M&Aの失敗事例や失敗要因を解説。M&Aにおける「失敗」の定義も
M&Aは、企業を発展させる選択肢の一つです。ただ、特に買収の場合は動く金額が大きいだけに、失敗のリスクが気になるのではないでしょうか。有名な大企業のM&A失敗事例4選とともに、M&Aでは何を失敗と見なすのか、失敗してしまう要因を解説します。
M&Aにおける買い手側の「失敗」とは
M&Aに失敗しないためには、まずM&Aにおける「失敗」が何を指すのかを知っておきましょう。主な失敗の例を三つ解説します。
想定したシナジーが得られない
M&Aでは、シナジー実現を前提に投資計画を立てます。販路の共有による売上拡大や、調達・物流の統合によるコスト削減などが代表例ですが、現実には以下の理由でシナジーが発現しないケースが少なくありません。
- 販路統合が進まない
- コスト削減が難しい
- 製品・サービスの連携ができない
- 技術や人材の融合が想定通り進まない
組織文化の衝突や重複機能の整理の失敗により、シナジーが実現せず、投資回収や期待収益の達成が困難になります。場合によっては、統合コストの増大や業務の混乱で、買収前より状況が悪化する「アナジー効果」が生じることもあります。
買収後に粉飾決算や不正が発覚する
簿外債務や会計不正・コンプライアンス違反に気付かないまま買収してしまうのも、M&Aにおける買い手にとっての失敗です。簿外債務や会計不正、コンプライアンス違反を見逃したまま買収すると、発覚時にグループ全体の信用が毀損されます。債務超過のリスクに加え、取引停止や訴訟、損害賠償といった直接的な経済損失が生じる可能性があります。
リスクの内容は業種によって異なります。製造業なら環境法令違反や製品安全性、メディア事業ならコンテンツの信頼性や著作権といった、業種特有のリスクを見逃せません。
のれん代の減損計上が発生する
M&Aにおいて、買収時に支払った価格(買収価額)と被買収企業の純資産との差額は、「のれん」として計上されます。のれんの帳簿価額を回収できず、のれん代の減損(減損損失)を計上することになるのはM&Aの失敗です。原因としては以下の要素が挙げられます。
- 買収後キャッシュフロー予測が甘かった
- 業績が見込みを下回った
- 外部環境の変化が大きかった
減損損失を計上すると、一時的に大きな特別損失となり、買い手企業の財務状態を悪化させます。減損損失の計上は「高値づかみ」の指標でもあり、買収先の企業・事業を過大評価してしまったことを示唆しているともいえるでしょう。
このような減損を防ぐには、買収後も定期的に売上や利益の進捗を確認する必要があります。環境変化や原材料費の高騰など、外部の要因にも注意が必要です。
M&Aが失敗に終わる主な要因
M&Aで何が失敗とされるのかを把握したら、次はその要因を整理しておく必要があります。因果関係が分かれば、失敗事例を見たときに何が悪かったのかを理解しやすくなるはずです。M&Aの失敗要因として代表的なものを三つ紹介します。
デューデリジェンス不足でリスクを見落とす
「デューデリジェンス(DD)」とは、最終契約前に買い手が実施する買収監査です。買収後の不正発覚や業績未達、のれん減損などを防ぐため、財務・税務・法務・人事・労務・ITなど多方面にわたる精査が欠かせません。
簿外債務や訴訟リスク、契約・知財・環境問題などを見落とすと、M&Aの失敗につながります。
数字の確認だけでなく、現場担当者へのヒアリングや契約書・請求データの照合といった地道な作業が重要です。また、システムや人材の統合可能性、組織文化の相性なども事前に確認することで、想定外のトラブルを減らせるでしょう。
シナジーや市場環境・事業計画の見積もりが甘い
M&Aの計画時に「売上増加」「コスト削減」といったシナジーを過大に見込むケースは少なくありません。
実現までの期間や方法を具体的な数字で検証せず、感覚で目標を決めると、計画と実績の乖離が生じます。市場環境の変化を過小評価した場合も、想定したシナジーは実現しません。
楽観的な事業計画に基づく買収は、将来の収益不足から「のれん減損」に直結するリスクがあります。
外部の統計データや市場予測を用いて現実的な前提を置き、売上・コストの見込みを慎重に数値化することが重要です。
PMIが不十分
M&Aは、買収手続きの完了が成功を意味しません。買収後の経営統合「PMI(Post Merger Integration)」こそが、シナジー実現の鍵となります。
