ヒヤリハットとは?報告のネタ切れ問題を解消する新しいアプローチを紹介
こんにちは、エンゲージメントプラットフォーム「TUNAG」を提供する株式会社スタメンの編集部です。
ヒヤリハット報告とは、事故やトラブルの発生前の危険な状況や条件を報告することを言います。
しかし、多くの企業でヒヤリハットの報告項目が繰り返しとなり、新しい報告がネタ切れになるという問題があります。
この記事では、従来のヒヤリハット報告の取り組みを基盤としつつ、最新の社内アプリ「TUNAG」の導入という新しい視点からのアプローチを深掘りします。
ヒヤリハットとは
ヒヤリハットとは、職場や日常生活において、事故や災害の可能性がある状況や要因のことを指します。厚生労働省兵庫労働局では、ヒヤリハットのことを「危ないことが起こったが、幸い災害には至らなかった事象のこと」と定義しています。
ヒヤリハットは、事故や災害が発生する前段階で、ハッとするような危険な状況や行動に関連する警告サインと見なされます。ヒヤリハットの報告や分析は、安全管理におけるリスクマネジメントにおいてとても重要なものであり、事故や災害の予防と安全意識の向上に役立てることができます。
▼参照
ヒヤリハット、インシデント、アクシデントの違い
ヒヤリハットやインシデント、アクシデントという用語は、とても似ているもので混同されやすい用語ですが、その意味には微妙な違いがあります。
インシデントとは、「出来事そのもの」を指し、具体的な被害や損失が発生する前段階の出来事のことを言います。
一方アクシデントは、「すでに起きた事故や災害そのもの」を指す用語です。
またヒヤリハットは、「危険だと思った行為や出来事だと思った事例」であり、労働者の危険予知活動の一環として扱われている用語となります。
ヒヤリハットが起きた場合、インシデントやアクシデントにつながりやすいと言えます。反対に、ヒヤリハットが起きてない場合でも、インシデントやアクシデントにつながるケースもあるので注意が必要です。
ハインリッヒの法則
ハインリッヒの法則は、1931年にハーバート・ウィリアム・ハインリッヒによって提唱された「アクシデントの発生に関する法則」です。
ハインリッヒの法則によれば、「1件の重大な負傷や死亡の背後には、29件の軽微な事故と300件の怪我に至らない事故がある。それらを防止することで重大な事故を予防できる」とされています。また、労働災害における怪我の程度を分類し、その比率を表していることから、「1:29:300の法則」とも呼ばれています。
ハインリッヒの法則は、安全意識の向上や予防措置の重要性を強調しています。
しかし近年では、より包括的なアクシデント予防モデルも提案されており、単純にハインリッヒの法則に頼るだけではなく、継続的なリスク評価と予防策の実施が重要視されています。
ヒヤリハットの原因
ヒヤリハットの原因には以下のものがあります。これらの要因を十分に理解し、適切に対処することで、事故やトラブルの発生を未然に防ぐことが可能です。
報告の習慣化の欠如
ヒヤリハット報告が習慣化されていない場合、報告が減少することがあります。従業員が報告する習慣を持っていないと、危険な状況が放置されやすくなります。習慣化するためには、報告の重要性を繰り返し伝え、日常的に報告を促す文化を築くことが必要です。具体的には、定期的なミーティングや報告のフィードバックを行い、報告することが自然な行動となるように促します。
作業環境の整理整頓不足
作業場の整理整頓が不十分な場合、ヒヤリハットが発生しやすくなります。具体的には、散らかった作業場や整理されていない工具、床に落ちている障害物などが危険を引き起こすことがあります。日常的なメンテナンスと環境の整備を徹底し、作業場を安全に保つことで、こうしたリスクを低減することができます。
ヒューマンエラー(人的要因)
ヒューマンエラーは、人的要因によって発生するミスや事故です。疲労、注意散漫、集中力の欠如などが原因で、作業中にミスが発生することがあります。たとえば、作業者が疲れていて周囲の状況を確認せずに重機を操作すると、事故に繋がる可能性があります。ヒューマンエラーを防ぐためには、作業環境の改善や適切な休息を促進すること、また、教育やトレーニングを通じて注意力や判断力を高めることが重要です。
