ティーチングは人材育成に有効?メリットとデメリットを知ろう
「ティーチング」は、企業の人材育成などで活用される指導方法の一つです。短時間で効率的に情報を伝達できるため、相手に新たな知識やスキルを学ばせる場面で使われます。ティーチングのメリットやデメリット、コーチングとの違いを解説します。
ティーチングとは?
企業の人材育成では、「ティーチング」が用いられることがあります。新人や若手の指導に適した手法で、知識やノウハウを伝授するのに適しています。ティーチングの特徴と役割を見ていきましょう。
知識やノウハウを教える技術・手法のこと
ティーチングは、「教えること」を意味する英語の「teaching」が語源です。組織においては、主に「知識やノウハウを教える技術・手法」の意味で使われています。
ティーチングの大きな特徴は、教えられる側の自発的な行動を促すよりも、外から答えを与えることに重きが置かれる点です。人材育成では、新人や若手に対して行われるケースが多いでしょう。
新人や若手に実務を通じて仕事を教える「OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」もティーチングの一種といえます。
ティーチングが果たす役割
多くの企業では、従業員のスキル向上を目的にティーチングを実施しています。ティーチングが果たす主な役割は、「教える」「アドバイスする」「気付きを与える」の三つです。
教える役割は、知識が乏しい相手に物事を教えるときが該当します。例えば、新卒者が入社した際は、基本的なビジネスマナーや業界知識などを教え、1日でも早く一人前になるように指導します。
アドバイスする役割は、仕事の実践を通じて果たされるケースが多いでしょう。相手が一定レベルに達していない場合、自分の経験やノウハウを基に指導・助言を行います。
相手の成長を促したいときは、ティーチングによって気付きを与えることが有効です。視点を変えるように促したり、相手に質問をしたりして、自分の考えを整理させます。
ティーチングとコーチングとの違い
ティーチングと混同されやすいのが「コーチング」です。ティーチング同様、ビジネスシーンでは人材育成の手法の一つとして認識されています。両者の違いを比較してみましょう。
コミュニケーション方法
コーチングは、「指導をすること」の意味を持つ「coaching」が語源です。コーチングを行う人(コーチ)とコーチングを受ける人の2人一組で行われるのが一般的で、組織では上司と部下がペアになることが多いでしょう。
ティーチングとコーチングは、コミュニケーションの取り方に大きな違いがあります。ティーチングは、相手に答えやアドバイスを与えることに重点が置かれるため、コミュニケーションは一方向になりがちです。
コーチングは「相手から答えを引き出すこと」が前提です。コーチは適切な質問を投げかけ、相手に自分の頭で考える機会を与えます。両者は基本的に対等な関係性であり、双方向のコミュニケーションが成り立ちます。
主な対象者
ティーチングは、教わる側の知識・経験が乏しい場合に適した手法です。企業では、新たに入社した従業員・新たな部署に異動した従業員などに、社内ルールや業界知識、業務の進め方などを教える際に活用されます。
コーチングは、教わる側に一定の知識・経験がある場合に適した手法です。「考える」「気付く」「話す」のプロセスにより、教わる側の意識や行動に変化がもたらされます。問題解決能力の向上にも効果があり、中堅クラスや管理職の育成に使われることも珍しくありません。
主な活用シーン
ティーチングは、教える内容があらかじめ決まっている場合に活用されます。例えば、業務マニュアルに大きな変更があったときは、従業員を集めて講義形式でティーチングを実施します。
効率的に知識を伝達できるため、クレームの処理やイレギュラー対応などの緊急度の高い内容を伝えるのにも最適です。
コーチングはティーチングと違い、指導内容が相手によって変わります。1対1でじっくりと向き合うのが基本であり、スピードや効率性はそれほど重視されません。相手の能力や可能性を引き出せるため、キャリア実現やリーダーの育成、チームビルディングなどに適しています。
指導側に求められるスキル
ティーチングの指導側に求められるのは、「伝える力」です。主な対象者は、知識や経験が乏しい新人や若手であるため、複雑な物事を分かりやすく言語化しなければなりません。相手の表情や様子から理解度を読み取るスキルも求められるでしょう。
コーチングで重視されるのは、「傾聴力」や「質問力」です。話を否定したり、自分の意見を押し付けたりすると、相手の中にある答えを引き出せなくなってしまいます。
ティーチングとコーチングでは指導者側に求められるスキルが異なりますが、どちらも相手と信頼関係を構築することが欠かせません。
ティーチングのメリット
多くの企業では、ティーチングとコーチングをうまく使い分けながら、人材育成や人材開発を行っています。ティーチングを取り入れることで、どのようなメリットがもたらされるのでしょうか?
