多能工(たのうこう)とは?
一人で複数の工程を遂行できる作業者のこと
仕事をしていると、時間帯や時期などで業務の忙しさが違ったり、部署や人によっても残業量が異なったりするケースが多くあります。
これらの解決策に用いられている「多能工」をご存知ですか?
1人が単一の作業を受持つ作業者を単能工といい、1人で複数の作業や工程を遂行する技能を持った作業者を多能工といい、たのうこうと読みます。
従来は、単能工が一般的で、今でも多くの業種で単能工が残っていますが、近年ではニーズに合わせてマルチスキルを活かす事ができる“多能工”が求められるようになっています。
「マルチスキル」とも同じような意味を指しています。
多能工が生まれた背景
多能工の仕組みを考案したのはトヨタ自動車工業の大野耐一元副社長だといわれています。
豊田紡織出身の大野氏は、女子工員が一人で複数の織機を操作してたのに対し、自動車の組立には一人一台の機械しか扱っていない事が課題と考えるようになりました。
自動車用の工作機械も織機と同様に、一人で複数台使いこなせるようになる「多台持ち」を考案し、更には一人で複数の工程を「多工持ち」を提案しました。
そこから、「多能工」という概念が考えられるようになりました。
多能工化するメリット
多能工化するメリットは以下の点が挙げられます。
仕事量を平準化し、従業員への負荷を下げる
多能工の最大のメリットは業務負荷が均等になる事です。
今いる人員の中で繁忙期やイレギュラー対応をカバーしながら業務をすすめることができます。
変化に強い組織づくりにつながる
一定の仕事だけをするのではなく、時代や業界、会社の変化に合わせて変化していけるという点は、強い組織づくりにもつながります。
柔軟性が高い組織は、突発的に求められる業務などにも対応できるようになります。
チームワークが向上する
お互いをフォローする体制が整うため、普段から自然にチームワークがとれるようになるでしょう。
また、お互いの業務内容を知ることで相互理解が進みます。
※その他考えられるメリット
<企業側>
・業務の均等化により、特定のスタッフへの残業抑制
・チームワークが強固となる
・人材を効率的に配置できるため、人員の余剰がなくなる
<従業員側>
・欠勤時などのフォロー体制の強化
・多様な業務を体験する事で互いを理解しあえる
参考資料:
物理的な距離をどう超えるのか?部門間コミュニケーション促進事例4選
多能工化のデメリット
人員の育成に時間がかかる
人材を多能工化するまでには時間がかかります。一通りの作業を覚えるのには当然時間を要するという点はデメリットになります。
その育成の先に業績にどうつながるのかを検討したうえで導入しなければならないでしょう。
人事評価制度の整備
社員のモチベーション管理のために、覚えたスキルに応じて報酬をあげるなど、能力相応の対価を支払うなども必要となります。
何をもって評価するのか、目標管理制度を取り入れている場合はその目標設定の仕方などの見直しが必要になることもあります。
多能工化が求められる業界・仕事
製造業
製造業では複数の生産ラインで様々な工業用機械を扱います。多能工化する事で、単能工では成し得なかった遅延などにも対応が出来るようになります。
また人材を流動的に動かす事が可能なため、突発的な依頼などにも対応が可能となります。
多能工を生み出したトヨタ自動車では、柔軟な人員配置が可能となった事で作業員の少人数化に成功し、低コストで良質な自動車生産に成功しました。
また人件費などのコストを削減しただけでなく、様々な車種を量産できるようになり、トヨタの業績拡大にも大きく寄与しています。
旅館業
星野リゾートでは多能工を実現し、統廃合の多いホテル業界でも型破りな経営手法で「勝ち組」と言われています。その中の一つに多能工があり、社員は一人でフロント、客室、レストランサービス、調理(補助業務)の4つの業務を一日の中で担当します。
例えば、フロント業務ではチェックインとチェックアウトの時間が混み合うなど忙しい時間帯がはっきりしているため、その他の空いている時間帯は清掃や調理補助といった裏方の仕事まで担当します。そうする事で、業務が平準化し、社員全体のチームワークも一体感を増します。
流通業
流通業でも多能工化が進んでおり、ヤオコーやクイーンズ伊勢丹でも実施されています。
埼玉県などを中心に展開しているスーパー「ヤオコー」では多能工化に成功しています。
スーパーマーケットではレジ担当、惣菜担当、品出し担当というように業務が細分化されているのが一般的です。
しかし、忙しい時間帯は部門によっても異なります。生鮮食品などの品出しは朝が忙しいですが、お客様の来店が少ない朝の時間帯のレジは比較的空いています。お惣菜もランチ前の時間帯は忙しいですが、昼過ぎになると一旦落ち着きます。
手が空いているレジ担当を品出しや惣菜を担当し、また逆に惣菜担当も手が空けば夕方の忙しい時間帯はレジを担当するなどで、業務を平準化し、全体の生産性をアップさせました。
クイーンズ伊勢丹では、日産自動車出身の内田貴之社長の元、改革が進められました。社長が就任した当時、店舗では売切れや挨拶もないような荒れた状態が続き、売上も低下してしまい人員を削減するなどの悪循環が続いていました。
顧客が何を求めているかを優先順位をつけ、かき入れどきに欠品が出ないように多能工化を推進した結果、前年比で5%増などの好調を維持していました。
多能工化に向けての育成方法
改善が必要となっている部門を中心に推進部を設置します。また改善に関わる部門から責任者や担当者を選出し、進捗の確認をしていきます。
改善マニュアルを作成し、経営幹部への報告や社員への告知なども行います。
ここでは、多能工化を推進するにあたって、経済産業省が発行している多能工(マルチスキル)人材育成による人材育成マニュアルより具体的な手順をご紹介いたします。
1.定量化(業務の洗い出し)
