エンパワーメントで看護師の主体性が上がる?注意点や導入方法も

リーダーポジションの看護師を育てるために注目したいのが、「エンパワーメント」という考え方です。ビジネスにおけるエンパワーメントの定義や意義とともに、具体的に教育へどう取り入れるかを解説します。医療領域ならではの注意点もチェックしておきましょう。

看護職にも活用できる「エンパワーメント」

看護領域で「エンパワーメント」というと、「患者が自ら健康上の問題を解決できるように、看護師として援助すること」として語られるケースがほとんどでしょう。しかしエンパワーメントは、看護師の自立性・主体性向上を促進する行為でもあります。

ビジネスにおけるエンパワーメントの定義や、看護師の育成に取り入れる意義を見てみましょう。

ビジネスでは権限の委譲を指す

エンパワーメントとは、管理者の権限の一部を一般従業員に委譲することを指します。1960年代以降、社会的に弱い立場の人々が自らの力を発揮できる環境を実現する概念として広まり、現在では多くの業界で人材育成の手法として活用されているのです。

看護管理の領域に導入された当初は、患者への援助の在り方ではなく、看護師の自立性や主体性の保障が重視されていました。権限委譲により、看護師は一定の裁量の範囲内で自ら判断し、主体的に行動できるようになります。

看護師の意欲や主体性を向上させられる

エンパワーメントの最大のメリットは、看護師の主体性と判断力を同時に向上させられることです。権限を委譲された看護師は、与えられた裁量の範囲で自ら考えて動くようになり、結果として看護師としての的確な判断力も養われます。

特に意欲が見られない職員や、主任・リーダー格にふさわしい主体性を持つ人材がいない現場では大きな効果を発揮します。人材育成の一環として、看護師に対してエンパワーメントを実施することは、現場主導の職場づくりや昇格できる人材の確保に役立ちます。

看護師の離職防止にも効果的

看護師という職業は精神的・身体的な負荷がかかりやすく、職場へのエンゲージメントが低いと継続が困難になりやすい特徴があります。資格職であるため、より待遇の良い職場へ転職しやすいという側面も、離職率の高さに影響しているでしょう。

エンパワーメントを実施すると、主体性や責任感とともにモチベーションが向上するといわれています。

人材の定着に重要なエンゲージメントは、モチベーションを大きく左右する要素です。エンパワーメントによって、離職率を下げられる可能性が高まります。

エンパワーメントを看護現場に取り入れるときの注意点

看護の現場の場合、一般企業とは異なる事情があります。医療業界ではない企業向けの情報を調べても、医療領域にはフィットしない部分が出てくるでしょう。看護師にエンパワーメントを実施するときの注意点を紹介します。

看護師の役割を超える権限は委譲しない

看護師には、法的にできる業務とできない業務があります。看護師の業務について定めている「保健師助産師看護師法」における看護師の定義は、「傷病者・産後の女性に対する療養上の世話または診療の補助を仕事として行う者」です。

診療行為は基本的に医師しかできません。エンパワーメントで権限を委譲するとはいっても、医師の指示に沿う範囲での裁量を与えるべきでしょう。もし看護師の業務範囲を逸脱するような権限委譲があれば、法的に問題がある上、医師との関係が悪化するリスクがあります。

判断ミスが患者の命に関わる可能性もあるため、権限委譲の範囲の吟味とともに管理体制やルールの整備が必要です。

参考:保健師助産師看護師法 第5条・第37条|e-Gov法令検索

患者の安全を最優先にする

看護師の仕事は患者の診察・診療の補助であり、回復に寄与することです。エンパワーメントによって主体的に行動できたとしても、結果として患者の危険につながるようでは役割を果たせたといえません。

患者の安全を最優先に考えて、判断に不安がある場合は権限の委譲をやめるという判断も必要です。また判断の的確さは本人の経験や能力によって大きく変わります。権限の委譲範囲を決める段階で、対象とする看護師の経歴や業務実績・面談などから判断するとよいでしょう。

看護現場にエンパワーメントを導入するステップ

これまでに紹介したエンパワーメント意義や看護現場における注意点を踏まえて、導入ステップを2段階で整理します。実施の流れは対象者や関係者への説明、裁量範囲の決定・周知です。