短時間で成果が出やすい
一つ目のメリットは、短時間での習得が可能なことです。教える内容があらかじめ決まっている上に、指導者主体で進められるため、業務に必要な知識やスキルを効率良く教えられます。講義形式を採用すれば、一度に大人数の指導が可能です。
指導側のスキルが高ければ、人材育成のスピードが大幅にアップします。学んだことをすぐに実践できるため、能力がそれほど高くない部下でも、一定レベルの効果が期待できるでしょう。特に、ルールを浸透させたいときや業務の標準化を図りたいときに役立ちます。
部下の行動管理が容易になる
二つ目のメリットは、部下の行動管理がしやすくなることです。ティーチングは教える側が主体となって知識やノウハウを伝授します。教師と生徒という構図が成り立つため、自然と指示したり監督したりする機会が増えるでしょう。
業務上に必要な技術の伝授であれば、指導側は手法やノウハウを一つ一つレクチャーし、教わる側はその指示に従って作業を進めます。自主性や創造性を育むには不向きですが、自分勝手な行動を取るリスクは少ないといえます。
特に、組織内で共通認識を形成したいときや目標達成に向けて足並みをそろえたいときに活用できる手法です。
ティーチングのデメリット
ティーチングはさまざまな場面で活用できる優れた手法ですが、デメリットがないわけではありません。相手や場面が適切ではない場合に生じるデメリットを解説します。
自立性が育ちにくい
ティーチングのデメリットは、教わる側が受け身になりやすく、自立性が育ちにくいことです。知識やノウハウを受け取ることが重視され、自分で考えたり、創意工夫をしたりする機会がほとんどありません。活用のシーンを誤ると、相手の成長が妨げられてしまうでしょう。
また、個々の状況に合わせて実施されるコーチングと違い、情報や指導内容は画一的です。教わる側の性格や学びのペースに合わないことがあり、人によってはモチベーションが下がる恐れがあります。
指導側の能力や経験に依存する
ティーチングの良しあしは、指導側の能力や経験に依存します。教わる側は、指導者側が有していない知識やスキルを学べないため、成長の幅が思うように広がらない場合があります。新人や若手には十分でも、経験豊富な従業員には対応できない可能性が高いでしょう。
社内にノウハウがないものや高度なスキルを身に付けたい場合は、外部講師による研修を検討する必要があります。従業員のレベルや成長の度合いに応じて、コーチングに切り替えるのも有効です。
ティーチングを行うときのポイント
ティーチングによる人材育成を行う際は、指導側の事前準備が欠かせません。短時間でもしっかりと効果を出すためには、いくつかのポイントがあります。
達成目標を設定する
ティーチングを始める前に、「何を実現したいのか」「どのレベルに到達したいのか」といった達成目標を設定します。
ゴールが不明確な場合、意図した成果が得られなかったり、教えられる側のモチベーションが下がったりといった事態につながります。ティーチング計画を策定する際は、以下のような流れを意識しましょう。
- 現状から課題を洗い出す
- 習得が必要な知識やスキルを見極める
- 短期・中期・長期の目標を設定する
- 具体的なカリキュラム内容を考える
目標は、短期・中期・長期に区切るのがポイントです。大きな目標を細分化してスモールステップにすると、モチベーションを維持できます。
対象・理由・手段を伝える
限られた時間で、効率的にティーチングを行うには、指導側の「伝える力」を強化する必要があります。知識や経験がない従業員を対象とするケースが多いため、抽象的な表現や難しい専門用語は極力控えなければなりません。
ただ単にやり方を教えるだけでなく、「対象(何をやるのか)」「理由(なぜやるのか)」「手段(どのようにやるのか)」を明確に伝えるのがポイントです。物事の背景や全体像を把握できると、理解度が大幅に向上します。複雑で分かりにくい内容については、具体例を挙げましょう。
定期的に効果測定を行う
教わる側がどれだけ内容を習得しているかを確認するために、定期的に効果測定を行います。効果測定の方法はさまざまですが、代表的なのが「小テスト」です。あらかじめテストがあることを伝えておけば、より真剣に取り組むようになるでしょう。
小テストが実施できない内容であれば、ティーチングで身に付けた知識やスキルが業務の中でどのように生かされているのかをチェックする必要があります。
期待した効果が表れなかった場合は、カリキュラム内容や指導方針を改善しなければなりません。アンケートや個別のインタビューなどを通じて、つまずいている部分がないかを確認するのも有効です。
人材育成にティーチングを取り入れよう
ティーチングは、具体的なやり方や答えを直接的に教える手法です。1対1のOJTはもちろん、講義形式の研修にも活用でき、短時間での知識・スキルの習得が見込めます。
一方で、自立性が養われないデメリットがあるため、相手や場面に応じて、ティーチングとコーチングの両方をうまく使い分けることが重要です。
どのような手法を選択するかにかかわらず、人材育成では指導側と教わる側の信頼関係の構築が欠かせません。働きがいのある組織づくりをサポートするプラットフォーム「TUNAG」を導入すれば、従業員同士のコミュニケーションがより円滑になるほか、エンゲージメント向上にもつながります。
TUNAG(ツナグ) | 組織を良くする組織改善クラウドサービス