ウェルネスとウェルビーイングは、どちらも健康や生活に関わる言葉ですが、捉える範囲に違いがあります。ウェルネスは、心身の健康をより良い状態へ近づけるための行動や生活習慣に焦点を当てます。一方、ウェルビーイングは、健康だけでなく、人間関係や仕事、生活への満足なども含めて、その人が良好な状態にあるかを幅広く捉える概念です。
ただし、両者が指す範囲には重なる部分もあり、使われる場面によって意味合いが異なることがあります。企業の施策でも、同じ取り組みがウェルネスとウェルビーイングの両方に関わるケースがあるため、単純に切り分けることはできません。
そのため、大切なのは施策をどちらかに分類することではなく、自社が解決したい課題と、どのような状態を目指すのかを明確にすることです。目的が定まれば、健康面を中心に支援するのか、働き方や人間関係まで見直すのかも判断しやすくなります。
本記事では、ウェルネスとウェルビーイングの意味や違いを整理したうえで、企業における施策や考え方を比較します。両者の違いを理解し、健康支援を充実させるべきなのか、職場環境まで見直すべきなのかを判断する際にお役立てください。
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ウェルネスとウェルビーイングは、どちらも健康で充実した生活に関わる概念ですが、焦点が異なります。本記事では企業施策を整理しやすくするため、ウェルネスを「良好な状態を支える行動や環境づくり」、ウェルビーイングを「心身や社会生活を含む良好な状態」として扱います。両者を完全に切り分けるのではなく、重なる領域があることを前提に比較します。
企業が施策を検討するときに確認したい項目を整理すると、次のようになります。
比較項目 | ウェルネス | ウェルビーイング |
基本的な意味 | より良い健康や生活を目指す考え方・取り組み | 心身や社会生活を含めて良好な状態 |
主な捉え方 | 日々の行動や環境づくり | 個人や組織が目指す状態 |
対象となる領域 | 運動、食事、睡眠、休養、ストレスへの対処、働く環境など | 健康、仕事、人間関係、経済状況、生活環境、人生の意味など |
時間の捉え方 | 日々の選択と継続的な取り組みに注目する | 一時的な感情だけでなく、継続的な生活の状態を捉える |
企業が確認する内容 | 従業員が健康的な行動を取りやすい環境になっているか | 従業員が心身ともに良好で、仕事や周囲との関係に納得できているか |
企業施策の例 | 健康診断後の支援、運動機会の提供、睡眠や食生活の支援 | キャリア支援、公平な評価、役割の明確化、心理的安全性を高める取り組み |
企業が両者を使い分ける際は、施策の名称ではなく、解決したい課題と実施目的を確認することが大切です。例えば1on1で体調や業務負荷を確認し、休養や専門的な支援へつなげる場合はウェルネスの側面が強くなります。同じ1on1でも、仕事への納得感やキャリア、上司との関係を扱う場合は、ウェルビーイングを支える施策としての役割が大きくなります。
ウェルネスを身体の健康だけに限定するのも適切ではありません。心の状態や社会的なつながり、仕事や生活環境まで含めて捉える考え方もあり、ウェルビーイングとの境界は文献や使用場面によって異なります。自社で用語を使用する際は、それぞれが何を指し、どのような状態を目指すのかを明確にしておくと、施策の目的や評価方法がぶれにくくなります。
企業施策へ当てはめる前に、それぞれの言葉がどのような考え方を表すのかを確認します。ウェルネスは健康や生活をより良くするための行動や環境に焦点を当て、ウェルビーイングは仕事や人間関係も含めた生活全体の状態を捉えます。なお、用語の範囲は研究機関や企業によって異なり、明確に分けられない領域もあります。
ウェルネスとは、病気を防ぐことだけを目的とせず、より良い健康や生活へ向けて自ら行動し、周囲の環境を整えていく考え方です。運動や食事、睡眠、休養といった身体に関わる習慣に加え、ストレスへの対処、周囲とのつながり、働く環境なども関係します。
ウェルネスは健康な状態だけを指すのではなく、その状態へ近づくために日々の選択や行動を積み重ねる考え方として捉えられます。例えば企業が運動機会を用意しても、勤務時間や業務量の関係で従業員が利用できなければ、健康的な行動を取りやすい環境とはいえません。施策の有無だけでなく、無理なく利用できる条件まで確認する必要があります。
