不動産M&Aとは?仕組みや活用メリット、節税効果について解説

「不動産を売らずに整理したい」「法人名義の物件を承継したい」そんなときに使えるのが不動産M&Aです。通常の不動産売買と違い、会社ごと取引するため手続きがスムーズで税務上のメリットが期待できるケースもあります。本記事では、不動産M&Aの仕組みやメリットを解説します。

不動産M&Aの基本知識

不動産M&Aは、事業承継・資産整理・相続対策としても利用され、一般的な不動産売買より柔軟な対応が可能です。まずは基本から解説していきます。

不動産M&Aとは

不動産M&Aとは、不動産を保有する法人そのものを譲渡することで、不動産を含む事業や権利関係を包括的に移転する手法です。取引の対象は不動産そのものではなく株式や事業であるため、法人が持つ不動産・賃貸借契約・管理契約・従業員・銀行取引・ノウハウなどを一体的に承継できる点が特徴です。

特に資産管理会社や不動産運用会社、SPC(特別目的会社:不動産保有・運用に特化した法人)を活用することで、資産を切り分けた柔軟な取引が可能となり、不動産投資・資産承継・事業再編の場面で採用されています。

また、中小企業の経営者高齢化に伴い、事業承継の選択肢として後継者不在の課題に対応するケースも増えており、不動産オーナーや中小企業にとって現実的な資産・経営戦略として活用されています。

不動産売買との違い

不動産M&Aは、不動産そのものを売買する方法と仕組みが大きく異なります。

比較項目

不動産M&A

不動産売買

取引対象

不動産を保有する会社(法人)を譲渡

不動産そのものを個別に売買

承継の範囲

不動産に加え、契約・人材・取引関係を包括承継

不動産以外の契約は別途手続きが必要

名義変更

原則不要(株式の移転のみ)

所有権移転登記が必要

主な税負担

株式譲渡税(所得税・住民税)など

不動産取得税・登録免許税・譲渡所得税など

手続きの負担

比較的スムーズに進めやすい

手続きが多く時間がかかりやすい

主な活用目的

事業承継・節税・資産承継・会社再生

不動産の売却・資産入れ替え

リスク

簿外債務・契約トラブルの承継

対象物件以外のリスクは限定的

一方、不動産売買は対象物件が明確でリスクが限定的ですが、契約や従業員の引き継ぎには別途手続きが必要となり、法人整理や事業承継を目的とする場合には対応しきれないケースもあります。取引の目的や承継範囲に応じて、適切な手法を選択することが重要です。

不動産M&Aのメリット・リスク

不動産M&Aは売り手・買い手双方にメリットのある取引手法ですが、通常の不動産売買とは異なる特有のリスクも存在します。売り手と買い手、双方のメリットとリスクを見ていきましょう。

売り手側のメリット・リスク

不動産M&Aにおける売り手側の視点から、メリットとリスク・注意点を整理しておきましょう。

項目

売り手のメリット

売り手のリスク・注意点

税務面

不動産取得税・登録免許税が不要で手取り額を確保しやすい

株式譲渡益に課税される可能性

資金回収

企業価値評価により不動産価値以上で売却できる場合もある

買い手による詳細調査(デューデリジェンス)で価値が下がることがある

承継・引退

事業承継の選択肢として活用可能

取引後に表明保証違反を問われるリスク

経営・管理

不動産管理の手間や固定費から解放される

取引条件交渉に時間を要する場合がある

財務改善

借入金や保証債務の解消につながる

簿外債務や偶発債務の調査が必要

不動産M&Aは、節税や資金回収のスピード面で有利な一方、環境リスク(アスベスト・土壌汚染)や契約トラブルの承継といった注意点があります。

買い手側のメリット・リスク

不動産M&Aは、買い手にとっても投資・事業拡大の手段として活用されています。不動産を含む事業基盤をそのまま取得できるため、短期間で収益モデルを構築できる点が魅力です。

