ポカミスとは?対策5選と発生原因4分類、改善ステップを考える
ポカミスとは?
ポカミスとは、不注意により発生するミスで、重大な結果(製品不良、ケガ、クレームなど)を引き起こす恐れのある(実際に引き起こした)ミスを言います。元は製造業界で使用される言葉でしたが、現在では製造業界以外の現場でも広く使われるようになっています。
ポカミスの「ポカ」はもともと囲碁・将棋用語で、形勢を一気に悪くしてしまうようなひどい手を、不注意から打ってしまうことから由来しています。「ポカ」や「ポカミス」は、その人にとって特に難しい局面・作業ではないのに、「思わず、うっかり」ミスを起こしてしまった場合に使われます。難しい場面ではないからこそ人は不注意になりやすく、思わずおかすミスだからこそ対策が難しいという側面があります。
ポカミスとヒューマンエラーの違い
「ヒューマンエラー」は機械・設備・システムのエラー(故障・不具合)に対する語で、機械・設備・システムを操作・操縦する人間が犯すエラー(人間側に問題があって生じるエラー)を指します。ポカミスと同様に、事故などの重大な結果につながる恐れがあるエラーを差すのが一般的です。
ヒューマンエラーには、「うっかり」が原因のケースと、怠慢や手抜きが原因のケース、怠慢・手抜きの上に「うっかり」が重なって発生するケースがあります。ポカミスはヒューマンエラーの一種で、「うっかり」が関わるヒューマンエラーがポカミスと呼ばれるものです。
▼参照:
・ヒューマンエラーと安全マネジメント――心理学の視点から
・ヒューマンエラー・ポカミスの原因と対策: 遠藤メソッド「行為保証2.0」公式ブログ
ポカミス対策(ポカヨケ)5選
ポカミスを回避するための施策は「ポカヨケ」と呼ばれます(「ポカを除けるためのもの=ポカヨケ」)。代表的なポカヨケを5種紹介します。
1.指差呼称(しさこしょう)
作業前に、作業対象や標識・信号・計器類を指で差し、名称と状態(合っているかどうか)を確認することです。一般的な言葉では「指さし確認」と呼ばれます。指差呼称は以下のような手順で行います。一つ一つの手順をはっきり意識して行うことが重要です。
- 対象をはっきり見る
- 腕をまっすぐ伸ばして対象を指で差し、名称・状態を声に出す(「○○、ヨシ!」など)
- 差した指をそのまま耳元に持ってきて、本当に間違いのない状態であるか心の中で再確認する。
- 「ヨシ!」と発生しながら腕を振り下ろす
2.KY活動を定期的に行う
KY活動(危険予知活動)とは、職場で起こり得る事故・災害を未然に防ぐために実施する活動を意味します。KY活動を推進していくために必要な手法や意識を会得するための訓練もあり、KY訓練(危険予知訓練)と呼ばれます。KY活動やKY訓練では、一緒に作業するメンバーが集まり、以下の4点について話し合って結果を共有します。
- 現状把握:どんな危険が潜んでいるか、各自思いついたことを挙げる
- 本質追究:対策が必要な危険ポイントを絞り込む
- 対策樹立:対策案を出し合って討論
- 目標設定:対策案の中から重点的に実施する項目を選び、具体的な目標を設定
▼参照
・社会福祉施設における安全衛生対策~腰痛対策・KY活動~ | 厚生労働省
・KY活動(危険予知活動)のネタ切れへの対策や4ラウンド法を解説 | 社内ポータル・SNSのTUNAG
3.作業対象のモノ(部品・機械など)にミス防止の工夫を仕込む
作業対象のモノの方に手を加えて、うっかりを起こりにくくさせることも非常に有効です。例えば以下のような対策が挙げられます。
- 似通ったスイッチ同士を対照的な色・形に変える
- 部品と装着部分の形状を一組一組独特なものにして、別部品は装着できないようにする
- 操作していない方の腕が機械に巻き込まれないよう、稼働スイッチをあえて2つ設けて両手で操作しなければならないようにする
4.AR・AIなどの最新技術を活用する
最近では、AR(拡張現実)やAIで作業者を補佐し、ポカミスを予防するシステムが開発されています。今後はこうしたシステムが徐々に製造現場などに浸透していくものと見られます。
