ニューノーマルな働き方とは、テレワークへ全面移行することではなく、業務内容や従業員の事情に合わせて、働く場所・時間・業務フローを組み合わせる考え方です。実際に国土交通省の令和7年度調査では、直近1年間のテレワーク実施率は全国で16.8%となり、前年度から1.2ポイント増加しました。働き方が多様化する一方、自社に適していない制度を導入してしまうと、情報格差や評価の不公平感、労務管理、情報セキュリティなどの課題が残る可能性がございます。
店舗・工場・物流など、現場での勤務が欠かせない職種も含めて、自社に最適な働き方を組み合わせることが必要です。
この記事では、ニューノーマル時代に企業が求められている働き方を整理し、それぞれの特徴や注意点をわかりやすく解説します。
自社に適した働き方を選び、具体的な導入計画を立てる際にお役立てください。
ニューノーマルは、社会に大きな変化が起きた後、新しい行動や考え方が日常として定着した状態を表す言葉です。日本語では「新しい常態」と訳され、一時的な流行や特定の制度だけを指すものではありません。
働き方では、毎日同じ時間に同じ場所へ集まる形だけを標準とせず、業務の特性や従業員の事情に応じて、場所・時間・業務フローを組み合わせる考え方につながっています。会議や申請、人材育成、情報共有の進め方も見直しの対象です。
コロナ禍ではオンライン会議や電子申請が急速に広がりましたが、現在は感染対策だけでなく、人材確保や両立支援、業務改善の手段として活用されています。一方、店舗・工場・物流・医療・介護など、現地でなければ進められない業務もあります。ニューノーマルへの対応では、テレワークの導入率を上げることではなく、職種ごとに利用できる制度や情報共有の方法を設計することが重要です。
ニューノーマル、働き方改革、DXは、働き方の変化を語る場面で一緒に使われます。しかし、ニューノーマルが社会の状態を示すのに対し、働き方改革とDXは企業が進める取り組みを示す言葉です。
それぞれの意味と企業での取り組み例を整理すると、次のようになります。
用語 | 示すもの | 企業での取り組み例 |
|---|---|---|
ニューノーマル | 社会の変化を経て定着した新しい常態 | 出社とリモートを業務に応じて使い分ける |
働き方改革 | 働く環境や制度を見直す取り組み | 長時間労働の是正や柔軟な勤務制度の整備 |
DX | デジタル技術で業務や事業を変える取り組み | 会議・申請・情報共有のオンライン化 |
ニューノーマルは変化後の状態、働き方改革とDXはその状態へ対応するための方法と整理できます。制度やツールの導入を目的にせず、業務の進め方や評価、情報共有まで一体で見直すことが、自社に合う運用につながります。
ニューノーマル時代の変化は、勤務場所が自宅へ移ったことだけではありません。企業は業務の目的や従業員の状況に合わせて、働く場所と時間、社内手続き、人材マネジメント、オフィスの使い方を組み直すようになりました。
オフィス以外でも業務を進められる環境が整ったことで、働く場所を業務内容に応じて選ぶ企業が増えました。自宅やサテライトオフィスなどで働くテレワークは、その選択肢の一つです。
ただし、すべての業務を社外へ移すと、対面での相談や設備を使った作業が難しくなる場合があります。そこで、社外で進めやすい業務と出社が適した業務を分け、両方を組み合わせるハイブリッドワークが活用されています。
ハイブリッドワークでは、出社日数を一律に決めるのではなく、業務の目的から働く場所を選ぶことが重要です。資料作成やデータ分析は自宅、複数人での企画検討や機密設備を使う作業はオフィスなど、判断基準を明確にすると運用しやすくなります。
店舗や工場、物流拠点のように現地勤務が欠かせない職種では、テレワークを導入できる範囲が限られます。その場合は、研修や申請、情報確認など、一部の業務をオンライン化する方法が現実的です。
働く場所の選択肢が広がるにつれて、勤務時間も全員一律で管理するのではなく、業務や生活事情に合わせて設計する動きが進みました。育児や介護、通院などを続けながら働く従業員にとって、時間の柔軟性は就業を継続するための条件になり得ます。
