アンダーマイニング効果とは?モチベーション低下の原因と防ぐための対策
企業が従業員のモチベーションを高めようと報酬やインセンティブを導入したものの、期待した成果が得られなかったり、むしろやる気を低下させる結果になったことはありませんか?その原因のひとつが「アンダーマイニング効果」です。本記事では、アンダーマイニング効果のメカニズムや発生要因を解説し、それを防ぐための具体的な対策や報酬設計のポイントを紹介します。
アンダーマイニング効果とは何か
社員のモチベーションを高めるために、給与やインセンティブを導入している経営者は多いでしょう。しかし、金銭的な報酬が必ずしも社員のやる気を引き出すとは限りません。むしろ、もともと意欲的に取り組んでいた仕事でも、「報酬のためにやるもの」と認識された途端に、熱意が低下してしまうことがあります。これが「アンダーマイニング効果」です。
この章では、アンダーマイニング効果のメカニズムと、経営者が取るべき対策について解説します。
アンダーマイニング効果の定義と背景
アンダーマイニング効果は、1970年代の心理学研究において初めて提唱されました。エドワード・デシらの研究によると、人は自発的に行っている行動に対して外的報酬が加わると、元々持っていた内発的動機が低下する傾向があるとされています。
これは、報酬が「行動の理由」を変えてしまうためです。例えば、子どもが純粋に楽しんでいたお絵描きに対して「上手に描けたらお小遣いをあげる」と言うと、子どもは次第に「報酬のために描く」という意識に変わり、やがて報酬なしでは楽しめなくなるという現象が観察されました。
企業においても同様のことが起こります。営業職が顧客満足のために尽力していたのに、成果報酬制度が導入されたことで「成績のために働く」という意識に変わり、顧客本位の行動が減るといったケースが考えられます。このように、外的報酬が本来の動機を変質させ、結果としてモチベーションを低下させるのがアンダーマイニング効果です。
内発的動機づけと外発的動機づけの違い
動機づけには「内発的動機」と「外発的動機」の2種類があります。
- 内発的動機:個人の興味や楽しさ、達成感に基づくやる気。例えば、プログラマーが新しい技術を学ぶこと自体が楽しいと感じる場合、その活動は内発的動機によって支えられています。
- 外発的動機:外部からの報酬や評価によって生じるやる気。例えば、ボーナスや昇進を目的に仕事をする場合は、外発的動機による行動です。
内発的動機と外発的動機のバランスを適切に取ることが、アンダーマイニング効果を防ぐための重要なポイントとなります。
アンダーマイニング効果が起こる原因
社員の自主性を高めたいのに、報酬制度が逆効果になってしまう原因を理解することは、経営者にとって重要です。アンダーマイニング効果が発生する背後には、外的報酬が内発的動機を損なう心理的メカニズムがあります。本章では、具体的な要因を掘り下げ、組織運営において注意すべきポイントを解説します。
外的報酬が内的動機を損なうメカニズム
外的報酬が内発的動機を低下させる現象は、心理学において広く研究されています。特にエドワード・デシの実験では、報酬を受け取った被験者は、受け取らなかった被験者に比べて、その活動への興味を失いやすいことが示されています。
この現象は、報酬が「楽しみ」や「興味」といった内発的な理由ではなく、「お金のためにやる」という外的な理由へと行動の動機を変質させるために起こります。
例えば、企業においては、従業員が「新しいプロジェクトに挑戦することが楽しい」と思っていた場合、純粋な興味から積極的に取り組むでしょう。
しかし、そこに高額な報酬が設定されると、「報酬のためにやる」と認識が変わり、報酬がなくなったときにやる気を失ってしまう可能性があります。これがアンダーマイニング効果のメカニズムです。
自己決定感と有能感の低下
アンダーマイニング効果が起こるもう一つの要因に、自己決定感(自分で選択している感覚)と有能感(自分の能力を発揮できている感覚)の低下があります。これは、心理学者エドワード・デシとリチャード・ライアンによる「自己決定理論(Self-Determination Theory,SDT)」に基づく考え方です。
人は、自分の意志で行動していると感じるときに、最も意欲的に取り組むことができます。しかし、報酬が強調されると、行動が「外部から強制されているもの」と認識され、自己決定感が低下します。
