M&Aの税金はいくら?手法や売り手・買い手別の税金と計算方法
後継者不足や事業再編などを理由に、M&Aを考えている企業もあるでしょう。M&Aの実施に当たって、気になる問題の一つが税金です。主なM&A手法ごとに発生する税金の種類や計算方法を、売り手・買い手別に解説します。主に売り手企業向けの節税対策もまとめました。
M&Aの税金は手法によって変わる
ひと口にM&Aといっても、その手法(スキーム)はさまざまです。手法が違えば税務も変わってきます。よく用いられる手法である「株式譲渡」「事業譲渡」で、売り手・買い手にかかる税金を詳しく解説します。組織再編についても税金の考え方を整理しておきましょう。
株式譲渡の場合
株式譲渡とは、株式の売買によって企業の経営権を引き継ぐM&A手法です。企業間の株式譲渡では、株式のみを売り手企業から買い手企業に移転します。株式譲渡は、中小企業でよく用いられるM&A手法です。
株式の売買だけで資産や取引上の契約を引き継ぐことが可能で、手続きが比較的簡単というメリットがあります。ただし買い手にとっては、事前に詳しく調査しないと、買収時に分からなかった債務などのリスクを負う可能性が高い手法です。
売り手にかかる税金と計算方法
株式譲渡で売り手(法人)にかかる税金は、主に法人税です。なお、個人株主が株式を譲渡する場合は、所得税(譲渡所得として20.315%の申告分離課税)が課されます。本記事では法人間のM&Aを前提に計算方法を見てみましょう。
- 譲渡所得(譲渡益):譲渡価額 -(取得費+譲渡手数料)
- 法人税額:(譲渡価額 -(取得費用+譲渡手数料))× 法人税率
法人税率は法人の種類や所得金額によっても変わります。普通法人は原則として23.2%ですが、所得金額が年800万円以下の部分には15%(2024年4月1日以降開始事業年度から)、国税庁長官の承認を受けた「特定の医療法人」は15%です。
国税庁の公式情報も参考に、自社に当てはめて実際の税額をシミュレーションしてみてください。法人税のほかには、法人住民税や法人事業税も発生します。
参考:令和6年版 法人税のあらましと申告の手引「1 法人税の基本的な仕組み」PDF P.2〜4|国税庁
買い手にかかる税金
株式譲渡の買い手には、基本的に法人税等の課税は発生しません。ただし、関連会社や役員等から時価より著しく低い価額で株式を取得した場合、その差額が「受贈益」として益金に算入され、法人税が課される可能性があります。
- 受贈益:株式の一般的時価 - 譲渡価額
安く買収できたと思っても、法人税の負担が発生する可能性があることは念頭に置いておきましょう。
事業譲渡の場合
事業譲渡とは、経営権は売り手企業に残したまま、一部または全部の事業を譲渡するM&A手法です。売り手にとっては不要な事業のみを売却できる、買い手にとっては資金が少なくても自社のニーズに合う事業を取得できる、不要な負債を負うリスクが少ないといったメリットがあります。
一方、売り手・買い手ともに、資産や契約(不動産関係や雇用関係・取引関係など)の個別移転に労力・時間がかかる点はデメリットとなるかもしれません。事業譲渡の場合、売り手はもちろん買い手にも、場合によって税金がかかることに注意が必要です。
売り手にかかる税金と計算方法
事業譲渡でも、譲渡益に対して法人税や法人住民税・法人事業税がかかります。税額は「事業の売却価格 - 譲渡資産の簿価 = 譲渡益」に対して実効税率をかけたものです。実効税率は以下の方法で計算でき、30〜34%とされています。
- 実効税率 =(法人税率 ×(1 + 住民税率)+ 事業税率)÷(1 + 事業税率)
課税資産の10%相当分の消費税も、事業譲渡で売り手にかかる税金です。譲渡する事業に課税対象となる資産が含まれていれば、一時的に仮受消費税として受け取り、後から国に納めなければなりません。課税資産の例は次の通りです。
- 有形固定資産(建物や機械設備・車両など)
- 無形固定資産(特許権や商標権・意匠権・のれん代など)
なお、課税対象となる有形固定資産に土地は含まれません。M&Aで土地と建物どちらも譲渡する場合は、土地と建物を分けて税金を計算しましょう。
参考:令和6年版 法人税のあらましと申告の手引「1 法人税の基本的な仕組み」PDF P.2〜4|国税庁
買い手にかかる税金と計算方法