こうした事情へ対応する制度として、始業・終業時刻をずらす時差勤務や、一定の条件内で勤務時間を調整するフレックスタイム制があります。制度を設けることで、通勤時間帯を避けたり、家庭の予定に合わせたりしやすくなります。
柔軟な勤務制度は、従業員が自由に働く制度ではなく、就業規則や業務上の役割を守りながら選択肢を広げる仕組みです。利用条件や連絡可能な時間、会議を設定する時間帯などを決めなければ、周囲との連携に負担が生じます。
接客時間や交代勤務が決まっている職場では、同じ制度をそのまま適用できないこともあります。そのため、部署や職種ごとに勤務時間の制約を確認し、利用できる範囲を設計する必要があります。
勤務場所を柔軟にするには、オフィスに集まらなければ進まない業務そのものを見直さなければなりません。その過程で、会議や営業活動、社内申請をオンラインで進める環境が整備されました。
会議では、資料を事前に共有し、議題によって対面とオンラインを使い分けます。進捗確認のように情報共有が中心の会議はオンライン、複雑な意見調整や関係構築が必要な場面は対面にするなど、目的に応じた選択が可能です。
営業活動でも、初回の情報提供や定例の打ち合わせをオンラインで行えば、移動時間を抑えながら顧客と接点を持てます。ただし、商談の内容や顧客の希望によっては、対面の方が意思疎通を図りやすい場面もあるため、オンラインへの統一を目的にしないことが大切です。
業務のオンライン化では、紙をデジタルへ置き換えるだけでなく、承認の順番や入力項目など、業務フロー自体を見直す必要があります。従来の手続きをそのままデジタル化すると、不要な確認作業や待ち時間が残るためです。
業務の進め方が変われば、従業員を採用し、育成し、評価する方法も見直す必要があります。働く場所が異なる従業員を同じ基準で支援するには、対面だけに依存しない人事運用が必要になるためです。
採用では、会社説明会や一次面接をオンラインで実施することで、応募者が居住地に左右されにくくなります。企業側も遠方の人材と接点を持ちやすくなりますが、職場の雰囲気や業務環境を伝える機会は別に設けなければなりません。
研修では、動画教材やオンライン講義を使うことで、拠点が異なる従業員へ共通の内容を届けられます。一方で、実技やロールプレイが必要な研修は対面で行うなど、学習内容に合わせた設計が求められます。
評価では、出社日数や上司から見える働きぶりに偏らず、役割、目標、成果、行動をもとに判断できる基準を整えることが重要です。勤務場所によって評価の受けやすさが変わると、制度への不公平感につながります。
採用、研修、評価をオンライン化する際は、単に対面の方法を画面上へ移すのではなく、必要な情報や対話の機会が不足しないように運用を組み直す必要があります。
社外で進められる業務が増えたことで、オフィスは全員が毎日作業する場所から、対面で集まる価値を生み出す場所へ役割を変えつつあります。出社する目的が曖昧なままでは、移動の負担だけが増えるためです。
個人で集中する作業を自宅などで行う場合、オフィスには会議室や共同作業スペース、偶発的な交流が生まれる場所が求められます。固定席を減らしてフリーアドレスを導入したり、目的別に作業場所を分けたりする企業もあります。
オフィスを見直す際は、出社人数を減らすことではなく、従業員が出社する理由と、そこで行う業務を明確にすることが重要です。対話や育成、企画、関係構築など、対面の方が進めやすい活動を基準にすると、必要な設備や空間を判断しやすくなります。
ただし、現場での作業が中心となる職場では、オフィスの縮小よりも、休憩場所や情報確認の環境を整える方が優先される場合があります。ニューノーマルな働き方では、働く場所を減らすのではなく、それぞれの場所が果たす役割を見直す視点が必要です。
ニューノーマルな働き方は、勤務場所を変えること自体が目的ではありません。業務の進め方や勤務制度を見直すことで、従業員が働き続けやすい環境を整えながら、企業の人材確保や事業継続にもつなげられる点に意義があります。
