ガバナンスとは?コンプライアンスとの違い、強化するメリットや方法を解説

自社の健全かつ持続的な成長を図るなら、ガバナンス強化が必要です。不正や腐敗を未然に防げるほか、企業価値や収益力の向上も期待できます。ガバナンスの意味やメリット、強化する方法について詳しく解説します。

ガバナンスとは

2000年代に大企業の不祥事が頻発したことを受け、近年は企業だけでなく国や自治体でもガバナンスが重視されています。ガバナンスとはどのようなものを指すのか、まずは言葉の意味を理解しましょう。

組織を制御するための仕組み

ガバナンス(governance)とは、「統治・管理」を意味する言葉です。企業においては、「健全な経営を進めるために企業自身が整備する組織制御の仕組み」を指します。

ガバナンスが注目され始めた大きな理由の1つが、バブル経済崩壊後に企業の不正や不祥事が相次いだことです。より健全な企業運営のために、経営を監視する仕組みづくりへの必要性が高まり、ガバナンスが重視されるようになりました。

機関投資家や外国人投資家の持ち株比率が上昇していることや、海外進出によるステークホルダーの多様化も、ガバナンスが注目されるようになった背景にあります。

コーポレートガバナンス・コードとは

上場企業がガバナンスを実現するために遵守すべき原則や指針をまとめたものが、コーポレートガバナンス・コードです。金融庁と東京証券取引所の主導で策定され、2015年3月に公表されています。

コーポレートガバナンス・コードの基本原則は次の通りです。

  • 株主の権利・平等性の確保
  • 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
  • 適切な情報開示と透明性の確保
  • 取締役会等の責務
  • 株主との対話


2021年6月の改訂では、主に以下の原則も追加されています。

  • サステナビリティ課題への積極的・能動的な対応
  • 取締役会の機能
  • 女性の活躍促進を含む社内の多様性の確保


出典:コーポレートガバナンス・コード | 株式会社東京証券取引所

ガバナンスと似た言葉の意味

ガバナンスと意味を混同しやすい言葉に、コンプライアンス・内部統制・リスクマネジメントがあります。いずれもガバナンスと関連性が高いため、意味をしっかりと理解しておくことが重要です。それぞれの意味を見ていきましょう。

コンプライアンス

コンプライアンス(compliance)は「法令遵守」を意味するビジネス用語です。単に法令を守ることだけでなく、法令遵守に対する企業の姿勢や取り組みを指すケースもあります。

コンプライアンス違反の具体例をまとめました。

  • パワハラ・セクハラ
  • 不適切会計・会計不正
  • 過度な残業


ガバナンスはコンプライアンスを含めた広い範囲を対象とする組織制御の仕組みです。ガバナンスを強化すれば、コンプライアンスの強化にもつながっていきます。

内部統制

内部統制とは、企業経営を健全かつ効率的に進めるための仕組みや体制です。金融庁は、以下4つの目的を達成するためのプロセスを、内部統制の定義としています。

  • 業務の有効性及び効率性
  • 財務報告の信頼性
  • 事業活動に関わる法令等の遵守
  • 資産の保全


内部統制が組織の信頼性を守るための社内関係者に向けた仕組みであるのに対し、ガバナンスはステークホルダーの利益を守る意味合いが強い仕組みです。ガバナンスを達成するための手段の1つが内部統制であるともいえます。

出典:内部統制の基本的な枠組み|金融庁

リスクマネジメント

リスクマネジメントは、組織的にリスクを管理し、リスクによる損失の回避や軽減を図ることです。経営上のリスクを最小限に抑えることは、ガバナンス体制の適切な構築につながります。

近年は業務の複雑化によるアウトソーシング化が進んでおり、外注先の業務停止により被る自社の損失など、以前なら発生しにくいリスクが顕在化しているのが実情です。

リスクマネジメントは組織として取り組むことが大切ですが、全てのリスクに対応できるわけではありません。より大きな影響を与えかねないリスクを見極め、重点的に対策を講じる必要があります。

組織がガバナンスを強化するメリット

ガバナンスの強化により、企業はどのようなメリットを得られるのでしょうか。ガバナンスの実現が企業にもたらす主な効果を紹介します。

不正や腐敗を未然に防げる

ガバナンスを効かせるメリットの1つに、不正や腐敗の防止につながることが挙げられます。社内の監視体制が強化されるため、より健全な経営の実現を期待できるでしょう。

例えば、ガバナンスを強化することで不適切会計への抜け穴が撤廃され、会計や決算における不正を防げる可能性が高まります。経営者は社外取締役や監査役に監視されている状態になり、企業を私物化したり不正な利益を獲得したりすることができません。

