出向とは何か?在籍出向制度の目的・メリット・注意点を解説

人材の流動化と組織間連携が重要視される現代において、出向制度は注目すべき人事戦略の一つです。出向制度を適切に運用すれば、人材育成、組織強化、企業間連携など多方面でのメリットを享受できるでしょう。本記事では、出向制度の基本から実務運用まで、人事・経営企画に携わる担当者が知っておくべき重要なポイントを網羅的に解説します。

出向とは何か?基本から理解する

出向制度は、グループ企業間での人材交流や、事業提携先との連携強化など、さまざまな場面で活用されています。しかしながら、出向は経営者が理解していないと、従業員のモチベーションを下げるだけでなく、最悪の場合は法律に違反することも考えられるのです。

出向制度をうまく活用するため、まずは出向の基本的な仕組みから確認していきましょう。

出向の定義と基本的な仕組み

出向とは、労働者が所属企業(出向元)に在籍しながら、他の企業(出向先)で一定期間働く人事制度のことです。

例えば、親会社のマネージャーが子会社の事業立ち上げを支援するため、2年間の期限付きで子会社に出向するケースなどが該当します。

この場合、給与の支払いや社会保険の取り扱いについては、出向契約で詳細を定めることになるでしょう。

在籍出向と転籍出向の違い

出向には大きく分けて「在籍出向」と「転籍出向」の2種類があります。それぞれの特徴を整理してみましょう。

項目

在籍出向

転籍出向

出向元との関係

労働契約継続

労働契約終了

復帰の可能性

原則として復帰予定

基本的に復帰なし

給与の支払い

出向元または出向先

出向先のみ

退職金の取り扱い

出向元で継続計算

出向元で精算

在籍出向は、出向元企業との雇用関係を維持したまま行われる一時的な人事異動です。将来的に元の職場に戻ることを前提としており、グループ会社間での人材育成や経験蓄積を目的とするケースが多いでしょう。

一方、転籍出向は出向元との労働契約を終了し、出向先企業と新たな労働契約を結ぶ制度です。実質的には転職に近く、組織再編や事業譲渡に伴って実施されることが一般的です。

派遣や左遷との違い

出向制度を正しく理解するためには、類似する人事制度との違いを把握することが重要です。

派遣との違い

  • 派遣は派遣会社との雇用関係のみ
  • 出向は出向元企業との雇用関係が継続
  • 派遣は労働者派遣法の適用を受ける
  • 出向は労働契約法や労働基準法が適用

左遷との違い

  • 左遷は懲戒的な人事異動
  • 出向は戦略的な人材活用が目的
  • 左遷は待遇の悪化を伴うことが多い
  • 出向は原則として不利益変更を避ける

出向は単なる人事異動ではなく、企業戦略に基づいた前向きな人材活用手法として位置付けられるべきでしょう。そのため、労働者にとって不利益とならないよう、十分な配慮が必要です。

出向のメリットとデメリット

出向制度の導入を検討する際は、そのメリットとデメリットを正確に把握することが重要です。組織全体の視点から、出向がもたらす効果と注意すべきリスクを整理してみましょう。

出向のメリットとは?

出向制度の適切な運用により、企業は多面的なメリットを得ることができます。人材育成の面では、異なる企業文化や業務環境での経験蓄積、新たなスキルや知識の習得機会、マネジメント能力の向上、視野の拡大と多角的思考力の養成が期待できます。

組織間連携では、グループ企業間の結束力向上、事業提携先との関係深化、情報共有の円滑化、協力体制の構築が可能です。

人件費の最適化として、繁忙期の人員調整、専門スキルを持つ人材の有効活用、新規事業立ち上げ時の即戦力確保、余剰人員の有効活用などの効果があるでしょう。

出向のデメリット

出向制度には注意すべきデメリットやリスクも存在します。労働者側では、職場環境の変化によるストレス、キャリア形成への不安、家族への影響、人間関係の再構築が必要といった課題があります。

企業側では、優秀な人材の一時的な流出、出向に伴う事務手続きの煩雑さ、労務管理の複雑化、法的トラブルのリスクといった問題が生じる可能性があります。

特に、出向命令が労働者の同意なく一方的に行われた場合、労働契約法第14条違反として無効となる可能性があるでしょう。

これらのデメリットを最小限に抑えるためには、事前の十分な説明と合意形成、適切な出向契約の締結、定期的なフォローアップが欠かせません。

参考:労働契約法第14条|e-Gov 法令検索

出向制度の目的と活用シーン

出向制度を効果的に活用するためには、その目的を明確にし、適切な場面で実施することが重要です。ここでは、代表的な活用シーンとその効果について詳しく見ていきましょう。