ただし、制度を導入すれば自動的に効果が生まれるわけではありません。業務との相性や利用条件を整理したうえで運用することで、次のようなメリットが期待できます。
育児や介護、通院などを抱える従業員にとって、決められた時間に毎日出社する働き方は、就業を続けるうえで大きな負担になる場合があります。勤務場所や時間の選択肢を増やせば、生活上の事情に合わせて働き方を調整しやすくなります。
例えば、始業時刻をずらして子どもの送迎後に勤務を始めたり、介護が必要な時間帯を避けて働いたりする方法があります。在宅で進められる業務であれば、通勤に使っていた時間を家庭の予定へ充てることも可能です。
柔軟な勤務制度は、従業員が仕事と生活のどちらかを諦める状況を減らし、就業を継続しやすくする選択肢になります。企業にとっても、経験を積んだ人材が離職せずに働ける環境を整えることは、採用や育成にかかる負担を抑えることにつながります。
一方で、利用できる職種が限られる場合や、周囲の従業員へ業務が偏る場合には、不公平感が生じるおそれがあります。制度を設ける際は、利用条件だけでなく、業務の引き継ぎやチーム内の役割分担まで決めておくことが大切です。
出社を前提とした採用では、通勤できる地域に住む人が主な候補となります。勤務地の制約を一部緩和できれば、企業はこれまで接点を持ちにくかった地域の人材にも採用対象を広げられます。
特に、専門性の高い職種や採用競争が激しい職種では、居住地を限定しないことが候補者との接点を増やす方法になります。採用面接をオンラインで行えば、遠方の応募者も選考へ参加しやすくなるでしょう。
採用対象となる地域を広げるには、入社後も遠隔で業務を進められる環境と、組織へ参加できる仕組みを合わせて整える必要があります。採用時だけオンラインに対応しても、研修や情報共有が出社者向けのままでは、入社後に働きにくさが残ります。
また、店舗や工場など勤務地を変更できない職種では、地域を問わない採用が難しい場合もあります。その場合でも、採用広報や面接の一部をオンライン化し、応募の負担を軽減する方法は検討できます。
働く場所や業務フローを見直すと、従業員が移動や社内手続きに費やしていた時間を減らせる場合があります。通勤や書類の受け渡しなど、業務の成果へ直接つながりにくい負担を見直すことが、働き方を改善するきっかけになります。
出社が不要な日に在宅勤務を選べれば、通勤時間を個人で集中する業務や生活時間へ振り分けられます。社内申請や承認をオンライン化すれば、担当者の在席や紙の回覧を待たずに手続きを進めやすくなります。
負担を軽減するには、従来の業務をそのままオンラインへ移すのではなく、不要な入力や承認、重複作業を見直すことが重要です。手続きの流れを変えずにツールだけを導入すると、操作が増えてかえって負担が大きくなることもあります。
現地での作業が必要な職種では、通勤そのものを減らすことは難しいでしょう。その場合は、日報提出やシフト確認、研修受講など、周辺業務の手間を減らすことで負担軽減を図れます。
災害や交通機関の停止などでオフィスや拠点へ出勤できない場合、出社を前提とした業務は止まりやすくなります。平常時から複数の場所で業務を進められる環境を整えておけば、状況に応じて働く場所を切り替えられます。
例えば、クラウド上で必要な情報を確認できる状態にし、オンラインで連絡や承認を進められるようにしておけば、出社できない従業員も対応可能な業務を継続できます。拠点ごとに情報を分散させず、緊急時の連絡方法を統一しておくことも重要です。
柔軟な働き方は、勤務制度であると同時に、特定の場所へ依存しすぎない業務体制を整える手段にもなります。業務を継続できる場所や担当者を複数確保することで、一つの拠点が使えない場合の影響を抑えやすくなります。
ただし、店舗や工場、医療・介護のように現地対応が必要な業務では、すべてを遠隔で継続することはできません。そのため、優先して継続する業務、停止する業務、代替する拠点や担当者を事前に整理し、働き方の見直しを事業継続計画と結び付ける必要があります。
働く場所や時間の選択肢が増える一方で、従来は同じ職場に集まることで自然に補われていた情報共有や状況把握が難しくなる場合があります。そのため、制度を導入するだけでなく、勤務場所が異なっても業務を進められる運用へ見直すことが欠かせません。