企業がウェルネスを考える際は、個人の自己管理だけに責任を負わせないことも大切です。長時間労働が続いている職場で睡眠改善を呼びかけても、従業員の行動だけでは解決できません。勤務体制や休暇の取りやすさなど、健康的な選択を妨げている職場環境にも目を向けます。
ウェルビーイングとは、身体や心が健康であるだけでなく、人間関係、仕事、生活環境などを含めて、個人や社会が良好な状態にあることを表す概念です。WHOも、ウェルビーイングを個人と社会が経験する前向きな状態とし、生活の質や、意味・目的を持って社会へ関われることを含むものとして扱っています。
企業でウェルビーイングを考える際は、健康状態だけでなく、従業員がどのように働き、周囲とどのような関係を築いているかまで確認します。健康診断の結果に大きな問題がなくても、上司へ意見を言えない、将来のキャリアを描けない、職場で孤立しているといった状況では、働く場における状態が良好とは言い切れません。
一方、何を良好と感じるかは、本人の価値観や家庭環境、仕事内容などによって異なります。企業が一つの理想像を全従業員へ当てはめるのではなく、勤務状況や従業員の声を複数の観点から把握し、改善すべき課題を見極める必要があります。
ウェルネスとウェルビーイングは、病気や不調がないだけで満足せず、より良い生活を目指す点で共通しています。日々の運動や休養によって心身の状態が整えば、仕事や私生活にも前向きに向き合いやすくなる場合があります。反対に、良好な人間関係や納得できる働き方は、健康的な生活を続ける支えになり得ます。
両者は完全に別々のものではなく、日々の行動と生活全体の状態が互いに影響する関係にあります。企業が施策を考える際も、健康支援だけを実施する、あるいは働きがいだけを追求するのではなく、自社の課題に応じて両方の視点を組み合わせます。
社内方針や施策名に用いる場合は、それぞれの言葉が何を指し、どの状態を目指すのかを明確にしておきましょう。担当部署と従業員の間で認識をそろえることで、施策の目的を伝えやすくなります。
企業が施策を検討する際は、名称だけでウェルネスとウェルビーイングを分けるのではなく、どの課題を改善したいのかを確認します。従業員の生活習慣や心身の健康を支える取り組みはウェルネスに重点があり、仕事への納得感や人間関係、働く環境まで扱う取り組みはウェルビーイングに深く関わります。1on1や相談窓口のように、実施目的によって両方に位置づけられる施策もあります。
主な施策を目的に沿って整理すると、次のようになります。
分類 | 主な目的 | 施策の例 |
ウェルネスを主目的とする施策 | 心身の健康を守り、健康的な行動を取りやすくする | 健康診断後のフォロー、運動機会の提供、食生活・睡眠の支援、ストレスチェック |
ウェルビーイングを主目的とする施策 | 仕事や人間関係を含め、従業員が良好な状態で働ける環境をつくる | キャリア支援、公平な評価、役割の明確化、心理的安全性を高める取り組み |
両方に関係する施策 | 心身の状態と職場環境の双方を把握し、必要な支援へつなげる | 1on1、相談窓口、柔軟な働き方、社内コミュニケーション、従業員サーベイ |
ウェルネス施策では、従業員が健康を維持するための知識や機会を提供するだけでなく、実際に利用できる職場環境を整えます。健康診断を実施して結果を通知するだけでは、その後の受診や生活習慣の見直しまで進まないことがあるため、再検査の案内や相談先の周知も含めて考えます。
従業員本人へ健康管理を任せるのではなく、健康的な行動を妨げている勤務状況や職場環境も確認することが欠かせません。睡眠に関する情報を提供していても、長時間労働や不規則な勤務が続いていれば、本人の努力だけで十分な休養を確保するのは困難です。業務量の調整や休暇の取りやすさも、施策を利用できる条件に含まれます。
必要な支援は、業務内容や勤務形態によって異なります。デスクワークが中心の職場と、夜勤や身体作業がある職場では、起こりやすい不調や取り組みやすい対策が同じとは限りません。全従業員へ一律の施策を提供するだけでなく、部署や職種ごとの状況を確認して対象を決めます。
ウェルビーイング施策では、従業員の健康状態に加え、仕事への納得感、周囲との関係、将来への見通しなどを扱います。体調に問題がなくても、評価基準が分からない、上司へ相談できない、仕事の目的を理解できない状態が続けば、良好な状態で働いているとは言い切れません。