- AR技術により、作業の手順を現実の映像の上に重ねて表示
- 作業手順や組み立て状況をカメラで追跡し、画像認識技術を用いてミスを検出
参照:ポカヨケとは? 最新事例やヒューマンエラー防止の対策を紹介 | ELECOM GROUP BUSINESS SOLUTION WEB
5.チェックリストの作成・運用
作業の手順や部品の組み合わせなどについてチェックリストを作成し、作業の度にリスト上のチェック項目を逐一確認します。チェックリストは複数人で読み合わせをすると、より効果的です。また、ポカミスが発生する原因を網羅的に作業員が把握するためにも、ポカミスやヒヤリハットが発生する度にチェックリストの項目や注意点を修正することが大切です。
ポカミス発生原因の4分類
ポカミスはヒューマンエラーの一種であり、ヒューマンエラーの発生原因はポカミスの直接的ないし間接的な原因となります。また、作業環境やルール・マニュアル、教育体制に問題があると、ポカミスが誘発されやすくなります。そうしたケースでは、最終的には作業者の不注意でエラーが発生していたとしても、より根本的な原因は作業環境などの側にあると言えることもあります。
1.ヒューマンエラー
ヒューマンエラーの分類には様々な考え方がありますが、人間の心理・行動の分類をもとにした5分類や、原因を列挙した12分類がよく用いられます。
ヒューマンエラーの5分類
5分類では、下の表のようにヒューマンエラーを「ついつい・うっかり」型(不注意で犯すタイプ)と「あえて型」(意図的な怠慢や手抜きがもとになっているタイプ)に分類し、前者をさらに4つに分けます。
【ついつい・うっかり型】
- 記憶エラー
- やるべきことをつい忘れる
- 認知エラー
- うっかり見間違えや聞き間違えをしてしまう
- 判断エラー
- うっかり現実にそぐわない状況判断をして、不適切な選択肢を適切だと思い込んでしまう
- 行動エラー
- 不適切な選択肢をそのまま実行してしまう/選択肢は適切だが、やり方・手順をうっかり間違える
【あえて型】
あえて決まり事を守らなかったり手抜きをしたりすることで、ミスを誘発してしまう
「ついつい・うっかり型」はポカミスそのものです。「あえて型」の行動は自らポカミスを発生させやすい状況を作ります。
参照:生産性&効率アップ必勝マニュアル | 厚生労働省
ヒューマンエラーの12分類
ヒューマンエラーの12分類では発生原因を以下の12に分類します。どれもポカミスの直接的・間接的原因と言えます。
- 不注意(見落とし・確認忘れなど)
- 錯覚・先入観による思い込み
- 単調作業の持続による集中力・意識の低下
- 場面行動本能(ひとつのことに集中するあまり周囲への注意が自ずと低下してしまう現象)
- 知識不足・経験不足・不慣れ
- 慣れによる手抜きや危険軽視
- 近道行動・省略行動(効率追求や慣れによる過度な近道・省略)
- チーム内での連絡・コミュニケーション不足
- 集団欠陥(安全性・品質などを軽視する現場の雰囲気・文化)
- 想定外の出来事によるパニック
- 疲労
- 加齢による心身の機能低下
参照:ヒューマンエラーはなぜ起きる?|(一財)中小建設業特別教育協会
2.作業環境
不注意を引き起こしやすい環境や、ささいな不注意がミスにつながりやすい環境は、ポカミスの間接的な原因となります。例えば以下のような環境です。
- 作業をするには照明が暗い
- 騒音で聞き間違いが起こりやすい
- 温度や湿度が高すぎて、手が汗ばんで手元が狂いやすかったり、集中力が切れやすかったりする
- 部品や道具が整頓されておらず、取り違えやすい
- 機械・設備が誤認を生じさせやすい設計・配置になっている
3.ルールやマニュアルの欠如・欠陥
不注意や誤認が生じやすい作業であるにもかかわらず、手順や機械の扱い方などが作業者の判断に任されていたり、手順書・マニュアルの記述が曖昧であったりすると、ポカミスが発生しやすくなります。
4.組織の教育体制の不整備