ヒヤリハット報告の「ネタ切れ」問題とは
ヒヤリハット報告は、事故やトラブルの発生前の危険な状況や条件を報告することを目的としています。しかし、多くの企業や現場で「ヒヤリハット ネタ切れ」という問題が生じています。これは、ヒヤリハットの報告項目が繰り返しとなり、新しい報告が少なくなる現象を指します。
「ネタ切れ」の原因
「ネタ切れ」の主な原因として、以下の点が挙げられます:
- 似た状況の繰り返し報告: 同じ現場で働く従業員が似たような状況を繰り返し報告することで、新しいヒヤリハットが見つからない。
- 煩雑な報告手続き: 報告するための手続きが煩雑であるため、従業員が報告を避ける傾向がある。
- 報告の重要性の不足: ヒヤリハット報告の重要性が共有されていない、または報告が評価されない文化が存在する。
「ネタ切れ」を解消するためのアプローチ
「ネタ切れ」を解消するためのアプローチとして、以下の方法が考えられます:
- 報告手続きの簡素化: 手続きを簡単にし、スマートフォンなどからも簡単に報告できるようにする。
- 報告の重要性の共有: ヒヤリハット報告の重要性を定期的に共有し、報告を奨励する文化を作る。
- 適切なフィードバック: 報告されたヒヤリハットに対して適切なフィードバックを行い、報告の価値を高める。
最新のアプリを活用した解決策
社内アプリ「TUNAG」のようなツールを活用することで、情報共有の効率化や社内コミュニケーションの強化が可能です。これにより、ヒヤリハット報告の促進と「ネタ切れ」の解消が期待できます。
ヒヤリハットの事例
ヒヤリハットは、実際にどのような場面で起きるのでしょうか。
ここでは、厚生労働省「職場のあんぜんサイト」を参考に、業種別に実際ヒヤリハットが起きた事例をご紹介します。
▼参照
製造業でのヒヤリハット
工場にて、2人の作業員が鉄板を持ち後ろ向きに運搬していた際、足がもつれ転倒しそうになりました。
ヒヤリハットが起きた原因は、鉄板を持っていたことから、どちらの作業者も足元が見えにくい状態で作業していたことです。さらに、前向きに運搬していた作業者が、後ろ向きに運搬していた作業者に対する目配り、声掛けが十分でなかったことなどが挙げられています。
参照:ポカミスとは?対策5選と発生原因4分類、改善ステップを考える | 社内ポータル・SNSのTUNAG
建設業でのヒヤリハット
建屋の屋上にて、作業員が吹付け作業を行っていました。吹付け作業を停止した際、残圧により吹付けホースが跳ねた反動で体勢を崩し、転倒しそうになりました。
ヒヤリハットが起きたのは、吹付け作業を停止したにもかかわらず、塗装ノズルや吹付けホース内に空気圧が残っていることに、十分な注意を払わなかったことが原因とされています。
事務所・オフィスでのヒヤリハット
事務所内で、事務員が机の席からFAXを送信しようと立ち上がり振り向いたところ、移動式袖机の引き出しにつまずき転倒しそうになりました。
交通でのヒヤリハット
物品搬送作業員が車を運転していたところ、直進の歩行者用交通信号が青になったので、発進するためにアクセルを踏もうとしました。しかし、横断歩道を人が横切ったので急いでブレーキを踏みました。
ヒヤリハットが起きた原因として、歩車分離式信号機は、車と人の動きを分けて表示するようになっており、歩行者用信号機が青のときは、車両用信号機が全て赤になることを理解していなかったことが挙げられています。
介護でのヒヤリハット
介護施設の入所者用浴室内のスロープ付近で、清掃作業中に足を滑らせ転倒しそうになったというケースがありました。
ヒヤリハットが起きた原因は、スロープ出入口が隆起しており、歩きにくい状況だったことや、清掃中のため石けん水で床が滑りやすくなっていたことが挙げられています。
事故やヒヤリハットを防ぐには報告が重要
事故やヒヤリハットは、どのような業界業種においても起こりうるものです。防止するためには、適切に報告をして、ヒヤリハットが起きた原因や予防策を実施することが重要です。
ここでは、ヒヤリハットが起きた際の報告の重要性について、それぞれの項目ごとに説明します。
ヒヤリハット報告書で原因や対策を共有
多くの企業では、ヒヤリハットの報告の際に「ヒヤリハット報告書」が用いられます。