項目

買い手のメリット

買い手のリスク・注意点

収益性

既存の賃貸収入や顧客基盤を即時確保できる

想定以下の収益・空室リスク

取引スピード

不動産取得手続きよりスムーズに事業取得が可能

統合作業(PMI)に時間とコストがかかる

節税・財務

のれん償却や繰越欠損金で節税効果が見込める場合あり

過去の会計処理や税務申告の不備を引き継ぐ可能性

契約・権利

賃貸借・管理委託・取引契約を包括承継できる

契約内容の確認不足によるトラブル

リスク管理

担保や保証関係も含め把握しやすい

簿外債務や環境リスクが発覚する可能性

買い手側が不動産M&Aを成功させるには、財務・税務・法務・物件の4領域におけるデューデリジェンスの徹底が不可欠です。買収後にトラブルを防ぐためにも、リスクを見極めた適切な価値評価と契約設計が求められます。

不動産M&Aで用いられるスキーム

不動産M&Aの代表的な方法には、株式譲渡と会社分割があります。それぞれの特徴と使い分けを理解することが重要です。

株式譲渡

株式譲渡は、不動産M&Aで最も多く用いられる基本的なスキームです。不動産を保有する会社の株式を譲り受けることで、会社そのものの経営権を移転する方法であり、不動産の所有権・賃貸借契約・管理契約・従業員・取引先との契約関係などを包括的に承継できます。

不動産そのものを移転しないため所有権移転登記が不要で、不動産取得税や登録免許税の負担を抑えられる点が大きな特徴です。一方で、負債・保証債務・訴訟リスク・環境問題などの潜在的なリスクも同時に引き継ぐことになるため、財務・法務・物件に関するデューデリジェンスを徹底し、契約上の表明保証でリスク分担を明確にする必要があります。

会社分割

会社分割は、不動産を保有する事業部門のみを切り出し、新設会社または既存会社に承継させるスキームです。不動産だけでなく賃貸事業・管理部門・契約関係などを一体として移転できる一方、不要な資産や負債を引き継がずに済むためリスクを限定した承継を行えます。

また、株式譲渡と異なり、簿外債務や偶発債務を避けながらM&Aを進めやすい点も特徴です。不動産M&Aの現場では、純資産の調整やグループ内再編、スピンオフ型の資産整理に活用されるケースが多く、事業承継や法人の資産分離にも適した柔軟性の高いスキームといえます。

不動産M&Aの節税効果

不動産M&Aでは、取引形態によって税負担を抑えられるケースがあります。税金の仕組みや節税効果のポイントを解説します。

不動産売買や会社清算にかかる税金

不動産を通常の売買によって処分する場合、不動産の売却益に対して法人税または譲渡所得税が課税されるほか、所有権移転登記に伴う登録免許税や不動産取得税などの税負担が発生します。

法人が保有する不動産を売却するケースでは、売却によって計上された利益に法人税・住民税・事業税が課されるため、実際の手取りが大きく目減りする点に注意が必要です。

また、不動産を保有する会社そのものを清算する場合には、残余財産分配時に株主レベルでも課税が行われ、法人段階と株主段階で二重課税が生じる可能性があります。こうした税負担の大きさから、税務面の効率性を意識して不動産M&Aを選択するケースが増えています。

不動産M&Aにかかる税金

不動産M&Aの代表的なスキームである株式譲渡は、不動産を直接移転しないため不動産取得税や登録免許税が発生せず、税負担を抑えやすい点が特徴です。売り手に課税されるのは株式譲渡益に対する所得税・住民税のみ(合計20.315%)であり、不動産取得税や登録免許税が不要なため、通常の不動産売買に比べて手取り額を確保しやすくなります。

また、新設分割と株式譲渡を組み合わせたスキームを用いることで、不要な負債や事業を切り離しながら不動産を承継できるため、税金だけでなくリスクの最小化にもつながります。不動産売却や会社清算と比較してケースによっては税務上のメリットが大きくなるため、資産承継・事業承継・相続対策の手段として不動産M&Aが選ばれるケースが増えています。

不動産M&Aの仕組みを理解し最適な判断を

不動産M&Aは、不動産を含む事業や資産を効率よく承継できる実践的な手法です。節税効果や承継のスピード、資産整理の柔軟性など多くのメリットがある一方、簿外債務や環境リスクの承継など適切なリスク管理も欠かせません。

不動産M&Aを検討する際は、税務・法務の専門家によるデューデリジェンスを実施し、取引目的や承継範囲に応じた最適なスキームを選択することが重要です。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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