大企業病とは?5つの症状や原因、対策方法6選について解説
大企業病という言葉を耳にすると、多くの人は大規模な組織特有の問題だと考えるかもしれません。しかし、実際には企業の規模に関係なく発生します。
大企業病の定義は曖昧ですが、保守的で風通しが悪く、意思決定が遅れる組織の状態を指します。例えば、従来のやり方に固執して新しい挑戦を敬遠することや、無駄な手続きが多いために迅速に対応ができなくなってしまうことは、大企業病の典型的な症状といえるでしょう。
大企業病を放置すると、従業員のモチベーションが下がるだけではなく、企業全体の競争力を下げ、長期的な成長を妨げるリスクがあります。
本記事では、大企業病が発生する原因やリスクなどについて触れ、大企業病を改善するための具体的な対策について解説します。
大企業病とは
企業規模に関わらず発生する可能性がある状態
大企業病とは、企業規模に関わらず、風通しが悪かったり、意思決定に時間がかかったりする状態を指します。これは大企業だけでなく、中小企業やベンチャー企業、さらには個人単位でも発生する可能性があります。
大企業病の定義はさまざま
「大企業病」という言葉には明確な定義がありません。一般的には、保守的で風通しが悪い組織や、社内政治や派閥が蔓延している状態を指します。また、縦割り組織で意思決定に無駄な時間がかかるといった、大企業にありがちな特性を総称したものとされています。
大企業病を表す事例・症状5つ
社員の視野が狭く、自分の仕事にしか目を向けない
それぞれの社員が目の前の自分の仕事にしか興味が無く、企業の健全な発展が阻害されている状態です。
生産性の高い企業は、社員それぞれが広い視野を持ち、組織の未来を見据えて行動します。しかし、大企業病に侵された組織は事なかれ主義が蔓延し、長期的なリスク管理ができません。
それぞれの役割として業務を推進することは間違いではありませんが、事業をより成長させるためには、その業務だけにとらわれず、現場から意見が出てくるような雰囲気づくりが必要です。
従来のやり方に固執し、チャレンジ精神がない
現状維持が1番だという考え方や、昔から伝わるやり方が正しいという思い込みが強く、たとえ非効率的であってもなかなか新しいものを取り入れようとしません。
また、出る杭は打たれるためという環境があり、改革を起こそうとする社員は異質なものとして扱われると、チャレンジ精神がどんどん失われていきます。
さらに、リーダーになって責任ある立場につくより、今の立場に甘んじている方が安全であるという考えにより、野心を持って上を目指す社員も少なくなることがあります。
意欲的な社員が育たないということは、益々企業体質が停滞していくことにも繋がります。
ミスを許さず、成功を妬む風潮
古い日本企業の悪癖として、失敗に対する許容性がないことが挙げられます。
些細なミスでも強く叱責されて評価が下がったり、失敗の責任は全て下の者に押し付けられるなど、失敗=駄目な社員のレッテルを貼られるという恐怖感があります。そんな環境では、自分の実力を発揮するのは難しいでしょう。
また、社内政治や派閥の概念が根強いため、成功した相手を妬み、隙あらば足を引っ張ろうという風潮も根強く残っていることがあります。
優秀な人材ほどこうした環境に嫌気が差し、離職してしまいます。結果的に、創造性がなく自主性に欠けた人材しか残らなくなるため、組織力がどんどん低下していきます。
無駄が多く、意思決定に時間がかかる
縦割りの組織形態と形式を重んじる風土のせいで、意思決定に非常に時間がかかります。
ひとつの案件を決済するのに何枚もの社内向け報告書が必要だったり、やたらと定例会議が多いなど、意思決定プロセスに無駄が多すぎるのが特徴です。
古いやり方に固執しすぎて、最先端企業の意思決定のスピードに全くついていけない状態です。
常に上司の顔色をうかがい、顧客の方を向いていない
直属の上司からの反応を気にするあまり、顧客を喜ばせるには何が必要かという視点に欠けています。
内向きな視点でものを考えがちなので、顧客のニーズを上手く満たすのが難しいという弱点があります。長い目で考えると、企業の経営を左右することにもつながる深刻な問題となります。
日本の大企業病を象徴する有名な事例が、iphoneの台頭により始まったスマートフォン時代の流れに逆らい、ガラケーと呼ばれる古いタイプのモデルを作り続けた日本の携帯電話メーカーの話です。
世界的な時流は完全にスマートフォンのものになっていたにもかかわらず、日本の携帯電話メーカーだけは従来商品の多機能化など、時代の流れとは違う製品を新製品として出し続けました。
テクノロジーやインターネットの進化に伴い、こうした事例が日本のあちこちで生まれ、赤字に転落したり破産する企業も増えています。