ヒヤリハット報告書とは、ヒヤリハットに遭遇した人が、その状況・原因・対策を記載し、社内で共有するための文書のことです。
当事者が口頭で報告した場合、どうしても事象や原因を主観的に捉えてしまいがちですが、報告書にすることで、事象や原因などを客観的に伝えることが可能となります。さらに、ヒヤリハットの再発や重大な事故を防ぐための分析などもしやすくなります。
なお、社内でヒヤリハット報告書を作成する場合、以下のように基本項目を記載したフォーマットを準備しておくといいでしょう。
- 基本情報
当事者の名前・部署などの基本情報を記載します。
- ヒヤリハットが起きた状況
ヒヤリハットの発生日時・場所・経緯などを記載します。
- 想定される事故
どのような事故につながっていた可能性があるかを記載します。
- 発生原因
ヒヤリハットが起きた原因について記載します。
- 再発防止策
再発を防止するための対策について記載します。
なるべく早く報告する
ヒヤリハットが起きた場合、なるべく早く報告書を作成し、報告することが重要です。
ヒヤリハットが起きたあと、時間が経過して報告書を作成した場合、状況の記憶が曖昧になりやすく、正確な情報の記載が難しくなります。また、ヒヤリハットを放置すると、重大な結果を招く可能性もあります。
記憶が正確なうちに、報告書の作成・提出を済ませることで、迅速な対応と再発防止につなげやすくなります。
簡潔にわかりやすく書く
ヒヤリハット報告書に記入する場合は、箇条書きを用いて、簡潔にわかりやすく書くことも意識しましょう。
とくに5W1H(Who、What、When、Where、Why、How)といった要素に基づいて情報を整理することも大切です。5W1Hに当てはめて記載することで、必要な情報を漏れなく簡潔に整理することができ、読み手にも伝わりやすくなります。
具体的な対策や改善案を提示する
ヒヤリハット報告書では、発生した問題に対する具体的な対策を提案することが重要です。
これにより、報告書を読む側の人が必要なアクションを理解し、実際の改善に向けてサポートしやすくなります。
ヒヤリハット報告を定着させるポイント
企業でヒヤリハットを収集・分析するためには、社内ルールとして報告を定着させることが大切です。
しかし、「そもそも報告書があまり提出されない」といった課題を抱えている企業も多いです。ここでは、ヒヤリハットの報告を定着させるためのポイントを4つご紹介します。
報告をする目的や重要性を伝える
社内でヒヤリハット報告を定着させるためには、報告の目的や重要性を従業員に明確に伝えることが重要です。
ヒヤリハット報告をすることで、未然に事故や問題を防止できるということを説明し、安全意識を高められるよう講習会なども実施するといいでしょう。
簡単なフォーマットを用意する
ヒヤリハット事例が起きた場合、報告書の作成を義務付けたとしても「作成が大変だから」といった理由で事例が報告されていないケースも少なくありません。
報告書作成の手間や時間を減らすために、社内で簡単なフォーマットを用意しましょう。必要な情報を簡潔にまとめ、報告のハードルを下げることで、すばやく簡単な報告が可能となります。
報告や報告の活用事例を社内で公開する
ヒヤリハット報告書の提出を促すだけでは、報告の必要性が分からずに定着しにくくなってしまいます。ヒヤリハット報告が、実際にどのように活用されているのかを社内で公開するようにしましょう。
成功事例や改善事例を全体へ共有することで、報告書の意義や価値が伝わり、ほかの従業員もヒヤリハットを報告する意欲が高まるでしょう。
報告しやすい雰囲気や体制をつくる
社内でヒヤリハットが報告されないケースの中には、「報告することで叱られてしまうのではないか…」と不安を抱いている従業員も少なくありません。
そのため、従業員がヒヤリハットを報告しやすい雰囲気や体制を整備することが大切です。日頃からヒヤリハットを共有する文化を育成し、従業員が意見を自由に発言できる環境づくりを行いましょう。
従業員から報告があった場合は、それに対して感謝の気持ちを伝え、報告者の意見を真摯に受け止める姿勢を示すことも大切です。
ヒヤリハット報告はKYT(危険予知訓練)にも活用できる
