現場から信頼される「人事」は何をしているのか?成果につながる人事施策の進め方

2019年7月31日、従業員の行動データの解析から“組織活性化”を狙うことを目指し、カフェ・カンパニー株式会社様と共同研究を始動することを発表いたしました。前回の記事では、外食産業においてどのように人事業務を進めていくべきなのか、組織づくりにおいて大切な価値観についてお話いただきました。 今回は、外食産業に関わらず、組織づくりや社内活性化に関わる人事担当の方がどう社内で動いていけばよいのか、田口さんのこれまでの経験、カフェ・カンパニーにおいて実施している事例も交えながらお話いただきました。
■プロフィール 田口 弦矢(たぐち げんや) 成蹊大学法学部法律学科卒、2001年株式会社インテリジェンス入社。キャリアコンサルタント・人事部を経て、2003年株式会社サイバーエージェント入社。人事本部にて、人事、総務、情報システム部門責任者及び、株式会社サイバーエージェントウィルの代表取締役に就任。 2009年より株式会社ウエディングパークに出向、営業副本部長、販売促進・業務推進本部長、人事責任者に従事。2013年株式会社SOOL執行役員を経て独立、ワークディー株式会社を設立、経営顧問を行いながら、知るカフェ(エンリッション)常務取締役COO、株式会社オークファン 執行役員経営 管理副本部長、株式会社CRAZYにてManaging Director新規事業担当を歴任し、現在、HRtechのシングラー株式会社 執行役員CPOおよび現職。昔から続く企業からスタートアップまで、様々な会社の人事顧問支援も行う。

現場から「信頼される」人事になるには

会社や経営陣の考えを発信し続けること

※カフェ・カンパニー株式会社 執行役員CHRO 田口 弦矢様 (株式会社スタメン)森山:TUNAG(ツナグ)では、エンゲージメントの土台には、会社と従業員、従業員同士の信頼関係が必要だと考えていますが、「会社と従業員の信頼関係」について、どうお考えですか? 田口様(以下敬称略):2つありますね。1つは経営陣が何を考えているか、何に取り組んでいるか、どんな社員のアクションを素敵だと感じているかを発信し続けること。店舗のスタッフは、代表や経営陣の日々の業務や行動が見えないので、何を考えていて、何をやっているかは実際分からないですよね。 「会社の未来のために何を考えて、何に取り組んでいるのか」ということを発信し続けるのがとても大事だと思っています。弊社でも、週に1回、私自身が全社的に取り組んでいるプロジェクトの状況や、今、私が考えていることなどを投稿していますし、代表の楠本が毎週の朝礼で話していることは動画とテキストとにして誰でも見える状態にし、かつアーカイブしています。 ※実際にTUNAG(ツナグ)上で投稿されているコンテンツの一つです

人事担当が現場のために動いていることを見えるようにする

田口:もう1つは、「店舗に寄り添って取り組んでいるよ」ということが、いかに現場に伝わるか。ですね。現場から状況が見えていないところがあると、「本部の人たちって、口だけで実際何もしてくれないじゃん」という感情になってしまうこともあると思います。 ちゃんと本部の従業員が現場のスタッフのために考えて、動いているというところをいかに見えるようにするかが大事だと思います。 今、“店長業務改善プロジェクト”を行っているのですが、月に2回その進捗や改善リリースを実施しています。「今こういうことを課題に感じ、実際にこういうように取り組んでいて、いつ頃それが実現する予定で、この先にこういうことをやっていきますという未来日記的な発信」ということをしっかり発信し続けています。 すると、「こんなことできますか?」という意見が現場から直接声をもらえるようになるんですよね。

現場の意見一つひとつ丁寧に対応し、応え続けていくこと

森山:発信し続けたことをきっかけに、実際の改善や新しい企画の「実行」に移っていったということでしょうか? 田口:意見があがるようになると分かるのですが、1つの店舗であがる意見は、他の店舗にも当てはまることが多いんです。それを単体の店舗ではなく全店舗で横断して実行することで、結果、非常に大きな改善につなげることができるんですよ。 「これは効率が悪いと思うからちゃんと改善したほうがいい」という意見が1人の店長から上がってくると、それが「×100店舗分」の改善につながり、全社員の時間の効率化につながる、といった結果になります。小さいことでも、1人ずつの意見に対していかに取り組んでいくかなんですよね。 会社からはインパクトがある成果が出る改善を求められることが多いと思いますが、現場のスタッフ達の意見を汲み取り、会社としてどう捉えていて、どう考えていて、どう応えていくかをきちんと伝える対話をすることが大事だと思っています。それを丁寧に積み重ねていくことで、「意見を伝えれば会社がちゃんと一つひとつ応えてくれる」という信頼関係につながっていくと思うんです。

