処遇改善加算の要件とは?申請の条件や手続き、注意点などを解説

介護職員の処遇改善加算は、職員の待遇改善のために導入される制度です。賃金アップや職場環境の改善が可能ですが、申請にはいくつかの要件や手続きが必要です。申請の条件や注意点を知っておきましょう。制度を最大限に活かすためのポイントも解説します。

介護職員の処遇改善加算とは?

介護職員の処遇改善加算は、介護職員の賃金をはじめ、各種待遇や労働環境の改善を目的とした制度です。介護事業者は同制度により、国から補助金を受け取れるので、職員の給与アップや働きやすい環境の整備を進められます。まずは、制度の概要と加算の種類について、基本的なところを押さえておきましょう。

処遇改善加算の概要

処遇改善加算は、介護保険サービスを提供する事業者が条件を満たすことで、事業主が受け取れる加算制度です。うまく活用すれば、職員の基本給や各種手当の引き上げ、研修の充実などに資金を充てられます。

詳しくは後述しますが、同制度は複数の種類に分かれており、事業所が取り組む内容や達成度に応じて加算額が変動します。適切な計画を立て、条件を満たすことで、事業者と職員の双方にとって有益な仕組みです。

処遇改善加算の導入背景には、介護職の人材不足や離職率の高さがあり、職員の待遇改善を通じて安定した介護サービスの提供を目指しています。

処遇改善加算の種類

処遇改善加算には、次のように(Ⅰ)~(Ⅳ)の種類があります。

  • 処遇改善加算(Ⅰ):最も高い加算率が適用される区分で、加算を受けるにはキャリアパス要件や職場環境改善要件など、すべての基準を満たす必要がある。
  • 処遇改善加算(Ⅱ):加算(Ⅰ)ほど高くはないものの、一定の要件を満たす事業所が受けられる区分で、主にキャリアパス要件の一部を満たしている場合に適用される。
  • 処遇改善加算(Ⅲ):基本的な要件のみを満たした事業所が対象となる加算。キャリアパス要件を満たさない場合でも、職員の待遇改善に取り組んでいる事業所であれば申請できる。
  • 処遇改善加算(Ⅳ):2021年の介護報酬改定により新設された区分で、より多くの事業所が職員の処遇改善に取り組めるように、さらに要件が緩和されている。

それぞれの加算は、取り組みの内容や範囲に応じて適用されるので、事前に内容を確認しておきましょう。

※出典:処遇改善に係る加算全体のイメージ(令和4年度改定後)|厚生労働省

介護報酬改定で何が変わった?

従来、処遇改善加算には、「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」といった分類もありました。しかし2024年度の介護報酬改定により、これらは一本化され、「介護職員等処遇改善加算」として再編されています。

新たに導入される介護職員等処遇改善加算では、これまでの加算をすべて取得していた場合以上に、高い加算率での運用が可能です。

また、従来の配分ルールも見直され、事業所が職員の処遇改善に向けてより柔軟に配分を行える仕組みとなりました。事業所の特性や課題に応じた賃金改善が実現しやすくなり、介護職員のモチベーション向上や定着率の向上が期待できます。

※出典:介護職員の処遇改善:TOP・制度概要 | 厚生労働省

処遇改善加算の主な要件

処遇改善加算の適用要件を具体的に確認していきましょう。以下のように、キャリアパスに関する要件や、月額賃金の改善要件などを満たす必要があります。

キャリアパスに関する要件

処遇改善加算を受けるためには、事業所がキャリアパスに関する基準を満たさなければいけません。職員が将来の目標や、役職を明確にできるような仕組みを整える必要があり、任用要件や賃金体系の整備をはじめ、研修の実施や具体的な昇進基準の提示などが求められます。

キャリアパスに関する要件をきちんと満たすことにより、処遇改善加算が可能になるのみならず、職員のモチベーション向上や長期的なキャリア形成が期待できます。

月額賃金の改善要件

賃金改善要件では、処遇改善加算を活用し、職員の月額賃金を一定以上改善する必要があります。職員の給与を安定的に向上させることを目的としており、事業所が計画的に改善を図ることが重要です。基本給や、特定手当を引き上げることで達成を目指しましょう。

具体的な改善額や方法は、加算の種類や事業所の規模により異なりますが、職員が実感できる形で待遇改善を進めるのがポイントです。なお、給与改善の対象は正規職員だけでなく、非常勤職員やパートタイム労働者も含まれます。

職場環境などの要件

職場環境の改善も加算要件の一つであり、職員が安心して働ける環境づくりが欠かせません。具体的には、業務負担の軽減や、育児や介護をしながら働ける制度の導入が求められます。業務の効率化を目的としたICTの導入や、フレックスタイム制・短時間勤務制度など、柔軟な働き方を可能にする取り組みが挙げられます。

また、職場内のコミュニケーションを活性化させる施策も重要です。定期的なミーティングや意見交換の場を設け、職員間の情報共有や連携を強化することで、業務の効率化や職員のモチベーションの向上を図ることが大事です。