企業は従業員個人の意識だけを変えようとせず、評価制度やマネジメント、情報共有の方法に改善すべき点がないかを確認します。例えばキャリア研修を用意しても、上司との面談で本人の希望を確認する機会がなければ、受講内容を実際の仕事や配置へつなげにくくなります。制度を用意することと、従業員が利用して変化を感じられることは分けて考える必要があります。
施策を選ぶ前には、従業員がどの場面で困っているのかを把握します。相談のしにくさが課題であれば上司との関係や職場での発言のしやすさを見直し、仕事の意味を感じにくい場合は、会社の方針と本人の業務がどう結びつくのかを伝える機会を設けます。
1on1、相談窓口、柔軟な働き方、社内コミュニケーションなどは、ウェルネスとウェルビーイングのどちらか一方に固定できません。何を把握し、どのような変化を目指すのかによって、施策の役割が変わるためです。
両者に関係する施策では、実施回数や利用率だけでなく、何の課題を改善するために行い、従業員にどのような変化があったかを確認します。目的が曖昧なまま始めると、担当者と従業員で受け止め方がずれ、必要な支援につながらない可能性があります。導入前に対象となる課題と確認方法を決めておくことが、施策を選ぶ判断軸になります。
従業員の健康だけに目を向けても、仕事への納得感や人間関係の問題が残れば、良好な状態で働き続けるのは難しくなります。反対に、働きがいを高める制度を整えても、疲労や不調を抱えたままでは十分に活用できません。両方の視点から職場を捉えると、個人の生活習慣だけでなく、業務や組織環境にある課題も見つけやすくなります。
従業員が安定して働くには、不調が起きた後の対応だけでなく、日頃から健康を維持しやすい条件を整える必要があります。睡眠や運動に関する情報を提供していても、業務量が多く休憩を取りにくい状態であれば、本人が健康的な行動を続けるのは困難です。
ウェルネスの視点を取り入れると、従業員の自己管理だけでなく、勤務時間や休暇、相談体制など職場側の条件も確認できます。健康診断の結果やストレスチェックだけで判断せず、業務負荷や勤務形態も合わせて見ることで、対応すべき箇所を捉えやすくなります。
ただし、企業が従業員の私生活へ過度に介入するのは適切ではありません。会社が対応できる範囲を明確にし、本人が利用する支援を選べる状態にしておくことが前提です。
体調に大きな問題がなくても、自分の仕事が何につながっているのか分からない、努力がどのように評価されるのか見えない状態では、前向きに働き続けにくくなります。ウェルビーイングの視点では、従業員の健康に加え、役割、評価、人間関係、キャリアなど、働く経験全体を確認します。
従業員が仕事の目的や自分の役割を理解し、周囲へ相談できる環境は、働きがいを支える土台になります。会社の方針を伝えるだけでなく、各部署の仕事とどのように結びつくのかを上司が説明することで、従業員は自分の業務の意味を捉えやすくなります。
働きがいの感じ方は、職種や経験年数、本人の価値観によって異なります。全員へ同じ制度を用意するだけではなく、従業員の声を聞き、どの場面で納得感を持てていないのかを確かめます。
従業員が退職を考える背景には、健康上の不安だけでなく、上司との関係、評価への不満、将来への見通しのなさなど、複数の要因が重なる場合があります。ウェルネスとウェルビーイングの視点を分けて確認すると、不調への対応だけでよいのか、仕事や組織のあり方まで見直す必要があるのかを判断しやすくなります。
離職につながり得る課題を早めに捉えるには、日頃の変化や不満を把握できる接点を設けることが大切です。1on1や従業員サーベイを行う場合も、実施回数を増やすだけではなく、相談内容を必要な支援や職場改善へつなげる流れを整えます。
ウェルネスやウェルビーイングへの取り組みが、必ず離職率の低下へ直結するとは限りません。給与、仕事内容、家庭事情など企業だけでは解決できない要因もあるため、施策の効果を断定せず、自社で起きている課題を継続的に確認します。
一時的なイベントや福利厚生を増やすだけでは、従業員を取り巻く課題へ継続的に対応できません。健康状態、働き方、人間関係、キャリアなどを定期的に確認し、必要に応じて制度や職場運営を見直します。
ウェルネスとウェルビーイングを組み合わせると、個人への支援と組織側の改善を切り分け、自社が対応すべき範囲を判断しやすくなります。例えば体調不良が増えている場合も、健康情報を提供するだけでなく、業務量や人員配置、相談のしやすさまで確認することで、原因に合った対応を選びやすくなります。
企業の規模や業種によって、用意できる制度や担当者の体制は異なります。すべての施策を一度に導入するのではなく、従業員への影響が大きく、現在の体制で改善できる課題から着手することが現実的です。
