忌引とは?人事担当が押さえておきたい社内制度の決め方を解説
忌引休暇は法定休暇ではないため、企業が独自に制度設計を行う必要があります。しかし、適切なルールを整備しておかなければ、いざというときにトラブルが発生する可能性も低くありません。本記事では、忌引休暇の基本的な知識から具体的な制度設計のポイント、よくある疑問への対応方法まで詳しく解説します。
忌引休暇の基礎知識
忌引休暇を適切に運営するためには、まず基本的な概念を正しく理解することが重要です。また、混同されがちな有給休暇との違いについても明確にしておく必要があるでしょう。
そもそも忌引とは
忌引とは、家族や親族が亡くなった際に、葬儀への参列や諸手続きのために仕事を休むことを指します。「忌」は死者を悼み慎む期間、「引」は身を引くという意味で、古くから日本の慣習として根付いています。
忌引休暇は、企業が従業員の福利厚生として独自に定める特別休暇の一種です。労働基準法などで義務付けられているわけではないため、制度の有無や内容は企業の判断に委ねられています。
忌引休暇と有給休暇の違い
忌引休暇と有給休暇は、どちらも従業員が仕事を休む際に利用する制度ですが、その性質は大きく異なります。
重要な違いとして、有給休暇は従業員の法的権利である一方、忌引休暇は企業の任意の制度という点があります。そのため、忌引休暇を設けていない企業では、家族の不幸があった場合でも有給休暇を使用することになります。
一方で忌引休暇を導入している企業では、従業員にとって有給休暇を温存できるメリットがあります。これは従業員の働きやすさ向上につながる重要なポイントです。
忌引休暇を導入する際に検討すべき内容
忌引休暇制度を設計する際には、複数の要素を総合的に検討する必要があります。制度の詳細をあらかじめ明確にしておくことで、運用時のトラブルを防げるでしょう。
休暇期間
忌引休暇の期間設定は、故人との続柄によって段階的に設定するのが一般的です。
一般的な休暇日数の目安としては以下のとおりです。
- 配偶者:10日程度
- 父母:7日程度
- 子:5日程度
- 兄弟姉妹:3日程度
- 祖父母:3日程度
- 配偶者の父母:3日程度
- その他の親族:1日程度
土日祝日の扱いについても明確にしておく必要があります。連続日数に含めるか、労働日のみとするかによって実際の休暇期間が変わってくるためです。
有給・無給
忌引休暇を有給とするか無給とするかの決定は、企業の人事戦略や財務状況を考慮して行う重要な判断です。主な選択肢として、特別休暇として有給にする方法、無給扱いにする方法、欠勤扱いとして年次有給休暇の取得を推奨する方法があります。
無給の場合は従業員にとって収入減がストレスとなる可能性があるため、慎重な検討が必要です。決定の際は、従業員の意見や労働組合との協議を踏まえて就業規則に明記し、全従業員に周知することが重要です。
段階的なアプローチとして、配偶者や両親は有給、その他の親族は無給といった設定も考えられます。企業の規模や業界慣行、従業員のニーズを総合的に判断して決定しましょう。
給付金の有無
忌引休暇に加えて、弔事に関する給付金制度を設ける企業も多くあります。こちらも法律上の義務はないため、自社の財政状況等に合わせて設定することが重要です。
忌引き休暇と同様に、続柄や業務上の影響に応じて段階的に設定している企業も多くあります。
給付金制度は従業員にとって大きな支援となりますが、企業の負担も考慮した適切な設計が重要です。
申請方法
忌引休暇の申請手続きを明確化することで、スムーズな制度運用が可能になります。以下のような項目を設定し、提出届をフォーマット化しておくと便利です。
申請に必要な項目:
- 申請者の基本情報:氏名、所属部署、従業員番号
- 故人との続柄:休暇日数の根拠となる重要な情報
- 死亡年月日:休暇期間の起算日を確定
- 葬儀日程:必要に応じて葬儀スケジュールの確認
- 連絡先:緊急時の連絡が取れる電話番号
申請手続きは、従業員の心理的負担を考慮して可能な限りシンプルにすることが重要です。緊急性の高い制度であることを踏まえ、柔軟な対応も必要でしょう。
以下のフォーマットを参考にしてみてください。
忌引休暇申請書 申請日: 年 月 日 所属部署: 氏名: 従業員番号: 故人との続柄: 死亡年月日: 年 月 日 休暇期間: 年 月 日から 年 月 日まで( 日間) 葬儀予定日: 年 月 日 連絡先: 上記の通り忌引休暇を申請いたします。 申請者署名: |
忌引休暇に関するよくある疑問
忌引休暇の運用において、人事担当者が直面しやすい疑問について具体的な対応方法を解説します。
非正規職員にも忌引休暇の設定は必要?
結論として、雇用形態に関係なく忌引休暇を設けることが望ましいとされています。労働契約法において、有期雇用労働者と無期雇用労働者の間で不合理な労働条件の相違を設けることを禁止しているためです。
忌引休暇のような福利厚生制度についても、合理的な理由なく正社員のみに適用することは問題となる可能性があります。
規定日数より多い休暇を求められたら?
例えば、葬儀が遠方で行われる場合や喪主を務める場合、海外で葬儀が行われる場合などは、規定日数では不足してしまうこともあり得ます。
規定日数を超える休暇が必要な場合への対応方法を整理しておきましょう。以下のようなパターンをあらかじめ規定し、社員規則に設けておくことをおすすめします。
- 有給休暇との併用:忌引休暇に続けて有給休暇を取得
- 無給休暇の許可:特別な事情を考慮した無給の特別休暇
- 規定の厳格適用:原則として規定日数のみを認める
個別の事情に応じた柔軟な対応により、従業員の満足度向上と制度の適切な運用を両立できます。
メールによる申請への返信内容は?
従業員が安心して休暇を取得できるよう、人事担当者の温かい対応が求められます。まず重要なのは、プライバシーへの配慮です。
詳細な事情を聞きすぎることは避け、必要最小限の情報確認に留めることが大切です。
また、「休暇中の業務は気にしないで」という配慮を明確に示すことで、従業員が業務への心配をせずに家族との時間に集中できるようサポートしましょう。
手続き面では柔軟性を表明し、手続きの簡素化や期限の延長に対応する姿勢を見せることが重要です。さらに、復帰後のフォローも含めた継続的なサポートの意思を表示することで、従業員の不安を軽減し、長期的な信頼関係の構築にもつながります。
従業員が安心して休暇を取得できるよう、人事担当者の温かい対応が求められます。
忌引休暇のルールを整備しておこう
忌引休暇制度は、従業員が人生の重要な局面で安心して会社を休めるようにする重要な福利厚生制度です。適切なルール整備により、従業員の満足度向上と円滑な組織運営を実現できます。
忌引休暇制度を効果的に運営するためには、制度の周知徹底も重要です。新入社員研修や定期的な説明会を通じて、制度内容を全従業員に伝えることで、いざというときにスムーズに利用してもらえます。
また、管理職への教育も欠かせません。部下から忌引の相談を受けた際の適切な対応方法や、配慮すべきポイントについて研修を実施することで、組織全体で従業員をサポートする体制を構築できるでしょう。
忌引休暇制度の整備は、単なる福利厚生の充実にとどまらず、従業員との信頼関係構築と組織の持続的発展につながる重要な取り組みです。人事担当者として、従業員が安心して働ける環境づくりに貢献していきましょう。