専門業務型裁量労働制とは?制度の内容と導入の流れ・注意点を解説
専門業務型裁量労働制は、主に専門性の高い業務において、労働者の裁量に委ねることで効率的な働き方を実現する制度です。IT分野や研究開発などの業務に適用されており、成果に重点を置いた働き方が可能です。制度の概要と導入の流れ、注意点を解説します。
専門業務型裁量労働制とは?
専門業務型裁量労働制は、特定の専門職種に従事する労働者に対して、労働時間の規制を緩和し、自律的に働くことを認める制度です。まずは制度の概要に加えて、専門業務の定義や裁量労働制の特徴について、基本的な部分を確認しておきましょう。
制度の概要
専門業務型裁量労働制とは対象となる業務において、労働者が業務の遂行方法や時間配分について、自分の裁量で決定できる制度です。労働基準法に基づき、所定の手続きを経て導入されるもので、業務の成果が重視される職種に適しています。
詳しくは後述しますが、同制度では実際の労働時間に関係なく、みなし労働時間が設定されるため、労働時間の管理方法が通常とは異なります。労使間での合意形成とともに、導入には慎重な準備が必要です。
専門業務とは何を指す?
専門業務型裁量労働制の対象となる業務は、厚生労働省の省令で定められており、主に高度な専門性や創造性が求められる職種が該当します。例えば労働基準法施行規則第24条の2の2で定められた19業務が対象で、具体的には以下のようなものがあります。
- 新商品・新技術の研究開発業務
- 情報処理システムの分析・設計業務
- 記事の取材・編集業務(放送番組制作含む)
- デザイナー業務
- 弁護士、公認会計士、税理士等の業務
- 建築士の業務
- システムコンサルタント業務
- 証券アナリスト業務
- 金融商品の開発業務 など
これらの業務は働く時間や手段を、自ら調整するのが実務上適していると考えられており、裁量労働の適用対象となっています。ただし、以下の場合は制度を適用できません。
- 管理監督者:既に労働時間規制の適用除外のため対象外
- 法定19業務以外:どれだけ専門性が高くても対象外
- 業務の裁量性が不十分:具体的な指示が日常的に行われる業務
- 年次有給休暇:通常通りの取得権利を保障する必要あり
- 深夜・休日労働:割増賃金の支払い義務は継続
裁量労働制の特徴は?
裁量労働制の最大の特徴は、労働者が自身の裁量により、業務の進め方を決定できる点です。従来の時間管理とは異なり、会社側が定めた「みなし労働時間」を基準として勤務実績を評価します。
これにより働く時間の自由度が高まり、生産性の向上や柔軟な働き方の実現が可能です。ただし業務量が過大になったり、勤務実態と、みなし労働時間が乖離してしまったりすると、労使間のトラブルにつながる可能性もあります。労働の実態に即した運用を徹底しなければいけません。
企画業務型裁量労働制との違いは?
専門業務型と企画業務型の裁量労働制は、いずれも労働時間の管理に裁量を持たせる制度ですが、対象業務や導入要件に明確な違いがあります。
専門業務型は上記のように、弁護士や研究職など、高度な専門性を有する業務に限定されます。それに対して企画業務型は、事業の企画・立案・調査・分析といった、ホワイトカラー職種が対象です。
また、専門業務型は労使協定の締結と届け出で導入できますが、企画業務型では労使委員会の設置と、委員の5分の4以上の多数による決議が必要です。
労使委員会の労働者側委員は、過半数労働組合または労働者の過半数代表者が任期を定めて指名する必要があり、専門業務型よりも導入要件が厳格になっています。そのため、企画業務型の方が制度運用のハードルは若干高いといえるでしょう。
裁量労働制における労働時間の扱い方
すでに説明したように、裁量労働制は実働時間にかかわらず「みなし労働時間」で管理するため、従来とは異なる賃金や時間外手当の取り扱いが必要です。裁量労働制の仕組みと注意点について、もう少し掘り下げて理解しておきましょう。
「みなし労働時間」で労働時間を計算
裁量労働制では、従業員が実際に働いた時間ではなく、労使協定で定められた一定の時間を、「働いたもの」とみなして労働時間を計算します。例えば、1日8時間と設定した場合、実際に6時間しか働かなくても、8時間働いたものとみなします。
