副業解禁で社員の成長を促すには?人材育成と定着につなげる運用ポイントを紹介
社員から「副業を認めてほしい」という声が増え、導入を検討している企業も多いのではないでしょうか。しかし、本業への影響や情報漏洩リスクを考えると、簡単に踏み切れないのが正直なところです。この記事では、副業解禁が注目される背景から、想定されるリスクと対策、制度の設計方法、そしてキャリア支援への活用まで、人事・経営担当者が押さえておくべきポイントを体系的に解説します。
副業解禁が注目される背景
副業解禁は、一部の先進的な企業だけの取り組みではなくなっています。副業を取り巻く環境は、この数年で大きく変わりました。パーソル総合研究所の2025年調査では、企業の副業容認率は64.3%に達しています。国の制度も働き手の意識も、副業を後押しする方向に動いているのです。
なぜ今、副業解禁がこれほど注目されているのかを、パーソル総合研究所の調査結果を基に整理してみましょう。
出典:第四回 副業の実態・意識に関する定量調査 - パーソル総合研究所
終身雇用の変化とキャリア多様化
日本企業を長年支えてきた終身雇用モデルは、大きな転換期を迎えています。大手企業でも早期退職の募集が相次ぎ、一社に勤め続けることを前提としたキャリア設計が通用しにくくなってきました。
こうした変化を背景に、副業への関心は着実に高まっています。パーソル総合研究所が2025年に実施した「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」によると、正社員の副業実施率は、2023年調査までの微減傾向から一転し、過去最高の11.0%へと上昇しました。調査開始(2018年)以降で初めて上昇に転じた数字であり、副業はもはや一部の人だけの話ではなくなっています。
企業においても、これまでの「一社でのみ働く」ことを基本とした雇用スタイルを再検討すべき時期に差し掛かっています。
社員のキャリア自律を後押しする
キャリア自律とは、社員が自ら主体的にキャリアを設計し、継続的に成長していく姿勢のことです。企業が社員のキャリア自律を支援することは、エンゲージメント向上や人材定着の観点から重要な経営課題となっています。
副業はキャリア自律を促す有力な選択肢です。同調査では、副業を行う理由として「収入補填」のスコアが前回調査より減少した一方、「副業で好きなことをやりたい」「自分のスキルが他の場所でも通用するか試したい」といったキャリア形成・自己実現に関する理由が上昇していることが明らかになりました。
お金のためだけでなく、成長ややりがいを求めて副業に取り組む社員が増えているということです。企業が副業を認めることは、そうした主体的な成長意欲に応えるメッセージにもなります。
副業を認めるかどうかが採用力を左右する
副業を認めているかどうかが、優秀な人材の採用・定着に影響を与えるようになっています。特に、自己成長意欲の高い人材ほど、入社前に「副業OKかどうか」を確認する傾向があります。
同調査では、若年層を中心に「本業で望む仕事や役割が得られない閉塞感」や「一社に依存し続けることへの危機感」から、組織の枠を超えて活動の場を求める動きが確認されています。本業だけにキャリア形成を委ねないこうした層にとって、副業を認める企業は選択肢として魅力的に映りやすく、副業禁止は優秀な人材を遠ざける要因になりかねません。
副業を禁止している企業は、こうした層から選ばれにくくなるリスクがあります。逆にいえば、副業解禁は採用市場での競争力を高める施策にもなりえます。
多様な働き方への対応が求められる
厚生労働省は2018年1月にモデル就業規則を改定し、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を新設しました。それ以降、副業を解禁する企業は増加の一途をたどっています。パーソル総合研究所の調査では、企業の副業容認率が過去最高を更新し、全面容認(ルールや制限なく副業を認める)の割合は2018年の約2倍に達したことが明らかになっています。
副業への対応は、個々の希望に応える以上の意味を持ちます。多様なライフスタイルや価値観を持つ人材を受け入れる組織の柔軟性を示すものでもあります。副業対応が遅れることは、組織の魅力低下につながりかねません。
副業解禁が組織にもたらす効果
副業解禁には、労務管理や情報漏洩などのリスクもあります。しかし、適切なルールを整えて運用すれば、社員の成長や定着、採用力の強化につながる有効な施策になります。
副業を単に「社員の個人的な活動」と捉えるのではなく、社外で得た経験や知見を組織に還元してもらう仕組みとして設計することが大切です。ここでは、副業解禁が組織にもたらす主な効果を紹介します。
本業への知見還元が期待できる
副業で得た知見は、新規事業や業務改善にも生かせます。社員が社外で顧客対応、販売、企画、制作、マネジメントなどを経験することで、社内だけでは得られない視点を持ち帰れるためです。
特に、変化の早い市場や新しいサービス領域では、現場感のある情報が重要になります。副業を通じて別の業界の課題や顧客ニーズに触れた社員は、本業でも新しいアイデアを出しやすくなるでしょう。
