事業ポートフォリオとは?意味や種類、作成方法について解説

デジタル化の加速とグローバル競争の激化により、企業の事業戦略の見直しが急務となっています。そんな中、注目を集めているのが「事業ポートフォリオ」という考え方です。本記事では、事業ポートフォリオの意味から作成方法、活用のポイントまでを詳しく解説します。

事業ポートフォリオとは何か

企業が持つ複数の事業を俯瞰的に捉え、最適な資源配分を行うための重要なツール、それが事業ポートフォリオです。ここでは、その基本的な概念と、なぜ今、多くの企業がこれを重視しているのかを探ります。

ポートフォリオ本来の意味

ポートフォリオ(Portfolio)を日本語に直訳すると「紙ばさみ」「折りかばん」「書類入れ」という意味です。つまり「書類を運ぶためのケース」のことを表し、個々の書類を別々に扱うのではなく、書類全体をひとつの物として扱うという意味を持っています。

一見、バインダーやファイルと似たようなニュアンスに聞こえますが、これらは正確に言うと「書類を糸などで綴じる」という意味を持つことから、ポートフォリオとは若干の違いがあります。ポートフォリオの本来の意味は、そのファイルにきれいに綴じられる前段階の紙書類をひとまとめにして、運びながら出し入れできるケース、といったイメージです。

ポートフォリオは日本語で「書類入れ」を意味します。つまり本来のポートフォリオとは「書類を運ぶためのケース」を指し、書類全体をまとめて扱うことを意味します。

この点からも、ポートフォリオ本来の意味とは、書類をまとめて扱う管理方法だったことがわかります。

事業ポートフォリオの定義

では、ビジネスにおける「事業ポートフォリオ」とは具体的に何を指すのでしょうか。簡単に言えば、企業が抱える複数の事業を戦略的に組み合わせ、全体としての企業価値を最大化することを目指す経営手法です。

例えば、大手電機メーカーA社を想像してみましょう。A社は家電事業、半導体事業、医療機器事業など、複数の事業を展開しています。これらの事業を、市場の成長性や自社の競争力などの観点から分析し、どの事業にどれだけの経営資源を投入するか、あるいは撤退すべき事業はないかを判断します。

これが事業ポートフォリオの管理です。最近では、SDGsやESGの観点も事業ポートフォリオの検討に含まれるようになってきました。環境への配慮や社会貢献も、企業価値を左右する重要な要素となっているのです。

事業ポートフォリオを作成するメリット

事業ポートフォリオを適切に管理することで、企業は様々なメリットを得ることができます。ここでは、主要な3つのメリットについて詳しく見ていきましょう。自社の経営にどのように活かせるか、考えながら読み進めてみてください。

迅速な経営判断につながる

事業ポートフォリオを作成することで、各事業の位置づけが明確になります。その結果、経営環境の変化に対して、迅速かつ的確な判断が可能になるのです。

例えば、ある食品メーカーB社が、健康食品事業、冷凍食品事業、飲料事業を展開しているとしましょう。事業ポートフォリオ分析の結果、健康食品事業が最も成長性が高いと判断された場合、市場環境の急変時にも、健康食品事業への投資を優先するという判断を素早く下せます。

また、デジタル化が進む現在、事業ポートフォリオの管理にAIを活用する企業も増えています。リアルタイムデータを分析し、より精度の高い意思決定をサポートしてくれるのです。

事業の機会を見極めやすくなる

事業ポートフォリオを俯瞰することで、新たな事業機会や、既存事業間のシナジー効果を見出しやすくなります。これは、特に複数の事業を展開する大企業にとって、大きなメリットとなります。

具体例を挙げてみましょう。電機メーカーC社が家電事業と自動車部品事業を展開しているとします。事業ポートフォリオ分析を行う中で、両事業の技術を組み合わせた「スマートホーム向けIoT製品」という新たな事業機会を発見するかもしれません。

このように、事業ポートフォリオの分析は、単なる現状把握だけでなく、未来の成長機会を発見するツールにもなるのです。

財務体質の改善につながる

事業ポートフォリオの最適化は、企業の財務体質改善にも大きく寄与します。収益性の低い事業から高い事業への経営資源のシフトや、不採算事業の整理などを通じて、全体としての資本効率を高めることができるのです。

例えば、総合商社D社が、資源事業、食品事業、不動産事業などを展開しているとします。事業ポートフォリオ分析の結果、資源事業の収益性が低下していることが判明した場合、この事業への投資を抑え、代わりに成長が見込まれる食品事業に資源を集中投下するといった判断ができます。

近年では、ROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)といった指標を用いて、より精緻な財務分析を行う企業が増えています。

事業ポートフォリオの作成方法

事業ポートフォリオの重要性は理解できたものの、実際にどのように作成すればよいのでしょうか。ここでは、事業ポートフォリオを作成する際の基本的なステップを、具体例を交えながら解説します。自社への適用を想定しながら、各ステップを確認してみましょう。