従業員が複数の場所で働くようになると、必要な情報を得られる人と得られない人の差が生まれやすくなります。オフィスでの会話や会議後の補足を前提にしている組織では、リモート勤務者や別拠点の従業員が意思決定の経緯を把握できないことがあります。
特に注意したいのが、正式な連絡は届いていても、業務を進めるための背景や判断理由が共有されていない状態です。情報を受け取った従業員が、自分に関係する内容なのか、何を行動に移すべきなのか判断できなければ、周知しただけで終わってしまいます。
情報格差を防ぐには、誰がどこで働いていても、必要な情報と意思決定の背景へ同じようにアクセスできる状態を作る必要があります。会議内容を記録する、重要事項の掲載場所を統一する、対象者と期限を明記するなど、情報共有のルールを整えることが有効です。
ただし、オンライン上の連絡を増やせば、コミュニケーションの課題が解消するとは限りません。相談や意見交換が必要な場面では、文章だけで完結させず、オンライン会議や対面の機会を組み合わせることが大切です。
勤務場所が分かれると、管理職が従業員の始業・終業や業務の負荷を目視で確認できなくなります。働いている様子が見えないこと自体が問題なのではなく、長時間労働や休憩不足に気づくための情報が減る点に注意が必要です。
在宅勤務では、通勤による仕事と生活の切り替えがなくなり、業務時間が長引く場合があります。反対に、通信環境や家庭の事情によって作業が中断され、本人が予定どおりに業務を進められないケースも考えられます。
労働時間を把握する目的は従業員を監視することではなく、過度な負担を早期に発見し、必要な支援へつなげることです。勤怠記録だけで判断せず、業務量や残業の理由、休暇の取得状況なども確認すると、負荷の偏りを把握しやすくなります。
心身の健康を守るには、定期的な面談や相談窓口を設け、本人から状況を伝えやすい環境を整えることも欠かせません。店舗や工場などの現場勤務者についても、勤務形態に応じた安全衛生と健康管理を行う必要があります。
出社する従業員とリモートで働く従業員が混在すると、管理職から見えやすい働き方が評価に影響する場合があります。業務の成果が同じでも、対面で接する機会が多い従業員の方が、努力や貢献を認識されやすくなるためです。
この状態を防ぐには、勤務場所ではなく、役割や目標に沿って評価できる基準が必要です。成果だけで判断しにくい職種では、業務の進め方、チームへの貢献、顧客対応など、職務に応じた行動も評価項目に含めます。
評価の公平性を高めるには、誰をどの基準で評価するのかを明文化し、管理職ごとの判断のばらつきを抑えることが重要です。目標設定の段階で期待する成果や行動を共有しておけば、評価時の認識のずれも減らしやすくなります。
ただし、すべての職種を同じ指標で評価する必要はありません。営業、事務、店舗、製造などでは成果の現れ方が異なるため、共通の方針を持ちながら、職種ごとに評価項目を設計することが求められます。
オフィス外から社内情報へアクセスする機会が増えると、端末の紛失や第三者によるのぞき見、不適切なネットワークの利用など、管理すべき範囲も広がります。紙やデータを社外へ持ち出す業務では、情報の保存場所や取り扱い方法を明確にしなければなりません。
セキュリティ対策では、端末やシステムだけでなく、従業員が判断に迷わないルールを整えることが大切です。利用できる端末、接続方法、データの保存先、事故が起きた際の連絡先などを具体的に決めます。
情報セキュリティは、働き方を制限するためではなく、安全に選択肢を広げるための前提条件です。認証や端末管理を整えるだけでなく、従業員教育を継続し、実際の業務で守れるルールになっているか確認する必要があります。
対策を厳しくしすぎると、従業員が承認されていないツールや個人端末を使う原因になることもあります。安全性だけでなく、操作のしやすさや業務への影響も確認し、現場で無理なく続けられる方法を選ぶことが重要です。
