件があり、弁護士など外部専門家の支援には費用が生じる場合があります。
株式の移転、税金、相続、契約、経営者保証の扱いは、企業の状況によって異なります。記事の一般情報だけで方法を確定せず、該当分野の専門家へ個別に確認してください。
相談時には、次の情報を一枚に整理しておくと、具体的な検討へ進みやすくなります。
後継者問題は、後継者の氏名が決まっていないことだけを指すものではありません。経営者が希望する退任時期までに、候補者の育成、株式・資産・保証の整理、技術や人脈の引継ぎを終えられるかが問われます。
承継方法には、親族内承継、従業員・役員承継、外部招聘、M&Aがあります。適した方法は、候補者本人の意思、準備期間、資金、従業員・取引先への影響によって変わります。一つの方法だけを前提にせず、条件を比較して複数の選択肢を残すことが大切です。
早めに準備を始めれば、後継者が経営判断を経験する時間を確保できます。現経営者に集中している知識や取引関係を段階的に渡し、従業員や取引先へ新しい体制を伝える期間も設けられるため、代表交代後も事業や雇用を継続しやすくなります。
最初に行うのは、経営者がいつ頃まで経営を続けたいのか、承継後に何を残したいのかを書き出すことです。次に候補者の有無と準備状況を確認し、5年後や10年後などの期限から逆算して取り組む項目を整理します。
自社だけで判断できない課題があれば、事業承継・引継ぎ支援センター、金融機関、税理士、弁護士などへ相談し、最初の期限を決めて準備を始めましょう。