KY活動(危険予知活動)のネタ切れへの対策や4ラウンド法を解説
KY活動は、毎日の作業前に行われる安全対策の一環として非常に重要です。
しかし、多くの現場でKY活動のマンネリ化や形骸化が問題となっています。特に、新しいネタやアイディアの不足は、現場の作業員たちの間で大きな課題となっています。
この記事では、KY活動のネタ切れを打破し、効果的なKY活動を実施するための具体的なヒントやアドバイスを提供します。
経験の浅い作業員が危険なポイントを正確に特定できるようにするための方法など、KY活動を新たな視点で見直すための情報をお届けします。
KY活動とは
KY活動とは「危険予知活動」の略称で、職場で起こり得る事故・災害を未然に防ぐために実施する活動を意味します。 厚生労働省によると以下のように記述されています。
職場で実践することをKY活動といい、危険予知訓練(以降KYTと記載)と区別 していますが、職場のKY活動を高いレベルのものにしようとすれば、そのための根 気強い毎日のトレーニングが必要となります。したがって、ここまでは訓練であとは 活動というように、ハッキリ区別することはできません。 なお、危険予知訓練のKYTとは、危険(キケン)のK、予知(ヨチ)のY、訓練 (トレーニング)のTをとって、KYTと略称されています。
事故・災害を防止するための行動として、業務開始前に「どのような危険があるのか」を職場で話し合う“KYM(危険予知ミーティング)”の実施が欠かせません。
また、業務と一体して労働災害を防止するための安全手法を組み込みます。KYサイクルと呼ばれ、一日のサイクルを「作業前」「作業中」「作業後」の3つに分けてとらえます。KY活動が実践される主な業種は以下のとおりです。
- 建設業
- 土木業
- 電気工事業
- 製造業
- 塗装業
- 医療、看護業
工場や建設現場などに限らず、どの業種にもヒヤリハットは存在します。KY活動で職場内の危険意識を高めることが重要です。
労働災害の発生数
KY活動を推進する目的が、労働災害を未然に防ぐことです。近年では、ITやICT活用によって改善傾向にありますが、依然として年間で数多くの労働災害が発生しています。厚生労働省が行った調査によると、全産業における令和5年の死傷者数は44,976人です(令和5年5月8日時点での速報値)。労働災害の割合が高い順に建設業(29.3%)、製造業(19.7%)、陸上貨物運送事業(18.6%)となっています。
KY活動によって職場の安全意識を高めることで、労働災害の発生率を下げられる効果が期待できるでしょう。
労働災害が起きる要因とは
労働災害の主な要因は、ヒューマンエラーによるものです。
- 無茶な作業
- 錯覚や見間違い
- 思い込み、考え違い
- 教育、訓練不足
- 近道反応、反略行為
厚生労働省が労働災害の事故を分析したところ、約8割に人間の不完全な行動が含まれていることがわかっています。不完全な行動は手間や労力省くことを優先した結果だけでなく、作業に対する慣れもヒューマンエラーを引き起こす原因です。
KY活動とリスクアセスメントの違い
KY活動と同じく、労働災害を未然に防ぐための方法としてリスクアセスメントがあります。リスクアセスメントとは、労働者の安全確保やリスク低減措置による安全確認の方法のことです。
陸上貨物運送事業労働災害防止協会の『はじめての 「リスクアセスメント 」』という資料には、リスクアセスメントの効果として以下の5つが紹介されています。
① 職場にどのような危険があるかが明確になります。
② 作業ごとに危険の程度(リスク)が評価され、災害防止に取り組むべき優先度が明確になります。
③ リスク低減の取組を実施した場合、リスク低減の効果が明確になります。
④ より災害が起きにくく、起きても被災の程度が軽度で済む安全度の高い職場が実現します。
⑤ 事業場全体として取り組むので、安全に対する意識が高まり、危険への感受性も高まります。
