ダイバーシティの重要性とは?組織の課題やメリットについても解説

近年はビジネス環境の急速な変化や労働人口の減少を背景に、ダイバーシティの重要性が高まっています。多様な人材の活用が企業の競争力強化につながるという認識が広まる中、具体的にどのように取り組むべきか悩む経営者も多いのではないでしょうか。本記事では、ダイバーシティの基本から具体的な施策まで、詳しく解説します。

ダイバーシティの基本知識

労働人口の減少や多様性を重視する社会の流れなどから、ダイバーシティは企業経営において避けて通れない重要なテーマとなっています。しかし、その本質的な意味や重要性について、十分に理解されていない場合も少なくありません。

ダイバーシティを自社に導入するためにも、まずはダイバーシティの基本的な概念と、関連する重要な用語について理解を深めましょう。

ダイバーシティとは?

ダイバーシティ(diversity)とは、直訳すると「多様性」を意味します。企業経営の文脈では、組織におけるさまざまな違いを受け入れ、生かしていくことを指します。具体的には、性別・年齢・国籍・人種・宗教・性的指向・障害の有無などの属性の多様性に加え、経歴や価値観、働き方などの多様性も含まれます。

ダイバーシティを推進することで、組織に多様な視点や発想が取り入れられ、イノベーションの創出や問題解決能力の向上につながると考えられています。

しかし、単に多様な人材を集めるだけでは十分ではありません。それぞれの違いを認め合い、生かし合える環境づくりが重要です。

ダイバーシティとインクルージョンの違い

ダイバーシティと並んでよく耳にするのが「インクルージョン(inclusion)」という言葉です。インクルージョンは「包括」や「一体性」を意味します。ビジネスにおいては、一体となって働くことを意味し、「多様的な人材が一体となって働くこと」という意味で「ダイバーシティ&インクルージョン」というように用いることもあります。

ダイバーシティだけでは、多様な人材が存在するだけで、その価値が十分に生かされない可能性があります。一方、インクルージョンを伴うことで、それぞれの個性や能力が最大限に発揮され、組織全体のパフォーマンス向上につながります。

つまり、真の意味でのダイバーシティ経営を実現するには、ダイバーシティとインクルージョンの両方が不可欠なのです。多様性を認めるだけでなく、それを積極的に活用し、組織の強みに変えていく姿勢が重要になります。

ダイバーシティが重視される背景

ダイバーシティへの注目が高まる背景には、企業を取り巻く環境の大きな変化があります。ここでは、ダイバーシティが重視されるようになった主な要因について解説します。

労働人口の減少による人材不足

日本では少子高齢化が進み、労働人口の減少が深刻な問題となっています。厚生労働省の発表によると、働き手となる15~64歳までの人口は、2020年には約7,509万人であるのに対し、2040年には約6,213万人にまで減少すると予測されています。

また、人手不足が原因で倒産する企業の割合も年々増加傾向にあります。この状況下で企業が成長を続けるためには、これまで十分に活用されてこなかった多様な人材の力を最大限に引き出すことが不可欠です。

例えば、女性の活躍推進や高齢者の再雇用、外国人材の採用など、従来の「日本人男性正社員」中心の雇用慣行から脱却し、多様な人材を受け入れる動きが加速しています。

参考:人口減少社会への対応と 人手不足の下での企業の人材確保に向けて|厚生労働省

多様的な働き方への対応

働き方に対する価値観も多様化しています。従来の「終身雇用」「年功序列」型の雇用形態だけでなく、フリーランスやギグワーカーなど、多様な働き方を選択する人が増えています。また、ワークライフバランスを重視し、柔軟な勤務形態を求める声も高まっているのが現状です。

「副業OK」「フルリモート可」「時短勤務」など、社員が自身のライフスタイルに合わせて働き方を選択できる制度を導入している企業も増えてます。育児や介護と仕事の両立が可能になり、多様な人材の確保にもつながっています。

企業がこうした多様な働き方に対応することは、優秀な人材の獲得・定着につながるだけでなく、社員の創造性や生産性の向上にも寄与します。ダイバーシティの推進は、こうした多様な働き方を受け入れ、生かすための重要な取り組みなのです。

ビジネスのグローバル化

経済のグローバル化に伴い、多くの企業が海外展開を進めています。グローバル市場で競争力を維持・向上させるためには、多様な文化や価値観を理解し、柔軟に対応できる組織づくりが不可欠です。

また、海外に展開する場合、現地の市場ニーズをより正確に把握し、各国の文化に合った製品開発や販売戦略の立案が必要になります。そのために海外拠点のローカル社員を積極的に経営幹部に登用している企業もあります。

国内においても、インバウンド需要の増加や外国人労働者の受け入れ拡大により、多様な文化背景を持つ顧客や社員と接する機会が増えています。

ダイバーシティを進めるメリット

ダイバーシティの推進は、単なる社会的責任や法令順守のためだけではありません。実際に、多くの企業がダイバーシティを経営戦略の一環として位置付け、積極的に取り組んでいます。

なぜなら、ダイバーシティにはさまざまなビジネス上のメリットがあるからです。ここでは、ダイバーシティを進めることで得られる主なメリットについて、具体例を交えて解説します。

競争力の強化

ダイバーシティの推進は、企業の競争力強化につながります。多様な背景を持つ人材が集まることで、環境の変化にも強くなります。現在ではIT化・グローバル化が進み、市場の変化も早く、企業はこの変化に対応するための柔軟性を身に付けなければなりません。

