モラハラが職場で起こったらどうする?具体例や対処法、防止策を解説
近年ニュースなどでよく話題に上るモラハラ(モラルハラスメント)は、職場の人間関係を悪化させ、業務効率の低下や離職率の上昇につながる深刻な問題です。モラハラの定義や具体例を解説するとともに、発生時の適切な対処法や効果的な防止策を紹介します。職場からモラハラを一掃する参考にしてください。
職場におけるモラハラの定義について
モラハラは、近年ニュースになることも多く、モラハラが発生した企業はイメージ低下を免れません。経営者にとって、社内のモラハラは深刻な問題といえるでしょう。
モラハラをなくすためにも、まずはモラハラの定義を正しく理解し、セクハラやパワハラとの違いを認識することで、職場での対策をより効果的に進めることができます。
モラハラとは?
モラハラ(モラルハラスメント)とは、モラルに反した言動を繰り返し行うことで、相手の人格や尊厳を傷つけ、精神的苦痛を与える行為を指します。
職場でのモラハラは、直接的な暴力や暴言を伴わないことが多く、第三者には判断しにくいのが特徴です。精神的に相手を傷つけるため、言葉のDVと呼ばれることもあります。
セクハラ・パワハラとの違い
モラハラは、セクハラやパワハラと混同されがちですが、それぞれに明確な違いがあります。
セクハラは性的な言動による嫌がらせ、パワハラは職務上の地位や人間関係の優位性を背景にした言動による嫌がらせを指します。
一方、モラハラは必ずしも性的な要素や上下関係を含まず、職場だけでなく、家庭や学校など様々な環境で発生する可能性があるのが特徴です。同僚間や部下から上司に対しても起こり得ます。
モラハラの具体例
具体的にどのような行為がモラハラに該当するのか、典型的な例を挙げて解説します。これらの例を参考に、自社の職場環境を見直してみましょう。
相手からの連絡や発言を無視する
特定の従業員からの連絡や発言を意図的に無視することは、典型的なモラハラの一例です。例えば、メールやチャットでの問い合わせに返信しない、会議中の発言を聞き流す、直接話しかけられても応答しないといった行為が該当します。
こうした行為は、単に不快感を与えるだけでなく、被害者の業務パフォーマンスにも直接的な悪影響を及ぼし、結果的に組織全体の生産性低下にもつながる可能性があります。
仕事の邪魔をする
モラハラの加害者は、被害者の仕事の進行を妨げるような行為を意図的に行うことがあります。
例えば、必要な資料や情報を適切なタイミングで提供しない、締め切りぎりぎりまで重要な指示を出さない、または過度に細かい指示や頻繁な変更要求により業務の効率を下げるといった行為が挙げられます。
また被害者の能力や実績を無視して不当に低い評価を下したり、逆に能力以上の難しい仕事を押し付けたりすることで、精神的なプレッシャーを与えることもあります。
私生活に干渉する
休日や勤務時間外に頻繁に連絡をしてくる、プライベートな予定を無視して突然の出勤や残業を要求する、または個人的な人間関係や趣味に対して不必要な批判や干渉を行うといった行為もモラハラです。
行き過ぎたケースでは、SNSなどを通じて私生活の監視を行ったり、家族や友人関係にまで介入したりすることもあります。私生活にまで過度に干渉する行為は従業員のワークライフバランスを著しく損ない、精神的な負担を増大させます。
仕事以外の要素を否定する
モラハラの一形態として、従業員の仕事以外の要素を否定したり、批判したりする行為があります。例えば、出身地や学歴、家族構成、趣味や特技などを理由に、その人の価値をおとしめるような発言をすることが挙げられます。
「あなたの出身大学では、このレベルの仕事は無理だろう」といった発言は、仕事の能力とは無関係な要素で人を判断する典型的なモラハラです。
また、「家庭を持っている人は仕事に集中できないはずだ」といった偏見に基づく発言や、「そんな趣味では社会人として恥ずかしい」といった個人の好みを否定する言動も、モラハラに該当します。
モラハラが起こりやすい職場の特徴
モラハラは、特定の職場環境下で発生しやすい傾向があります。自社の状況を客観的に分析し、モラハラが起こりやすい要因がないか確認することが重要です。
モラハラの対策を先送りしている