柔軟な働き方を検討する際、テレワークが可能な従業員だけを基準にすると、店舗や工場、物流、医療・介護などの現場従業員が取り残されるおそれがあります。業務上の理由から出社が必要であっても、情報や制度を利用する機会まで制限されてよいわけではありません。
例えば、本部社員はオンラインで研修や社内情報を確認できる一方、現場従業員は共用端末や紙の掲示しか利用できない場合があります。こうした差が続くと、重要な方針が届きにくくなり、制度への参加や意見を伝える機会にも差が生まれます。
働き方の公平性は、全員に同じ制度を適用することではなく、職種や雇用形態が異なっても必要な情報と支援を受けられる状態を作ることです。テレワークが難しい職種には、シフトの柔軟化や申請業務の簡略化など、業務に合った選択肢を用意します。
正社員と非正規従業員、本部と拠点勤務者で利用できる制度が異なる場合は、その理由と適用条件を明確に伝える必要があります。違いを放置せず、職種ごとの制約と負担を確認したうえで制度を設計することが、納得感のある運用につながります。
ニューノーマルな働き方に、すべての企業へ当てはまる正解はありません。制度名や出社日数から決めるのではなく、業務上の制約、従業員のニーズ、期待効果と運用負担、職種間の公平性という4つの軸で比較します。
最初に、各業務をどこで進められるか整理します。職種名だけで一括りにせず、資料作成、承認、接客、教育、設備操作などの工程へ分けると、出社が必要な部分と遠隔で進められる部分を判断しやすくなります。
判断の起点になるのは、設備、情報、顧客対応、共同作業の4点です。専用機器や機密情報を扱う業務、対面接客が必要な業務は出社に向きます。一方、資料作成やデータ分析など、一人で進めやすい業務はリモートでも対応しやすいでしょう。
出社、リモート、ハイブリッドワークの違いを、主な判断軸ごとに整理すると以下のようになります。
判断軸 | 出社 | リモート | ハイブリッド |
|---|---|---|---|
向いている業務 | 専用設備を使う作業、対面接客、機密性の高い業務 | 資料作成、データ分析、定型的な事務処理 | 企画、育成、プロジェクト業務 |
主な利点 | 対話しやすく、設備や情報へアクセスしやすい | 移動負担を抑え、集中する時間を確保しやすい | 業務の目的に応じて場所を選べる |
注意点 | 通勤負担や勤務地の制約が生じる | 情報格差や相談機会の不足が起こる場合がある | 出社基準が曖昧だと予定を合わせにくい |
必要な準備 | 働きやすい設備、対面業務の効率化 | IT環境、セキュリティ、情報共有ルール | 業務別の判断基準、予定共有、評価基準 |
業務上選べる働き方を整理したら、従業員が抱える事情や課題を確認します。通勤時間、育児や介護、通院、在宅での作業環境、希望する勤務時間に加え、現在の業務で困っていることや制度利用への不安も把握します。
全体の傾向はアンケートで確認し、店舗・工場など制約の大きい職種や、少数の事情については面談・ヒアリングで補います。希望をそのまま制度化するのではなく、業務上の条件と両立できる選択肢を作るための情報として扱うことが重要です。
柔軟な働き方には、人材確保や両立支援、移動負担の軽減などが期待できます。一方で、端末や通信環境の費用、勤怠管理、セキュリティ、管理職の調整業務など、新しい負担も生じます。
制度を導入する場合だけでなく、導入しない場合に生じる採用難や離職リスクも並べて比較します。導入できるかではなく、効果と運用負担のバランスを保ちながら継続できるかで判断します。
公平な制度とは、全員へ同じ働き方を適用することではありません。事務職は在宅勤務を選べても、店舗・工場・物流・医療・介護では現地対応が必要です。その場合も、シフトの柔軟化、申請手続きのオンライン化、研修や情報確認の改善など、勤務場所以外の選択肢を用意できます。
正社員と非正規従業員、本部と拠点勤務者で制度が異なる場合は、業務上の理由と適用条件を明文化します。職種や雇用形態が異なっても、必要な情報と支援を受けられる状態を作ることが、納得感のある制度につながります。