人事は、経営と現場を連携させていくこと

経営陣が現場に入ることで、課題が一気に解決することもある

森山:田口さんはじめ、カフェ・カンパニーのみなさんは、現場のことをすごく見ていらっしゃいますよね。私自身色々な経営者の方とお話していると、「経営陣が現場に興味が無いとダメだ」とおっしゃる企業と、「現場がうまくやってくれればそれでいい」という企業と分かれるのですが、その点についてはどう思いますか? 田口:そうですね。経営陣が入ることで、解決するスピードが圧倒的に早くなるという点では、経営者が入るべきケースもあると思います。例えば、先程の“店長業務改善プロジェクト”でも、そこであげた意見って、もともと店長がその上司に相談しているはずなんですよ。 しかし、実現するためにはその上司からさらに上の人がいたり、管轄外の社員や上長を巻き込まないといけないケースもある。そうなると、巻き込む人が多すぎたり、社内調整やコミュニケーションに時間がかかり挫折してしまうことが多いんです。そこに、経営の立場からアプローチすると、一気にみんなを集めて確認したり、横断して協力をお願いすると一気に話が進んで解決につながるんです。 森山:そうなんですか。具体的なエピソードがあれば伺えますか? 田口:会社に、あるワークフローがあったとします。「ある金額以上の場合は、Aという申請と、Bという申請をしなければならない」というルールがあったんです。でも聞いてみると、内容が重複していて、2つも申請する必要無かったんです。 ある店長が「これ、無くてもいいですよね」と気づいたとしても、「もしかしたら必要な部署や店舗があるのかもしれない……」となり、なかなか決められずワークフローの改善が進まない。「これはいらない」って、それぞれの担当者の範囲では言えない状況なのです。 実際に経営者側から各担当者に「本当に必要ですか?」と聞くと、「うちはいいけど…他部署はわかりません」となり、他部署も状況は同じはずなのに「勝手に判断して迷惑かけたくない」という心理が働いてしまうんですよね。 ですので、代わりに経営サイドの人間が全部署に一気に確認をすると「無くても大丈夫」という確認や判断が早く、あっという間に解決してしまったということがあります。こういうことって、実はたくさんあるんですよね。

現場の声を聞きながら、課題を早く解決できるアプローチをとること

森山:先程の、“現場から声をあげていく”ということとは逆のアプローチも必要。ということでしょうか。 田口:こういうケースは経営陣の方から聞いていかないと気づけないですし、経営陣が決めないと進まないことが多いですね。“店長業務改善プロジェクト”という形で現場の声を聞きながら、トップダウン型で解決することも大事だと思います。何のためにやっているかが一番重要なのです。 そして、「それを実現させたらどういうことを代わりに行いたいか」「本当に会社と社員のために動いているプロジェクトなのか」ということが大事だったりしますよね。そうすると、先程の質問の「現場がうまくやってくれればそれでいい」という現場におまかせのスタンスではなく、現場と経営陣が一緒に「実現したいゴールや理想の世界」を共有し、連動することが大事なのではないかな、と思います。 現場も経営陣もやりたいことは一緒で、目の前の業務に対する生産性を上げて、店舗として、チームとして、本当に取り組みたいことに時間を割くことができる環境を作っていくことなのです。そのための業務効率化につながるのであれば、一緒のゴールを実現するために連携してやっていけばいいのではないかと思います。

現場が成果を上げられるための”支援”が人事の仕事

現場の課題を解決できるような人が人事を担当すべき

森山:ここからは組織づくりや社内の活性化に努めている人事担当者の業務について伺いたいのですが、人事担当者は上長や現場の巻き込みを課題に感じていることが多いんです。田口さんならどのようにアドバイスされますか? 田口:そうですね、いわゆる「人事業務」の領域だけで解決しようとすると難しいと思います。人事って、やはり全社ごとなんですよね。あらゆることを行ったとしても、現場から「人事の人がやりたいだけでしょ」と思われてしまったら終わり。 こういった施策は、現場の課題が解決したり、無駄な作業が減ったり、「やりたいことができる時間を確保するための理想を実現できる取り組みなんですよ」ということから取り組んでいく方がいいと思うんです。現場が成果をあげて成長するための、本質的な課題解決の“支援”が人事の仕事なんです。 「働き方改革」といって、生産性を上げよう、勤務時間を短くしよう、と色々な施策をやっても、結果、現場の課題解決につながらないことばかりやってしまいがちですよね。働き方改革は、現場の課題を解決するからこそ働き方改革なんです。ただ「早く帰りましょう」とメールしたりアナウンスしたりする人事って、何も解決していないじゃないですか。 働き方改革や組織創りの担当者は現場の課題を解決できるような人でないといけないし、そういう人が人事をやるべきですよね。 森山:現場と一緒になって解決していく必要があるという点は、以前(前回の記事)もお伺いしましたが、やはり会社における「人事」が何をする人で、どういう部署であるべきかは明確にしなければなりませんね。 田口:人事部の中に人事を配置するのか、現場の中に人事の動きをする人を配置するのか、それは究極どっちでもいいんですよね。必ず人事部にいる必要は無いですし。例えば、私がサイバーエージェント在籍時に行ったのは、人事の責任者だったのと同時に、ある事業部に「人事」という場所を置いてもらって、そこに事業部内での人事機能を持っていきました。 そうすると、事業部の担当役員と現場の人事施策を別の取り組みとして、その対象の部署のことだけのための人事施策を決められるんです。会社としての「人事」は人事本部で行い、兼務の形で実施しました。このように、現場の課題を解決するためだけの人事がいれば、現場の課題は早く解決するかもしれませんね。 担当者のミッションの優先順位を経営ごとから考えて、役割を設計する必要があると思っています。