モラハラ対策を後回しにしている組織は、問題が深刻化するリスクが高まります。例えば、「うちの会社にはそんな問題はない」という過信や、「多少のことは仕方ない」といった諦めの姿勢がまん延している職場では、モラハラが見過ごされやすくなります。
また、対策の必要性は認識していても、「忙しくて手が回らない」「どう対処すればいいかわからない」といった理由で具体的な行動を起こせていない場合も危険です。
このような状況下では、小さな問題が徐々に拡大し、気付いたときには組織全体に悪影響を及ぼす大きな問題に発展している可能性があります。モラハラ対策は、早期に着手することが極めて重要です。経営層が率先して問題意識を持ち、具体的な対策を講じる姿勢を示すことで、従業員全体の意識改革につながります。
閉鎖的な環境下にある
長年同じメンバーで仕事をしている部署や、外部との交流が少ない職場では、特定の価値観や行動様式が固定化しやすく、それに合わない人物が排除されるリスクが高まります。
加えて人間関係が固定化され、上司や仕事のできる同僚などに意見を言いづらい雰囲気が醸成されることで、モラハラが見過ごされやすくなります。
さらに、情報共有が不十分な環境では、特定の個人や集団が情報を独占し、それを利用して他者をコントロールするような状況も生まれやすくなります。モラハラを防ぐには、職場の風通しを良くすることも重要です。
モラハラを放置するとどうなる?
モラハラを放置することは、個人だけでなく組織全体に深刻な影響を及ぼします。具体的にどのような問題が発生する可能性があるのか、詳しく見ていきましょう。
従業員が職場を訴えるケースもある
長期間のモラハラにより精神的苦痛を受けたとして、会社や加害者個人に対して損害賠償を請求するといった訴訟が起こされることがあります。
労働契約法第5条は以下のような条文となっています。
「第五条 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」企業は、労働者が安全に働ける環境を用意することが法律で義務付けられており、モラハラの排除もその一環といえるでしょう。
実際に、モラハラを理由とした訴訟で会社側が敗訴するケースも増加しています。裁判所は、企業に対してモラハラ防止のための適切な措置を講じる義務があると判断する傾向にあり、問題を放置していた場合、企業の責任が問われる可能性が高くなります。
離職率が高まる
直接的な被害者だけでなく、モラハラを目撃した従業員も、職場環境に不安を感じて転職を考えるようになります。特に優秀な人材ほど、健全な職場環境を求めて他社へ流出するリスクが高くなります。
高い離職率は、単に人材の損失というだけでなく、採用・教育コストの増加、業務の継続性や質の低下、残された従業員のモチベーション低下など、多岐にわたる問題を引き起こします。
企業イメージが低下する
モラハラ問題が表面化すると、企業イメージの著しい低下を招く可能性があります。SNSの普及により、社内の問題が瞬時に外部に拡散されるリスクが高まっています。
モラハラの事例がSNSで拡散されれば、たとえ一部の従業員による行為であっても、企業全体の評判を損なう結果となりかねません。
イメージの低下は、顧客離れや取引先との関係悪化、株価の下落など、ビジネス面での直接的な悪影響をもたらします。
さらに「ブラック企業」というレッテルを貼られれば、優秀な人材の採用が困難になり、長期的な競争力の低下につながるでしょう。
モラハラが起きた場合の対処法
モラハラが発生した場合、迅速かつ適切な対応が求められます。問題の深刻化を防ぎ、健全な職場環境を取り戻すために、以下の手順に従って対処しましょう。
事実確認を行う
モラハラの疑いが生じた場合、まず徹底的な事実確認を行うことが重要です。この段階では、被害者とされる従業員から詳細な状況を聴取するとともに、加害者とされる従業員からも事情を確認します。
また、周囲の従業員からも客観的な情報を収集し、事態の全容を把握することが必要です。
事実確認の際は、中立的な立場を保ち、先入観を持たずに双方の言い分を丁寧に聞くことを心掛けましょう。その際、プライバシーに配慮し、聞き取りは個別に行うなど、二次被害を防ぐための配慮も必要です。