逆に、10時間働いても8時間とみなされるため、長時間労働の抑制や業務効率化が期待できます。ただし、みなし時間が実態にそぐわない場合、従業員の不満につながる可能性があり、制度運用にも問題が生じるため注意が必要です。みなし労働時間は、対象業務を遂行するために通常必要とされる時間を基準に設定する必要があります。以下の点に注意が必要です。
- 実態調査の実施:過去の勤務実績や業務量を詳細に分析
- 適正な時間設定:過少でも過大でもない、実態に即した時間設定
- 定期的な見直し:業務内容の変化に応じた協定内容の更新
- 労働者の意見聴取:設定時間の妥当性について現場の声を反映
残業代や深夜・休日手当の扱いに注意が必要
裁量労働制でも労働基準法の範囲内において、残業代や深夜・休日手当が発生します。みなし労働時間が法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超える場合は、その超過分に対して、割増賃金を支払わなければいけません。
また、深夜や休日に従業員が働いた場合にも、通常通り手当の支払い義務があるため、企業側は給与管理を徹底しましょう。
また、制度上のみなし労働時間を超える労働が常態化している場合は、労働時間管理の見直しが必要です。制度を正しく理解せずに「残業代が不要」と誤解すると、法令違反や労使トラブルの原因となるため、十分注意しましょう。
専門業務型裁量労働制を導入する流れ
専門業務型裁量労働制の導入には、法定の手続きを順序立てて進める必要があります。労使協定の締結から労働基準監督署への届け出、社内での制度運用まで、以下で導入の流れを確認しておきましょう。
労使協定の締結と協定書の作成
専門業務型裁量労働制の導入には、まず労使協定の締結が必要です。過半数労働組合または過半数代表者が、対象業務・対象者・みなし労働時間・健康確保措置などについて協議し、合意内容を協定届に明記します。協定書には、労働時間の適正な見積もりが反映されていなければいけません。
実態と協定書の内容がかけ離れていると、制度の適用が否定される可能性があるので注意しましょう。制度の導入に先立ち、業務実態や職種の特性を丁寧に検証することが重要です。
協定書の届け出
労使協定が成立して協定書を作成したら、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。単に社内での合意だけでは足りず、届け出が受理されて初めて制度を適用できるため、余裕を持って提出するようにしましょう。
届け出に当たっては、協定書の形式や記載事項に不備がないかをきちんと確認し、必要に応じて専門家の助言を受けることも検討すべきです。また、届け出の控えは社内でも適切に保管し、制度の透明性を確保することも大切です。
社内での制度周知と運用体制の整備
従業員に専門業務型裁量労働制の働き方を適用するには、労使協定に従い労働者本人の同意を得なければいけません。きちんと同意を得た上で、当該労働者や管理者に対して、裁量労働制の仕組みや運用ルールを周知しましょう。
制度の内容を十分に理解してもらうことで、誤解や不適切な運用を防ぐ必要があります。また、実際の働き方がみなし労働時間と乖離しないように、定期的な勤務実態の把握や面談などを通じて、フォローアップできる体制にしておきましょう。
専門業務型裁量労働制を導入する際の注意点
専門業務型裁量労働制の導入に当たっては、対象業務の選定や労使協定の内容が法令に適合しているか、事前に十分確認する必要があります。また、制度の乱用や形骸化を防ぐために、対象者の健康管理や長時間労働を抑制する仕組みが必要です。
厚生労働省のガイドラインなどを参考に、定期的な協定内容の見直しや運用状況の確認を行い、不適切な運用やトラブルの防止に努めましょう。対象者の業務負担やワークライフバランスにも、十分な配慮が求められます。
専門業務型裁量労働制で働き方改革を
専門業務型裁量労働制は、専門性の高い職種における、柔軟な働き方を可能にする制度です。適切に設計・運用されれば、労働者の自律性と生産性の向上に寄与しますが、制度の誤用はトラブルの原因になり得ます。
対象業務の確認やみなし労働時間の設定、労使間の合意形成と社内周知など、導入に当たり押さえるべきポイントは多岐にわたります。制度の目的と実態が一致するように運用するのはもちろん、定期的な制度の見直しにより、従業員の働き方改革をサポートしましょう。