4つの判断軸で自社に合う方向性を決めた後は、制度として運用できる形へ落とし込みます。最初から全社へ展開せず、目的とKPIを定めたうえで小規模に試し、周知・教育と効果測定を重ねながら対象を広げます。
最初に、働き方を見直す目的を明確にします。「テレワークを導入する」ではなく、「育児・介護を理由とする離職を減らす」「拠点間の情報格差を縮小する」「申請処理にかかる時間を短縮する」など、解決したい課題まで具体化します。
目的に応じて、制度利用率、継続就業率、処理時間、閲覧率、問い合わせ件数などのKPIを決めます。導入前の数値、目標値、測定時期、確認する担当者をセットで記録しておくと、制度の効果を判断しやすくなります。
全社展開の前に、業務条件が比較的そろっている部署や拠点で試行します。試行前には、対象者、期間、利用ルール、確認する数値、継続・修正・中止の基準を決めます。
試行では、制度を利用できるかだけでなく、管理職の負担、情報の届き方、勤怠や申請の運用、職種間の不公平感まで確認します。問題が見つかった場合は、制度そのものだけでなく、業務フロー、ツール、教育、ルールのどこに原因があるかを切り分けます。
試行結果をもとに、働く場所と時間のルール、端末・通信環境、アクセス権限、勤怠管理、就業規則、人事評価、情報共有方法を一体で整えます。
安全性だけを優先して手順を複雑にすると、従業員が承認されていないツールや個人端末を使う原因になりかねません。実際の業務を想定し、安全性と使いやすさを両立できる運用を確認します。労務・安全衛生に関する制度変更は、社内の労務担当者や専門家へ確認してください。
参考:厚生労働省「テレワーク総合ポータル」、IPA「テレワークを行う際のセキュリティ上の注意事項」
制度を整えても、利用条件や変更理由が伝わらなければ定着しません。対象者、申請方法、出社が必要な場面、連絡可能な時間帯、評価基準、問い合わせ先を具体的に共有します。
管理職には、勤務場所に左右されない目標設定や業務配分、面談方法を案内します。従業員には、日常業務に必要な操作と情報セキュリティ、困ったときの相談方法を伝えます。説明会を一度行うだけでなく、よくある質問や問い合わせ内容を運用ルールへ反映する仕組みも必要です。
導入後は、制度利用率だけでなく、当初設定した業務・人材・情報共有のKPIを確認します。数値に加えて、アンケートや面談から利用しにくい条件、管理職への負担、特定職種への業務偏りも把握します。
導入から30日、60日、90日など、確認する時期をあらかじめ設定します。測定の目的は制度の成否を一度で決めることではなく、継続、修正、停止、対象拡大のどれを選ぶか判断することです。
各ステップで整理する内容と成果物は、次のとおりです。
ステップ | 主な実施内容 | 成果物 |
|---|---|---|
1. 目的・KPI設定 | 解決する課題、導入前の数値、目標値を決める | 目的・KPIシート |
2. 小規模試行 | 対象部署、期間、判断基準を決めて試す | 試行計画・検証結果 |
3. 制度・環境整備 | 制度、IT、労務、評価、情報共有を見直す | 就業・IT・運用ルール |
4. 周知・教育 | 管理職と従業員へ利用方法と判断基準を伝える | 研修資料・FAQ・相談窓口 |
5. 効果測定 | 数値と従業員の声から改善点を判断する | KPIレポート・改善計画 |
ニューノーマルな働き方は、制度を導入するだけでは定着しません。企業事例を見る際は、施策の名称ではなく、どのような課題に対して何を変更し、どのように運用したのかを確認することが大切です。
ここでは、働く場所の選択、人事評価、拠点間の情報共有を見直した3社の事例を取り上げます。各社の取り組みをそのまま模倣するのではなく、自社と共通する課題や適用条件を見つける視点で確認してください。
カルビーでは、2020年からオフィス勤務者のモバイルワークを標準としていました。しかし、出社回帰や対面コミュニケーションの活用が進むなかで、リモートを中心とした働き方を続けるのではなく、仕事の目的に応じて場所を選ぶ形へ見直しています。
