M&Aのプロセスを準備から成立後まで解説。経営統合のポイントもチェック

M&Aは企業成長の有効な手段ですが、準備不足や手順の誤りにより、期待した効果が得られないどころか、巨額の損失を被るケースも少なくありません。特に初めてM&Aに取り組む企業では、どの段階で何をすべきかが分からず、重大な見落としにつながるリスクがあります。本記事では、買い手としてM&Aを検討している企業向けに、準備段階からM&A成立後の経営統合まで、失敗しないための具体的なプロセスを解説します。なお、買収の場合は友好的買収を前提としています。

M&Aのプロセス【準備】

社内外に大きな影響を与えるM&Aには、どのような手法を選ぶ場合でも入念な準備が必要です。準備段階で何をすればよいのか、順番にプロセスを解説します。

M&Aの目標・戦略を策定する

M&Aを検討する段階であれば、その企業には何らかの課題があるはずです。まず「新規事業への参入」「事業エリアの拡大」などの目的を明確化し、そこから目標と戦略を決める必要があります。

新規事業への参入なら、予算を立てて新規事業を展開する時期からM&Aの実施タイミングを決め、該当する事業を運営している売り手企業を探すなどの計画が欠かせません。ここが不明瞭だと、課題解決につながるM&Aは実現できないでしょう。

専門家や仲介業者を選定し相談する

M&Aには専門的な知識が求められるため、FA(ファイナンシャルアドバイザー)や税理士・弁護士・会計士などの専門家や、M&A仲介業者など第三者の助けを借りる必要があります。特にM&Aが初めての企業なら、サポートは必須と考えて差し支えないでしょう。

目標や戦略の大枠が決まったら、自社の課題解決やM&A手法の支援実績が豊富な専門家や業者を選定する必要があります。

多くの選択肢から選ぶのが難しい場合は、経済産業省の「M&A支援機関登録制度」に登録されているFA・仲介業者から絞り込むのも一つの方法です。専門家や業者が決まった後は、自社の課題や目標・戦略を伝えて良い売り手と巡り会えるよう相談しましょう。

参考:登録支援機関データベース | M&A支援機関登録制度

M&Aスキーム(手法)を選ぶ

M&Aには数多くのスキーム(手法)があり、課題・目標に合う手法は企業によって異なります。主なスキームは「買収」「合併」「分割」の3種類です。その中に「株式取得・資本参加」「事業譲渡・資産買収」などさらに細かい分類があります。

それぞれにメリット・デメリット、手続き・税務処理が違うため、目的や予算など多角的に判断して手法を決めなければなりません。専門家や業者と相談しながら、どの手法がベストかを検討することが重要です。

ただ、M&A手法の選定は必ずしもこのタイミングで実施する必要はありません。買収先を絞り込んで相手企業の状況を見てから手法を決める、先に手法を決めてからその手法の支援実績が豊富な業者を選ぶという手もあります。

M&Aのプロセス【打診・交渉】

準備段階が終わったら、次は相手企業を探して打診・交渉に進むフェーズです。一般的にどのような流れで進めていくのか、打診・交渉のプロセスを見ていきましょう。

買収先の候補を絞り込む

M&Aの専門家や仲介業者・マッチングサイトいずれの支援を利用する場合でも、交渉の前にまず候補企業の絞り込みが必要です。買い手は一般的に、自社のM&Aに合いそうな企業を数十社まとめた「ロングリスト」を作り、ロングリストから数社を厳選した「ショートリスト」を作成して候補となる買収先を絞り込んでいきます。

売り手企業は事業や企業の概要を匿名で記載した「ノンネームシート」を作成し、FA・仲介業者を通してロングリスト上の買い手企業に開示されるという流れです。場合によっては売り手側のショートリスト上にある企業にのみ、ノンネームシートが開示されます。

買い手企業は、ショートリストの中から特に自社の戦略に合致する企業を選び、交渉を打診するのが基本的なプロセスです。

秘密保持契約を締結する

M&Aにおいて実際の交渉に入るには、ノンネームシートではなく、候補とした買収先企業の組織・株主の構成など詳しい状況を知る必要があります。そのためには秘密保持契約(NDA)の締結が欠かせません。

