【社会保険】加入の条件や必要な手続きは?パートやアルバイトの場合も解説
社会保険は病気やけが・失業などのリスクに備え、安心して働ける環境をつくるための公的な制度です。主な種類と加入条件・加入に必要な手続きなど、基本的なところを押さえておきましょう。従業員の加入手続きも、原則として企業が担当する必要があります。
そもそも社会保険とは?
突然の失業や病気・けがなど、多様なリスクに備えるための公的な制度が社会保険です。まずは、社会保険の基本的な知識を押さえておきましょう。社会保険は以下のように、5種類の保険の総称(広義の社会保険)ですが、健康保険と介護保険・厚生年金保険の3種類(狭義の社会保険)を指す場合もあります。
社会保険の種類(広義の社会保険)
社会保険とは健康保険をはじめ、介護保険や厚生年金保険・雇用保険・労災保険の総称として知られています。社会保険を構成する各保険制度の概要は、次の通りです。
- 健康保険:病気やけがの際、医療機関での治療にかかる費用負担を軽減できる保険制度。主に民間企業の社員と、その家族が加入する。歯医者での治療や出産などにかかる費用も含まれる。
- 介護保険:高齢者と要介護者に対し、介護費用の負担を減らしたり、介護サービスを提供したりするための保険制度。原則として、40歳以上の国民が対象となる。
- 厚生年金保険:対象者の老後の生活を支えるための年金制度。対象者が病気・けがなどにより障害が残ってしまった場合や、死亡に至った場合などに、残された家族を支える保険でもある。
- 雇用保険:対象者が失業した場合に、生活を支援するための保険。失業手当に含めて、教育訓練給付も受けられる。育児・介護による休業の際にも、一定の給付が受けられる制度。
- 労災保険:業務中に事故に遭った場合や、業務が原因で病気になってしまった場合などに、補償を受けられる保険制度。対象者の障害や死亡に対しては、遺族に給付される。
これが広義の社会保険であり、一定の条件に該当する企業は、必ず加入しなければいけません。
狭義の社会保険
狭義の社会保険は、健康保険・介護保険・厚生年金保険の3つを指します。企業で働く従業員の社会保険という文脈においては、これらの保険制度を指すのが一般的です。雇用保険や労災保険に関しては、まとめて労働保険と呼称されます。
詳しくは後述しますが、狭義の社会保険は企業側・従業員側のそれぞれで、加入の条件や手続きが異なります。従業員の社会保険の加入手続きも企業が担当するため、経営者や人事部・総務部の担当者は、加入の条件や具体的な手続きについて、よく理解しておきましょう。
社会保険の加入条件は?
社会保険の加入条件を解説します。近年、法改正により社会保険の適用範囲が広まったため、条件を具体的に確認しておきましょう。
社会保険の加入対象となる従業員の条件
狭義の社会保険は原則として、フルタイムで働く者は全て加入対象となります。企業の代表者や役員なども同様です。また、週の所定労働時間と月の所定労働日数がフルタイムの4分の3以上の者も、基本的に加入が求められます。
なお、介護保険に関しては、原則として40歳以上の国民の加入が義務付けられています。65歳以上の者は第1号被保険者となり、40〜64歳の者は医療保険加入者(第2号被保険者)です。詳しくは、以下の厚生労働省による資料を確認してみましょう。
出典:介護保険制度について(40歳になられた方へ)|厚生労働省
パート・アルバイトの社会保険の加入条件
パートやアルバイトの立場で働く従業員も、次の条件を満たすならば、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入対象となります。
- 週の勤務時間が20時間以上
- 2カ月を超えて働く予定がある
- 学生ではない(※休学中の場合や、定時制・通信制の学生の場合は加入可)
- 給与が月額88,000円以上(※賞与や残業代・通勤手当などは含まない)
また後述のように、従業員数によっても加入対象となるか否かが決まります。法改正の内容とともに、きちんと押さえておきましょう。
出典:社会保険適用対象となる加入条件|厚生労働省 | 社会保険適用拡大 特設サイト
法改正により適用範囲が拡大