こうした効果を高めるには、副業で得た学びを社内で共有できる場を設けることが有効です。例えば、社内勉強会やナレッジ共有の場で、社員が副業を通じて得た気づきやスキルを紹介できるようにします。
副業を個人の活動で終わらせず、組織学習につなげることで、社員一人の経験がチーム全体の知見になります。副業解禁は、社外の知識やトレンドを社内に取り込む入口にもなり得ます。
社員の定着率向上につながる
副業を認めることは、社員に対して「自分らしい働き方を尊重してくれる会社だ」というメッセージになります。会社が社員の挑戦や成長を前向きに支援する姿勢を示せれば、社員の満足度やエンゲージメントは高まりやすくなります。
近年は、収入だけでなく、やりがいや成長機会、働き方の自由度を重視する人も増えています。そのような社員にとって、副業が認められている環境は大きな安心材料になります。
「この会社にいながら、自分の可能性を広げられる」と感じられれば、離職を考える前に社内で働き続ける選択をしやすくなるでしょう。
採用ブランドの強化につながる
副業を認めていることは、採用活動においても強い訴求材料になります。求職者にとって「副業OK」という制度は、会社が社員を信頼し、自律的な働き方を認めていることのサインになるためです。
特に、成長意欲の高い人材や専門性を磨きたい人材は、社外での挑戦機会を重視する傾向があります。副業が禁止されている企業よりも、副業を認めている企業の方が、柔軟で開かれた組織として魅力的に映るでしょう。
採用ページや求人票に副業制度を明記すれば、働き方の自由度を求める候補者に対してアピールできます。大きな広告費をかけなくても、制度そのものが採用広報の材料になります。
副業解禁で起こり得るリスク
副業解禁は、社員の成長機会を広げ、採用や定着にもプラスに働く制度です。一方で、ルールを曖昧にしたまま認めてしまうと、本業への影響や情報漏洩、健康管理などの問題が起こる可能性があります。
重要なのは、副業を一律に制限することではなく、起こり得るリスクを把握したうえで、適切に管理できる仕組みを整えることです。ここでは、副業解禁時に注意したい主なリスクと、その対策のポイントを紹介します。
本業の生産性低下を防ぐ
副業に多くの時間やエネルギーを使うようになると、本業のパフォーマンスに影響が出るおそれがあります。睡眠不足や疲労の蓄積によって集中力が落ちたり、業務の質が下がったりするケースです。場合によっては、納期遅れやミスの増加につながることもあります。
こうした事態を防ぐには、副業を認める範囲をあらかじめ明確にしておく必要があります。例えば、申請時に副業の内容と稼働時間を確認し、週あたりの稼働時間が上限(例:週15時間、または本業と合わせて月45時間など、自社の実態に応じた基準)を超える場合は承認しない、といったルールが考えられます。
また、副業開始後も「本業に支障が出ていないか」を定期的に確認することが大切です。副業を認める以上、社員任せにせず、会社としてパフォーマンス低下を早期に把握できる仕組みを整えましょう。
人材流出への不安に備える
副業を認めることで、社員が副業先の仕事に魅力を感じ、転職や独立を考えるようになるのではないかと不安に感じる企業もあります。特に、スキルの高い人材ほど外部から評価されやすく、流出リスクを懸念する声は少なくありません。
ただし、人材流出の原因は、副業そのものとは限りません。むしろ、本業で成長機会が少ない、正当に評価されていない、将来のキャリアが見えないといった不満が背景にある場合もあります。
副業を禁止しても、社員の不満や成長意欲が消えるわけではありません。大切なのは、副業を認めながら、本業でも挑戦できる機会や納得感のある評価制度を整えることです。副業解禁をきっかけに、社員が「この会社でも成長できる」と感じられる環境づくりを進めましょう。
情報漏洩リスクを管理する
副業解禁で特に注意したいのが、情報漏洩のリスクです。社員が副業先で、自社の顧客情報や営業情報、技術情報、未公開の経営情報などを意図せず漏らしてしまう可能性があります。
本人に悪意がなくても、同じ業界で副業をしている場合や、近い業務内容に携わる場合は注意が必要です。例えば、本業で得たノウハウを副業先で活用した結果、自社の競争力を損なうおそれもあります。
そのため、副業申請の段階で、副業先の業種、業務内容、取引先との関係性を確認するプロセスを設けましょう。あわせて、守秘義務の範囲を就業規則や副業規程に明記し、副業開始時に書面で確認しておくことが重要です。情報管理のルールを明確にすることで、社員も安心して副業に取り組みやすくなります。
競業避止義務を明確にする
副業では、競業にあたる業務をどこまで制限するかも重要な論点です。競業避止義務とは、社員が在職中に競合他社で働いたり、自社と競合する事業を行ったりすることを制限する義務を指します。
副業の場合、在職中に競合企業の業務を請け負う、自社の顧客や取引先を相手に副業を行う、といったケースが問題になり得ます。こうした副業を放置すると、自社の利益を損なうだけでなく、取引先との信頼関係にも影響する可能性があります。