業務の棚卸しを行い、業務量調査、スキル調査などを実施します。
実際に担当部門などにヒアリングをし、各項目を定量化させたポイントを可視化していくと良いでしょう。
2.課題化(課題の可視化とマニュアル作成)
稼働率調査、スキルマップの作成を行い、多能工化による業務平準化の検討します。
目標値と現在の水準のギャップを課題として設定します。
具体的な課題からマニュアルを作成し、どんな人でも作業ができるように分かりやすい言葉でドキュメント化していきます。
3.実践(社員への通達と実践)
多能工化の人材育成を実践します。
作成したマニュアルをベースに社員へ通達をし、実践していきます。
4.定着化
進捗管理と検証・定着化を図り、定着化させて行きます。
また、多能工化された社員をなんでも出来るからと会社都合で振り回さないようにする事もポイントです。押し付けられたというような負の感情が残ってしまうと、本人だけでなく、周囲からの賛同を得る事が難しいので注意しましょう。
参考:
多能工(マルチスキル)人材育成による 人材の有効活用 - 経済産業省-
建築業界とリフォーム業界での多能工化の取り組み
建設業では長年人手不足に悩まされていましたが、震災の復興事業や東京オリンピック・パラリンピックの影響で更に深刻化しています。
そこで国土交通省は多能工として育成する議論が進んでいます。
マンションやビルなどの内装を取り扱う多能工の育成にあたり、多能工企業に対してヒアリングを行い、検討会を実施しています。
多能工化を行う他社事例
リコーインダストリー株式会社
印刷・事務機器などの消耗品やリコー製品の販売などを行うリコーインダストリーでは長年、多能工化が課題となっていました。
これまで部門毎にエクセルで管理していましたが、スキル情報が部門毎に引き継げなかったり、定年退職者などの喪失スキルの把握が困難という課題が挙げられていたのです。
そこでエクセルフォーマットをベースにした管理画面を構築し、スキルを可視化。管理者が全体の把握し、複数の部門間での閲覧もできるようにしたため、情報共有も容易になりました。
また、年齢別スキル分布や経年変化をグラフ化し、スキル喪失への早期対応も可能となりました。
東洋ケミテック
神戸に本社を置くコーティングやラミネート加工を行う東洋ケミテックでは、関東工場の社員は能力評価とし、多能工化訓練のために業務内容への対応を、細かく評価する制度になっていました。
しかし、現場に負荷がかかり、継続的な運用が難しい状況に陥っていました。その課題を解決するため、能力評価のシステムをチームリーダーから仕事の上司(経験者)が判断するように簡素化し、多能工化に向けた取り組みが浸透するようになりました。
トヨタホーム
トヨタ自動車グループのトヨタホームの住宅部材工場でも多能工化が実施されています。
トヨタホームでは、受注した戸建住宅の約8割までを工場で作り、建築現場では据え置きなどに特化する手法が取られています。
階段やキッチンなど手の込んだ作業には熟練した作業者の手が必要になるため、生産ラインとは切り離していますが、高い生産性を維持するには作業者への仕事の割り振りが鍵を握っています。
閑散期などに応じて工場内、現場まで応援できる人材の育成に力を入れており、近年のブロードバンド化に伴い配線を担当する人員を3倍に増やすなど、フレキシブルな人員配置を行い、多能工化を推進しています。
参考:
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO87392340Y5A520C1000000/
多能工化は様々な業界・業種で取り入れられている
多能工は多くの企業でも実施されており、様々な業種や業界でも取り入れられています。
一部の分野ではまだ難しい側面も残されていると思いますが、一人が抜けると作業が中断してしまうような体制から脱却する良い手法かもしれません。
また、今の時代は変化に対応できる力、自分自身のスキルを向上させていく力が求められています。同じ仕事だけを長く続けているだけでは会社に貢献することが難しくなってきました。
従業員の働き方への考え方、キャリアアップへの考え方とのすり合わせは必要ですが、会社が成長していくための人財有効活用のための手段として検討してみるのも一つかもしれません。
参考資料:
物理的な距離をどう超えるのか? 部門間コミュニケーション促進事例4選
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TUNAG(ツナグ)は、会社と従業員、従業員同士のエンゲージメント向上のために、課題に合わせた社内制度のPDCAをまわすことができるプラットフォームです。
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多能工化をすすめるためには、どのような教育・評価制度をもとにしていくのか、会社や事業がどこに向かっているのかなど、会社と従業員の関係が強固にならなければなりません。
「会社が勝手に自分に今までと違う仕事をやらせようとしてくる」と受け取られてしまうと、従業員のためにも良い経験にならないどころか、多能工化を進めること自体が逆効果となってしまいかねません。
目的や意味、経営理念をしっかりと伝えながら進めていくことが求められます。
そのような会社と従業員の信頼関係の構築、また、上司部下、チームメンバー同士のコミュニケーション強化のために、TUNAG(ツナグ)を運用することが可能です。
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『TUNAG(ツナグ)』では、会社として伝えたい理念やメッセージを、「社内制度」という型として表現し、伝えていくことができます。
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