処遇改善加算の申請手続き

処遇改善加算を受けるために、必要な申請手続きも知っておきましょう。まずは、処遇改善計画書の作成・提出が必要です。

処遇改善計画書の提出

処遇改善加算を申請するには、まず処遇改善計画書を作成し、管轄の自治体へ提出しなければいけません。計画書には具体的な賃金の改善施策や、職場環境整備の計画などを詳細に記載します。

期限内に不備のない書類を整えるのはもちろん、職員の意見や現場の課題を反映した書類を作成することが大事です。実効性の高い改善施策を計画に盛り込むことで、認定を受けられる可能性が高まります。

計画した施策の実行

計画書の提出後、記載した施策を確実に実行する必要があります。現場の状況を確認しながら、適宜計画の見直しや追加の取り組みを進め、職員に対する改善効果を最大化できるよう努めましょう。特に、職員の意見を反映しながら柔軟に対応することが、実効性の高い施策につながります。

また、施策の実行状況を適切に記録し、データや具体的な成果を残すことも重要です。報告書の作成や自治体への提出時に必要となるだけでなく、次年度以降の改善策の基盤にもなります。社内で定期的な進捗確認を行い、職員全体で取り組みを共有できるようにしましょう。

処遇改善実績報告書の提出

施策の実施後は、実績報告書を作成して自治体に提出します。報告書には計画内容の達成状況や、賃金改善状況、職場環境整備などの具体的な成果を詳細に記載しましょう。不備のない報告書を作成するために、適宜記録やデータを残しておくことが重要です。

また、報告書は単に提出するだけでなく、次年度以降の計画策定や改善活動の参考資料としても活用されるものです。施策の成果や課題を客観的に評価し、具体的な数値や成果を盛り込むようにしましょう。提出期限も定められているので、きちんと守る必要があります。

処遇改善加算の計算方法

処遇改善加算の計算は、事業所が提供するサービスの種類や規模、加算区分に基づいて実施します。基本的には、1カ月の総報酬額を算出し、上記(Ⅰ)~(Ⅳ)の加算率をかけて計算するので、加算区分が上がるほど金額が増加します。

なお、総報酬額は基本報酬に加算減算を加味したもので、処遇改善加算分は入りません。サービスごとの具体的な加算率については、厚生労働省の資料を確認してみましょう。正確な計算をするために、最新の基準をチェックすることが大事です。

※出典:サービス別加算率|厚生労働省

処遇改善加算の注意点

処遇改善加算を効果的に活用するには、要件を満たすだけでなく、以下の点も意識しましょう。不適切な運用や書類の不備が発覚した場合、加算の認定が取り消される可能性もあるので注意が必要です。

加算の対象外になる事業所もある

処遇改善加算は、すべての介護事業所が自動的に対象となるわけではありません。要件を満たしていない場合や、必要書類に不備があった場合、計画内容の実行が不十分と判断された場合などは、加算を受けられないことがあります。

特に、賃金改善や職場環境の整備に関する基準を満たしていない事業所は、対象外となる可能性が高いので注意しましょう。

また、過去に報告書の不備や虚偽申請があった事業所は、信頼性に欠けるとみなされることもあります。対象外にされないためには、日々の取り組みを着実に進め、計画的に要件を満たすよう努めることが大事です。

雇用形態は支給・不支給に無関係

処遇改善加算は、職員の雇用形態にかかわらず、すべての介護職員を対象としています。正社員だけでなく、パートや契約社員といった非正規雇用の職員にも適用されるため、雇用形態によって支給されないということはありません。ただし、賃金改善の配分においては、職員の勤務時間や業務内容を考慮した適切な配分が求められます。

なお、加算を受ける事業所は、すべての介護職員に対して公平かつ透明性のある基準で賃金を改善する義務があります。雇用形態に関係なく、職員一人ひとりの待遇改善が計画通りに進められているかを定期的に確認し、必要に応じて見直すことが重要です。

書類や記録はきちんと保管しておく

処遇改善加算を適切に運用するには、提出した計画書や実績報告書、日々の記録などの書類をきちんと保管しておくことも大事です。自治体からの監査や確認や監査を受ける際、提出を求められる場合があるため、不備がないよう整理しておきましょう。

書類の紛失や記録の不備が発覚すると、加算の認定取り消しや返還請求を受ける可能性もあるため、管理体制の整備が必要です。また、定期的に書類を見直し、必要な追加情報や更新が反映されているか確認することも大切なポイントです。

処遇改善加算の制度を最大限に生かそう

介護職員処遇改善加算は、職員の待遇を改善し、介護サービスの質を向上させるための重要な制度です。制度を最大限に活用するには、要件を正確に理解し、計画書や報告書の作成から施策の実行まで、確実に進める必要があります。

加算による効果を職員に還元し、働きやすい職場環境を整えれば、職員のモチベーションの向上にもつながるでしょう。さらに事業所の成長や、職員のパフォーマンス向上のための大きなチャンスでもあります。積極的かつ計画的に取り組み、制度を効果的に運用できる体制を整えましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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