M&A支援機関登録制度の基本と企業の活用メリット。登録事業者の要件とは
事業承継などを目的としてM&Aを検討しているものの、相談する専門家や業者に悩んでいませんか。そんなときに活用できるのが「M&A支援機関登録制度」のデータベースです。本制度の概要や登録事業者の要件を、相談先を選定するときの参考にしてみてください。
M&A支援機関登録制度とは
「M&A支援機関登録制度」という言葉を見聞きしたことがあっても、具体的にどのような制度なのか把握していないという人もいるでしょう。まずはこの制度が何なのかを、制度が作られた背景とともに解説します。
中小企業庁が運営する公的なM&A支援業者登録制度
「M&A支援機関登録制度」は、中小企業に対してFA業務または仲介業務を行う事業者(M&A支援機関)のうち、一定の要件を満たした者を公募により中小企業庁が審査し、データベースへ登録する国の制度です。
中小企業が安心してM&Aに取り組める基盤の構築を目的として、2021年8月に創設されました。
参考:M&A支援機関登録制度
参考:M&A支援機関に係る登録制度の申請受付(令和7年度公募)について | 中小企業庁
制度創設の背景にある中小M&A市場の拡大
中小企業庁は2021年4月、中小企業のM&Aを推進するために、今後5年間で実施すべき官民の取り組みを「中小M&A推進計画」として取りまとめました。その中で、中小企業のM&A支援機関の信頼性の醸成が課題として上がっています。
背景にあるのは、中小企業のM&A市場の拡大です。市場の成長に伴ってマッチング支援を行う専門業者が増加しましたが、不当に高額な手数料を請求したり、不適切な助言を行ったりする業者も現れ、中小企業が損失を被るケースが見られるようになりました。こうした状況を改善し、支援の質を確保するため、M&A支援機関登録制度が創設されました。
M&A支援機関登録制度の登録FA・支援機関を利用するメリット
M&A支援機関登録制度は、国が運営する公的な登録制度です。ただ、「国が運営している信頼感」という漠然とした利点しか分からないと、活用の可否を判断しにくいでしょう。企業にとって具体的にどのようなメリットがあるのか、本制度の登録要件や登録後の遵守事項から深掘りします。
要件をクリアした信頼性の高い事業者を選べる
M&A支援機関登録制度には、登録要件や登録後の遵守事項が設けられています。これらをクリアできないと、中小企業に対してFA業務または仲介業務を行う事業者は、登録できなかったり、登録を抹消されたりする仕組みです。
そのため、M&A支援機関登録制度に登録されている事業者は、一定の信頼性がある業者だと判断できます。データベースに登録されたFA・仲介業者(登録FA・仲介業者)から相談先を選ぶことで、悪質な支援のリスクを軽減できるでしょう。
登録要件
2025年10月12日時点の公募要領によると、M&A支援機関登録制度には以下に代表される12の要件が挙げられています。
- 中小M&Aガイドラインの遵守を宣言する
- 中小M&Aガイドラインを遵守していることについての宣言を、自社のホームページに掲載する
- 登録後の遵守事項を履行することを誓約する
- 登録を希望する FA・仲介業者は、秘密保持義務条項の規定内容を問わず、顧客となる中小企業者等による情報提供窓口への相談などの行動を制約しない
- 登録を希望する FA・仲介業者とその役員など(FA・仲介業者が個人の場合はその者、法人である場合は代表者・役員)が反社会的勢力に該当せず、今後も反社会的勢力との関係を持つ意思がない
- 登録を希望する FA・仲介業者またはその役員が、経済産業省の「所管補助金交付等の停止及び契約に係る指名停止措置」を受けていない
「中小M&Aガイドライン」とは、M&Aの手続きや注意点、トラブルが発生したときの対処法などが書かれたガイドラインです。中小企業向けの内容も、仲介者やFA(ファイナンシャルアドバイザー)向けの内容も含まれます。例えば仲介手数料については、最新の改訂版で以下のような趣旨の記述が見られます。
- 中小企業向け:手数料と業務内容・質などを確認することが重要であり、納得できない場合は別の仲介者・FAに依頼したり手数料を交渉したりすることを検討する
- 仲介者・FA向け:手数料(仲介者の場合は相手方の手数料を含む)の詳細、プロセスごとの提供業務の具体的な説明、担当者の保有資格や経験年数・成約実績を説明する。手数料の交渉を受けた場合は誠実な対応を検討する