交渉開始を打診した企業がOKを出したら、秘密保持契約を締結した上で企業の詳細を開示してもらうことになります。そこで初めて、相手企業の詳細が分かるという流れです。

M&Aの実現可能性や企業・事業の価値を検討する

秘密保持契約を締結した後に、買収先候補の企業から企業概要書(IM・Information Memorandum)が開示されます。買い手は組織や株主の構成や財務データ・事業計画・雇用状況などが記載された企業概要書から、相手企業の価値を分析した上でM&A実施時の効果やリスクを見積もります。

分析の結果、M&Aの候補として適切と判断できれば、M&Aの条件などの大枠を記載した意向表明書(LOI・Letter of Intent)を候補企業に提出して本格的な交渉に入りましょう。ただし、入札方式の場合は流れが異なるので、利用するマッチングサイトや支援の形式を事前にチェックしておく必要があります。

トップ面談を実施して基本合意を交わす

M&Aの実施には、経営者同士の面談(トップ面談)が欠かせません。トップの企業理念や価値観が合わなければ、円滑かつ効果のあるM&Aは実現しにくいでしょう。買い手企業のトップは、自身の価値観に加え、従業員への配慮を含めた買収後の計画を伝えます。

トップ面談は通常、複数回実施されます。互いの企業理念や価値観、買収後の計画などについて理解を深め、信頼関係を構築した上で「基本合意」を交わすのが一般的です。基本合意に至ったら、基本合意書を作成します。

デューデリジェンスを実施する

M&Aは、必ずしも基本合意書に書かれた条件で決まるとは限りません。最終的な契約条件を決める前に、買い手は「デューデリジェンス(DD)」と呼ばれる買収監査を実施します。目的は、企業概要書からは分からなかった、企業や事業の価値やリスクを見積もることです。

デューデリジェンスは、専門家や仲介業者の協力も得ながら、買収後に想定外のリスクが発覚する事態を防ぐため慎重に行う必要があります。デューデリジェンスの結果M&Aを進めることが確定した場合は、経営統合の計画も立て始めると、M&A実施後の流れがスムーズです。

最終交渉を経て契約を締結する

買い手のデューデリジェンスが終わったら、その結果を基に最終的な交渉に入ります。デューデリジェンスで簿外債務やリスクが見つかった場合、基本合意書の買収価格を引き下げる場合も少なくありません。

最終交渉では、価格のほかにM&A実施後の体制など、合意が交わされるまで交渉を続けます。最終条件がまとまったら、表明保証や補償条項なども盛り込んだ最終契約書を作成して正式にM&Aの契約を締結しましょう。

M&Aのプロセス【契約締結後】

M&Aには、最終的な契約を締結した後にもすべきことが多くあります。M&Aを成立させる手続きはもちろん、関係者への情報開示や経営統合も重要なプロセスです。それぞれ具体的に何をするのか、詳しく見ていきましょう。

M&Aを成立させる手続きを実施する

M&Aは契約を締結したからといって、その場で成立するわけではありません。手法ごとに、M&A成立のための手続きが必要になります。よく用いられる「株式譲渡」「事業譲渡」とそれ以外に分けて、成立の条件を整理しました。

  • 株式譲渡:当事者間(売り手株主と買い手企業)の株式譲渡契約の締結により譲渡の意思表示がなされ、契約に定められた効力発生日(クロージング日)に効力が発生します。一般的には、この効力発生日に譲渡対価の支払いと引き換えに株主名簿の名義書換が行われます(株券発行会社の場合は、加えて株券の交付が必要です)。
  • 事業譲渡:事業譲渡契約書に定められた効力発生日(クロージング日)をもってM&Aが成立し、事業に関する権利義務が買い手に移転します。ただし、資産や負債、契約関係は個別に移転手続き(不動産登記、債権譲渡通知、契約の再締結など)が必要であり、クロージング日にすべての手続きが完了するとは限りません。
  • 上記以外:株主総会での決議・承認など、それぞれの状況に必要な手続きを終え、契約書に記載された効力発生日を迎えればM&Aは成立

