ワークエンゲージメントを高める方法とは?2つの資源と5つの具体的施策で組織改善

従業員の離職や生産性の低下にお悩みではないでしょうか。給与や福利厚生の改善だけでは限界を感じている経営層・管理職の方も多いでしょう。本記事では、従業員の内発的動機づけを高める「ワークエンゲージメント」の概念から、組織規模に応じた段階的な導入方法まで解説します。

ワークエンゲージメントとは?

組織の生産性向上と離職防止は、多くの企業にとって重要な課題となっています。従来の福利厚生や給与改善だけでは限界を感じている経営層の皆様にとって、ワークエンゲージメントという概念は新たな突破口となるでしょう。

ここでは、その本質と実践的な活用方法を詳しく解説します。

ワークエンゲージメントの定義と本質

ワークエンゲージメントとは、仕事に対してポジティブで充実した心理状態を指します。単なる満足度とは異なり、従業員が自発的に業務に取り組む姿勢を表す重要な指標です。

例えば、締切に追われながらも充実感を覚える、新規プロジェクトに主体的に関わりたくなる、こうした状態がワークエンゲージメントの高い状態といえるでしょう。

オランダのユトレヒト大学のシャウフェリ教授によって提唱されたこの概念は、今や世界中の組織改善の基盤となっています。

ワークエンゲージメントが高い従業員は、仕事を負担ではなく成長の機会と捉えます。困難な課題に直面しても、それを乗り越える過程に意味を見出します。このような従業員が増えることで、組織全体のパフォーマンスが向上するのです。

ワークエンゲージメントを構成する3要素

ワークエンゲージメントは、次の3つの要素から構成されています。

活力(Vigor)

活力とは、仕事中の高い水準のエネルギーと精神的な回復力を意味し、ワークエンゲージメントの土台となる要素です。例えば活力の高い状態にある従業員は、朝、仕事に向かうことに前向きな気持ちを抱きやすく、精神的な回復力(レジリエンス)を保ちやすいといった特徴が見られます。この状態にある従業員は、困難な課題に直面しても粘り強く取り組み続けることができます。

熱意(Dedication)

熱意は仕事への強い関与と誇りを表し、活力から一歩進んだ深い心理的結びつきを示します。熱意のある従業員は、自分の仕事に意義や目的を見出しており、単なる労働ではなく自己実現の手段として仕事を捉えています。この心理状態が、主体的な業務改善や創造的な問題解決の原動力となるのです。

没頭(Absorption)

没頭は、仕事に完全に集中し幸福に浸っている状態を指し、ワークエンゲージメントの最も深い次元を表します。時間の経過を忘れるほど仕事に夢中になり、心理学でいうフロー状態に近い感覚を体験します。この状態では、仕事と自己が一体化したような感覚を覚え、最高のパフォーマンスが発揮されます。

ワークエンゲージメントスコアの測定方法

ワークエンゲージメントを測定する代表的な方法として、UWES(Utrecht Work Engagement Scale)があります。この尺度は17項目版と9項目版があり、活力・熱意・没頭の3要素を7段階評価で測定します。日本語版も開発されており、文化的な違いを考慮した測定が可能になっています。

測定方法は「全くない(0点)」から「いつも感じる(6点)」の7段階評価で行います。各要素の代表的な測定項目は以下の通りです。

活力(Vigor)の測定項目例:

  • 仕事をしていると活力がみなぎるように感じる
  • 職場では元気が出て精力的になる
  • 朝起きた時、仕事に行くのが楽しみだ

熱意(Dedication)の測定項目例:

  • 仕事に誇りを感じる
  • 私の仕事は意義がある
  • 仕事は私に活力を与えてくれる

没頭(Absorption)の測定項目例:

  • 仕事をしていると時間がたつのが速い
  • 仕事に没頭している
  • 仕事をしていると他のことを忘れてしまう

一般的に、日本企業のワークエンゲージメントスコアは、欧米諸国と比較して低い傾向にあると言われています。特に、仕事への誇りややりがいを示す「熱意」の項目でその差が表れやすいと指摘されており、日本特有の組織文化への配慮の必要性が示唆されています。

定期的な測定により、施策の効果検証も可能になるでしょう。

参考:「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて  厚生労働省

従業員エンゲージメントとワークエンゲージメントの違い

従業員エンゲージメントとワークエンゲージメントは、しばしば混同されますが明確な違いがあります。従業員エンゲージメントは組織への愛着や帰属意識を指し、会社への忠誠心が中心となります。一方、ワークエンゲージメントは仕事そのものへの情熱と没頭を表します。

例えば、会社のブランドや理念に共感している状態が従業員エンゲージメントです。「この会社で働けることを誇りに思う」という感情がこれに当たります。対してワークエンゲージメントは、「今の仕事内容が面白くてやめられない」という仕事への純粋な熱意を指します。

両者は相互に影響し合いますが、必ずしも一致しません。会社は好きだが仕事にやりがいを感じない、逆に仕事は充実しているが会社への帰属意識は低い、といったケースも存在します。組織改善を進める際は、両方の視点から従業員の状態を把握することが重要でしょう。

ワークエンゲージメントを高める2つの資源

ワークエンゲージメントの向上には、「仕事の資源」と「個人の資源」という2つの資源が鍵となります。これらの資源を適切に管理し、充実させることで、従業員の意欲と生産性を大幅に向上させることができるでしょう。

仕事の資源

仕事の資源とは、職場環境や仕事の特性に関わる要因を指します。これらの資源が充実することで、従業員は仕事への意欲を維持し、困難な課題にも前向きに取り組めるようになります。

上司・同僚からのサポート体制

困ったときに相談できる環境は、従業員の心理的安全性を高めます。新規プロジェクトで失敗しても、その経験を次に活かす機会が与えられる組織では、挑戦意欲が維持されます。上司の「困ったらいつでも相談して」という一言が、部下の安心感につながるでしょう。

裁量権と自律性

仕事の進め方を自分で決められる環境は、従業員の主体性を育みます。マイクロマネジメントを避け、適度な権限委譲を行うことで、従業員は責任感とやりがいを持って業務に取り組めます。意思決定への参加機会も、モチベーション向上に効果的です。

フィードバックの質と頻度

年1回の評価面談だけでなく、日常的な声かけが重要です。「昨日のプレゼン、説得力があって良かったよ」といった具体的なフィードバックが、仕事への意欲を高めます。感謝の言葉も立派なフィードバックとして機能し、承認欲求を満たします。

キャリア開発の機会

研修制度やジョブローテーション、社内公募制度は成長実感をもたらします。スキルアップの機会が明確に示されることで、将来への希望が生まれます。自己成長を実感できる環境が、長期的なモチベーション維持につながるでしょう。

個人の資源

個人の資源は、従業員個人が持つ内的な要因を指します。これらの資源は個人の特性と捉えられがちですが、組織的な働きかけによって後天的に育むことが可能です。従業員が自信を失ったり、将来への希望を持てなくなったりする状況は、職場環境に起因することも少なくありません。これらの資源を育てることで、困難な状況でも高いパフォーマンスを発揮できるようになります。

自己効力感

「自分ならできる」という確信が、困難な課題への挑戦意欲を生み出します。小さな成功体験の積み重ねが自信となり、より大きな目標へのチャレンジを可能にします。段階的な目標設定により、達成感を味わえる機会を増やすことが重要です。

楽観性とレジリエンス

失敗を成長の機会と捉え、逆境から立ち直る力は重要な個人資源です。ポジティブな思考パターンを持つ従業員は、ストレス状況下でも冷静に対処できます。メンタルヘルス研修により、これらの資質は後天的に育成可能です。