人事施策は現場から小さく始め、うまくいけば全社展開する

森山:なるほど。そのやり方はサイバーエージェント在籍時に田口さんが提案したんでしょうか? 田口:はい。その事業部の中で採用や教育の仕組みを持たせてもらうようにお願いしました。そこでやり始めた結果、他の部署でもやるようになりました。例えば、ある事業部の中でやった取り組みが良いものであれば、事業部を超えて全社的な人事施策につながっていきます。 全社統一でいきなりやる必要が無いものもありますよね。例えば営業部門であれば報酬制度などの施策は営業部門だけでやればいいものですし、「各事業部の予算の中でやって良いですよ」というように行うのがいいと思います。私は人事本部と兼務していたのですが、兼務していると各事業部の取り組みの状況を拾えるメリットがあります。 その情報を別の部署に持っていって、「このやり方だと現場はとても喜びますよ」と展開することで、「この人は現場を良くしようとしてくれているんだ」とみんなが思ってくれますし、そういう点では「誰のための人事なのか」という経営メッセージを出すことも重要です。現場の環境課題解決って、現場にいないとわからないんです。日常的に現場にいるから気付くことってたくさんあるんです。 自分のデスクをそこに置いて周りを見ているだけで、例えば、「あっ!ゴミ箱問題に困ってる。これは自分が動かないと放置だろうな」と思えたりもする。小さなことに感じるかもしれませんが、このほんの小さな「ゴミ箱の設置や運用ルール」ですら、実は1人の社員の時間を無駄に奪っていて。単純だけど自分の役職や役割に関わらずできる当たり前のことってたくさんあるんですよね。 そういう意味で、私は自分のやるべき業務の範囲に制限をかけたことはありません。全ては、現場の社員が少しでも良い環境で働ける取り組みの為で、それを全部やってみようといつも考えています。

まずは、現場のスタッフが困っていることから拾っていく

森山:そのような中で、改めて、人事担当者が持っておくべき意識、心構えはありますか? 田口:「会社の人事担当です」という意識より、「現場の一員としてみんなを助けたい」という意識を持てば現場が受け入れてくれると思います。配属されたら、まず、現場のスタッフが困っていることを解決することから始めることがいいと思います。自分たちに寄り添ってくれる人は仲間だと思ってもらえますよね。これは役割や役職に関係無いことです。 また、私がカフェ・カンパニーで気を付けているのは、自分がそれまでいた環境での「当たり前」の基準で今いる仲間たちを「できない」と判断したり「ダメなやつだ」と思ったりせず、「一人ひとりの特徴や強みを理解し、今いる全員を活かせる新しい組織にするんだ」という意識を持って取り組んでいることです。 全社員の本当の能力はどこにあるのか。実はもっと隠れた才能があるのではないか。見つけられてないだけではないのか。それを活かせる場所は本当はどこなんだろうか。とういう発想で取り組んでいます。 そのために、現場のスタッフが、「この会社でこういうことをやりたいのに取り組めていない」と思っているようなことから拾っていくようにしています。今いるスタッフたちから“仕事を奪う”ということは絶対にせず、「今やれていないこと」「やりたいのにできていないこと」から助けていくんです。 森山:それが従業員同士の信頼関係につながっていきそうですね。 田口:現場で困っているスタッフを助けながら同じ目線で一緒に動いていくことで、また、何か困ったことがあれば相談をもらう。そんな循環を作り続けることで、仲間になり、一緒に進んでいけると思っています。 人事担当者は、「この人と一緒に進めた方が、自分たちは仕事がしやすくなる」という存在になることが重要です。困っている人のボールは徹底的に拾っていくようにすると良いのではないでしょうか。 〜田口様、お話いただきありがとうございました!〜 (インタビュー:株式会社スタメン執行役員 森山裕平)
  ▼『TUNAG(ツナグ)』について 『TUNAG(ツナグ)』では、会社として伝えたい理念やメッセージを、「社内制度」という型として表現し、伝えていくことができます。会社様ごとにカスタマイズでき、課題に合ったアクションを継続的に実行できるところに強みがあります。「施策が長続きしない」「定着しない」というお悩みがございましたら、「現在のお取り組み」のご相談を無料で行っておりますので、お問い合わせください。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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