年俸制とは?月給制との違いやメリット・デメリット、注意点を解説
年俸制の導入を検討しているなら、制度の内容を詳しく把握しておくことが重要です。メリット・デメリットを理解した上で、自社の状況に合わせて慎重に導入を検討する必要があります。年俸制とはどのような給与制度なのか、月給制との違いなど基本的な知識を解説します。
年俸制の基礎知識
日本で年俸制を採用している会社は多くないのが実情です。導入を検討する前に、年俸制の基本的な仕組みや月給制との違い、残業代の扱いなど制度の詳細を正しく理解しておくことが重要でしょう。
年俸制とは
年俸制で最も重要なポイントは、1年間の給与総額をあらかじめ決めて分割支払いする制度であることです。労働基準法第24条により給与支払いは最低月1回と定められているため、一般的には年俸額を12で割った金額を毎月支給します。
年俸制は成果主義を重視する企業で導入されることが多く、個人の能力や業績が給与に直接反映される特徴があります。高い成果を上げれば年齢や勤続年数にかかわらず高い年俸を得られるため、人材のモチベーション向上と適切な人件費管理の両立が可能になるのです。
年俸制と月給制の違い
年俸制と月給制で最も大きな違いは、給与決定の期間と考え方にあります。月給制は1カ月単位で給与額を決定し、年功序列的要素が強く年齢や勤続年数が給与に大きく影響する傾向があります。
一方、年俸制は1年単位で給与総額を決定し、成果や能力を重視するため実績次第で給与が大幅に変動する可能性があります。
月給制では賞与の増減や昇給時期の調整により、年度途中でも人件費の調整が比較的容易です。また、安定した給与体系のため長期雇用を前提とした人材採用に適しており、従業員の定着率向上につながりやすいのが特徴です。
年俸制の給与の決め方
年俸制における給与の決め方は、企業によりさまざまです。基本的には企業と従業員が個別に話し合い、双方の合意に至った場合に次の年俸額が決定します。
年俸制で給与総額を決める際は、前年度の評価や実績、個人のスキルや保有資格などが考慮されるのが一般的です。企業によっては、具体的な計算方法を賃金規程で定めている場合もあります。
年俸制における残業代や賞与の扱い
年俸制の場合でも、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える残業をした従業員には、残業代を支払う必要があります。年俸制だからといって、残業代を出さなくてもよいわけではありません。
ただし、固定残業代(みなし残業代)を年俸に含める場合は、その時間数・金額の内訳を明示し、定めた時間を超えた分は別途支払う必要があります。さらに、管理監督者であっても深夜労働(22時〜5時)の割増賃金(25%以上)の支払義務は残る点に注意が必要です。
また、年俸制における賞与は、給与総額に組み込む場合と年俸とは別に支給する場合があります。賞与を年俸と切り離して支給する設計も可能ですが、支給有無や算定方法は就業規則・個別労働契約の定めに従います。不利益変更となる場合は、労使合意や合理性の確保が求められる点に留意が必要です。
年俸制を導入する会社側のメリット
年俸制の導入を検討する場合は、メリットとデメリットの両面から考慮することが大切です。まずは、年俸制を導入する会社側のメリットを見ていきましょう。
経営計画の策定が容易になる
年俸制では、1年間の人件費総額が事前に確定するため、より正確な経営計画を立てることが可能です。月給制のように人件費が毎月変動するリスクが低減されます。
年間の給与額が事前に確定すれば、企業は人件費を把握しやすく、コスト管理や予算編成が容易になります。これにより、長期的な経営戦略や大規模プロジェクトの計画も立てやすくなるでしょう。
従業員のモチベーション向上を期待できる
年俸制は、従業員のモチベーション向上につながりやすい賃金制度です。成果が給与に直接反映されるため、頑張りが目に見える形で評価されることが従業員の意欲を高めます。
年俸制では目標設定が明確になりやすく、従業員は目標達成に向けて努力しやすくなります。また、個人の能力や成果が評価されるため、従業員の自己成長も促進できるでしょう。
年俸制を導入する会社側のデメリット
年俸制には良いことばかりではなく、企業にとってマイナスになる要素も含まれています。導入を検討する際は、リスクがあることを知っておくことも重要です。
経営状況が悪化しても柔軟に対応できない
年俸制では、一度決定した年俸を原則として年度途中で変更できません。業績が悪化した際に人件費を削減しようとしても、年俸を下げることが難しく、経営状況によっては負担が大きくなる可能性があります。
月給制であれば残業時間の削減や賞与の減額などで人件費を調整できますが、年俸制では次の年俸更改まで従業員の給与を下げられない場合が多いため、年俸額を決める際はある程度の収支予測を立てておくことが重要です。
長期目標の達成に取り組みにくい
年俸制は成果主義を重視する企業に多い傾向があり、従業員が目先の成果を優先しがちになる可能性があります。短期的な成果に偏ることで、長期的な視点での目標達成につながりにくくなるのです。
企業は長期的な目標達成と短期的な成果のバランスをとりながら、評価制度を構築する必要があります。
年俸制はどのような企業に向いている?
年俸制は月給制とは異なる特徴を持つため、全ての企業に向くわけではありません。年俸制が向いている企業と向いていない企業の違いを見ていきましょう。
年俸制が向く企業
年俸制は成果主義との相性が良いため、成果を重視し個人の能力や実績によって給与を決定したい企業は年俸制に向いています。
専門的なスキルや知識を求められる職種も、年俸制で評価されることが多い傾向があります。プログラマー・SE・コンサルタント・プロスポーツ選手などが代表例です。
また、外資系企業では成果主義の文化が根付いているため、年俸制の導入が進んでいます。海外の人材を採用したい企業にも、年俸制が向くでしょう。
年俸制が向かない企業
年俸制は、個人の業績や成果によって年俸が変動するため、成果よりも年功序列や安定性を重視する企業には不向きです。また、成果が出なければ年俸が下がる可能性があり、従業員の定着率を重視する企業には不安要素となる可能性があります。
長期的に人材を育成したい企業や従業員の協調性を重視する企業、評価制度をきちんと整備できない企業も、年俸制は不向きの可能性が高いといえます。
年俸制の導入で注意すべきポイント
年俸制を導入する際に気をつけたいポイントをまとめました。実際に導入する場合の参考にしましょう。
就業規則を改定する
年俸制を導入すると従来の給与制度が変わることになるため、就業規則の改定が必要です。給与の決定方法は必ず就業規則に定めなければならないことが、労働基準法第89条で規定されています。
給与の決め方や年俸制の適用範囲などを明記し、改定後の就業規則を従業員に周知しなければなりません。また、就業規則の変更後は、労働基準監督署に届け出る必要があります。
評価基準を明確にする
年俸制における評価基準は、公平性と透明性を確保するために、明確に定める必要があります。
成果の実現度や発揮した能力、勤務態度などを具体的な項目で定義し、数値化できるものは数値で評価しましょう。数値化が難しいものも、できるだけ細分化して評価基準を明確にすることが理想です。
評価基準が明確であれば、従業員は自分の評価に納得しやすくなります。従業員が自分の目標を明確に理解しやすくなるため、モチベーションを高められる点もメリットです。
年俸制を導入する際は慎重に検討しよう
年俸制は1年間の給与額をあらかじめ決めておく制度です。人件費の予測が容易になることや、従業員のモチベーションが向上しやすくなることなどのメリットがあります。
一方で業績悪化時の対応の難しさなどのリスクもあるため、年俸制を導入する際は自社に向いている制度かどうか慎重に検討しましょう。