希望

将来への明るい展望は、現在の困難を乗り越える原動力となります。キャリアパスが明確で、成長の道筋が見える環境では、従業員は希望を持って働けます。定期的なキャリア面談を通じて、個人の目標と組織の方向性を擦り合わせましょう。

自尊心

自分の価値を認識できる従業員は、仕事に誇りを持って取り組めます。成果の適切な評価と承認により、自尊心は高まります。「あなたがいてくれて助かる」という言葉が、従業員の自己肯定感を支え、組織への貢献意欲を高めるのです。

ワークエンゲージメントを向上させる具体的な施策

ワークエンゲージメント向上には「仕事の資源」と「個人の資源」の強化が不可欠です。しかし多くの企業が施策の選択と実行方法で迷っています。ここでは、効果が実証された5つの施策を、優先順位と実践方法を明確にして解説します。各施策の投資対効果と導入の難易度を理解することで、自社に最適なアプローチが見えてくるでしょう。

【仕事の資源:上司・同僚からのサポート】心理的安全性の確保とコミュニケーション活性化

心理的安全性の確保は、ワークエンゲージメント向上の最優先施策です。Google社の研究により、これがチーム生産性の最重要要因であることが証明されています。

実践方法として最も効果的なのが、週1回30分の1on1ミーティングの導入です。これを「評価の場」ではなく「相談の場」として位置づけ、「最近困っていることはある?」という質問から始めることで、部下の本音を引き出せます。

部署横断的な交流の機会も重要です。他部署との合同プロジェクトや社内勉強会により、同僚からのサポートネットワークが広がります。失敗を「学習機会」として共有する文化を醸成することで、相談しやすい環境という仕事の資源が強化されます。

結果として、イノベーションが生まれやすい組織へと変革していくでしょう。

【仕事の資源:評価・報酬・承認】正当な評価制度と承認文化の構築

公正で透明性の高い評価制度は、従業員に安心感を与え、業務への集中を促します。評価基準を明確にし、プロセスを可視化することで納得感が生まれます。しかし、年1回の評価面談だけでは不十分です。

四半期ごとの中間レビューにより、年度末の評価サプライズを防ぎ、日常的なポジティブフィードバックを増やすことが重要です。

「昨日の提案書、論理構成が素晴らしかった」といった具体的な承認により、従業員の自己効力感という個人の資源も強化されます。承認文化を組織に浸透させるには、月間MVPや部門横断的な表彰制度、デジタルサンクスカードシステムの導入が効果的です。

これらの取り組みにより、承認を受けた従業員だけでなく、周囲の従業員も「頑張れば認められる」という期待を持てるようになるでしょう。

【仕事の資源:裁量権・役割の明確さ】裁量権の拡大とジョブ・クラフティング

権限委譲の推進は、従業員の主体性を引き出す非常に効果的な方法の一つです。裁量権という仕事の資源を拡大することで、従業員は仕事に対するオーナーシップを持ち、深く没頭できるようになります。

ただし、急激な権限委譲は混乱を招くため、段階的なアプローチが必要です。小さな裁量権から始め、成果に応じて徐々に拡大していくことが成功の鍵となります。

実践的な方法として、ジョブ・クラフティング研修の導入が効果的です。従業員が自身の仕事を主体的に再設計する方法を学び、仕事の意味づけを変えることで、同じ業務でも充実感が大きく変わります

。これは仕事の資源を自ら創出する行為であり、自己効力感の向上にもつながります。適材適所の人材配置と社内公募制度の導入により、従業員自身がキャリアを選択できる環境を作ることで、長期的なモチベーション維持が可能になるでしょう。

【仕事の資源:成長機会】成長機会の提供とキャリア支援

継続的な成長機会の提供は、従業員の将来への希望を生み出し、現在の仕事への意欲を高めます。スキルアップ研修や資格取得支援は重要な仕事の資源ですが、単に研修を提供するだけでは効果は限定的です。個人のキャリアビジョンと連動させることで、その効果は飛躍的に高まります。