人材育成とキャリア形成の手段としての出向

出向制度の最も重要な目的の一つが、人材育成とキャリア形成の支援です。若手・中堅社員には、異なる業界や職種での実務経験、新しいビジネスモデルの理解、多様な価値観や働き方への適応力向上といった効果があります。

管理職に対しては、経営責任の体験、組織マネジメントスキルの向上、危機管理能力の養成、ステークホルダーとの調整能力向上といった機会を提供できるでしょう。

専門スキルの面では、最新技術や手法の学習、業界トレンドの把握、ネットワークの構築、イノベーション創出能力の向上が期待できます。商社業界では若手社員を投資先企業に出向させ、事業運営の実務経験を積ませるケースが多く見られているのです。

企業間の関係強化と業務支援

出向制度は、企業間連携の強化と相互支援においても重要な役割を果たします。グループ企業間では、統一された企業文化の浸透、グループ戦略の理解促進、シナジー効果の創出、情報共有体制の構築が可能です。

持株会社制を採用する企業グループでは、本社の戦略企画スタッフを傘下企業に出向させるケースが一般的でしょう。事業提携先との関係では、技術移転の促進、ノウハウの共有、共同プロジェクトの推進、信頼関係の構築といった効果があります。

業務支援の面では、専門知識を持つ人材の派遣、繁忙期の人員補強、新規事業立ち上げ支援、システム導入等のプロジェクト支援が可能になるのです。

出向に関する法的・労務的な注意点

出向制度を適切に運用するためには、関連する法律や規制を正しく理解し、コンプライアンスを確保することが不可欠です。ここでは、特に重要な法的・労務的な注意点について解説します。

出向契約に定める主な項目

出向を実施する際は、出向元企業と出向先企業の間で出向契約を締結する必要があります。

出向契約の必須項目

  • 出向の目的と期間
  • 職務内容と職位
  • 指揮命令関係
  • 給与の負担区分
  • 労働時間と休日
  • 社会保険の取り扱い
  • 出向の解除条件

労働条件に関する取り決め

  • 昇進・昇格の取り扱い
  • 退職金の計算方法
  • 福利厚生の適用
  • 秘密保持に関する事項

労働者側が一方的に不利になるような出向命令は禁止

労働契約法第14条では、出向命令の権利濫用を禁止しています。権利濫用となる可能性が高いケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

  • 業務上の必要性が認められない出向
  • 出向対象者の選定に合理性がない
  • 労働条件の著しい悪化を伴う出向
  • 労働者の同意を得ていない出向

また、適法な出向命令の要件には、労働者の同意として事前の十分な説明、労働条件の維持として不利益変更の回避が必要です。

出向命令を行う際は、労働者に対して十分に説明し、家族の事情や健康状態等の個人的な事情にも配慮することが重要でしょう。

参考:労働契約法第14条| e-Gov 法令検索

あらかじめ労働条件を明示する必要がある

労働基準法第15条に基づき、出向に際しては労働条件を明示する義務があります。明示すべき労働条件は以下の通りです。

  • 労働契約の期間
  • 就業場所および従事する業務
  • 始業・終業時刻、休憩時間、休日
  • 賃金の決定、計算・支払方法、締切日・支払時期
  • 退職に関する事項

明示の方法は書面による交付が原則で、労働者の同意があれば電子メールも可能です。出向辞令および出向契約書での明示が一般的でしょう。

労働条件の明示を怠った場合、労働基準法違反として罰則の対象となる可能性があるため、人事部門と法務部門が連携し、適切な手続きの実施を徹底することが重要です。

参考:労働基準法第15条 | e-Gov 法令検索

出向制度を適切に活用し人材を育成する

出向制度の成功には、適切な制度設計と運用が欠かせません。しかし、多くの企業では制度の構築から運用管理まで、さまざまな課題に直面しているのが現状でしょう。

出向制度は、適切に設計・運用すれば企業の人材戦略において強力な武器となります。法的な要件を満たしながら、組織と個人の双方にメリットをもたらす制度として活用していくことが、現代の人事管理において重要な課題といえます。

著者情報

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