導入目的やゴールを看護師・医師に説明する

目的を知らされずにエンパワーメントを実施されても、現場の看護師は混乱します。特にそれまで先輩や上司の指示を基に業務に当たっていた看護師は、「突然放り出された」という印象を抱き、かえってエンゲージメントを下げてしまうかもしれません。

また、医師に伝達せずにエンパワーメントを実施した結果、普段と違う看護師の動きに医師が不信感を抱く可能性があります。なぜエンパワーメントを実施する必要があるのかを明確にした上で、看護師にも、チームとして働く医師にも説明しましょう。

裁量の範囲を明確化して周知する

看護師のエンパワーメントには、特に裁量範囲の明確化が重要です。法的に看護師ができることとできないことの線引きを再確認した上で、誰にどこまでの権限を委譲できるのか明確化する必要があります。

権限委譲の対象そのものを、徐々に広げていくのも一つの手です。例えば、最初はミスが少なく普段から主体的に動く傾向のある看護師からエンパワーメントを実施し、問題が起こらなければほかの看護師にも権限を与える方法が考えられます。

対象者と裁量範囲が決まったら、対象となる看護師に分かりやすく説明して役割の逸脱や混乱を防止します。

エンパワーメント導入を成功させるには

看護現場にエンパワーメントを取り入れるに当たって、成功につながるかどうかは組織としての工夫にかかっています。環境づくりから具体的な施策まで、広い視点で成功のポイントを見ていきましょう。組織改善プラットフォーム「TUNAG(ツナグ)」を役立てる方法も併せて紹介します。

心理的安全性の高い環境をつくる

看護現場に限らず、エンパワーメントの導入には心理的安全性が不可欠です。不安な点やリスクをあらかじめ上司と一緒に考えるなど、自主的に行動しやすい土台づくりが求められます。

そのためには普段からコミュニケーションが活発で、心配ごとを隠そうと思わない職場の雰囲気が欠かせません。TUNAGには社内チャットやタイムライン・サンクスカードなど、従業員同士のコミュニケーションを活性化させる機能がそろっています。

ただ看護師の場合、失敗が患者の危険につながるケースも少なくありません。状況に応じてエンパワーメント自体をやめる判断も必要という点を忘れないようにしましょう。

看護師に学習機会を提供する

エンパワーメントを導入しても、対象となる看護師に自主的な判断ができるだけの知識がなければ主体的に行動できません。組織として学習機会を提供する取り組みが必要です。

例えば認定看護師や専門看護師など、キャリアアップにつながる追加資格を案内したり受講費用を補助したりする方法があります。このようなサポートは、エンゲージメントの向上にもつながるはずです。

TUNAGは、学習サポートの施策について社内掲示板で周知したり、現時点で使える学習サポートの情報を外部リンク(社内ポータル)に設置しておいたりするなどの方法で活用が可能です。

参考:専門看護師 | 看護職の皆さまへ | 公益社団法人日本看護協会

参考:認定看護師 | 看護職の皆さまへ | 公益社団法人日本看護協会

導入後は定期的にフォロー面談を実施する

エンパワーメントは、導入して終わりでは効果が期待できません。ミスも成功も記録をしっかり残して、定期的な面談でフォローする必要があります。裁量範囲を広げる、狭めるといった判断もフォロー面談の結果から可能です。

TUNAGには日報・月報をスマホから記録できる機能や、1on1面談の内容をタイムラインに投稿する機能があります。エンパワーメント実施後の振り返りや、良い面談例の共有に役立つはずです。

エンパワーメントの導入で看護師の主体性を向上

リーダー候補を育成したくても、現場の看護師に主体性がないと悩んでいる医療機関も多いでしょう。主体性や判断力の向上には、権限の委譲を表すエンパワーメントが効果的です。

ただし看護の現場では、過度な権限委譲や対象者の選定ミスにより、患者を危険にさらしてしまうリスクがあります。目的の明確化は前提として、慎重に対象者を選定して「どこまで権限を委譲するか」を厳密なルールとして定めなければなりません。

エンパワーメントの成功には、心理的安全性の確保や学習機会の提供、定期的なフォロー面談など組織的な取り組みが求められます。十分な準備をした上で、エンパワーメントを進めましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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