事業譲渡の場合、買い手に法人税はかかりません。ただし、一定の条件下で税金が発生します。納税義務が生じ得る税金の種類は「不動産取得税」「登録免許税」「消費税」の3種類です。どのようなケースで発生するのかとともに、計算方法を紹介します。
<不動産(土地・建物)を取得した場合>
- 税金の種類:不動産取得税(地方税)
- 税額の計算方法:不動産の評価額×税率4%(土地と住宅の場合は軽減税率で3%)
<不動産を取得して移転登記が必要になった場合>
- 税金の種類:登録免許税
- 税額の計算方法:不動産の価額×2%(2026年3月31日まで登記を受ける場合は1.5%)
不動産の「評価額」「価額」はいずれも、原則として固定資産税課税台帳に登録されている固定資産の評価額と同額です。
<消費税の課税対象となる資産を取得した場合>
- 税金の種類:消費税(納税は売り手)
- 税額の計算方法:(譲渡価額 - 非課税資産総額)× 消費税率(10%)
組織再編(会社分割・合併)の場合
組織再編はM&A手法の一つですが、株式譲渡や事業譲渡と異なり、対価として株式を交付する場合が多く、資産の譲渡等に該当しないため、消費税は発生しません。適格要件を満たす組織再編の場合、譲渡損益の計上が繰り延べられ、組織再編時点では課税されません。適格要件は、会社間の関係によって変わります。
<100%親会社とその子会社(完全支配関係)間での組織再編>
組織再編の対価の支払いが株式のみであれば適格要件を満たします。
<50%超の株式を所有する親会社とその子会社(支配関係)間の組織再編>
以下全ての要件をクリアする場合、適格要件を満たします。
- 組織再編の対価の支払いが株式のみである
- 従業員の約8割が再編後の企業に承継される
- 実施していた事業が再編後も継続される
<独立した企業間の組織再編>
以下全ての要件をクリアする場合、適格要件を満たします。
- 組織再編の対価の支払いが株式のみである
- 売り手側・買い手側の事業が関連している
- 売り手側・買い手側の事業規模に5倍超の差がない
- 従業員の約8割が再編後の企業に承継される
- 実施していた事業が再編後も継続される
- 再編後も株式が継続して保有される
組織再編のM&Aにおいて、適格要件に当てはまらなくても買い手には税金がかかりません。
M&Aで法人ができる節税対策
株式譲渡や事業譲渡といったM&Aを考えているなら、利益を最大化できるよう節税対策も検討しておきましょう。株式譲渡と事業譲渡に分けて、主に売り手が押さえておきたい節税対策を紹介します。
株式譲渡の場合
株式譲渡で売り手企業ができる節税対策には、次のような方法があります。節税対策になる理由も併せて押さえておきましょう。
- 退職金を活用する:退職金は一定額までなら所得控除により税負担が軽減される
- 株式譲渡ではなく「第三者割当増資※」を活用する:第三者(他企業を含む)に有償で新株を発行して増資するため株式の譲渡が不要で、譲渡所得が発生しない
退職金の活用は、買い手企業にとっても節税対策となり得ます。M&Aに当たって退職した従業員に支払った退職金は損金算入が可能です。
※第三者割当増資とは、売り手が買い手に対して50%超の議決権を取得させる増資の手段。M&A手法に含めて考える見方も、M&Aとは別物とする見方もある。
事業譲渡の場合
事業譲渡で売り手が節税する方法として、譲渡益が発生する時期に有意義な支出をし、必要経費として課税所得と相殺する方法があります。支出は増えるものの、意義のある支出であれば損にはなりません。
買い手側の節税対策としては、消費税や不動産取得税・登録免許税の負担を抑えるため、自社にとって必要な事業・資産に絞って取得するのが効果的です。自社のニーズや事業の譲受によって期待できる相乗効果などを多角的に分析し、買い取る事業や資産を絞り込みましょう。
M&Aは税負担も考えて手法の選択を
M&Aにかかる税金の種類や額は、売り手・買い手ともに手法ごとに大きく異なります。手法ごとの税金の種類や計算方法を参考に、税負担をシミュレーションしてみてください。その上で自社の目的達成につながり、かつ税負担が少ない手法を選ぶのが理想です。
節税対策については、知識がないまま実施すると逆に税金が高くなる恐れもあります。税理士をはじめとした専門家に相談した上で、有効な節税対策を考えましょう。