なぜ大企業病になるのか?その原因5選
大企業病の原因として考えられるものはいくつかあります。原因を放置していると、どんどん症状が進行していくでしょう。原因となる兆候を段階的にまとめました。
業績が安定している
企業の業績が安定しているのは良いことですが、逆に言えば、あえてチャレンジする必要がない状態といえます。
新しいことを始めるリスクより、現状維持を求めて安定志向が強まると、大企業の初期症状といえるでしょう。
また安定した企業は「出る杭は打たれる」という文化が強まり、何か新しい事をしようとする人より、波風を起こさない人の方が評価される状態になりがちです。すると、組織の停滞感が強まり、大企業病の原因となるのです。
ルールが多く、ルール内でしか判断できなくなっている
組織の規模が大きいほど、社員の統率をとるためにルールが必要になります。ルールは規律を守るために役立ちますが、ルールに縛られるようになると自由さが失われていきます。
「ルールがあるから」「これがルールだから」と、自分で考えることを放棄し、思考停止状態に陥ってしまうことがあります。
さらに酷くなると、ルールに固執した人材が、新たな取り組みを提案する優秀な人材を攻撃するようになります。ルールに過剰に縛られた状態は、大企業病を加速させてしまうでしょう。
現場の社員に経営方針や理念が伝わっていない
規模の大きい組織ほど大企業病になりやすいのは、トップの目が現場の社員まで届かないからです。中小企業やベンチャー企業でも、トップが下の社員の状況を把握していないと、問題が起こりやすくなります。
これは、トップのもつビジョンや経営指針が現場まで反映されず、それぞれが自分の思い込みで行動するようになるからです。本来の経営方針と異なる考えで動く社員が増えるほど、症状は悪化してしまうでしょう。
挑戦や行動を称賛する仕組みが無い
失敗か成功かに関わらず、挑戦した従業員を称賛する仕組みが無ければ、従業員はわざわざリスクのある挑戦を起こそうという気持ちになかなかならないものです。
オープンなコミュニケーションができない組織風土
表向きは何も言わない従業員が、実は裏で愚痴ばかり言ってストレスを発散している……。そのような組織になる理由は、職場風土に閉鎖的な空気があったり、上司に何も言うことができないような関係であることがあげられます。
役職、部署などに関わらずオープンにコミュニケーションがとれる雰囲気が無ければ、現場から声を上げることは非常に難しいでしょう。
大企業病のリスクと弊害
大企業病が引き起こす弊害として、主に以下の点が挙げられます。これらの弊害は、企業の長期的な成長を阻害し、持続的な発展が難しくなる重大なリスクを伴います。大企業病は、企業全体の組織文化や運営に深刻な影響を及ぼし、最終的には企業の存続そのものを危うくする可能性があります。
意思決定の遅延
大企業病により、意思決定に時間がかかるようになります。これは、社内の承認プロセスが複雑化し、スピード感のある対応が困難になるためです。各部門が縦割りで動いてしまうと、全体としての意思決定が遅れ、競合他社に対して後れを取るリスクが高まります。また、経営陣が現場の状況を把握しきれず、適切な判断ができなくなる可能性もあります。
イノベーションの停滞
新しいアイデアや変革を恐れる保守的な文化が醸成されることで、企業全体でのイノベーションが停滞します。リスクを避けようとするあまり、革新的な取り組みが敬遠され、企業内での新しい価値創造が難しくなります。その結果、企業の競争力が低下し、業界内での地位が危ぶまれます。特に急速に変化する市場環境では、イノベーションの停滞は致命的な影響を及ぼすことがあります。
コミュニケーション不足
風通しの悪さから、社員間の情報共有やコミュニケーションが滞り、業務の効率や効果が著しく低下する可能性があります。部門間の連携が不足し、情報が正しく伝達されないことで、誤解やミスが増え、プロジェクトの進行に支障をきたすこともあります。また、経営陣と現場の間に溝が生じることで、社員の意見や提案が無視されがちになり、全体的なモチベーションの低下にもつながります。
モチベーション低下
意思決定が遅れることやイノベーションの停滞により、社員のモチベーションが低下し、仕事に対する意欲が失われることが増えます。保守的な企業文化の中で、挑戦する意欲が削がれ、日常業務に対する関心や責任感が薄れる傾向があります。これにより、優秀な人材が企業を去るリスクも高まり、企業の人材資産が失われる結果となります。
競争力の低下
これらの弊害が蓄積されることで、企業全体の競争力が低下し、市場での地位を失う可能性が高くなります。競争力の低下は、製品やサービスの品質低下、顧客満足度の低下につながり、最終的には売上や利益の減少を招きます。これにより、企業の成長が鈍化し、将来的な発展が厳しくなるばかりか、場合によっては企業の存続が危機にさらされることもあります。