社会保険の加入対象となる従業員は、法改正により徐々に範囲が広まっています。2022年の9月までは、従業員数が501人以上の企業の従業員が、主に社会保険の加入対象でした。しかし2022年10月から、従業員数101〜500人までの企業で働く従業員が、社会保険の対象となっています。
さらに2024年の10月からは、従業員数が51〜100人までの企業も対象となる予定です。従って従業員数が51人以上の企業は、上記の加入条件を満たしている場合、従業員を社会保険に加入させる義務が発生します。
今後も少子高齢化の進展や非正規雇用者の増加などにより、重ねて法改正が行われる可能性もあります。労働関連法規の改正状況は、定期的にチェックするようにしましょう。
出典:社会保険適用対象となる加入条件|厚生労働省 | 社会保険適用拡大 特設サイト
企業側の加入条件
次に、企業側の社会保険の加入条件を確認しておきましょう。原則として、全ての法人は社会保険に加入する義務があり、事業所単位で保険が適用されます。
ただし、以下のように社会保険が強制適用になる事業所に該当しない場合、厚生労働大臣の認可により、健康保険や厚生年金保険に加入します。起業・開業により、これから事業を始める人は、どちらの事業所に該当することになるか、よく確認しておきましょう。
強制適用事業所
強制適用事業所は、事業主やそこで働く従業員の意思に関係なく、健康保険や厚生年金保険に加入しなければならない事業所を指します。
国や地方公共団体と法人の事業所が該当するのに加えて、個人事業所の場合でも、常時5人以上の従業員を雇用しているならば、強制適用事業所とみなされます。ただし、農林水産業や飲食店などを営んでいる個人事業所の場合は、この限りではありません。
株式会社や合同会社といった法人は、基本的に強制加入です。たとえ活動する者が事業主のみの場合でも、社会保険への加入が必要です。
任意適用事業所
強制適用事業所に該当しないところは、任意適用事業所とみなされます。任意適用事業所は社会保険の加入義務はありません。
ただし、従業員の半数以上が適用事業所になる旨を同意している状況で、申請によって厚生労働大臣の認可を受けられれば、健康保険・厚生年金保険への加入が可能です。認可の申請は、事業主がみずから管轄の年金事務所(事務センター)で行う必要があります。具体的な加入手続きに関しては後述します。
社会保険に加入するメリット
健康保険や厚生年金保険など、狭義の社会保険は多くの事業主にとって強制加入ですが、上記のように加入が義務付けられていない事業所もあります。しかし強制加入ではなくても、社会保険に加入することで、さまざまなメリットがあるので、ここで理解しておきましょう。
従業員側のメリット
社会保険(健康保険・厚生年金保険)に加入することで、従業員は次のメリットを得られます。
- 病気やけがの際、治療にかかる自己負担費用が3割で済む
- 傷病手当金や出産手当金の給付が受けられる
- 一定の条件のもとで、失業給付が受けられる
- 将来受け取れる年金の額が増える
健康保険に加入することで、病気やけがの治療負担を軽減できるのに加えて、傷病手当金や出産手当金の受給も可能になります。また雇用保険の加入により、失業手当を受けられるケースもあるので、失業しても経済的に困窮せず、再就職先を探せるのもメリットです。
さらに基礎年金(国民年金)に加えて、厚生年金も受け取れるので、老後の生活も安定しやすいでしょう。健康保険料の支払いは、勤務先と折半するかたちになるので、経済的な負担も軽くなります。
企業側のメリット
社会保険に加入する企業側のメリットとしては、次の点が挙げられます。
- 従業員の福利厚生を高められる
- 従業員が安心して働けるようになる
- 社会的信用を担保できる
- 厚生年金の運用益を退職金に上乗せできる
- 優秀な人材の流出を避けられる
健康保険・厚生年金保険に加入していれば、福利厚生を高められるのに加えて、負担の軽減や各種補償により、従業員が安心して働ける環境を構築できます。社会的信用の向上にもつながるでしょう。
また、厚生年金の運用益は従業員の退職金に上乗せできるほか、経費処理も可能です。節税対策としてもメリットがあります。従業員が病気やけが、親の介護などで退職するリスクを軽減できるため、優秀な人材の流出を防ぐ効果も期待できます。
社会保険に加入するには?
