株式相続の一般的な流れ。後継者への自社株の相続手続きも解説
事業承継を考え始めた経営者の多くが、自社株の相続手続きに不安を抱えています。手続きを誤ると経営権に影響するだけでなく、相続人間のトラブルや高額な相続税負担といった問題が生じる可能性があるのです。本記事では、株式相続の基本と後継者への円滑な承継手続きについて解説します。
株式相続の評価方法と注意点
自社株を含む株式の相続では、一般の不動産や預金とは異なる評価方法や手続きが求められます。上場株式であれば市場価格を基準に評価できますが、非上場株式の場合は類似業種比準価額方式や純資産価額方式といった計算方法が必要となり、評価額によって相続税の負担も大きく変わってくるのです。
特に中小企業の経営者にとって、自社株は取締役の選任や重要事項の決定を左右する経営権を意味します。円滑な事業承継を実現するためにも、株式相続の基本的な流れと注意点を理解しておくことが重要です。
株式を相続する手続きの流れ
株式を相続する際の最初のステップは、相続人の確定と遺産分割協議です。遺言書の有無を確認し、法定相続人を確定させた上で、誰が株式を取得するかの話し合いが必要です。
次に、相続税の申告や名義変更のために必要な戸籍謄本・遺産分割協議書・相続関係説明図などの書類を準備します。証券会社に預けている上場株式の場合は各証券会社に相続手続きを申請し、非上場株式(自社株など)の場合は、発行会社に対し、遺産分割協議書などの必要書類を提出し、株主名簿の書き換えを請求します。多くの場合、定款で株式の譲渡制限が定められているため、会社の承認手続きが必要となる点に注意が必要です。
名義変更が完了すれば、株式の議決権行使や配当受領などの権利を行使できるようになり、相続税の申告を進められます。相続税の申告期限は相続開始から10か月以内と定められているため、早めに手続きを開始することが重要です。
株式の相続税の評価方法
株式の相続税評価では、上場株式と非上場株式で評価方法が大きく異なり、その結果として税負担も変わってきます。
上場株式は市場価格を基準に評価され、「相続発生日(課税時期)の終値」 「課税時期の月の毎日の終値の月平均額」 「課税時期の前月の毎日の終値の月平均額」 「課税時期の前々月の毎日の終値の月平均額」 のうち、最も低い価額を採用しまするのが一般的です。
一方、非上場株式は市場での取引価格がないため、会社の規模や状況に応じて「類似業種比準価額方式」や「純資産価額方式」で評価されます。
類似業種比準価額方式は、同業他社の株価、利益、配当、簿価純資産などを基に算出する方法で、会社が安定的に利益を上げている場合に有利です。
一方、純資産価額方式は会社の資産と負債を時価で評価し直して計算する方法であり、資産が多い企業では評価額が高くなる傾向があります。
株式の遺産分割の種類
株式の遺産分割には複数の方法があり、それぞれに特徴と注意点があります。
分割方法 | 概要 | メリット | 注意点・デメリット |
現物分割 | 株式そのものを相続人で分ける方法 | 実物のまま分割できる | 株数が少ないと均等に分けにくい |
換価分割 | 株式を売却し、その代金を分ける方法 | 公平に分配しやすい | 売却手続きや税金の負担が発生することがある |
共有分割 | 複数の相続人が共同名義で株式を保有する方法 | すぐに分割が難しい場合に有効 | 共有者間での管理や手続きが複雑になる場合がある |
代償分割 | 一人が株式を取得し、他の相続人に代償金を支払う方法 | 財産をまとめて承継できる | 代償金を準備する必要がある |
どの分割方法を選ぶかは、相続人の関係性や経営への関与度、資金準備の可否によって判断が分かれます。特に自社株の場合は経営権の確保が最優先となるため、事前に専門家を交えた協議を行うことが重要です。
相続した株式を売却する方法
相続した株式を売却する必要性は、納税資金の確保や相続人間の公平な分配を目的とする場合に生じます。
上場株式の場合、相続手続き後に証券会社で相続人名義の口座を開設し、市場を通じて通常の売買と同様に売却可能です。その際、相続登記や口座名義の変更が完了していることが前提となります。
非上場株式(自社株など)の場合は、市場での取引ができないため、会社の定款や株主間契約で定められた手続きに従い、会社や他の株主に譲渡の承認を得る必要があります。
売却によって利益が出た場合には、譲渡所得として所得税が課税される点にも注意が必要です。
後継者への自社株の相続手続き
自社株の相続では、後継者が経営権を確保できるだけの株式を取得できるかが最大の課題となります。
相続人の確認や株式の評価、名義変更など、一般の株式よりも慎重な対応が求められます。自社株相続の流れと具体的な対策を見ていきましょう。
自社株の相続手続きの進め方
自社株の相続で最も重要なのは、後継者が経営権を確保できる株式数を取得することです。取締役の選任(普通決議)には議決権の過半数が、定款変更などの重要事項(特別決議)には議決権の3分の2以上が必要となるため、後継者が安定した経営を行うためには、少なくとも過半数、できれば3分の2以上の株式を保有できるよう計画的に進める必要があります。
名義株(実際の所有者と株主名簿上の名義が異なる株式)や所在不明の株主がいると、相続時に議決権の所在が不明確となり、意思決定に支障をきたします。必要に応じて名義変更や整理を行い、株主構成を明確化しておくことが重要です。
相続手続きでは、遺言書や遺産分割協議書を基に株式の名義変更を行い、株主名簿を更新します。非上場株式の場合、定款で譲渡制限が定められているケースが多く、取締役会や株主総会の承認が必要となるため、事前に定款の規定を確認しておく必要があります。
自社株の相続対策
自社株の相続対策は、経営権の確保、遺留分への配慮、納税資金の準備という三つの課題を同時に解決する必要があります。いずれか一つでも対策を怠ると、相続後に経営が不安定になったり、相続人間でトラブルが生じたりするリスクがあるのです。
対策の種類 | 内容 | 主なポイント |
後継者の経営権確保対策 | 後継者が安定して株式を保有できるよう贈与や遺言を活用する | 計画的な株式移転で相続後の混乱を防ぐ |
遺留分への配慮 | 他の相続人の取り分を考慮した遺言書の作成 | 遺留分侵害額請求のリスクを回避 |
納税資金対策 | 相続税支払いに備え、保険や資金の計画を立てる | 期限内納付が難しい場合は延納・物納制度を検討 |
事業承継税制の活用 | 相続税・贈与税の納税を猶予・免除できる制度 | 特例措置の適用には、雇用の維持など一定の要件があり、手続き期限を厳守する必要があります。 |
経営者保証の解除対策 | 金融機関の保証契約を見直し、後継者の負担を軽減 | 事業承継時に保証解除を交渉しておく |
これらの対策は相互に関連しており、総合的に検討する必要があります。特に事業承継税制の適用には要件が厳しく、手続き期限もあるため、相続発生の5年以上前から計画的に準備を進めることが望ましいでしょう。
株式相続の不安をなくし納得のいく手続きを
株式の相続、特に自社株の承継では、評価方法の選択、経営権の確保、納税資金の準備といった複数の課題を同時に解決する必要があります。
相続発生前に株主構成の整理、評価額の試算、遺言書の作成を進めておくことで、後継者へのスムーズな承継が実現します。特に事業承継税制の活用を検討する場合は、要件確認と計画策定に時間を要するため、早期に税理士や弁護士へ相談することが重要です。