大企業病によって生じうるトラブル
大企業病が進行すると、企業内でさまざまなトラブルが発生する可能性があります。これらのトラブルは、企業の経営に深刻な影響を与えるだけでなく、社会的な信用を損なうリスクを伴います。特に、大企業病が原因で以下のような問題が生じることが考えられます。
粉飾決算
大企業病による意思決定の遅れや保守的な文化が原因で、経営陣が目先の業績を優先するような環境が作り出されると、粉飾決算が行われるリスクが高まります。このような不正行為は、発覚した際に企業全体の信用を著しく損なう結果となります。
データの不正改ざん
社内の透明性が低下し、チェック体制が緩くなることで、データの不正改ざんが発生しやすくなります。特に、管理職が過剰な目標を強いる状況では、現場での不正行為が見過ごされる可能性が高く、企業全体のガバナンスが弱体化します。
大規模なシステム不具合
コミュニケーション不足や部門間の連携不良は、システム管理や運用にも影響を与えます。その結果、情報の共有が不十分となり、大規模なシステム不具合が発生するリスクが高まります。このようなトラブルは、顧客に多大な迷惑をかけ、企業の信頼を大きく損なう要因となります。
企業の信頼性低下
上記のトラブルが連鎖的に発生すると、企業の社会的な信用が大きく失われます。一度失われた信用を回復するのは非常に困難であり、長期的な経営の安定が脅かされる結果につながります。信頼性の低下は、企業の存続そのものを危険にさらす重大な問題です。
大企業病を改善するには?6つの対策方法と成功事例
大企業病を放置して症状が進行すると、会社の経営を揺るがす状態にもなりかねません。
上層部から大胆な人員刷新を行う
大企業病に染まりきった企業の改善は容易なことではありません。その場合は、思い切った改革が必要です。意思決定などを行う上層部の人材を一新したり、形骸化したルールを取り払っていく動きを行ったりしていきましょう。
特に、上層部の意識改革は大きな課題となります。安定志向の事なかれ主義は、企業に長く在籍し、ある程度の地位を得ている人ほど強く持っています。
まずは上層部からメスを入れ、危機感をあおることもこの場合は必要となります。
上層部が変わる姿勢を見せていくことが、現場の社員へ「本気度」を示すことになります。企業を変えていくという姿勢をトップから強く示すことで、組織改革を行いましょう。
事例: 東芝の経営再建
東芝は、粉飾決算事件後、信頼を回復するために上層部の大規模な人員刷新を行いました。これにより、ガバナンスの強化と企業文化の改革を図り、企業の透明性と信頼性を再構築しようとしました。このような人員刷新は、大企業病を克服するための重要なステップとなりました。
業務改革を行い、意思決定のスピードをあげる
古い考えに囚われた企業は、目的があいまいなルールに縛られて意思決定に時間がかかります。これからの時代は、ますます企業のスピード感が増していくのは間違いありません。
旧態依然とした遅いスピード感のままでは症状はますます悪化し、国際社会から取り残されてしまいます。
スピード感を出していくために、業務内容の効率化を推進していきましょう。書類のペーパーレス化と情報共有の強化や、無駄な定例会議や社内向け報告書の削減など、古い時代の仕事のやり方を積極的に改善することが必要です。
事例: ソニーの構造改革
ソニーは、2000年代に業績不振が続いた時期に、大規模な業務改革を実施し、意思決定のスピードを上げるための施策を導入しました。組織のフラット化や、迅速な意思決定を可能にするためのプロセス改善が行われ、これが成功の一因となり、企業の復活を支えました。
参考:ソニーの構造改革
社内の風通しを良くする
組織に蔓延する停滞した雰囲気を払拭するためには、社内の風通しを良くする必要があります。
社員間のコミュニケーションを活性化させ、透明性が高い組織への変革を目指しましょう。理想は、他の部署や社員が何をしているか全て共有でき、立場に関係なく協力し合える状態です。
社員間のコミュニケーションを活性化させるための取組みはさまざまです。最近では、社内SNSやビジネスチャットツールを活用している企業も増えています。
また、他部署との交流を図るためのイベントを企画するなども有効です。
事例: ホンダの「ワイガヤ」文化
ホンダは、社内の風通しを良くするために「ワイガヤ」というオープンなディスカッション文化を推進しました。この取り組みによって、社員の自由な意見交換が促進され、イノベーションが生まれる環境が整えられました。このような取り組みは、大企業病によるコミュニケーションの停滞を防ぐために効果的です。
