目標管理の現場でよく耳にするOKRとKPIですが、「どちらを導入すべきか」「KPIだけで十分ではないか」と迷う方は少なくありません。しかし、これら二つは対立する概念ではなく、役割が異なるからこそ、目的に応じた使い分けや組み合わせが可能です。
この記事では、OKRとKPIの違いを分かりやすく整理し、KGI・MBOとの関係性、それぞれが効果を発揮する場面、具体的な併用手順まで詳しく解説します。自社の目標管理体制を再構築する際の参考にしてください。
OKRとKPIは「どちらを選ぶか」で語られがちですが、そもそも測っている対象が異なります。まずはそれぞれの定義と目的を確認していきましょう。
OKR(Objectives and Key Results)は「目標と主要な成果」と訳される、目標設定・管理のフレームワークです。原型はインテルのアンディ・グローブ氏が示した手法にあり、同社出身のジョン・ドーア氏が1999年にGoogleへ持ち込んだことで広く知られるようになりました。
その仕組みは非常にシンプルです。一つの定性的な「Objective(目標)」を掲げ、それを測定するためのいくつかの「Key Results(主要な成果)」を紐付けます。「Objective」には数値ではなく、社員のモチベーションを高めるような表現を用いて、目指すべき方向性を明示します。
OKRの大きな特徴は、設定した目標を全社に向けてオープンにする点です。Googleは、組織の誰もが他者のOKRを閲覧できる状態を運用原則の一つとして挙げています。
経営層から部門、チーム、そして個人へと目標を連動させることで、誰が何を目指しているのかが明確になり、組織全体のベクトルを統一しやすくなります。
さらに、達成基準の設定もユニークです。OKRでは、あえて難易度の高い目標を掲げて挑戦を促します。OKRを全社的に運用するGoogleは、評価の「スイートスポット」を60〜70%と位置づけており、100%達成が続く場合はむしろ目標設定が保守的だと捉えます。
出典:Google re:Work「Set goals with OKRs」
KPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)は、目標達成までの進捗を測るための指標です。
KPIは、目指す場所そのものではありません。目指す場所へ向かう途中の「計器」だと考えると分かりやすいでしょう。車のスピードメーターのようなものです。
例えば営業部門であれば、商談数や受注率がKPIに当たります。人事部門なら、応募数や内定承諾率、月次の離職率などが該当します。離職率のように外部比較が可能な指標は、公的統計を基準値として目標を設定すると説得力が増します。厚生労働省の「雇用動向調査」では、全国および産業別の入職率・離職率が年2回公表されています。
いずれも日々の業務の中で追いかける数字です。
KPIは達成率100%を前提に設計します。この点がOKRと大きく異なります。
目標管理の議論では、KGIとMBOも一緒に出てきます。KGIは「Key Goal Indicator」の略で、最終的なゴールを示す指標です。MBO(Management by Objectives)は、P.F.ドラッカーが『現代の経営』(1954年)で提唱した考え方が原型です。
原義は「目標による管理と自己統制」であり、上司が管理するためではなく、本人が自ら目標を定めて自己統制することに主眼があります。日本企業では、上司と部下が面談で目標を設定し人事評価に接続する制度として運用されるのが一般的です。
四つの関係を整理すると、次の表のようになります。
項目 | 目的 | 達成基準 | 評価との連動 | 公開範囲 |
|---|---|---|---|---|
OKR | 全社の方向性を統一し挑戦を促す | 60〜70% | 原則として切り離す | 全社に公開 |
KPI | 目標達成までの進捗管理 | 100% | 連動する場合が多い | 部門・チーム内 |
KGI | 最終ゴールの明示 | 100% | 経営指標として連動 | 経営・部門 |
MBO | 個人の育成と人事評価 | 100% | 直接連動する | 上司・本人・人事部門 |
大きな分かれ目は「評価と連動させるかどうか」です。MBOは評価が前提の制度です。一方、OKRは評価と切り離すことが推奨されます。