リスクアセスメントとKY活動は類似部分がありますが、その違いは実施するタイミング・時間・方法です。KY活動は作業を対象とする一方で、リスクアセスメントは設備や作業手順が対象です。リスクアセスメントは「職場内や作業に潜む危険を根本から減らすため」、KY活動は「作業に潜む危険に対して迅速に対応するため」と認識するとわかりやすいでしょう。
KY活動推進のためのKYT(危険予知訓練)
ひとり一人の危険意識を高めるために、職場や作業内に潜む危険要因を探し、話し合いによって対策を検討する「KYT(危険予知訓練)」の実施も重要です。
KYTの目指すものとして以下の5項目が挙げられます。
- 感受性を鋭くする
- 集中力を高める
- 問題解決能力を向上させる
- 実践への意欲を強める
- 職場の風土づくり
KYTで参加者の危機意識を高めることで、事故が起こりにくい風土を作り上げていきます。ただし、KYTは一度実施すれば永遠に効果が持続するものではありません。職場内で高い危機管理能力を保持するためにも、定期的に繰り返し行うことが重要です。
KY活動のネタ切れ問題の背景と対策
KY活動を行ううえで課題となるのがネタ切れ問題です。なぜKY活動のネタ切れが発生するのか、その原因と対策を解説します。
KY活動でネタ切れの問題が発生する背景
KY活動を始めた当初こそ提出件数は上がるものの、徐々に注意すべき確認内容が同じものになる、ネタが切れるケースは少なくないでしょう。ネタ切れ問題はマンネリや慣れによるものが大きく、職場内での危機意識が薄れている可能性があります。そもそもKY活動の重要性を理解できていないことも理由の一つでしょう。
KY活動でネタ切れを防止するためには
KY活動の重要性を共有する
KY活動でネタ切れを発生させないためには、その重要性についてしっかりと共有することが大切です。また、提出された報告書に対して上司がフィードバックをして、職場内で改善箇所を共有することも忘れてはなりません。
期間従業員(※)など、入れ替わりが多い職場では新入社員に対してのフォローアップも必要です。なぜKY活動を行わなければならないのか、過去に発生した労働災害を振り返りながら重要性を説いていきましょう。
※企業が就業期間を限定して直接雇用する契約社員のこと。
ヒヤリハットを分析して、KY活動で取り上げる
KY活動におけるマンネリ化には、業務上の危険ポイントが表面化されていない可能性があります。
日常的な業務の中にも、見えていない危険は隠れています。1931年にハーバート・ウィリアム・ハインリッヒが労働災害の統計から導き出した「ハインリッヒの法則」によると、「1件の大きな災害・事故には、29件の軽微な事故と300件の怪我には至らない事故がある」とされています。このヒヤリハットに該当しうる300件の事象を分析し、KY活動において取り上げることで、重大な事故を防止することにつながるでしょう。
また、各工場・拠点のヒヤリハット報告を会社全体で共有する仕組みを作り、他の拠点で発生した危険ポイントをKY活動にて取り上げることもネタ切れ・事故防止対策の一つです。
KYT活動の4ラウンド法
KYT基礎4ラウンド法とは
KYTは一人で実践する方法(1人KY)もありますが、グループで行う方法もあります。4ラウンド法とは職場内で複数の班に分かれて危険予知トレーニングを行う方法です。事前準備として、以下のような項目を決定しましょう。
- 5~6人のチームを編成する
- リーダー、書記、レポート係、発表者、コメント係を決める
- ボードまたは紙を用意する
進行をスムーズにするためにも、人数が多くなりすぎないよう注意が必要です。ひとり一人の意見が聞ける体制を整えましょう。
KYT基礎4ラウンド法の進め方
各ステップの内容を一つずつ解説します。
第1ラウンド:現状の把握
現状の把握とは「どんな危険が潜んでいるのか」を議論することです。イラストや写真などのツールをメンバーで共有し、作業に潜む危険を話し合います。