ウェルネスやウェルビーイングを高めるには、施策を増やす前に、従業員がどのような場面で困っているのかを把握します。課題を明確にしたうえで目的に合う施策を選び、実施後の変化を確認する流れが基本です。健康支援と組織環境の改善を分けて検討すると、自社が優先すべき対応を判断しやすくなります。
手順 | 確認すること |
1. 状態を把握する | 従業員が抱えている不調や働きにくさは何か |
2. 課題と目的を決める | 誰のどのような状態を改善したいのか |
3. 施策を選ぶ | 個人への支援と組織側の改善のどちらが必要か |
4. 効果を確認する | 利用状況や従業員の実感に変化があったか |
最初に、健康診断やストレスチェックの結果だけでなく、業務負荷、人間関係、仕事への納得感、キャリアへの不安なども確認します。一つの数値だけでは、従業員が置かれている状況や、問題が生じている背景まで判断できないためです。
従業員の状態を把握する際は、健康に関する情報と、働き方や職場環境に関する情報を組み合わせて確認します。疲労を訴える従業員が多い場合、生活習慣だけでなく、残業時間、要員配置、休憩の取りやすさ、上司への相談状況にも目を向けます。
匿名性が必要なサーベイを行う場合は、回答者が特定されにくい集計方法や、情報を閲覧できる担当者の範囲を事前に決めておきます。従業員が不利益を心配して回答を控えれば、実際の課題を捉えにくくなります。
状態を把握した後は、誰にどのような変化が必要なのかを具体的にします。「ウェルビーイングを高める」といった広い目的だけでは、施策を選ぶ基準や実施後に確認する項目が曖昧になります。
目的は、「夜勤従事者が休息を取りやすくする」「上司へ相談できない状態を改善する」など、対象と変えたい状態が分かる形で設定します。健康診断後の受診率が低いのであれば案内方法や勤務時間内の受診支援を検討し、仕事への納得感が低いのであれば役割の伝え方や面談内容を見直します。
複数の課題が見つかった場合も、すべてを一度に扱う必要はありません。従業員への影響の大きさ、対応の緊急性、現在の人員や予算を踏まえ、優先して改善する課題を絞ります。
施策を選ぶ際は、他社で導入されている制度をそのまま取り入れるのではなく、自社で確認した原因に対応できるかを見極めます。同じ「疲労」という課題でも、長時間労働、夜勤、相談のしにくさなど、背景によって必要な対応は異なります。
個人の行動を支える施策だけで解決できない場合は、業務量、勤務体制、評価制度、情報共有など、組織側の仕組みも見直します。睡眠に関する研修を実施しても、退勤時間が遅い状態が続いていれば、勤務時間や人員配置への対応が必要です。
施策を導入する前には、誰が運用し、従業員へどのように知らせ、相談や回答をどこへつなぐのかまで決めます。制度が用意されていても、従業員が存在を知らない、利用方法が分からない、利用後の対応がない状態では、目的とした変化につながりにくくなります。
施策を始めた後は、参加人数や利用率だけで判断せず、設定した課題に変化があったかを確認します。利用率が高くても、対象としていた従業員が参加できていなければ、実施方法を見直す必要があります。
効果を確認する指標は、施策を導入する前に決めた目的と対応させます。健康相談の利用促進が目的であれば認知率や利用しやすさを確認し、相談のしにくさを改善したい場合は、上司への相談経験や従業員の実感を継続的に確認します。
期待した変化が見られないときは、施策自体が不要と決める前に、周知方法、対象者、実施時間、上司の理解などを見直します。従業員の声を集めながら運用方法を調整し、現在の課題に合わなくなった施策は内容や対象を改めます。
ウェルネスとウェルビーイングの両方を取り入れることで、従業員の健康だけでなく、働き方や人間関係まで含めて職場を見直せます。
例えば、運動支援や健康情報を充実させても、長時間労働や相談しにくい環境が残っていれば、従業員の負担は十分に減りません。
一方、1on1や評価制度を見直しても、健康面への支援が不足していれば、働きやすさを十分に支えられない場合があります。
大切なのは、施策の種類から考えるのではなく、従業員がどのような場面で働きにくさを感じ、その原因がどこにあるのかを確認することです。
健康面の支援が必要なのか、業務量や人間関係など職場側を見直すべきなのかによって、取り組む内容は変わります。
ぜひ、ウェルネスとウェルビーイング両方を取り入れて、働き続けやすい職場づくりにつなげていきましょう。