自社の現状を把握する

まずは、自社の各事業の現状を正確に把握することから始めます。売上高、利益率、市場シェア、成長率といった定量的な指標はもちろん、競合との比較や顧客からの評価といった定性的な情報も重要です。

こうした情報を整理することで、各事業の位置づけが明確になります。近年では、ビッグデータ分析やAIを活用し、より精緻な現状把握を行う企業も増えています。

強みの分析を行う

次に、各事業の強みと弱みを分析します。ここでは、SWOT分析やバリューチェーン分析といったフレームワークを活用すると効果的です。

一例としてSWOT分析の項目を挙げていきましょう。

  • 強み(Strength):高い技術力、充実したアフターサービス
  • 弱み(Weakness):コスト競争力の不足
  • 機会(Opportunity):新興国市場の拡大
  • 脅威(Threat):新規参入企業の増加

このような分析を通じて、自社の競争優位性や今後の成長可能性を明確にしていきます。

注力する事業を決定する

現状把握と強み分析の結果を踏まえ、どの事業に注力するかを決定します。ここでは、BCG(ボストン コンサルティング グループ)のプロダクト・ポートフォリオ・マトリックス(PPM)などのフレームワークが役立ちます。

事業の役割を決定付けることで、注力すべき事業が見えてきます。以下はその具体例です。

事業A:「花形」事業として積極的に投資を続ける

事業B:「金のなる木」として安定的なキャッシュフローを確保

事業C:「問題児」として、抜本的な改革か撤退かを検討

こうした判断を基に、経営資源の配分を決定していきます。ただし、単純に財務指標だけで判断するのではなく、将来の市場動向や技術トレンド、さらにはSDGsやESGの観点も考慮に入れることが重要です。

事業ポートフォリオを活用するポイント

事業ポートフォリオを作成したら、次はそれを効果的に活用することが重要です。ここでは、事業ポートフォリオを活用する際の主要なポイントを解説します。これらを参考に、自社の経営戦略をより強固なものにしていきましょう。

優先順位を決定する

限られた経営資源を最適に配分するためには、明確な優先順位付けが欠かせません。事業ポートフォリオ分析の結果を基に、各事業の優先順位を決定することが重要です。

例えば、総合電機メーカーF社が以下のような優先順位を設定したとします。

  1. IoTソリューション事業(成長事業)
  2. 半導体事業(基幹事業)
  3. 家電事業(安定事業)
  4. PC事業(要改革事業)

このような優先順位に基づいて、人材、資金、設備などの経営資源を配分していきます。

ただし、優先順位は固定的なものではありません。市場環境の変化や技術革新に応じて、柔軟に見直すことが重要です。

ガバナンスを強化する

事業ポートフォリオの最適化には、強力なガバナンス体制が不可欠です。特に、多角化が進んだ企業では、各事業部門の「部分最適」に陥りがちです。全社的な視点から、適切な経営判断を下せる体制を整えましょう。

具体的には、以下のような施策が考えられます。

  1. 取締役会での定期的な事業ポートフォリオレビューの実施
  2. 事業ポートフォリオ管理を担当する専門部署の設置
  3. 全社的なKPI(重要業績評価指標)の設定と徹底

例えば、四半期ごとに「ポートフォリオ管理委員会」を開催し、各事業の進捗状況や市場環境の変化を確認するといった施策が該当します。こうした取り組みにより、迅速かつ適切な経営判断が可能になるのです。

資本効率を上げることを重視する

事業ポートフォリオ管理の重要な目的の一つが、資本効率の向上です。特に近年は、株主や投資家からの圧力もあり、ROE(自己資本利益率)やROIC(投下資本利益率)といった指標の改善が強く求められています。

各事業部門が資本効率を意識した経営を行うようになり、結果として全社の企業価値向上につながるでしょう。

事業再編や撤退も視野に入れる

事業ポートフォリオの最適化には、新規事業への進出だけでなく、既存事業の再編や撤退も重要な選択肢となります。

特に、経営環境が急速に変化する現代においては、「選択と集中」の視点が欠かせません。

ただし、事業の撤退や売却は従業員のモチベーションに大きな影響を与える可能性があります。慎重な検討と丁寧なコミュニケーションが必要です。また、M&A(合併・買収)による事業ポートフォリオの組み替えも、有効な選択肢の一つとなるでしょう。

事業ポートフォリオの活用で自社の戦略を改善する

事業ポートフォリオ管理は決して経営陣だけのものではありません。全社員が自社の事業ポートフォリオを理解し、それぞれの立場で貢献できる環境を作ることが、真の企業価値向上につながります。

この機会に自社の事業ポートフォリオを見直してみてはいかがでしょうか? 現状分析から始めて、徐々に高度化を図っていくことをおすすめします。その過程で、新たな成長の芽を発見できるかもしれません。

変化の激しい現代のビジネス環境において、事業ポートフォリオ管理は企業の羅針盤となります。この羅針盤を上手く活用し、自社のさらなる成長と発展につなげていきましょう。

著者情報

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