第1ラウンドでは、危険の洗い出しを行うことが目的です。なぜその行為や状況が危険なのか、理由を追求することが大切です。危険要因に対して「なぜ?」を繰り返し掘り出します。
第2ラウンド:本質の追求
本質の追求とは「これが危険のポイントだ」と問題の本質を捉えることです。第1ラウンドで洗い出したなかで、危険性が高いものに〇印をつけて絞り込んでいきます。
また、もっとも重要なポイントだと思われるものには◎をつけましょう。多数決で本質的な危険源を決めるのではなく、メンバー同士でしっかりと話し合うことが重要です。
第3ラウンド:対策の立案
対策の立案とは「あなたならどうする?」と解決策を議論することです。どのようにすれば危険を回避できるのかを、メンバー同士で納得するまで話し合います。
あくまで立案の段階であるため、自由に発言できるようにしましょう。他のメンバーが出した案に対して批判・否定をしないでまずは受け入れることが重要です。
第4ラウンド:目標設定
目標設定とは「私たちはこうする」と、特定の危険ポイントに対する行動計画を決めることです。メンバー同士で話し合い、出た案のなかから実際に取り組む目標を設定します。
ここで注意したいのが、すぐに行動可能なものに決定することです。たとえば、新しい設備の導入や人員配置の変更などは、すぐに実行できるものではありません。実際に取り組めるかどうかを目標設定に定めることが、KYT活動において重要です。
KYT(危険予知訓練)の3つの例
ヒューマンエラーによる労働災害を防止するためには、ひとり一人の危険意識を高めることが大切です。KYTはその一環として行いますが、職場内で徹底させたい3つの手法を解説します。
1.指差呼称(しさこしょう)
指差呼称とは、行動の要所要所を確認することです。確認すべきことを「〇〇ヨシ!」と、対象と見つめるとともに、指差しします。現場作業では当たり前に使われる指差呼称ですが、ヒューマンエラーを防止するために重要な行動です。
過去に重大なミスがあった作業や、間違いが起こりやすい作業時に指差呼称を行うと良いでしょう。
2.指差し唱和、タッチ・アンド・コール
作業者がスローガンを唱えて意識づけることも重要です。個々での実施ではなく、全員でスローガンの唱和を行いましょう。指差し唱和は、全員でスローガンを指差し唱和する方法です。また、指差し唱和の一種であるタッチ・アンド・コールでは、メンバー全員で手を重ね合わすなどしながらスローガンの唱和を行います。
全員で実施することで一体感が生まれたり、連帯感が盛り上がったりするなど、チームワークづくりに役立ちます。
3. 健康確認
作業前に、作業者のその日の健康状態を確認することも、KYTの一例です。一人でも不調な状態で作業に入れば、重大なミスや事故につながる可能性があります。職場環境によっては、本人による申告が難しいかもしれません。責任者が作業員に以下のような問いかけを行いましょう。
- 昨日はよく眠れましたか?
- 痛いところはありませんか?
- だるくはないですか?
- 朝食は済ませましたか?
- 熱はないですか?
他にも、作業員の姿勢・顔色・動作などに変化はないかチェックしましょう。ひとり一人をよく観察することが大切です。
情報共有ツールでKY活動を見直そう
本コラムでは、KY活動の進め方、具体例などを解説しました。KY活動を進めるうえで、職場内で日常に潜む危険について、気軽に話し合える状況を作ることが大切です。「どのような危険があるのか」「改善策はないのか」をメンバー同士をコミュニケーションを取りながら解決しましょう。
また、KY活動の記録は今後の改善策を提供するために、紙で残す方法があります。また、情報共有ツールなどを活用すれば、工場や店舗を超えた多くの作業者に、KY活動の様子や作業場の危険について、リアルタイムに共有することも可能です。職場内で気軽に情報を共有できるアプリ導入を少しずつ検討してみてはいかがでしょうか。