企業の求めるビジョンを明確にする
全員が同じ方向を向いていれば、どれだけ組織が拡大しても大企業病は起こりづらくなります。企業のビジョンや経営指針が現場の社員まで行き届くための施策に取り組みましょう。
また、企業としての目標や課題を明らかにして、人事評価に取り入れるのも有効です。漠然とした内容ではなく、目標を数値などで具体化して取り組みやすくするといいでしょう。会社の掲げる目標に向けて、社員一丸となって挑める体制が理想です。
事例: 日産自動車の「日産リバイバルプラン」
カルロス・ゴーンがCEOに就任した際、日産自動車は「日産リバイバルプラン」という明確なビジョンを打ち出し、経営再建を進めました。このプランによって、企業全体の方向性が統一され、組織全体が一体となって再建に取り組むことができました。
参考:日産リバイバルプラン
多様性のある組織を目指す
社員が画一化された組織はイノベーションが起こりづらく、停滞した状態になりがちです。企業のダイバーシティを促進して、多様な価値観を取り入れましょう。
多様性を許容する風土ができることで、古い考えに固執する人材も適応力を否応がなしに求められるようになります。
変革を恐れず、社員それぞれが自分の能力を発揮できる組織は、大企業病を予防することにも繋がります。年齢や立場に関係なく、活発に意見を交換してお互いを尊重し合える組織を作りましょう。
事例: ユニリーバのダイバーシティ推進
ユニリーバは、多様性を重視した組織づくりを積極的に推進しています。多様性を持つチームがイノベーションを生み出しやすいという信念のもと、社員の国籍や性別に関わらず多様な人材を採用し、組織の活性化を図っています。これにより、固定観念に縛られない柔軟な経営が可能になっています。
参考:ユニリーバ エクイティ、ダイバーシティ、インクルージョン
顧客ニーズを優先する
大企業病の症状のひとつに、内向き体質で上司の顔色をうかがって自分のことしか考えない社員が多いという点が挙げられます。
本来なら、企業は利益を追求するため顧客の方を向いて行動するのが正しいあり方です。内向き体質を改善し、上司ではなく顧客ニーズを優先させる考え方を全社員に浸透させるように促しましょう。
事例: トヨタ自動車の「トヨタ生産方式」
トヨタは「顧客第一主義」を徹底し、顧客ニーズに応じた製品づくりとサービス提供を行っています。「トヨタ生産方式」は、顧客ニーズに迅速に応えるための生産プロセスの革新として知られ、このアプローチがトヨタの競争力を支えています。顧客ニーズを優先することで、企業は市場での信頼を築き、競争力を維持しています。
参考:トヨタ生産方式
大企業病はどんな組織にも起こりうるもの
疑問や意見を、立場に関わらず声をあげていける組織に
気がつけば、取り返しがつかないところまで症状が浸透していたという事態になりかねません。大企業病は組織の健全な発展を阻害します。
実際、大企業病が原因で新しい価値観に対応出来ず、業績悪化や破綻に追い込まれる企業も多くあります。
手遅れにならないうちに早めに対処し、必要なら大胆な改革も進めましょう。大企業病の芽を早期に摘み取っていくことが大切です。
エンゲージメントを高めるための社内制度のプラットフォーム『TUNAG(ツナグ)』について
TUNAG(ツナグ)では、会社と従業員、従業員同士のエンゲージメント向上のために、課題に合わせた社内制度のPDCAをまわすことができるプラットフォームです。
会社の課題を診断し、課題に合った社内施策をご提案、その後の設計や運用のサポートまで一貫して行っています。課題の診断は、弊社の診断ツールを使い把握することが可能です。ツールと専任のトレーナーの支援で、経営課題を解決に貢献いたします。
トップの考えが伝わっていない、会社に一体感が無い、現場から意見が出てこないなど、組織改革における課題解決を支援しています。
組織改革には長期的な取り組みが必要です。ぜひ一度ご相談ください。
大企業病は早めの対処が重要
本記事では、大企業病の症状や原因、対策方法について解説しました。
大企業病を放置すれば、イノベーションの停滞や競争力の低下といった重大なリスクを招く可能性があります。
大企業病を改善し、リスクを回避するためには、以下のような対策が有効です。
- 上層部からの大胆な人事刷新を行う
- 業務改革を進め、意思決定のスピードを上げる
- 社内の風通しを良くし、停滞した雰囲気を払拭する
- 企業のビジョンや経営指針を現場社員にまで浸透させる
- ダイバーシティを促進し、多様な価値観を取り入れる
- 上司の意向ではなく顧客ニーズを優先する
大企業病は早めの対処が重要です。本記事を参考に、自社の現状を再確認し、大企業病を防ぎ、活気ある組織作りを目指しましょう。