トラブルを防ぐには、「どのような副業を禁止するのか」を具体的に定めておくことが必要です。例えば、競合企業での勤務、自社顧客への営業、自社サービスと類似する事業の運営などは、原則禁止とする規定を設けるとよいでしょう。社員が自己判断に迷わないよう、ガイドラインで具体例を示すことも有効です。
健康管理と安全配慮義務を押さえる
副業解禁では、社員の健康管理にも注意が必要です。副業によって労働時間が長くなれば、疲労やストレスが蓄積し、体調不良やメンタル不調につながるおそれがあります。
企業には、社員が安全で健康に働けるよう配慮する義務があります。そのため、「副業は本人の自由だから会社は関係ない」と考えるのは危険です。副業によって長時間労働が生じている場合、会社として状況を把握し、必要に応じて対応することが求められます。
実務上は、副業先での労働時間を社員に申告してもらう仕組みを整えることが重要です。本業と副業の労働時間を確認し、過重労働につながっていないかを定期的にチェックしましょう。健康状態に不安がある場合は、副業時間の見直しや一時停止を促すなど、社員を守る運用が必要です。
副業解禁を制度化する方法
副業解禁を「なんとなく認める」状態では、リスクが顕在化したときに対処できません。制度として整備し、明確なルールと運用フローを設けることが重要です。以下のステップに沿って進めることで、安心して副業解禁を導入できます。
副業の目的と許可範囲を決める
まず、自社が副業を認める目的を明確にします。「社員のキャリア支援」「スキルアップの促進」「エンゲージメント向上」など、目的によって許可する副業の範囲も変わってきます。
許可する副業の範囲を決める際は、以下の観点を整理するとよいでしょう。
- 許可する業種:競合他社や取引先への副業は禁止とするのが一般的
- 許可する業務形態:フリーランス、アルバイト、執筆・講演など
- 稼働時間の上限:週当たりの副業時間に上限を設ける
- 収入の申告:副業収入の申告義務の有無
目的と範囲が定まることで、社員も判断しやすくなります。「迷ったら申請する」という文化をつくることも、透明性の確保に役立ちます。
就業規則とガイドラインを整える
副業解禁に際しては、就業規則の改定が必要です。従来の「許可なく他の業務に従事しない」という規定を見直し、副業を認める条件や禁止事項を明記します。
就業規則の改定に加えて、社員が実際に使いやすい「副業ガイドライン」を整備することをおすすめします。ガイドラインには、申請の流れ、禁止事項の具体例、健康管理のルールなどを分かりやすく記載します。法律の条文をそのまま並べるのではなく、「自分の場合はどうすればいいか」が理解できる内容にすることが大切です。
労働時間の管理方法を決める
本業と副業の労働時間は、副業が雇用契約(アルバイト・パートなど)の場合、労働基準法上、通算して管理する必要があります。一方、業務委託やフリーランスとしての副業は通算の対象外ですが、過重労働を防ぐ観点から、いずれの形態でも実態の把握が欠かせません。
具体的には、副業開始時に副業先での週当たり労働時間の見込みを申告させ、定期的に実績を確認する運用が現実的です。具体的には、月次の申告フォームを設けて実績を確認する方法や、定期面談で口頭確認する方法が現実的です。運用負荷や社員数に応じて、自社に合った方法を選ぶとよいでしょう。
申請・承認フローを構築する
副業を開始するには、事前申請と会社の承認を必要とする仕組みが基本です。申請フローを通じて、情報漏洩・競業・健康管理の観点から問題がないかを確認します。
申請に必要な情報としては、以下の項目を設けるのが一般的です。
- 副業先の企業名・業種・業務内容
- 想定される週当たりの稼働時間
- 副業の開始予定日・期間
- 守秘義務に関する確認事項
申請を受けた後は、直属の上司と人事部門が確認する二段階承認とすることで、見落としを防ぎやすくなります。システム上で申請・承認を管理できると、運用の手間が減ります。
副業リテラシーを社内へ周知する
制度を整えても、社員がルールを理解していなければ意味がありません。副業解禁に併せて、社内向けの説明会や資料配布を行い、制度の趣旨・手続き・禁止事項を丁寧に周知することが重要です。
特に伝えるべきポイントは以下の通りです。
- 副業を認める目的と会社の考え方
- 申請が必要なケースと不要なケース
- 禁止される副業の具体例
- 健康管理の基準と相談窓口
管理職向けには、部下からの副業相談があった際の対応方法も共有しておくと、現場での混乱を防げます。
副業解禁は社員の成長と組織づくりを両立させる施策になる
副業解禁は、リスクばかりが注目されがちですが、適切に設計すれば社員のキャリア形成と組織の成長を同時に実現できる人事施策です。
終身雇用の変化やキャリア自律への関心の高まりを背景に、副業を認める環境は今後さらに広がっていくでしょう。重要なのは、「許可するか禁止するか」という二択ではなく、どのように設計・運用するかです。
就業規則の整備、申請フローの構築、定期的な面談といった仕組みを整えれば、副業はリスクではなく組織の強みになります。そして副業解禁は、一度制度を作れば終わりではありません。社員の働き方や価値観の変化に合わせてルールと運用を見直し続けることで、副業は社員にとっても組織にとっても、長期的な成長につながる施策になるでしょう。