KYTとは「危険予知訓練」のことで、職場や作業内に潜む危険要因や対策についてすり合わせる訓練活動を指します。
KYTの目的は、ひとり一人の危険意識を高めて、職場で事故防止への意識向上や組織風土を作ることです。そのため、KYTは一度の実施で満足することなく、継続的に繰り返し行うことが重要です。しかし、ヒヤリハット報告と同様に、訓練内容のネタ切れを行う可能性も少なくありません。
そこで、ヒヤリハット報告の内容をKYTで活用することが効果的です。ヒヤリハット報告の内容を題材にすることで、訓練内容のネタ切れを防止するだけではなく、従業員も実際に発生したヒヤリハットを訓練として行うため現実感を持ってKYTに臨めます。結果として、KYTの質が高まり、従業員の危機管理意識を向上させることが期待できるでしょう。
KYT活動の4ラウンド法の進め方
KYTは一人で実践する方法こともできますが、グループで行うことで多方面から危険に関する議論することができます。グループで行うKYTの手法の一つとして、4ラウンド法というものがあり、5~6人のチームを編成して実施します。
具体的な進め方は以下の4つに分類されます。
ステップ | 具体的な行動 |
---|---|
①現状を把握する | 職場や日常業務でどのような危険が潜んでいるかを確認するフェーズです。写真や動画を用いて、危険な箇所を網羅的にピックアップします。 |
②問題の本質を見極める | ピックアップした危険に関して、特に危険が高いものを選定し、危険要因や行動を深く追求していきます。 |
③対策を考える | 絞り込んだ緊急性・重要性が高い危険について、「自分ならこのように対策する」というアクションプランを各々が策定します。 |
④行動目標を決める | 対策のうち、チームとして特に意識すること、必ず実施するアクションを決め、チームの行動目標を決定します。 |
関連記事:KY活動(危険予知活動)のネタ切れへの対策や4ラウンド法を解説
ヒヤリハット報告の運用事例
ヒヤリハット報告を実施している企業では、実際にどのような運用を行っているのでしょうか。今回は、以下の2社の事例をピックアップしてご紹介します。
中央ロジテック株式会社の事例
静岡県で物流業を営む中央ロジテック株式会社では、従業員がヒヤリハットを報告しやすくするために、情報共有ツール『TUNAG』を活用しています。
社内では、年間の教育計画を立てヒヤリハット月間を決めて、各ドライバーにヒヤリハットが起きた際、各自『TUNAG』の専用フォームから投稿しています。従業員から上がってきたヒヤリハットに関しては、社内で分析をして原因や対策を明確にし、事故の未然防止を図っています。
このように同社では、ツールを活用することで、従業員のヒヤリハットの報告が簡潔にしやすくなるような仕組みづくりを行っています。
▼参照記事
エンゲージメント向上の第一歩は「会社・人・事業」を知ること:コミュニケーションを活性化し、自走できる組織へ
加藤精工株式会社の事例
愛知県刈谷市で自動車部品の製造を行う加藤精工株式会社でも、情報共有ツール『TUNAG』を活用したヒヤリハット報告が行われています。
発生日時や、どこで、何をしている時に、どのようなヒヤリハットが起こったのかを簡潔に記入できるフォームを用意し、社内で共有を行なっています。業務を通じた報告や改善活動の中で「ここが危なかったよ」「ウチの拠点も気をつけよう」といった声掛けが生まれ、従業員同士のコミュニケーションの活性化にもつながっています。
そのほか『TUNAG』を活用し、教育の観点で動画マニュアルや理解度を確認するテストを運用しており、今後はツールにて安否確認も実施できるように準備が進められています。
▼参照記事
製造現場の社員まで情報を届け、拠点間コミュニケーションを活性化 - 加藤精工株式会社のTUNAGアプリ活用事例
まとめ
今回は、ヒヤリハットの基礎知識、その事例や報告の重要性について解説しました。
ヒヤリハットは、どんな業界業種でも起こりうるもので、重大な事故につながる可能性があります。ヒヤリハットが発生したらすぐに報告を行い、社内で共有し分析を行うことで、再発防止に役立てていくことができます。重大な事故が起こる前に、ヒヤリハットの報告や分析を行いやすい仕組みづくりをしていきましょう。