多様な人材を獲得することで、市場の柔軟な変化にも対応しやすくなります。また、顧客の多様化に伴い、企業側も多様な視点を持つことが重要になっています。多様な人材を抱えることで、幅広い顧客ニーズに対応し、新たな市場開拓につなげることが可能です。

このように、ダイバーシティは企業の創造性と適応力を高め、市場での競争優位性を獲得するための重要な要素となっています。

採用力と定着率の向上

ダイバーシティを重視する企業は、優秀な人材の獲得と定着にも有利です。特に若い世代を中心に、企業の社会的責任や価値観を重視する傾向が強まっており、ダイバーシティへの取り組みは企業の魅力度を高める重要な要素となっています。

積極的なダイバーシティ推進策を打ち出したことで、採用応募者数が前年を大きく上回った企業もあります。また、育児・介護と仕事の両立支援制度を充実させたことで、ベテラン社員の離職率が大幅に低下したという事例もあります。

多様な人材が活躍できる環境を整えることで、社員の満足度や帰属意識が高まり、結果として優秀な人材の定着率向上につながるのです。人材獲得競争が激化する中、ダイバーシティの推進は企業の人材戦略において重要な役割を果たしています。

イノベーションの向上

多様性のある環境では「当たり前」とされてきた慣習や考え方に疑問を投げかけやすくなります。その結果、業界の常識にとらわれない新しいビジネスモデルや製品・サービスの開発につながる可能性が高まるのです。

ダイバーシティの推進は、企業の創造性とイノベーション能力を高める重要な要素となっています。激しい競争環境の中で企業が成長を続けるためには、このようなイノベーション創出の基盤づくりが必要です。

ダイバーシティを進める具体的な施策

ダイバーシティの重要性は理解できても、具体的にどのように進めればよいのか悩む企業も多いでしょう。

ここでは、ダイバーシティを効果的に推進するための具体的な施策について、実例を交えて解説します。これらの施策を参考に、自社の状況に合わせた取り組みを検討してみてください。

労働環境の整備

ダイバーシティを推進する上で、多様な人材が働きやすい環境を整えることが極めて重要です。これには、物理的な環境だけでなく、制度や文化的側面も含まれます。

例えば、フレックスタイム制やリモートワークの導入は、育児や介護との両立を可能にし、多様な人材の活躍を支援します。また、オフィスのバリアフリー化やユニバーサルデザインの採用は、障害を持つ社員の働きやすさを向上させます。加えて多言語対応の社内システム導入は、外国人社員の活躍を促進します。

このような環境整備は、単に働きやすさを向上させるだけでなく、企業の姿勢を明確に示すことで、社員の帰属意識や意欲向上にもつながります。結果として、多様な人材の能力が最大限に発揮され、組織全体のパフォーマンス向上に寄与するのです。

キャリアアップや成長支援

多様な人材の活躍を促進するためには、個々の社員のキャリアアップや成長を支援する仕組みが不可欠です。

例えば近年、メンター制度を導入する企業が増えています。メンター制度は、経験豊富な社員が若手や少数派の社員をサポートすることで、スキルアップや組織への適応を促進する制度です。メンター制度によって、個々の社員に合わせたサポートが可能になります。

また社内公募制度や副業・兼業の許可は、社員に新たな挑戦の機会を提供し、多様なキャリアパスを実現します。さらに、個々の事情に応じた柔軟な研修プログラムの提供も効果的です。オンラインやオンデマンド形式の研修を取り入れることで、時間や場所の制約を受けずに学習できる環境を整えられます。

このような支援策により、多様な背景を持つ社員が自身の強みを生かしながら成長できる環境が整い、組織全体の活性化につながるのです。

研修の実施

ダイバーシティ推進において、社員の意識改革と理解促進は極めて重要です。そのための効果的な手段が、ダイバーシティに関する研修の実施です。

例えば、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)研修は、自分自身の中にある無意識の偏見に気付き、それを克服する方法を学ぶ機会を提供します。

ある大手企業では、全管理職を対象にこの研修を実施し、採用や評価のプロセスにおける公平性が向上しました。また、異文化理解研修は、グローバル化が進む中で重要性を増しています。海外拠点との協働や外国人顧客との対応において、文化的な違いを理解し尊重することで、スムーズなコミュニケーションが可能になります。

さらに、LGBTQに関する研修も、多くの企業で取り入れられています。これらの研修を通じて、社員一人一人がダイバーシティの重要性を理解し、日々の業務の中で実践することが、真のダイバーシティ推進につながるのです。

ダイバーシティ化の推進で組織力を高める

ダイバーシティの推進は、単なる社会的責任を果たすためだけのものではなく、組織の競争力を高め、イノベーションを促進し、優秀な人材を引きつけ、維持するための重要な経営戦略です。

本記事で解説したように、ダイバーシティには多くのメリットがあり、その実現にはさまざまな具体的施策があります。しかし、真のダイバーシティ推進には、トップマネジメントの強いコミットメントと、全社員の理解と協力が不可欠です。

多様性を受け入れ、生かすことは、時に困難を伴うかもしれません。しかし、それを乗り越えることで得られる組織の成長と発展は計り知れません。ダイバーシティは、変化の激しい現代のビジネス環境において、企業が生き残り、成長するための鍵となるでしょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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