同社は2025年5月から「カルビーハイブリッドワーク」へ移行しました。各業務の性質や求める成果から逆算し、出社とモバイルワークを組み合わせるとともに、対話が必要な場合には上司が出社を促す運用を採用しています。
働き方の変更に合わせて、本社オフィスを増床した点も特徴です。リモートワークを進めるからオフィスを縮小するのではなく、対面での交流や共同作業に必要な場所として再整備しています。
カルビーの事例から分かるのは、出社かリモートかを固定するのではなく、業務の目的から働く場所を判断する考え方です。自社で取り入れる場合も、出社日数を先に決めるのではなく、対面で行う価値が高い業務を整理する必要があります。
働く場所が多様になると、管理職から見える勤務態度だけでは、従業員の貢献を公平に判断しにくくなります。富士通では、勤務場所の変更だけでなく、職務や期待する成果を明確にする人材マネジメントの見直しを進めています。
同社は2022年、ジョブ型人材マネジメントに基づく人事制度を、国内グループの一般社員約4万5,000人へ導入しました。従業員ごとに期待する貢献や責任範囲を職務記述書へ記載し、職責に応じた評価・報酬制度を整えています。
評価では、成果だけでなく、社会や顧客への影響、行動、成長を確認する共通制度を一般社員にも展開しました。制度変更と合わせて、従業員の成長を支援する1on1や学び直しの機会も整備しています。
富士通の事例は、働く姿が見えるかどうかではなく、職務上期待する役割と貢献を基準にマネジメントする重要性を示しています。ただし、職務を細かく定義しにくい業務もあるため、自社では成果、行動、チームへの貢献をどのように組み合わせるか検討する必要があります。
複数の店舗や職種を抱える企業では、テレワークの可否よりも、必要な情報が全従業員へ届くかが重要な課題になります。トヨタユナイテッド静岡では、会社の統合や拠点間の距離によって、店舗ごとの取り組みやノウハウを共有しにくい状態が続いていました。
販売スタッフには端末が貸与されていた一方、現場の技術スタッフが社内掲示板を見るには、共有パソコンのある場所まで移動する必要がありました。本部が情報を発信しても、職種によって確認のしやすさに差が生じていたのです。
同社は、従業員が個別に情報を確認できる環境を整え、店舗イベントや業務上のノウハウを拠点間で共有する運用を始めました。導入後は全社員の7割を超える人がアカウントを登録し、現場エンジニアの閲覧数は従来の社内掲示板と比べて3倍になったと報告されています。
この事例から分かるのは、情報を掲載するだけでなく、職種や勤務場所を問わず確認できる導線を整える必要があることです。同社では、各店舗を訪問して導入の目的を伝えたり、参加しやすいテーマから投稿を始めたりしており、利用を広げる運用も成果を支えています。
参考:TUNAG「トヨタユナイテッド静岡株式会社 導入事例」
3社の事例を、自社へ応用する際の条件まで含めて比較すると、次のようになります。
企業 | 主な課題 | 見直した対象 | 定着のための運用 | 適用しやすい企業 |
|---|---|---|---|---|
カルビー | 出社とリモートの再設計 | 働く場所・オフィス | 業務の目的から出社を判断 | オフィス勤務者が多い企業 |
富士通 | 見え方に左右されない評価 | 職務・評価 | 職責の明確化・1on1・学習支援 | 役割や期待成果を定義できる企業 |
トヨタユナイテッド静岡 | 拠点・職種間の情報格差 | 情報アクセス | 店舗訪問・参加しやすい運用 | 多拠点・現場職が多い企業 |
3社に共通するのは、制度やツールを導入して終わらせず、働く目的、評価基準、情報へのアクセス方法まで見直している点です。自社で検討する際も、施策の有無ではなく、従業員が実際に利用できる状態になっているかを確認する必要があります。
ニューノーマルな働き方を定着させるには、勤務制度だけでなく、IT環境や労務管理、評価、情報共有まで一体で確認する必要があります。制度の有無ではなく、従業員が実際に利用でき、管理職や現場が無理なく運用できる状態になっているかをチェックしてください。
以下の表では、社内で確認したい項目と判断の目安を整理しています。「未対応」や「一部対応」が多い項目は、制度を全社へ広げる前に、担当部署と改善方法を決めておきましょう。
