テイラーの経営論「科学的管理法」とは?原理や功績・導入事例を解説
テイラーが20世紀初頭に提唱した科学的管理法は、大量生産の実現や産業の近代化に大きく貢献しました。一方、人間性を軽視しているなど、社会的・心理的な問題も指摘されている経営論です。科学的管理法が誕生した背景や功績・問題点、導入事例を紹介します。
科学的管理法とは
比較的歴史の浅い学問である経営学において、テイラーは重要な人物の1人だといえるでしょう。テイラーが提唱した科学的管理法とはどのような経営論か、誕生した背景と併せて解説します。
テイラーが提唱した経営論
科学的管理法とは、作業を科学的に分析・管理して生産性を高める手法です。アメリカの経営学者フレデリック・テイラーが20世紀初めに提唱しました。
テイラーがまだ作業現場で技師をしていた頃、労働者は経験や勘といった主観的な手法で管理されていました。仕事の成果が労働者の能力に左右され、安定的な労働力が供給されていなかったのです。
テイラーは労働者の仕事を観察・分析しながら、条件と結果の対応関係を明確化しようと試みました。そして、生産性や労働効率を高められる科学的管理法を編み出したのです。
科学的管理法が誕生した背景
1900年代の初め頃には既に機械化が進んでおり、生産性も向上していたため、労働者の賃金は上がっていました。しかし、経営者は人件費を抑えるために、賃金水準が一定レベルを超えた労働者の出来高単価を下げるようになっていったのです。
また、経験や勘など主観的な手法で労働者をマネジメントした結果、その場しのぎの成り行き経営が一般化していました。出来高単価が上がらないことも相まって、労働者は勤労意欲を失い、経営者も怠慢が横行する現場に不信感を抱いていました。
このような状況を好転するための労働運動が盛んになる中、テイラーの取り組みにより科学的管理法が誕生し、労働能率の向上と労使関係の改善に貢献しました。
科学的管理法の3つの原理
科学的管理法には、「課業管理」「作業の標準化」「最適な組織形態」の3つの基本原理があります。それぞれの具体的な内容を見ていきましょう。
課業管理
課業管理とは、労働者に一定の目標を持たせて管理していくことです。現場で最も優秀な労働者が出せる成果を、現場全体の目標として設定します。
頑張れば達成できる目標にすれば、労働者のモチベーションアップを図ることが可能です。現場全体の生産性向上が期待できるため、組織の売上アップも見込めます。
テイラーは課業管理を導入するにあたり、目標達成の度合いに応じて賃金が増減する仕組みも構築しました。一律の賃金にしないことで、労働者の意識や行動が変化することを期待してのことです。
作業の標準化
作業の一貫性を確保するための管理方法が作業の標準化です。テイラーは労働における時間と動作を研究し、作業に必要な条件を決めていました。
時間の研究では、細かい動作の一つひとつをストップウォッチで計測し、生産工程における標準的作業時間を算出しています。これに基づいて1日の課業を決定していました。
また、動作の研究では優秀な労働者の作業を参考にし、工具や手順を均一化しています。効率性の高い動きを再現するために、現代の「マニュアル」にあたるものを作成したのです。
最適な組織形態
1900年代初頭の組織形態は、現場の熟練工が生産現場の工程を管理する「内部請負制」が一般的でした。テイラーはこの組織形態にも問題があるとして、作業管理のための最適な組織形態を提唱しています。
科学的管理法では計画と実行を切り離し、生産計画の立案・管理を行う部署を新たに設けました。現代もさまざまな企業で導入されている「機能別組織」の先駆けといえるでしょう。
科学的管理法の功績
テイラーの科学的管理法は、大量生産の実現や産業の近代化に貢献しました。現代にもつながっている科学的管理法のメリットを詳しく解説します。
大量生産が可能になった
科学的管理法で大量生産が可能になったポイントは次の通りです。
- 作業の標準化(一貫性があり品質が安定した製品の生産)
- 機械化・自動化の導入(生産速度や品質の向上)
- タイムスタディの活用(作業の効率化)
- 専門化と労働分業(労働者自身の専門性や得意分野に合った作業)
- 品質管理の徹底(品質の一貫性と安定性の確保)
1903年に創業した自動車会社フォードは、科学的管理法をいち早く導入し、自動車の大量生産で大成功を収めました。
産業が近代化された
テイラーの科学的管理法がもたらした功績の1つに、産業の近代化も挙げられます。経営に専念する部署が生産現場を客観的に捉えられるようになり、効率的な生産や改善が可能になったのです。
仕事そのものを客観的なものとして分析することは、内部請負制が一般的であった当時では見られない経営方式でした。科学的管理法は経営管理論や生産管理論の礎となり、産業の近代化への道筋をつくったのです。
科学的管理法の問題点
テイラーの科学的管理法は、革新的な考え方により多くの企業にメリットをもたらしました。その一方で、人間性の軽視や労働者の二極化といった問題点も指摘されています。
人間性の軽視
科学的管理法では「労働者をいかに効率良く働かせるか」を主眼に置いていたため、労働者が歯車のように扱われることに対して、反対運動が発生しました。実際に、大規模な労働組合が科学的管理法を拒否する決議を行ったケースもあります。
科学的管理法における人間性の軽視の問題は、心理学や社会学の立場からの考察がなかったことが主な原因です。この問題については、後に学者や経営者による改善が行われ、現代の経営管理論や生産管理論につながっています。
労働者の二極化
科学的管理法で組織の計画と実行を切り離したことで、生産工程の作業者と生産管理者が二分されました。ホワイトカラーとブルーカラーの二極化が問題になったのです。
内部請負制においても労使関係は決して良好ではありませんでしたが、機能別組織が誕生しても新たな問題が発生し、これは現代のマネジメントにおいても注意すべき点といえます。
科学的管理法の導入事例
科学的管理法に基づく経営管理手法は、現代でも多くの企業に見られます。代表的な企業を例に取り、科学的管理法の導入事例を見ていきましょう。
マクドナルド
マクドナルドでは、商品やサービスの店舗間における差が生じないよう、厳しい品質管理とマニュアルの徹底が実施されています。製造工場では仕様書に基づいた生産が行われており、現場でも独自の教育システムによりスタッフの訓練がなされています。
これらの徹底した情報共有やプログラム化された教育は、科学的管理法の課業管理や作業標準化を活かしたものだといえるでしょう。
トヨタ自動車
トヨタ自動車の大量生産方式にも、科学的管理法の考え方が強く反映されています。トヨタ生産方式(TPS)と呼ばれる、生産方式の進化をまとめました。
- ジャストインタイム:需要に合わせて必要なものを必要な量だけ生産する方式
- カイゼン:自ら課題を見つけて改善策を考え実践していく活動
- ポカヨケ:作業ミスを未然に防ぐための仕組み
トヨタ生産方式は自動車生産だけでなく、さまざまな業種で取り入れられています。
テイラーの経営論「科学的管理法」を知ろう
テイラーの科学的管理法は、現代の大量生産方式の礎となった考え方です。計画と実行を切り離して機能別組織を誕生させたことで、産業の近代化にも貢献したといわれています。
科学的管理法の功績や問題点、科学的管理法に基づく経営管理手法の導入事例を知り、自社経営を考える際の参考にするとよいでしょう。