社会保険に加入する際の手続きも確認しておきましょう。強制適用事業所・任意適用事業所のそれぞれについて、加入手続きを詳しく解説します。
社会保険加入手続きの概要
適用区分 | 加入要件 | 提出先 | 必要書類 | 提出期限 |
---|---|---|---|---|
強制適用事業所 | 法人設立時、または従業員5人以上の個人事業所など | 事務所を管轄する年金事務所や、事務センター | ・ 健康保険、厚生年金保険、新規適用届 ・ 健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届 ・ 健康保険、被扶養者(異動)届 ・ 健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書 ・ 各種添付書類 | 事実発生から5日以内 |
任意適用事業所 | 従業員の半数以上の同意が得られている場合 | 年金事務所 | ・ 健康保険、厚生年金保険、任意適用申請書、同意書 ・ 健康保険、厚生年金保険、被保険者資格取得届 ・ 健康保険、被扶養者(異動)届 ・ 健康保険、厚生年金保険、保険料口座振替納付申出書 ・ 各種添付書類 | 従業員の半数以上の同意を得たあと速やかに |
強制適用事業所の加入手続き
強制適用事業所は、必ず社会保険の加入手続きをしなければいけません。法人を設立した場合や、個人の事業所で従業員が5人以上になった場合などには、5日以内に事務所を管轄する年金事務所や、事務センターに「新規適用届」の提出が必要です。
また、法人の場合は法人(商業)登記簿謄本、個人の場合は住民票(事業主の世帯全員のもの)などの提出も求められます。窓口に必要書類を持ち込むか、あるいは郵送・電子申請により、早めに手続きを済ませるようにしましょう。
任意適用事業所の加入手続き
任意適用事業所の立場で社会保険に加入する場合、まずは上記のように、従業員の半数の同意が必要です。従業員の意思を無視して、事業主が勝手に社会保険に加入することはできないので、注意しましょう。
従業員の同意を得られたら、日本年金機構に「健康保険・厚生年金保険任意適用申請書」と「任意適用同意書」に加えて、事業主の住民票原本(世帯全員のもの)などの添付書類を提出します。住民票は書類の提出する日を起点としてさかのぼり、90日以内に交付された原本でなければいけません。個人事業所の場合は、事業主の公租公課の領収書の提出も必要です。
出典:健康保険・厚生年金保険 新規加入に必要な書類一覧|日本年金機構
従業員の社会保険加入と退職時の手続き
ここでは、従業員が新たに入社した場合や退職する際に企業が行うべき社会保険関連の手続きを詳しく解説します。
従業員の加入手続きも企業が担当する
従業員の社会保険の加入手続きも、全て企業が担当します。従業員を雇用して健康保険・厚生年金保険に加入するには、事業主が事務所を管轄する年金事務所や事務センターに対し、「被保険者資格取得届」を提出する必要があります。
年金手帳や基礎年金番号通知書・マイナンバーカード(個人番号カード)など、従業員が用意しなければならない書類もあるので、事前にきちんと伝えておきましょう。
以下のように社会保険に加入する手続きに加えて、従業員が退職する場合には、社会保険の資格喪失の手続きも必要です。それぞれ手続きの流れや必要な書類について、基本的なところを押さえておきましょう。
資格取得の手続き
従業員を雇用し、社会保険の資格取得の手続きをする際には、上記のように事業主が「被保険者資格取得届」を日本年金機構に提出しなければいけません。提出期限は雇用事実の発生後、5日以内です。
さらに「被保険者資格取得届」に加えて、当該従業員の基礎年金番号の通知書を提出するか、マイナンバーカードの提示も必要です。
出典:就職したとき(健康保険・厚生年金保険の資格取得)の手続き|日本年金機構
資格喪失の手続き
従業員の退職・死亡などにより、健康保険や厚生年金保険の資格基準を満たさなくなった場合には、事業主が当該従業員の「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届」の提出が必要です。
こちらも資格喪失の事実が発生した日から、5日以内に事務所を管轄する年金事務所か事務センターに提出しましょう。当該従業員が全国健康保険協会管掌健康保険(協会けんぽ)に加入していた場合には、保険証の返却も求められます。
出典:従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き|日本年金機構
家族を被扶養者にする際の手続き
被保険者となる従業員に配偶者や親族がいる場合、被扶養者にするための手続きが必要なケースも少なくありません。
新たに協会けんぽの被保険者となる者に被扶養者がいる場合や、被扶養者を追加する場合などは、事業主に「被扶養者(異動)届」の提出が求められます。配偶者や親族が協会けんぽ以外の健康保険に加入している場合は、「国民年金第3号関係者届」の提出が必要です。
被扶養者の認定を受けるには、従業員との関係性や同居の有無・収入要件を満たす必要があるので、条件をよく確認しておきましょう。詳しくは、日本年金機構の公式ページに記載されています。
出典:従業員(健康保険・厚生年金保険の被保険者)が家族を被扶養者にするとき、被扶養者に異動があったときの手続き|日本年金機構
社会保険に加入しないとどうなる?
社会保険に必ず加入しなければならない強制適用事業者が、未加入の状態を続けていると、罰則を科せられる可能性があります。
未加入の強制適用事業者には、まず日本年金機構から確認文書が届き、社会保険への加入を促されます。案内に従わない場合は機構から指導が行われ、それでも従わない場合、強制加入手続きを取られることになるので注意しましょう。
最終的には、罰則(6カ月以下の懲役または、50万円以下の罰金)を科せられるケースもあります。強制適用事業者になった場合は、速やかに社会保険の加入手続きをすることが大切です。
まとめ:社会保険への加入でリスクに備える
社会保険に加入すれば、突然の病気やけが・失業などに備えられます。従業員はさまざまなリスクに対応できるため、安心して仕事に向き合えるようになるでしょう。企業側も従業員の福利厚生を高められるほか、社会的信用の担保にもつながります。
従業員の社会保険の加入手続きも、企業側がしなければいけません。経営者や人事・労務の担当者は、必要な書類や手続きをよく理解しておく必要があります。不明点や疑問点があれば、日本年金機構の「ねんきん加入者ダイヤル」や相談窓口などを利用しましょう。