さらに、報酬の条件が細かく設定されすぎると、従業員は「決められた基準を満たせばいい」と考え、創造性や主体性が失われることがあります。
過度な監視や評価がもたらす影響
アンダーマイニング効果は、監視や評価のあり方にも大きく影響を受けます。上司や経営陣が従業員の仕事を細かく管理しすぎると、従業員は「信頼されていない」「自由に動けない」と感じ、意欲が低下する可能性があります。
具体的には、毎日の業務報告を細かく求められたり、ミスを厳しく指摘されたりすると、従業員は「評価されるために仕事をする」という意識になりがちです。
その結果、創造的なアイデアを出すよりも、失敗を避けるために最低限の業務しか行わなくなる可能性があります。
アンダーマイニング効果を防ぐ方法
アンダーマイニング効果を防ぐためには、内発的動機を高めることが重要です。具体的に企業が取り組むべき方法について解説します。
内発的動機づけを高めるアプローチ
従業員の内発的動機を高めるには、「自律性」「有能感」「関係性」の3つの要素を重視することが有効です。これは、自己決定理論に基づいたアプローチであり、内発的なやる気を引き出す基本的な考え方です。
- 自律性:従業員が仕事の進め方をある程度自由に決められる環境を整える。
- 例:タスクの選択肢を与える、柔軟な働き方を認める。
- 有能感:自分のスキルや能力を活かし、成長を実感できる機会を提供する。
- 例:スキルアップのための研修やプロジェクト参加の機会を増やす。
- 関係性:チームや組織とのつながりを強化し、職場の協力的な文化を育む。
- 例:上司や同僚とのコミュニケーションを促進し、承認や感謝の言葉を伝える。
適切なフィードバックと報酬の設計
アンダーマイニング効果を防ぐためには、報酬の与え方やフィードバックの工夫が重要です。特に、内発的動機を損なわないような報酬の設計が求められます。
まず、報酬を成果ではなくプロセスに基づいて与えることが効果的です。多くの企業では、目標達成に対する金銭報酬が一般的ですが、これは内発的なやる気を低下させる可能性があります。
そこで、努力や創意工夫を評価する仕組みを導入することで、モチベーションを持続させることができます。例えば、「新しいアイデアを積極的に提案したことを評価する」ような制度を取り入れることで、創造的な取り組みを促進できます。
また、フィードバックの質も重要な要素です。ただ結果を伝えるのではなく、成長を促す前向きな言葉を意識しましょう。「この部分はとても良かった。さらにこうするともっと良くなるよ」と具体的な改善点を示したり、「新しい視点を取り入れた提案が素晴らしい」と努力を評価することで、従業員は自己成長を実感しやすくなります。
特に、定期的な1on1ミーティングやメンター制度を活用することで、継続的なフィードバックが可能になります。
エンハンシング効果の活用
エンハンシング効果とは、適切な報酬の与え方によって外的報酬が内発的動機を強化する現象を指します。アンダーマイニング効果とは逆の現象であり、企業が適切に活用することで、報酬をモチベーション向上につなげることが可能です。
この効果を引き出すためには、報酬を単なる対価ではなく、個人の成長や組織への貢献と結びつけて伝えることが重要です。
例えば、「売上達成の報酬」として支給するのではなく、「あなたの努力がチームの成功に貢献したため、感謝を込めて報酬を支給する」と伝えることで、従業員は自分の価値を実感し、さらなる意欲につながります。
報酬設計は適切に行うことが重要
アンダーマイニング効果を防ぐためには、企業が報酬制度を適切に設計し、従業員の内発的動機を損なわないよう配慮することが不可欠です。
外的報酬が強調されすぎると、本来の楽しさや興味が薄れ、やがて報酬の有無によって行動が左右されるようになります。そのため、報酬を単なる成果の対価として与えるのではなく、従業員の努力や成長を認める手段として活用することが重要です。
また、報酬の伝え方によっても従業員のモチベーションは大きく変わります。加えて適切なフィードバックや成長機会の提供も、アンダーマイニング効果を防ぐ上で欠かせません。単なる成果主義ではなく、プロセスや努力を評価する文化を醸成することで、従業員のモチベーションを持続させることができます。
企業がこうした工夫を取り入れることで、従業員のやる気を引き出し、持続的なパフォーマンス向上を実現できるでしょう。