収集した情報は、日時や具体的な言動など、できるだけ詳細に記録します。この記録は、今後の対応や再発防止策の検討にも活用できます。
規則に基づいて速やかに対処する
事実確認の結果、モラハラの事実が認められた場合は、就業規則や社内規定に基づいて速やかに対処します。
具体的な対応としては、加害者への処分(懲戒処分など)、被害者の保護(配置転換や休暇の付与など)、再発防止に向けた措置(研修の実施や規定の見直しなど)が挙げられます。対応の遅れは問題の深刻化や被害の拡大につながるため、迅速に行動しましょう。
対応の際は、一貫性と公平性を保つことが重要です。加害者の役職や年齢、社内の立場によって処分が変わるようなことはあってはなりません。従業員からの信頼を大きく損ないます。
過去の類似事例との比較や、人事部門・法務部門との連携により、加害者の役職や立場に関係の無い、適切な対応を決定しましょう。対応の経緯や理由を明確に記録し、必要に応じて関係者に説明できるようにしておくことも大切です。
再発防止のフォローを行う
モラハラ事案への対処後は、再発防止に向けたフォローアップが不可欠です。まず、被害者のケアを十分に行い、心身の回復をサポートします。
必要に応じて、産業医やカウンセラーとの面談を設定するなど、専門家のサポートを受けることも検討しましょう。加害者に対しても、行為の背景にある問題点を理解させ、改善に向けた指導を行います。
職場全体に対しても、モラハラ防止の重要性を再認識させるための取り組みを行います。例えば、モラハラに関する研修の実施、相談窓口の周知徹底、職場環境の改善などが挙げられます。
定期的なアンケートやヒアリングを通じて、職場の雰囲気や人間関係の変化を継続的にモニタリングすることも、モラハラの再発防止に効果的です。
モラハラを防ぐには?
モラハラの発生を未然に防ぐためには、組織全体で継続的な取り組みを行うことが重要です。以下に、効果的な予防策をいくつか紹介します。
ハラスメント研修の実施
定期的なハラスメント研修は、モラハラ防止の基本となる重要な施策です。研修では、モラハラの定義や具体例、法的リスク、そして防止のための具体的な行動指針などを学びます。
特に管理職向けの研修では、部下からの相談への対応方法や、モラハラを見逃さないための観察ポイントなどを重点的に扱いましょう。
従業員だけではなく、パートやアルバイトなど、全従業員に対して行うことが重要です。
定期的な調査
職場におけるモラハラの実態を把握し、早期に対策を講じるためには、定期的な調査が欠かせません。匿名性を確保したアンケート調査や、人事部門による個別面談などを通じて、従業員の声を広く集めます。調査では、具体的なモラハラ行為の有無だけでなく、職場の雰囲気や人間関係の満足度など、幅広い観点から情報を収集します。
調査結果は、経営層や管理職と共有し、問題点の分析や改善策の検討に活用します。また、調査結果の概要を従業員にもフィードバックすることで、組織全体のモラハラに対する意識向上につながります。
定期的な調査を継続することで、対策の効果を測定し、より効果的な防止策の立案にも役立ちます。
相談窓口の設置
従業員がモラハラに関する悩みや疑問を安心して相談できる窓口の設置は、予防と早期発見の両面で重要です。
相談窓口の存在を従業員に広く周知し、利用を促進することが重要です。また、相談員のスキルアップを図り、適切な対応ができるよう定期的なトレーニングを実施します。実際に相談があった場合に的確に対処できるように準備を整えましょう。
相談窓口は、相談者のプライバシーを最大限に保護できる体制を整えることが望ましいです。相談窓口で対応できない問題に対しては、事業者向けの相談窓口の利用についても検討しましょう。
モラハラを一掃し快適な職場環境をつくる
モラハラの防止と対策は、経営者や人事担当者だけでなく、全従業員が一丸となって取り組むべき重要な課題です。健全な職場環境は、従業員の満足度と生産性を高め、企業の持続的な成長につながります。
モラハラのない職場づくりは、単に問題を解決するだけでなく、企業の競争力強化にもつながる重要な経営課題です。社を挙げての継続的な取り組みにより、誰もが安心して働ける、活力ある職場環境を実現しましょう。