ポカミスの予防・再発防止を図るための教育体制が整備されていないと、ポカミスが頻発しやすくなります。特に、マニュアル等が整っていない場合は、担当者によって研修内容がバラバラになることで、ポカミスの再発につながりやすくなるため注意が必要です。
ポカミス改善の4つのステップ
ポカミス改善は以下の手順で行うと効果的です。
- 原因の追及
- 作業手順・方法の明確化
- 周知・教育の仕組みづくり
- 設備投資の検討や環境整備
1.原因の追求
過去に発生したポカミスの原因や、ポカミスを誘発しやすい現場の要因を明確にすることが、改善に向けた第一歩です。ヒューマンエラーの分類などを参考にして作業者に起因する問題点を整理し、作業環境やルール・マニュアル、教育体制における欠陥・不備も洗い出していきます。
2.作業手順・方法の明確化
原因の分析に基づき、作業者の立場に立ってポカミスが起こりにくいような作業手順・方法を考え、マニュアル・手順書のなかに明瞭に記述します。手順を明確化することで、新入社員の人でも、作業をミスなく滞りなく実施できるようにすることがポイントです。
また、作業手順はポカミスやヒヤリハットの発生に応じて、都度アップデートすることが大切でしょう。
3.周知・教育の仕組みづくり
マニュアル・手順書の内容(改訂事項)を関係部署内に周知し、実践的な教育を通して浸透させていくための仕組みづくりを行います。
また、工場や作業場内で発生したポカミスを、他の事業所や拠点に情報共有することで、企業全体としてポカミスを防ぐことにつながります。その際は、社用パソコンを持たない従業員にも情報が伝わるように、運用方法を検討することが大切です。
参照:ヒヤリハット報告の重要性と定着させる運用のポイント・事例を紹介 | 社内ポータル・SNSのTUNAG
4.設備投資の検討や環境整備
作業環境がポカミス発生に関係していると判明した場合、社内で改善できる部分はルール作りや教育を通して改善し、そうでない部分については設備・システムの入れ替えや新たな導入を検討して、環境整備を進めていきます。
ポカミス対策の周知・教育や作業員の意識向上を図る上で、社内コミュニケーション改善・情報共有促進を目的としたシステムの導入も効果的です。
ポカミスの例3選
製造現場などで発生するポカミスの典型例を3つ紹介します。
1.不良品率上昇につながるポカミス
製造段階では、誤った部品を取り付けたり加工すべき箇所を加工しなかったりして不良品を発生させてしまう、といった例が典型的です。製品検査時には、不良品を良品と誤認してしまう例などがあります。
不良品率が上昇すると、原価の高騰だけではなく、クレームによる会社の信頼の損失にも繋がりかねないため、注意が必要です。
2.ケガ・障害につながるポカミス
ポカミスが作業者自身や他の従業員、顧客などのケガ・障害を引き起こす例は少なくありません。たとえば以下のような事例です。
- プレス機の中に手を入れた状態で誤ってフットスイッチを踏んでしまい、手をプレスに挟まれる
- フォークリフト運転中に前方や後方の指差呼称を怠り、人身事故を起こす
- 医療現場で、投与を指示された薬剤をよく似た別の薬剤と取り違えて患者に投与してしまう
3.納品遅延につながるポカミス
例えば、聞き間違い・見間違いにより発注すべき品(A)を別の品(B)と取り違えてBを発注し、A(Aを使用して製造する製品)の納品遅延を引き起こしてしまう、といった例が代表的です。この例ではBの在庫過剰も引き起こす恐れがあります。
まとめ
ポカミスは、「特に難しい作業ではなく、ミスを簡単に避けられそうな場面」で単なる不注意からおかしてしまうミスです。不注意によるミスであっても、事故や製品不良、クレームにつながる恐れがあるため決して侮れませんし、不注意だからこそ対策が難しいという面もあります。
作業員の立場に立って原因の分析と予防策の検討を行い、ポカミス予防に有効な各種システムなども活用しながら対策を実行していくことが求められます。また、各拠点・工場で発生したポカミスの内容や発生原因などを、他の工場や本社に共有するなど、会社全体としてポカミス発生防止に対する意識を高めることが大切でしょう。