社保とは?社会保険のメリットや加入条件・手続きなど、基本知識まとめ

社保(社会保険)とは、労働者が生活する上で、必要な保険を提供する社会保障制度のひとつです。企業の正社員はもちろん、短期労働者でも一定の条件を満たすことで、加入が義務化されています。社保の加入条件や、必要な手続きなどを知っておきましょう。

社保とは?社会保険制度の仕組み

社保(社会保険)とは、労働者の病気やけがなどのリスクに備えて、一定の条件で加入が義務付けられている公的な保障制度です。まずは社会保険を構成する、さまざまな保険制度の種類を確認していきましょう。

社会保険の種類(広義と狭義)

社会保険には、健康保険や介護保険・厚生年金保険に加えて、労災保険と雇用保険があります。これらは広義の社会保険であり、狭義には健康保険・介護保険・厚生年金保険の3つを社会保険と呼称するのが一般的です。労災保険と雇用保険は、まとめて労働保険と呼ばれています。

健康保険・介護保険・厚生年金保険の保険料は、従業員と企業が折半するかたちで納付するのが特徴です。一方、労災保険は企業が従業員の分を全額負担する必要があり、雇用保険は一部従業員が負担するものの、多くは企業側が負担する仕組みになっています。

社保の健康保険と国民健康保険の違い

社会保険の一種である健康保険と、国民健康保険には多くの違いがあります。混同しがちな人も多いので、ここで基本的な知識を整理しておきましょう。

社保の従業員向けの健康保険は、全国健康保険協会(協会けんぽ)や健康保険組合が運営・提供しています。74歳までの正社員や、一定の条件を満たすアルバイトやパートなどの、短時間労働者が対象です。被保険者が病気やけがなどの際に、治療費の自己負担額を減らせるのに加えて、病気やけがで働けなくなった際の傷病手当金制度もあります。

一方、国民健康保険は各市区町村が運営・提供している制度で、社会保険に加入していない74歳以下の国民が対象です。自営業者やフリーランスなどは、国民健康保険に加入する必要があります。病気やけがなどの際、治療費の自己負担額を軽減できますが、傷病手当金などの仕組みはありません。

全体として、社保の健康保険の方が保障が手厚い傾向にあり、保険料も企業(雇用主)と従業員が折半するため、経済的な負担も軽くなります。

社保に加入するための条件

社保の加入条件について、従業員側・企業側のそれぞれの立場から具体的に解説します。従業員の加入手続きも企業側がする必要があるため、特に経営者や労務担当者などは、条件をよく理解しておきましょう。

従業員の加入条件

社会保険は企業に常時雇用されている従業員(正社員)は、原則として被保険者になります。企業の代表者や役員なども同様です。試用期間中の従業員の場合も、常時雇用を前提としているならば、被保険者とみなされます。

ただし従業員が70歳以上になると、健康保険の被保険者ではなくなり、後期高齢者医療制度の対象となります。70歳を期に厚生年金保険の適用からも除外され、保険料の納付も必要ありません。すでに厚生年金の受給資格がある人は、年金の受給が開始されます。

アルバイト・パートの加入条件は?

常時雇用の従業員(正社員)は原則として、社会保険の加入対象となりますが、アルバイトやパートなどの短期労働者も、次の条件を満たしていれば社会保険に加入が必要です。

  • 週の所定労働時間が20時間以上であること
  • 月額賃金が88,000円以上であること
  • 2カ月以上の勤務期間が見込めること
  • 学生の立場ではないこと
  • 従業員101人(※2024年10月からは51人)以上の企業に勤務していること

上記の条件を全て満たしていれば、アルバイトやパートでも社会保険に加入します。

出典:パート・アルバイトの皆さんへ 社会保険の加入対象により手厚い保障が受けられます。 | 政府広報オンライン

企業側の加入条件

社会保険への加入が義務化されている事業所は「強制適用事業所」と呼ばれ、法人は基本的に強制適用事業所となります。国や地方公共団体も同じ扱いで、個人事業の場合でも、常時5人以上の従業員を雇用している場合は強制適用事業所です。社会保険に必ず加入が求められます。

一方、従業員が5人未満の個人事業や、理容業・美容業・飲食店などの場合は、社会保険への加入が強制ではない「任意適用事業所」です。ただし、従業員の半数以上の同意があり、申請によって厚生労働大臣の認可を受けられれば、任意適用事業所でも社会保険に加入できるようになります。

出典:適用事業所と被保険者|日本年金機構

社保に加入するメリットは?