確認項目 | チェックする内容 |
|---|---|
勤務制度 | 出社、リモート、ハイブリッドワークの適用条件と申請方法が明文化されている |
職種別の設計 | 店舗、工場、物流など、現地勤務が必要な職種にも利用できる選択肢が用意されている |
IT環境 | 社外からでも必要な端末、システム、ファイル、社内申請へアクセスできる |
情報セキュリティ | 端末、認証、アクセス権限、データ保存、事故発生時の連絡方法が決められている |
労務管理 | 勤務時間、時間外労働、休憩、在宅勤務時の作業環境を把握する方法が整っている |
人事評価 | 勤務場所や上司からの見えやすさではなく、役割、目標、成果、行動をもとに評価できる |
情報共有 | 本部、拠点、出社者、リモート勤務者が、同じ情報と意思決定の背景を確認できる |
コミュニケーション | 日常の連絡だけでなく、相談、意見交換、1on1など、対話する機会が設けられている |
オフィス | 出社する目的が明確であり、対話、共同作業、育成などに適した設備や空間がある |
効果測定 | 制度利用率、業務時間、従業員の声などを確認し、見直す時期と担当者が決まっている |
すべての項目を一度に整える必要はありません。まずは自社が働き方を見直す目的を明確にし、その目的の達成を妨げる項目から優先して改善します。
例えば、拠点間の情報格差が課題であれば、情報共有の場所や対象者を統一する取り組みから始めます。育児や介護との両立を進めたい場合は、勤務制度だけでなく、業務の引き継ぎや評価基準まで確認しなければなりません。
チェック後は、未対応の項目ごとに優先度、担当者、実施内容、期限を決めます。次のような管理表を作ると、確認だけで終わらず、改善活動へつなげやすくなります。
未対応項目 | 優先度 | 担当部署 | 実施内容 | 期限 |
|---|---|---|---|---|
記入例:情報共有 | 高 | 人事・総務 | 掲載場所と対象者を統一する | 20XX年X月 |
導入後も30日、60日、90日などの時点で利用状況を確認し、制度と実際の働き方にずれがあれば修正してください。
ニューノーマルな働き方を整えるうえで、労務管理、人事評価、情報セキュリティなどは、それぞれ専門的な制度設計が必要です。一方、本部と店舗・工場の情報格差、拠点間の情報共有、申請・研修・日報などの周辺業務は、全従業員が利用できる共通のデジタル基盤を整えることで改善しやすくなります。
TUNAGは、社内掲示板、チャット、ワークフロー、マニュアル、研修、日報などを一つの環境へ集約し、多拠点や現場で働く従業員への情報共有と業務運用を支援するクラウドサービスです。労務制度や評価制度そのものを設計するサービスではありませんが、勤務場所や職種を問わず、必要な情報と業務へアクセスできる状態を整えたい企業に適しています。
サービスの機能や導入事例は、「3分でわかるTUNAG」サービス資料で確認できます。
ニューノーマルな働き方は、テレワークへ移行することや、新しい制度を導入すること自体を指すものではありません。業務内容や従業員の事情に合わせて、働く場所、時間、業務フロー、評価、情報共有などを組み合わせ、自社に合う形へ整える考え方です。
そのため、全社一律の制度を先に決めるのではなく、まずは業務の特性と従業員の状況を把握する必要があります。出社が適した業務、リモートで進めやすい業務、両方を組み合わせる業務を整理すれば、職種ごとに無理のない選択肢を設計できます。
制度を実際に運用する際は、IT環境や情報セキュリティだけでなく、労務管理、人事評価、社内コミュニケーションまで一体で見直すことが欠かせません。店舗や工場など、現地勤務が必要な従業員にも必要な情報と支援が届くように設計することで、職種や勤務場所による格差も抑えやすくなります。
働き方は、一度決めれば完成するものではありません。利用状況や業務への影響、従業員の声を定期的に確認し、続ける制度と修正する制度を判断しながら、自社に合う働き方へ継続的に改善していきましょう。