ダブルワークの労務管理の注意点。労働時間が週40時間を超えた場合はどうなる?

近年はダブルワークに従事する人が増えており、企業は社員の労務管理をより徹底しなければいけません。特に、労働時間が週40時間を超えるダブルワーカーの対応には、注意が必要です。ダブルワークの労務管理の注意点や、割増賃金の計算方法などを解説します。

ダブルワークの労務管理で気を付けるべきポイント

ダブルワークに従事する社員の労務管理は、労働時間の把握や適切な賃金の支払いを含め、通常の労務管理よりも複雑です。社員が自社以外の勤務先でも働いている場合、それぞれの労働時間を正確に把握しなければ、労働基準法に違反する可能性があるので、十分注意しなければいけません。

副業従事者の労働時間管理に注意

副業に従事している社員がいる場合、企業は労働時間の管理体制を強化し、他の職場での勤務状況についても把握しなければいけません。労働基準法では労働時間の総合的な把握が必要とされており、複数の職場で働く社員についても、各企業がその労働時間を確認する責任を負っています。

特に、社員が週に40時間(1日8時間)を超えて労働している場合、残業代の支払いや労働時間の調整が必要になるケースがあります。労働時間の管理を怠ると、法令違反となる可能性があるので、適切な管理が求められます。

※出典:労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準|厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署

労働基準法における週40時間のルール

労働基準法において、社員の労働時間は原則として1週間に40時間、1日8時間までと定められています。この規制はダブルワークの場合も例外ではなく、全ての労働時間を合算して適用しなければいけません。

つまり、社員が本業・副業を通じて、週に40時間(1日8時間)を超えて働いている場合、雇用主である企業には時間外労働の対応が必要になるわけです。実際、社員がダブルワークをしている場合、自社以外の企業での労働時間も含めると、合計で週40時間を超えるケースは多くあります。

労働基準法を遵守するため、企業は社員の勤務状況の実態を把握し、違法な長時間労働を防ぐ必要があります。

※出典:労働基準法 第三十二条(労働時間)|e-Gov法令検索

ダブルワークの割増賃金の考え方

ダブルワークの労働時間は、原則として合算して計算する必要があり、週に40時間を超えた場合は割増賃金が発生します。割増賃金を計算する際には、社員の本業・副業のそれぞれの労働時間を、総合的に判断しなければいけません。

社員のダブルワークの有無に加えて、割増賃金が適用されるか否かについても、きちんと確認するようにしましょう。社員が自社のほかに雇用契約を締結している事業主がいる場合、契約の順番が重要となります。

基本的に、後から雇用契約を締結した事業者の方に割増賃金を支払う義務があるので、ルールをきちんと理解しておきましょう。労働時間を正確に把握できていないと、当該社員に適切な割増賃金が支払われない可能性があるので注意が必要です。

※出典:労働基準法 第三十八条(時間計算)|e-Gov法令検索

いわゆるマルチジョブホルダーに関する現行の労働時間規制について|厚生労働省

労働時間を通算する必要がない場合もある

上記のように、複数の事業主と雇用契約を結んでいる社員に対しては、労働時間の正確な把握が必要であり、割増賃金の支給が求められる場合もあります。

ただし、あらゆるダブルワークにおいて、労働時間の通算が必要なわけではありません。副業の内容や性質によっては、特に労働時間を考慮する必要がないケースもあります。

例えば、個人事業として独立した活動をしている相手や、請負契約で働いている相手に対しては、労働時間を通算する義務はありません。個人事業主やフリーランスとは業務委託契約を結ぶのが一般的であり、相手と雇用契約を結ぶわけではないためです。

ダブルワークの割増賃金の計算方法

ダブルワークの社員に対して割増賃金を支給する際には、当該社員がどのタイミングで週40時間の枠を超えたかを正確に把握し、その超過時間に応じた賃金を支払う必要があります。

すでに別の企業で働いている場合と、社員が新たにダブルワークを始めたケースのそれぞれについて、割増賃金の計算方法を確認しておきましょう。

すでに別で働いている従業員がいるケース

すでに別の企業で勤務している社員を雇用する場合、その人材がほかの職場でどの程度働いているかを確認した上で、適宜割増賃金を支払う必要があります。

例えば、すでにA社で時給1,500円、平日(月~金曜)の週5日、1日8時〜17時(所定労働時間は8時間)の契約内容で、働いている人材を雇用した場合を想定してみましょう。自社は当該人材がA社と雇用契約を締結している点や、その内容を確認した上で、新たに雇用契約を締結したと考えます。