万が一の際に給付を受けられる

従業員が万が一の際、給付を受けられるのが社保の大きなメリットです。健康保険では病気やけがの場合に、医療費の一部が保険でカバーされるので、被保険者の自己負担額を大きく減らせます。また、仕事中の事故の治療費は労災保険が適用されるので、治療費の給付や休業補償などを受けられるのもメリットです。

さらに雇用保険の被保険者が失業した場合には、一定期間、給付金が支給されます。再就職や転職活動の間、給付金で生活を支えられるので、安心して仕事を探せるようになるでしょう。予期せぬ事態や将来のリスクに備えられるのが、社会保険の特徴です。

厚生年金により老後の生活を安定できる

社会保険の一種である厚生年金保険に加入すれば、老後に受け取れる年金の額が増えるので、生活の安定につながります。国民年金による基礎年金の額に加えて、厚生年金の金額を上乗せで受け取れるようになるので、社会保険に長く加入していれば、それだけ将来は経済的に安定しやすいでしょう。

基礎年金だけの場合、40年間保険料を納付し続けていたケースでも、月の年金受給額は約65,000円程度です。一方で厚生年金に加入している場合、この金額に加えて、さらに給付を受けられます。

例えば、平均的な月収が約30万円で、40年間厚生年金に加入していた場合、月に約100,000〜130,000円の給付があります。基礎年金と合わせれば、月に約165,000〜195,000円の給付となるので、経済的に安定した生活を送れるようになるでしょう。

あくまでも大雑把なシミュレーションですが、基礎年金だけの場合とでは、将来的に大きな差が出ることが分かります。

保険料の負担を軽くできる

従業員にとっては、納付すべき保険料の半分を会社が支払ってくれるため、経済的な負担を軽くできるのもメリットです。

民間の保険は当然ながら、被保険者が全ての保険料を負担し、万が一に備えるものです。一方、社会保険は公的な社会保障制度であり、保険料は原則として、被保険者である従業員と会社が折半して負担します。従業員は会社が納付してくれる分、保険料の負担が軽くなります。

また社会保険の保険料は、所得税や住民税の計算においても控除対象となるので、課税所得が減り、結果的に支払う税金が安くなる点もメリットといえるでしょう。

従業員が安心して働ける

会社側も、従業員をきちんと社会保険に加入させることで、従業員が安心して仕事ができるようになり、モチベーションや生産性の向上につながります。正社員はもちろん、条件を満たしたアルバイトやパートも必ず社会保険に加入させましょう。

社会保険への加入は義務であり、加入が必要であるにもかかわらず手続きをしていないと、最終的に罰則を受ける可能性があります。企業の社会的責任でもあるので、きちんと義務を履行して、組織としての信頼性を高めましょう。

社保に加入するための手続き

社保に加入するために必要な手続きも解説します。加入条件を満たす従業員を雇用した際には、以下のように速やかに資格取得の手続きをしましょう。逆に、従業員が被保険者の資格を喪失した場合などにも、手続きが必要です。

資格取得に必要な手続き

社会保険の加入条件を満たす従業員がいる場合は、条件を満たす事実が発生した日から、5日以内に「被保険者資格取得届」を提出しなければいけません。提出先は年金事務所や事務センターです。

企業が正社員を雇用した際には、必ず社会保険への加入が必要となるので、期限内にきちんと手続きをする必要があります。届け出の際には、当該従業員の基礎年金番号またはマイナンバーが求められるので、事前に用意してもらいましょう。

