経産省・特許庁が「デザイン経営」を宣言。その実践方法や事例を解説
今、会社経営に「デザイン」の思考や思想を取り込む組織作りに注目が集まっています。
中でも2017年に経済産業省と特許庁は有識者らを集め「産業競争力とデザインを考える会」を発足し、「デザイン経営宣言」として、資料を公表しました。どのようなものなのか、どのように企業に取り入れられているのかをご紹介いたします。
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デザイン経営とは
デザインの発送を経営の視点にも取り入れること
デザイン経営とは、クリエイティブなデザインの発想を、“経営の視点”にも取り入れる事です。詳しくは後述しますが、経営の上流にデザイナーを配置し、意思決定にデザイン視点を取り込みます。 デザイン経営というと、米国アップル社の故スティーブ・ジョブズが、デザイン思考(デザインシンキング)として経営視点、特にデザインマネジメントに拘っていた事は有名で、世界の市場にインパクトを与えました。 特にUI(ユーザーインターフェイス)/UX(ユーザーエクスペリエンス)に力を入れており、顧客を固定化し、再購入や顧客連鎖などブランド力の向上と利益拡大を手にしました。 またジョブズ自身はデザイナーでもプログラマーでもなく、多くのユーザーを代表するご意見番的な経営者でもあった事が成功の秘訣だったともいわれています。クリエイティブシンキングで経営の意思決定にも提言
デザイン経営では、これまでの製品やサービスなどのプロダクトデザインだけでなく、デザインという視点を経営にも取り入れ、経営の意思決定など上流工程から提言していくことを指しています。 デザイナーを経営陣のそばに配置することで、これまでの経営視点だけではなくデザイナー視点(デザイナー特有のクリエイティブな発想)での助言が、斬新なアイディアを産み、さらなる発展につながると考えられています。デザイン経営が注目される背景
技術革新が進み、多くの優れた製品が世の中に溢れ、従来の常識や経験が通用しない時代になってきました。特にこれまで日本ではデザインより機能性を重要視し、デザインがグローバル競争での弱点とされてきました。 具体的には、米国アップル社や英国ダイソン社などオシャレなデザインがユーザーの心を掴み、市場を勝ち取っていった事例などがあげられます。 スマートフォンやパソコンではアップルの好調の陰で、ソニーをはじめとする日本の家電メーカーは苦境に立たされてきました。 もちろん世界的なプロモーションや実装した機能などもその背景にはあると思いますが、デザインも重要な要素と考えられています。 そこで日本政府もこの問題の解決をしようと考え、「デザイン経営宣言」〜産業競争力とデザインを考える研究会〜を発足しました。 参考:デザイン経営2018研究会報告書(案) - 経済産業省・特許庁 産業競争力とデザイン経営を考える研究会 -デザイン経営を進めることによるメリット、効果
1.ブランド力の向上
デザインは製品を表すだけではなく、企業イメージにも直結します。例えば、「無印良品」の商品は全体的にシンプルで使いやすいイメージを持たれています。 ユーザーは色々なお店を見て周り、価格やデザインをチェックします。お気に入りのアイテムが見つからなかったとしても、「何にでも合うシンプルなデザインの無印良品を見に行こう」と、シンプルなプロダクトが企業ブランドとして確立され、広く認知されています。2.イノベーションを起こす力になる
イノベーション(技術革新)は、研究開発で新しい技術を生み出すだけではなく、ユーザーニーズを見極め、新しい価値を見出すこと。すなわち、デザインが介入して実現できることだと定義されています。 アップルやダイソンでは特許出願数が増えていますが、日系企業は特許出願数が低迷していることからイノベーションを生み出すにはデザインの存在は必要不可欠であると考えられています。3.売上、利益の向上につながる
欧米ではデザインによる投資効果の研究も積極的に行われており、そのパフォーマンスについての研究報告も出されています。 産業競争力とデザインを考える研究会の資料によると、British Design Councilが「デザインに投資すると、その4倍の利益が得られる」と結論づけたことや、Design Value Indexが、S&P500(アメリカの主要市場に上場している代表的な500社)全体と比較して過去10年間で2.1倍の成長率だったと報告したデータなどを紹介しています。 これらのデータからもデザイン経営による投資効果は十分にあるということが立証され、昨今ではデザインについての重要性が唱えられるようになりました。実践する方法、具体的な取り組み
デザイン経営を実践するには、事業戦略を立てるところからデザイン視点を取り入れること
「デザイン経営宣言」〜産業競争力とデザインを考える研究会〜の定義によると、デザイン経営と呼ぶためには「経営チームにデザイン責任者がいること」「事業戦略構築の最上流からデザインが関与すること」が必須条件とされています。 デザイン責任者のスキルについては、以下のように紹介されています。製品・サービス・事業が顧客起点で考えられているかどうか、又はブランド形成に資するものであるかどうかを判断し、必要な業務プロセスの変更を具体的に構想するスキルを持つ者発表された資料を参考に、デザイン経営実践のステップを、事例を交えてご紹介いたします。
1.デザイン責任者(CDO,CCO,CXO)が、経営チームへ参画すること
まずは、デザインを企業戦略の中核に位置付け、デザインについて経営メンバーと蜜のコミュニケーションを取る必要があります。このようなスキルを持つ方にコンサルティングに入ってもらうような形での実践も可能でしょう。 ソニー、ToToの事例:社長直下にデザインチームを位置付け、デザインに関する迅速な意思決定が行われ、製品デザインの品質を担保しています。2.事業戦略・製品・サービス開発の最上流から参加する