自社との雇用契約の内容は、時給2,000円、月・水・金の週3日、1日19時〜22時(所定労働時間は3時間)だとしましょう。両社ともに、当該人材と36協定(詳しくは後述)を締結していることを前提として、自社が支払うべき賃金を計算してみましょう。

A社との雇用契約により、当該人材は自社で働く時点で、すでに1日の法定労働時間の8時間を超えている状態です。従って、通常の1.25倍(割増賃金)で賃金の計算をする必要があります。

具体的には、2,000円の1.25倍(2,500円)で、3時間働いた場合の賃金を支給しなければならないため、1日当たり7,500円の賃金となります。さらに週に3日勤務なので、月に支払う賃金は1カ月を4週間とすると、90,000円の賃金の支払いが必要です。

従業員がダブルワークを始めたケース

自社で働いている社員が、新たにダブルワークを始めた場合において、通算の労働時間が法定労働時間を超えるケースも考えてみましょう。当該社員が後から雇用契約を締結したA社での勤務によって、法定労働時間を超えた場合、原則としてA社が割増賃金を支払うことになります。 

ただし、A社と雇用契約を締結していることを把握した上で、自社が当該社員の労働時間を延長した場合は、自社にも割増賃金の支払いが必要になるケースもあります。

例えば、自社とA社の労働時間の通算が8時間に達した状態で、新たに当該社員に1時間残業させた場合、その分は通常賃金の1.25倍の割増賃金を支給しなければなりません。時給1,500円で雇用契約を結んでいるならば、1日当たり1,875円(=1500×1.25)の残業代を支払う必要があります。

ダブルワークの労働時間管理のポイント

ダブルワークをしている社員の労働時間を正しく管理するには、以下のポイントを意識することが大事です。ほかの勤務先の有無や労働時間を必ず社員に申告させ、会社として労働時間を総合的に把握する必要があります。必要に応じて36協定も締結しましょう。

ほかの勤務先の有無や労働時間を必ず申告させる

ダブルワークをしている社員に対しては、必ずほかの勤務先があるかどうか、ある場合はその勤務先での労働時間を申告させるルールが必要です。

社員の労働時間をきちんと把握できる仕組みにしておけば、法令に基づいた労務管理が可能になります。また、社員に正確な申告を促すための教育や、啓発活動も必要不可欠です。労働時間の透明性の確保は、社員の健康やワークライフバランスの維持にもつながります。

必要に応じて36協定を締結する

36協定は、法定労働時間を超えて社員に労働させる場合に、必要となる労使協定です。36協定を結んでいなければ、企業は基本的に、法定時間外の労働を社員にさせることができません。

特に、社員が自社を含む複数の企業で働いている場合は、それぞれ36協定を締結しておくことで、法的なリスクを回避できます。ただし、36協定を締結する際には、社員の健康管理にも十分配慮し、過重労働にならないように配慮が必要です。

週40時間のカウント方法にも注意する

ダブルワークをしている社員の労働時間のカウントを誤ると、未払賃金の問題が発生する可能性があります。特に、週に40時間・1日8時間の労働時間をカウントする場合は、注意しましょう。

例えば、月末に労働時間が40時間を超えると、起算日によっては翌月の労働時間と合算される可能性があります。また、祝日の出勤は別途手当(祝日手当)の支給は必要なものの、法定の労働時間を超えていなければ、割増賃金は発生しません。

社員の勤務時間を正確に記録し、常に労働時間のトラッキングをするとともに、特殊な条件下での労働時間の集計方法も押さえておきましょう。

システムを活用して労務管理を行う

ダブルワークの労働時間管理には、専用のシステムの活用が有効です。例えば、労務管理システムを導入することで、社員の勤務時間を自動で記録・集計し、リアルタイムで確認できるようになります。社員がほかの勤務先で働いている時間も、把握しやすくなるでしょう。

また労務管理に加えて、組織力の強化を図れるDX機能が豊富に実装された、多機能アプリの利用もおすすめです。「TUNAG」を導入することで、社員の業務内容を把握できる日報機能をはじめ、カレンダー機能やワークフロー機能などを労務管理に活用できます。

ダブルワークの労働時間をきちんと把握する

ダブルワークをしている社員の労務管理は、一般的な社員よりも複雑になるケースが多いので、きちんと労働時間を把握できるようにしておきましょう。ほかの企業の勤務時間と合わせて、法定労働時間を超える場合には、割増賃金の支払いが必要です。

自社を含めたすべての勤務時間を正確に確認し、社員の労務管理を徹底するには、労働時間をしっかり報告させる仕組みが必要です。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
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