PMIが遅れると、従業員のモチベーション低下・離職・ノウハウ流出などのリスクが高まります。統合コストの増大や重複部門の整理の停滞、指示系統の二重化による混乱も生産性を下げる要因です。
PMIはM&Aの初期段階から計画を立て、人事制度や組織体制の変更について買収先企業の従業員と丁寧にコミュニケーションを取りながら進める必要があります。まずは説明会などで「体制がどう変わるのか」を明確に伝えることが第一歩です。
大企業のM&A失敗事例
実際過去にあったM&Aの失敗事例は、自社でM&Aを実施する際に失敗を避けるための参考になります。数多くある事例の中から、大企業のケースを4例見てみましょう。なお、紹介する失敗事例はいずれも当時の報道や企業の公式発表を基にしています。
「東芝のウエスチングハウス買収」巨額の損失で経営危機に直面
東芝は原子力事業強化を目指し、米ウエスチングハウス(WH)社を買収しました。その後、WH社が米建設会社CB&I社から原発建設事業(CB&Iストーン・アンド・ウエブスター社)を買収しましたが、この事業に巨額の損失が隠れていたことが判明します。
東日本大震災後の原子力事業環境の悪化に加え、買収した建設事業の損失が表面化し、報道では損失額が7,000億円を超えたとされています。この買収は東芝が経営危機に陥ったきっかけの一つです。買収価額の過大見積もり・戦略のミスマッチ・PMI対応不足などが重なった失敗事例といえるでしょう。
参考:東芝が米原発で減損7125億円、債務超過に メモリー事業売却も | ロイター
「DeNAのキュレーションサイト買収」炎上によるブランドイメージの失墜
DeNAは、キュレーションプラットフォームを運営する「iemo(イエモ)」「MERY(メリー)」(当時ペロリ社)の2社を買収して子会社化し、キュレーション事業を拡大しました。しかし買収後、DeNAが運営する別のキュレーションプラットフォーム「WELQ(ウェルク)」において、医療情報などで科学的裏付けのない記事が掲載されている問題が発覚してしまいます。
世間の批判・炎上により全ての記事を非公開とせざるを得なくなり、ブランドイメージの悪化という大きな打撃も受けました。買収先のコンプライアンス体制や内部統制の弱さが買収後に表面化した、デューデリジェンス不足が原因の失敗事例です。
参考:DeNAがキュレーションプラットフォーム事業を開始~キュレーションプラットフォーム運営会社2社を買収、リアル巨大産業の構造変革を目指す~ | 株式会社ディー・エヌ・エー | DeNA
参考:当社運営のキュレーションプラットフォームについてのお知らせ | 株式会社ディー・エヌ・エー | DeNA
「キリンのスキンカリオール買収」想定外のブラジル経済低迷で損失
キリンホールディングスはブラジルのスキンカリオールを買収、海外進出を図りましたが、結果として失敗に終わっています。想定外にブラジル経済の低迷が進んだことが原因で、報道ベースで1,100億円を超える減損損失を計上しました。
買収前のブラジルの経済予測が甘かったことが原因と考えられます。海外進出を目的としたM&Aでは、現地の経済について精度の高い予測が必要だと分かるでしょう。
参考:キリンHD、560億円の赤字見通し 上場来初の最終赤字へ: J-CAST ニュース
「LIXILのグローエ買収」不正会計発覚で多額の減損を計上
LIXILは、水栓金具大手「グローエ」の株式を追加取得して子会社化しました。これに伴い、グローエ傘下の中国子会社「ジョウユウ」もLIXILの子会社となりました。
しかし、その後、ジョウユウで不正会計が発覚します。これにより減損リスクが高まり、2013年度・14年度に最大で合計410億円の損失を計上する見通しとの報道がありました。
参考:破産の間際に債務保証 LIXILに“大誤算” | ニュース・リポート | 東洋経済オンライン
M&Aの失敗事例から買収の判断を
事業拡大や海外進出など、M&Aは幅広い企業の成長に効果的な選択肢です。とはいえ、大企業にも多くの失敗事例があります。紹介した事例のほかにも、M&Aの失敗事例は見つかるでしょう。どのような損失やリスクが発生したのか、何が原因だったのかを事例から探ることで、M&Aの失敗を避けやすくなります。
M&Aを実施する際は、自社と類似した業種や企業規模の事例を参考にしながら、M&A仲介業者やFAなど専門家の助けも借りて慎重に進めましょう。