    そのほか、状況に応じて取締役会や臨時株主総会・登記などの手続きが必要になる場合もあります。何の手続きが必要か分からなければ、手法だけでなくケースバイケースで変わってくる場合があるため、専門家に相談するのが確実です。

社内外の関係者にM&Aの情報を開示する

M&Aが成立したら、社内の従業員に対してはもちろん、取引先やサプライチェーンなどの関係者に対して正式にM&Aの成立を開示する必要があります。M&Aの目的や背景、今後の事業方針、組織体制の変更点などについて、具体的かつ丁寧な説明が求められます。

特に雇用条件が変わる従業員に対しては、特に誠実かつ透明性のある説明をしましょう。納得してもらえないまま雇用契約が変わると、モチベーションの低下や離職といったリスクが大きくなってしまいます。

経営統合(PMI)を進める

経営統合(PMI・Post Merger Integration)は、買い手企業と売り手企業の文化や制度などを統合して、相乗効果を最大化するために重要なプロセスです。具体的に実施すべき経営統合には、次のようなものが挙げられます。

  • 業務プロセスの統合
  • ITシステムの連携や統合
  • 人事制度の統合
  • 社内コミュニケーションの強化
  • ブランドやサービスの統合

このように経営統合で実施すべき行動は多岐にわたるため、ある程度の期間が必要です。その間はどうしても、現場に負担をかけることになります。極力スピーディーに経営統合を進めるためにも、経営統合が完了するまでは定期的に効果測定をしながら、軌道修正をしていきましょう。

M&Aの成否を左右する経営統合をうまく進めるには

M&Aは契約締結やM&Aそのものを成立させるまでのプロセスよりも、その後の経営統合が成否を決めるとされています。時間も労力もかかりますが、非常に重要なプロセスです。経営統合をスムーズかつM&Aの効果を最大化できるように進めるには、何を意識すればよいのでしょうか。

M&Aで取り入れた人材と密にコミュニケーションを取る

手法を問わず、M&Aで新たに加わった従業員は、買い手にとって重要な人的資産です。ただM&AそのものやM&Aにかかる雇用条件の変更に納得していなければ、不満を抱いて離職してしまう可能性があります。

定期的に不満がないか、新しい環境でうまくやっていけているかなど、面談の機会を設けることが重要です。数値に表れない不満を把握するには、エンゲージメントサーベイの活用も選択肢に入ります。組織単位のエンゲージメントを測れるツールを使えば、新たな従業員を受け入れた部署のエンゲージメント状態を測定することも可能です。

統合に関わる情報を一元化する

経営統合に当たっては、業務プロセスから人事制度まで、統合に際して変更されるポイントが非常に多くなります。変更内容について十分に周知されていないと、分からないことが増え、既存の従業員も含めてエンゲージメントが下がってしまうでしょう。

一つの場所で誰でもすぐに情報を見られるように一元化することで、全社的に経営統合への理解が進みます。アプリ内でストック型の情報を一元管理・共有できるツールを活用する方法だと、管理負担も減るはずです。

M&Aのプロセスは準備から経営統合まで

紹介してきたように、M&Aには準備段階から経営統合まで、多くのプロセスが求められます。どのフェーズも無視できず重要なので、信頼のおける支援機関・専門家の助けを借りながら計画的に進めなければ破綻しかねません。

まずは目的や戦略の策定から始め、支援機関・専門家の選定・M&A手法の選定などの準備を経て、売り手企業の絞り込みや打診・交渉に移るのが基本の流れです。買い手にとって、基本合意を交わした後のデューデリジェンスは、期待通りの利益を出す可能性を高めたり、リスクを回避したりするための鍵となります。

また、M&A成立後の経営統合は、M&Aそのものの成否を左右するプロセスです。売り手企業から加わった従業員とのコミュニケーション・情報の一元化を意識しながら、M&Aによるシナジー(相乗効果)を発揮できる状態を目指しましょう。

著者情報

人と組織に働きがいを高めるためのコンテンツを発信。
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