デザイナーが事業戦略、製品・サービス開発の最上流から計画に参加するようにします。 ソニーの事例:商品の企画段階からデザイナーが開発に携わり、エンジニアと協業でエンドユーザーの視点を取り入れた製品開発に成功しています。3.「デザイン経営」の推進組織の設置
組織図の重要な位置にデザイン部門を位置づけ、社内横断でデザインを実施します。 キヤノンの事例:社内のデザインのスキルセットを集約し、シナジーを生む事で産業強化を図るためにデザイン室の統合が行われました。名称も総合デザインセンターと変更し、会長・社長直轄の組織として位置付けました。4.デザイン手法による顧客の潜在ニーズの発見
デザイナーにより、顧客の潜在ニーズを発見します。 富士フィルムの事例:プロダクトデザイン・グラフィックデザイン・インターフェースデザインなどのいずれかのバックグラウンドを持つ人材が、「人間の本質的なニーズ」を抽出しながら、製品の構想を行っています。5.アジャイル型開発プロセスの実施
ウォーターフォール型ではなく、アジャイル型で開発を進めていきます。観察・仮説構築・試作・再仮説構築の反復により、質とスピードの両取りを行う動きが特徴です。 サントリーホールディングスの事例:製品の内容やデザイン・マーケティングにおいて、事業部、デザイン部、R&D部など様々なバックグラウンドのメンバーでチームを構成し、アジャイル型でプロジェクトを推進しています。6.デザイン人材の採用と育成の強化
デザイン人材の採用を強化し、ビジネス人材やテクノロジー人材に対するデザイン手法の教育を行うことで、デザインマインドを向上させます。 キャノン・日立製作所の事例:デザイナーは美大卒を採用するイメージもありますが、美大の他にも、工学系出身者の採用を積極的にしています。 パナソニックの事例:デザイナーの育成としてビジネスやエンジニアリングを学ぶ取り組みも行なっております。7.デザインの結果指標・プロセス指標の設計を工夫
KPIなどの指標の設定が難しいデザインについても、観察可能で長期的な企業価値を向上させるための指標策定を行います。 ニトリホールディングスの事例:商品の中でデザイン部門が開発において影響を及ぼした製品数と売上を一つの簡易的なKPI指標として経営層に報告を行なっています。 このように、複数の大企業がデザイン経営に積極的に取り組んでいます。またニトリの事例から分かるように、売上のKPIをデザイン部門も追う事でよりユーザーのニーズに直結した洗練されたプロダクトが生み出されています。 参考:「デザイン経営の先行事例」- 特許庁・経済産業省 産業競争力とデザインを考える研究会- また、別冊として纏められた事例の他に、DeNAの事例をご紹介いたします。 DeNAはデザインを経営の1つの重要なピースとして捉え、ビジネス、テクノロジー、デザインが三位一体となって全社で取り組んでいます。 またUI(ユーザーインターフェース)デザイナーとは別にUX(ユーザーエクスペリエンス)デザイナーをプロジェクトにアサインし、常に解析を行なっています。 会社が抱える課題はたくさんありますが、デザイナー自身が経営を学ぶ事で、デザイナー視点だけでは見えなかった課題の本質が見えてきた事が伺えます。 参考:DeNA全社で取り組むUXデザイン強化、 次なる10年に向けた「デザイン経営」戦略今後、会社全体に「デザイン思考」を取り入れる動きが進む
デザイン経営を取り入れることで製品・サービスを向上させる事ができるということが分かってきており、日本でも企業が取り入れ始めています。 いきなり経営層に「デザイン」に長けた人材を入れるということはハードルが高いかもしれませんが、デザインの“思考”を会社全体に取りいれていくことは可能です。 そのためには、役職や職種、部署など、それぞれの役割を持つ人々がつながりを持ち、イノベーションを起こしていこうとするマインドの醸成が必要です。 会社としてデザイン経営を取り入れていきたい、という場合だけでなく、製品開発を行う事業部全体としてデザイン思考を入れていきたいという場合も、ただ一人だけで推進していくことは難しいでしょう。 デザイン思考を持つメンバーが周りに影響を与え、デザイン経営が実践できるよう、情報共有やコミュニケーションが十分にとれる環境づくりも同時に進めることが重要です。エンゲージメント経営プラットフォーム『TUNAG(ツナグ)』について
TUNAG(ツナグ)は、会社と従業員、従業員同士のエンゲージメント向上のために、課題に合わせた社内制度のPDCAをまわすことができるプラットフォームです。 会社の課題を診断し、課題に合った社内施策をご提案、その後の設計や運用のサポートまで一貫して行っています。課題の診断は、弊社の診断ツールを使い把握することが可能です。ツールと専任のコンサルタントの支援で、経営課題を解決に貢献するサービスです。 会社としてデザイン経営を実践するにあたり、従業員への理解・浸透を促したり、デザイナー人材の教育の場として情報発信や研修などを行うなど、従業員に必要な情報をシームレスに伝えていくこともできます。 課題に合わせた施策や取り組みをTUNAG(ツナグ)が継続して提案・ご支援しております。具体的な事例もご案内しておりますので、ぜひお問い合わせください。▼『TUNAG(ツナグ)』について 『TUNAG(ツナグ)』では、会社として伝えたい理念やメッセージを、「社内制度」という型として表現し、伝えていくことができます。
会社様ごとにカスタマイズでき、課題に合ったアクションを継続的に実行できるところに強みがあります。
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