また、社会保険に加入する従業員に被扶養者がいる場合には、同時に「健康保険 被扶養者(異動)届(国民年金第3号被保険者関係届)」も提出します。当該従業員が社会保険に加入後、結婚・離婚などで被扶養者が増えたり減ったりした場合にも、届出が必要です。

出典:従業員を採用したとき|日本年金機構

資格喪失の手続き

社会保険に加入していた従業員が退職した場合には、年金事務所や事務センターに「被保険者資格喪失届」を提出しなければいけません。アルバイトやパートなどの従業員が、労働時間や勤務日数などにより、加入条件を満たさなくなった場合にも提出が必要です。

提出期限は「被保険者資格取得届」と同様、従業員が退職するなど、条件を満たさなくなった事実が発生した日から5日以内です。

なお、協会けんぽの健康保険に加入していた場合には、資格の喪失にあたり、健康保険被保険者証の返却も求められます。忘れないように注意しましょう。

出典:従業員が退職、死亡したとき|日本年金機構

社保に加入する際の問題点

上記のように社保に加入することで、従業員は多くのメリットを得られます。しかし一方で、以下の問題も起こり得るので、従業員の意向をよく確認した上で、加入条件を満たすべきか検討しましょう。

従業員の手取りが減るケースがある

これまで、扶養の範囲で働いていた人が社会保険に加入した場合、保険料が給料から天引きされるかたちで納付されます。その結果、扶養の範囲で働いていた場合と比較して、手取り額が減ってしまうケースが珍しくありません。

従業員によっては、社会保険の仕組みをよく知らないこともあります。社会保険の加入義務が発生した場合、保険料の納付が必要になる点や、その分だけ手取りが減ってしまう点については、きちんと説明をするようにしましょう。

社保に加入したくない従業員もいる

社会保険のメリットを理解しているかどうかにかかわらず、アルバイトやパートの従業員の中には、社保に加入したくないと考えている人もいます。その理由の多くは上記のように、保険料の納付義務が発生することで、手取りが減ってしまうことです。

特に配偶者の扶養に入っている人の場合、扶養を外れて社保に加入すると、保険料が自己負担となります。会社からの入金額が目に見えて減ってしまうため、扶養内で働き続けることを希望する人は多くいます。

社保に加入したくない従業員を雇用する場合は、労働時間や日数などが扶養内に収まるように、雇用契約を結ぶことも可能です。ただし、社保に加入するメリットもきちんと説明した上で、最適な道を考えることが重要です。

社保の任意継続制度とは?

基本的に、企業に雇用されていた従業員が退職する場合、被保険者の資格を喪失します。しかし、健康保険と介護保険に関しては、任意継続制度を利用できます。任意継続制度とは、退職によって健康保険から国民健康保険に切り替わるところを、2年間は社保の健康保険の加入を続けられるものです。

ただし退職までに2カ月以上、健康保険に加入していることが条件で、退職後は会社側が負担していた保険料も自己負担となります。

制度を利用する場合は、加入している健康保険の運営団体に対して「健康保険任意継続被保険者資格取得申出書」を提出します。社会保険の資格を喪失してから、20日以内に申請する必要があるので、注意しましょう。

出典:健康保険任意継続制度(退職後の健康保険)について | よくあるご質問 | 全国健康保険協会

社会保険のルールを把握して働きやすい環境作りを

社保(社会保険)は常時雇用の従業員の場合、必ず加入する必要があります。アルバイトやパートの場合も、一定の条件を満たしているならば、加入義務があるので、会社側は必ず手続きをしなければいけません。

従業員によっては、保険料の納付で手取りが減ってしまうため、社保に加入せずに働きたいと考える人もいます。労働時間や日数を調整して雇用契約を結ぶことで、あえて社保に加入させない方法もありますが、加入のメリットもきちんと伝えるようにしましょう。従業員にとって最適な働き方を提示することが大事です。

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