OKRをGoogleに導入したジョン・ドーア氏は、OKRを賞与や昇進の判断材料には使わず、組織全体を「本当に重要な少数のこと」に整合させるための仕組みとして位置づけるべきだと述べています。
OKRは、どのような組織課題にも有効なわけではありません。特に効果を発揮しやすいのは、組織の方向性を共有したい場合や、部門を越えた連携を促したい場合です。ここでは、OKRが向いている代表的な四つの状況を紹介します。
期初に経営計画を発表しても、数カ月後には内容を思い出せる社員がほとんどいない。規模を問わず、多くの企業で聞かれる悩みです。
原因は、経営目標と日々の業務とのつながりが見えないことにあります。いくら繰り返し目標を発信したとしても、それが「自らの業務とどのように結びついているのか」を理解できなければ、社員が目標を身近に感じることはありません。
一方でOKRを活用する場合、経営層が設定したObjective(目標)を起点として、各部門やチームのObjectiveをブレイクダウンして構築します。このプロセスにより、社員は自らの担当業務が会社のどの目標の達成に寄与しているのかを明確に捉えやすくなります。
OKRを組織内で公開すると、ほかの部門が何を目指し、どのような取り組みを進めているのかが見えやすくなります。その結果、部門間の情報共有や協力を促す効果が期待できます。
具体的には、営業部門のOKRを確認した開発部門が、営業活動に必要な資料や機能を事前に準備するといった連携です。互いの目標や進捗が見えることで、依頼を受けてから動くのではなく、必要な支援を先回りして行いやすくなります。
複数の部門が協力しなければ成果を出せない組織ほど、OKRによる目標の可視化が役立つでしょう。
目標設定に関する研究では、「ベストを尽くせ」といった曖昧な指示よりも、具体的で難易度の高い目標のほうが一貫して高い成果につながることが、実証研究により確認されています。挑戦的なObjectiveを掲げるOKRの設計思想は、この知見と整合します。
自分の目標と組織全体の目標とのつながりを認識しやすくなるためです。
実務では、四半期ごとの振り返りで「自分のKey Resultsが全社Objectiveのどこに効いたか」をチームで言語化する場を設けると、貢献実感が具体化します。週15分程度の成果共有会(ウィンセッション)を定例化している企業もあります。
OKRは、四半期などの比較的短いサイクルで目標を設定し、振り返る方法です。市場環境や顧客ニーズが変化した場合も、次のサイクルで目標を見直せます。
一方、KGIは年度計画や中期経営計画と結び付いているため、期中の変更には向きません。KPIは目標値の調整こそ可能ですが、KGIから逆算して設計する以上、指標そのものを頻繁に入れ替えると進捗の比較ができなくなります。
新規事業に取り組む組織や、市場の変化が激しい業界では、当初の計画にこだわり続けることが適切とは限りません。状況に応じて優先順位を変更したい組織には、短いサイクルで運用できるOKRが向いています。
KPIは、業務の進捗を数値で管理したい場合に適しています。特に、成果を生み出すための業務プロセスがある程度確立されている領域では、KPIが効果を発揮します。
KPIは、決められた業務プロセスの進捗を測るために適した指標です。日々の活動量や成果を数値で確認できるため、計画通りに業務が進んでいるかを把握しやすくなります。
このケースには管理部門や既存事業など、実施すべき業務が明確な領域が該当します。「どの業務を、どの程度行えば目標に近づくのか」が分かっている場合は、KPIを設定することで、現場が迷わず行動できます。
進捗が遅れている場合にも、どの工程に問題があるのかを特定しやすくなるため、早い段階で改善策を講じられます。
KGIは、売上高や採用人数など、事業として最終的に達成したい目標を表す指標です。KPIは、KGIを達成するまでのプロセスを分解し、途中経過を確認するために設定します。
KPIの設計は、次の手順で進めます。
この順で組み立てると、KPIが単なる数字の羅列になりません。全ての指標がKGIにつながる構造になります。
KPIは、業務が計画通りに進んでいるかを確認するための指標です。そのため、原則として目標値の達成を前提に設定します。
未達の場合は、原因を特定し、業務プロセスや行動量を改善する必要があります。従ってKPIには、現場の行動によって達成できる、現実的な数値を設定することが重要です。