参考:M&A支援機関登録制度「公募要領(令和7年度)」PDF P.5〜9
参考:中小M&Aガイドライン「中小M&Aガイドライン(第3版)概要資料」PDF P.2 | 中小企業庁
登録後の遵守事項
M&A支援機関登録制度には、以下のような登録後の遵守事項も設けられています。
- 中小M&Aガイドラインを遵守していることについての宣言を自社のホームページに掲載する
- FA業務や仲介業務の契約締結に当たって、顧客となる中小企業者等に対して、中小M&Aガイドラインの遵守について事前に説明する
- 手数料体系を登録支援機関データベースで公表することを許諾する
- 支援業務(M&Aのプロセスごとに提供する主な業務の詳細、PMIを見据えた支援の実施状況)を登録支援機関データベースで公表することを許諾する
- 毎年度、前年度の中小M&Aに関する共通報告や実績・活動について報告する(当該報告に基づき、事務局が実施する登録 FA・仲介業者ごとの実績や支援などの公表内容について異議を申し述べない)
- 「登録 FA・仲介業者に対する報告の求め等」の報告の対象となった場合、報告の実施を拒否しない
登録要件に「登録後の遵守事項を履行することを誓約する」ことが含まれているため、この遵守事項は必ず守られなければなりません。手数料体系はデータベース上で中小企業が確認でき、実績や活動も事務局に報告された上で公表される場合があります。中小企業はこれらの情報を基に、自社に合った相談先を比較検討することが可能です。
参考:M&A支援機関登録制度「公募要領(令和7年度)」PDF P.9〜10
トラブル時の情報提供受付窓口が設けられている
M&A支援機関登録制度では、登録業者とトラブルが発生した際の情報提供受付窓口を設置しています。中小M&Aガイドラインに違反する不適切な支援を受けた場合、専用フォームから情報提供が可能です。
この窓口は紛争解決やアドバイスを行うものではなく、情報収集が主目的ですが、窓口の存在自体が登録業者にとってガイドライン遵守の抑止力となっています。万が一に備え、中小M&Aガイドラインで何が不適切とされているかを事前に確認しておくとよいでしょう。
登録業者の支援で補助金を活用できる可能性がある
M&Aでよく活用される補助金制度として、「事業承継・M&A補助金」が挙げられます。このうち「専門家活用枠」では、M&A支援機関登録制度の登録FA・仲介業者を利用した場合に発生した経費に限って補助対象となる決まりです。
登録されていない業者を利用して受けた支援の経費は対象外となるので、補助金の活用を検討しているなら、M&A支援機関登録制度に登録された業者を選びましょう。2025年10月12日時点で12次公募は申請受付が終わっていますが、2025年10月17日に13次公募が開始されており、引き続き申請が可能です。
「事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)」の概要
「事業承継・M&A補助金」は、中小企業や個人事業主が事業承継やM&Aで行う設備投資、経営資源の引き継ぎ、引き継ぎ後の経営統合などにかかる経費の一部を補助する制度です。中小企業の事業承継を促進し、生産性向上と日本経済の活性化を目的としています。
2025年10月12日時点で最新の12次公募(申請受付は終了)では4枠が設けられており、「専門家活用」枠はその一つです。専門家活用枠は「買い手支援類型(Ⅰ型)」「売り手支援類型(Ⅱ型)」の2類型で、M&A支援機関登録制度の登録FA・仲介業者から支援を受けた場合の経費が補助対象となっています。
参考:12次公募 専門家活用 公募要領等ダウンロード「公募要領(12次公募)」PDF P.6 - 事業承継・M&A補助金
M&A支援機関登録制度を利用して信頼できる業者を探そう
M&Aの相談先に迷っているなら、中小企業庁が運営する「M&A支援機関登録制度」のデータベースに登録されているFA・仲介業者から探すのがおすすめです。本制度に設けられた登録要件や、登録後の遵守事項をクリアした事業者だけが登録されているので、一定の信頼性や支援の質を期待できるFAや仲介業者を探しやすくなります。
M&Aの支援にかかる費用が「事業承継・M&A補助金(専門家活用枠)」の補助対象となり得るのも、M&A支援機関登録制度の登録FA・仲介業者から相談先を選ぶメリットです。制度をうまく活用すれば、スムーズかつ利益を最大化できるM&Aを目指せます。