不正や腐敗の予防は、株主や顧客といったステークホルダーの利益を守ることにもつながります。

企業価値の向上につながる

積極的にガバナンスを強化している企業は、透明性が高いことを評価され、企業価値が向上します。優良企業としての認知度が高まると、中長期的な発展につながるでしょう。

企業価値が向上すれば株価が上昇するため、株主の利益も守られます。新たな株主も獲得しやすくなるほか、銀行からの評価も高まることから、資金調達力も向上します。

優秀な人材を獲得しやすくなる点もメリットです。企業価値が大きくなれば企業の安定性や将来性への期待が高まり、採用活動における優位性を保ちやすくなるでしょう。

持続的な収益力の向上を図れる

ガバナンスが効いている企業は組織としてのまとまりを持ち、管理体制もしっかりしているため、企業の成長につながります。持続的な収益力の向上を図れることがメリットです。

利益が増えると投資や人材獲得を積極的に進められるようになり、市場における競争力も高まります。新たな事業の立ち上げにもチャレンジしやすくなるでしょう。

収益力の向上はエンゲージメントが高い従業員を増やし、さらなる業績アップにつながります。顧客満足度の向上や離職率の低下も期待できるでしょう。

ガバナンスの欠如がもたらすリスク

ガバナンスの強化を面倒に感じ、何も着手しないままでいると、大きなリスクを抱えてしまうことにもなりかねません。ガバナンスが機能していない状態では、どのようなことが生じ得るのでしょうか。

社会的信用を失う

ガバナンスが機能していない企業では、監視の目が組織の隅々まで行き渡りにくくなります。企業として不正や不祥事が発生しやすい状態になってしまうことがデメリットです。

従業員がハラスメントや情報漏洩といった不祥事を起こしてしまうと、自社に大きな経営的損失をもたらしかねません。企業としての社会的信用を失うリスクもあります。

近年は特に社会の目が厳しさを増しており、1つの不正や不祥事が企業の存続を左右するケースもあります。法令に違反しているわけでなくても、倫理に反していることが明らかになるだけで、社会的な批判を受けることもしばしばです。

グローバル化への対応が遅れる

ガバナンスが効かない場合に生じるリスクの1つに、グローバル化への対応が遅れることもあります。経済の世界的な変化に追いつけなくなるため、市場優位性を維持しにくくなってしまうのです。

ガバナンスが適切に機能していない状態では、自社の透明性や業務の効率性が保てなくなり、健全な事業運営が困難になる恐れがあります。海外への事業展開を視野に入れている企業は、グローバル化に対応するためのガバナンス強化が必須といえるでしょう。

ガバナンスを強化する方法

ガバナンスの強化に効果的な施策を紹介します。自社で体制の整備に取り組む場合の参考にしましょう。

環境や仕組みを構築する

企業のガバナンス強化には、環境や仕組みの構築が不可欠です。まずは従業員の行動基盤となる企業理念を見直し、企業理念が定まっていない場合は策定を進めましょう。

次に、企業理念に沿った統治を行うための社内ルールを設定します。従業員が問題を起こさないよう、コンプライアンスの強化を図ることも重要です。

透明性のある情報開示の実現に向けて、内部統制の構築と整備にも取り組みましょう。今後発生し得るリスクを洗い出し、リスクマネジメントまで行うのが理想です。

監査体制の強化施策を取り入れる

ガバナンスを効かせるためには監査体制の構築が欠かせません。公平な立場からアプローチできる内部監査機関を設置し、コンプライアンスの徹底やリスクマネジメントの実施ができているかチェックを行うことが大切です。

第三者の立場で監査を行える体制も整えましょう。社外取締役や社外監査役を設置すれば、一部の経営陣や従業員による不正を未然に防止しやすくなります。

身内だけで監査体制を構築しても、説得力のある仕組みにはなりません。内部監査機関を設置したら、独立した立場から客観的に評価できる体制を整える必要があります。

全従業員に周知徹底する

ガバナンス体制の構築は全社的な取り組みであり、組織に属する全員の理解が必須です。企業としてガバナンス強化に取り組むことを、全従業員に周知徹底する必要があります。

ガバナンス強化の目的や社内ルール、監査体制などを伝え、全従業員が共通の認識を持って業務に取り組むことが重要です。

従業員に対して教育を実施するのもよいでしょう。単なるアナウンスで済ませるのに比べ、従業員のガバナンスに対する理解がより深まるため、体制の整備がスムーズに進むでしょう。

適切なガバナンス体制を構築し組織力を強化

ガバナンスとは組織を制御するための仕組みのことです。ガバナンスを効かせることで不正や不祥事を未然に防げるほか、企業価値の向上や持続的な成長も期待できます。

ガバナンスと似た意味の言葉に、コンプライアンス・内部統制・リスクマネジメントがあります。いずれもガバナンスと関連性が高いため、意味をしっかりと理解することが重要です。

ガバナンスを効かせるメリットやガバナンスを強化する方法もチェックし、適切なガバナンス体制を構築して組織力を強化しましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
TUNAG(ツナグ)では、離職率や定着率、情報共有、生産性などの様々な組織課題の解決に向けて、最適な取り組みをご提供します。東京証券取引所グロース市場上場。

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