一方、OKRでは、あえて難易度の高い目標を掲げることがあります。KPIにも同じ考え方を当てはめて「達成できなくても問題ない」としてしまうと、業務管理の基準が曖昧になります。
OKRは挑戦を促すための目標、KPIは業務を着実に進めるための指標です。両者の役割を区別して運用する必要があります。
OKRとKPIは、どちらか一方だけを選ぶものではありません。OKRで組織の方向性や挑戦目標を示し、KPIで日々の業務を管理することで、目標と実行をひも付けられます。
ここでは、OKRとKPIを併用する三つのステップと、運用時に押さえたい設計上のポイントを解説します。
最初に、企業全体のOKRを設定します。
Objectiveは、企業が目指す方向性を簡潔な言葉で示します。Key Resultsには、Objectiveを実現できたかどうかを判断するための成果指標を設定します。
目標を増やしすぎると、何を優先すべきかが分かりにくくなるため、まずは重要なObjectiveを一つに絞り、それに対応するKey Resultsを三つ程度設定するとよいでしょう。
例えばObjectiveを「既存顧客に選ばれ続ける会社になる」とし、Key Resultsに「解約率を5%から3%へ改善」「NPSを+10ポイント改善」「導入後3カ月時点の利用率を80%に」を置く形です。
企業全体のOKRを設定したら、次にチームごとのOKRを定義します。企業のObjectiveやKey Resultsを踏まえ、各チームがどのような成果で貢献するのかを考えます。
このとき、経営層が目標を一方的に割り当てないことが大切です。チームのメンバー自身が「自分たちはどのような役割を担えるのか」を話し合い、目標を設定します。
目標を決める過程に社員が参加することで、押し付けられた目標ではなく、自分たちが達成すべき目標として受け止めやすくなります。結果として、目標に対する当事者意識も生まれます。
OKRとKPIを併用する場合、KPIはKey Resultsの達成に向けた進捗を確認するために活用できます。
例えば、Key Resultとして「NPSを+10ポイント改善する」と設定したとします。その実現に必要な日々の業務を管理するために、「問い合わせへの一次回答時間」「解約率」「顧客からの要望への対応件数」などをKPIとして設定します。
事業運営においては、OKRとは別に、必ず達成すべきKGIやKPIを設定する方法もあります。
OKRでは、組織の成長につながる挑戦的な目標を掲げます。一方、売上高や利益率、契約件数など、事業を継続するために必要な数値は、KGIやKPIとして管理します。
このように「挑戦を管理する軸」と「必達の業績を管理する軸」を分けることで、社員は日々の責任を果たしながら、新しい取り組みにも挑戦しやすくなります。
人事評価についても、KGIやKPI、MBOなどを中心に行い、OKRの達成率とは直接結び付けない方法があります。人事評価はKGIやKPI、MBOを中心に設計し、OKRは評価対象から外します。その代わり、四半期末の振り返りでは「達成率」ではなく「何に挑戦し、何を学んだか」を共有する材料として扱うと、挑戦を促す機能が保たれます。
それぞれの役割を明確に分けることが、OKRとKPIを形骸化させずに運用するポイントです。
目標管理制度を形骸化させないためには、OKRとKPIの違いを理解するだけでなく、継続的な運用が不可欠です。目標の共有や定期的な振り返りが適切に行われない状態では、制度そのものが形だけのものになってしまいます。
成果につなげる鍵は、日々の業務のなかで目標を常に「見える化」することです。この論点は社内運用にとどまりません。政府の「人的資本可視化指針(改訂版)」は、経営戦略の達成をいかに人材戦略が担っているかを可視化し、その進捗・改善状況の把握に用いている指標と目標を開示することを求めています。社内の目標管理の設計は、そのまま外部開示の土台にもなります。
出典:内閣官房・金融庁・経済産業省「人的資本可視化指針(改訂版)」
全社のOKRへいつでもアクセスでき、チームの進捗が可視化され、達成に向けた取り組みが互いに称賛される。こうした環境や仕組みを整えて初めて、目標管理は組織の行動変容を促す原動力となります。
したがって、目標管理の見直しは制度の設計だけで完結するものではありません。まずは、①全社OKRを誰でも閲覧できる場所に置く、②週15分の進捗確認を定例化する、③四半期末に達成率と学びをセットで振り返る、という三点から着手してみてはいかがでしょうか。