5年後、10年後のキャリアイメージを具体的に示し、そこに至るステップを明確にすることが重要です。

年2回のキャリア面談により、個人の志向と組織の期待をすり合わせ、必要なスキル開発計画を共同で作成します。メンター制度の導入により、経験豊富な先輩社員からの助言や支援を受けられる環境を整備することも効果的です。

メンターとの定期的な対話を通じて、若手社員は自己効力感を高め、長期的なキャリアビジョンを描けるようになります。このような重層的な成長支援により、従業員は安心して挑戦的な目標に取り組めるようになるでしょう。

【仕事の資源・個人の資源:ワークライフバランス】柔軟な働き方と健康経営

ワークライフバランスの実現は、仕事の資源と個人の資源を同時に強化する重要な施策です。フレックスタイム制やテレワークの導入により、時間と場所の裁量権という仕事の資源が生まれ、自分の生活リズムに合わせて働けることで心身の健康も維持されます。

長時間労働の是正は単なる時間削減ではなく、働き方の質的転換として捉える必要があります。

疲労が蓄積すると活力や熱意が低下し、ワークエンゲージメントも下がる傾向にあります。労働時間の適正化により、従業員は十分な休息を取り、リフレッシュした状態で仕事に向かえます。

有給休暇取得の促進には、管理職が率先して休暇を取ることが重要です。計画的な休暇取得と業務カバー体制の整備により、安心して休める環境を作ります。

この好循環により、持続可能な高パフォーマンスが実現し、組織全体の創造性も向上するでしょう。

組織改善ツール「TUNAG」を活用したアプローチ

ワークエンゲージメント向上の取り組みは、多岐にわたる施策を同時並行で進める必要があるため、統合的な管理が成功の鍵となります。TUNAGは、組織状態の可視化から改善施策の実行まで、オールインワンで提供するプラットフォームです。

社内チャットや掲示板機能により日常的な情報共有が活性化し、部署や拠点を超えた従業員同士のつながりが生まれます。

特に効果的なのがサンクスカード機能です。従業員同士で感謝の気持ちをデジタルで送り合うことで、承認文化が自然に根付きます。

運用の工夫をすることで感謝の送受信が促進され、3ヶ月で10,000回のサンクスが送られた事例もあります。さらに分析ダッシュボード機能により、各施策の利用状況や効果を可視化でき、PDCAサイクルを効率的に回すことができます。

スマホアプリ対応により、社用PCを持たない現場スタッフも参加でき、組織全体でワークエンゲージメント向上の取り組みが実現できるでしょう。

「社内インフルエンサー」で称賛文化を創る取り組み。3ヶ月でサンクスメッセージ10,000回!

ワークエンゲージメント向上による持続的な組織成長の実現

ワークエンゲージメントの向上は、一時的な取り組みではなく、継続的な組織改善活動として位置づけることが重要です。短期的な成果を求めすぎず、中長期的な視点で着実に改善を進めていきましょう。

ワークエンゲージメントが高まることで、離職率の低下、生産性の向上、イノベーションの創出など、様々な効果が期待できます。従業員が仕事に誇りを持ち、主体的に取り組む組織は、変化の激しい時代においても競争優位性を維持できるでしょう。採用コストの削減、顧客満足度の向上、業績向上といった経営指標の改善にもつながります。

成功のポイントは、経営層のコミットメントと現場の巻き込みです。トップダウンとボトムアップの両方のアプローチを組み合わせることで、全社的な改革が実現します。また、定期的な効果測定により、PDCAサイクルを回すことも重要です。

最後に、ワークエンゲージメントの向上は、従業員の幸福と組織の成長を両立させる最良の方法といえるでしょう。従業員一人ひとりが活き活きと働ける環境を整えることで、組織全体のパフォーマンスが向上し、持続的な成長が実現します。今こそ、ワークエンゲージメント向上に向けた第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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