チェンジマネジメントとは?4つのポイント、フレームワーク3選等を解説
チェンジマネジメントとは
VUCA時代を背景に、コロナ禍やデジタルシフトなど産業構造が劇的に変化しています。この劇的な変化に対応し、ビジネス環境を生き抜くには組織変革が不可欠です。
本記事では、組織変革を成功に導くチェンジマネジメントについて、概要やポイントのほか、プロセス、フレームワークを解説します。
チェンジマネジメントとは?
日本チェンジマネジメント協会では、チェンジマネジメントを次のように定義しています。
組織を「現状」から「目指す状態」へと移行させ、期待するベネフィットを達成するための手法。体系化されたアプローチ(プロセス、ツール、ノウハウ)を使って、変革による混乱を最小化し、変革の目標達成の可能性を最大化する。
つまり、チェンジマネジメントとは、企業のあるべき姿に向けて、変革を円滑に実現させるためのマネジメント手法のこと。この変革とは、企業方針や戦略、業態の変更、抜本的なシステム変更など、組織上、大きな改革を意味します。
参考:⼀般社団法⼈⽇本チェンジマネジメント協会:「チェンジマネジメント実践ガイド」
チェンジマネジメントの歴史背景
チェンジマネジメントは、心理学や社会学、経営学といった学術的な理論を軸に開発された領域です。
1940年代、社会心理学者クルト・レヴィンによって、世界で初めてチェンジマネジメントのモデル「3段階モデル」が考案されました。以降、1960年代には、現代でも多く使われている「チェンジカーブ」のベースとなった精神科医キューブラー・ロスによる「5段階のモデル」、1996年には、経営学者ジョン・P・コッターによる「変革の8段階のプロセス」、などさまざまな理論が発表されたのです。そして近年では、チェンジマネジメントがビジネス領域で確立され、理論の再現可能なプロセスやツールの構築が進んでいます。
参考:⼀般社団法⼈⽇本チェンジマネジメント協会:「チェンジマネジメントの歴史」
チェンジマネジメントの課題と4つのポイント
チェンジマネジメントを成功に導くには、「チェンジモンスター」を理解し、上手く対処することが重要です。
ここでは、株式会社 ボストンコンサルティンググループが提唱する「チェンジ―モンスター」を参考にして、チェンジマネジメントの課題と押さえておきべきポイントを紹介します。
参考:株式会社 ボストンコンサルティンググループ:「チェンジモンスター」
チェンジモンスター!?企業が直面するチェンジマネジメントの課題
チェンジマネジメントは組織メンバーに変化を求めますが、この変化に抵抗し、チェンジマネジメントの障壁となる「チェンジモンスター」の存在が大きな課題として直面します。このチェンジモンスターは、変わることへの恐れ、反発など改革を妨害する人間的・心理的総称ですが、チェンジマネジメントを成功に導くには、こうしたチェンジモンスターを理解し、上手く対処することがポイントです。チェンジモンスターの例と特徴は次のとおりです。
タコツボドン
自身の担当を超えた視野を持つことをせずに、よそ者を否定する。タコつぼに閉じこもるように、他とつながりを持とうとしない。
ウチムキング
社内で何が評価されるかを重要視し、社内外のズレには目もくれない。
カコボウレイ
かつての経営者が手掛けた事業等は、業績が落ち込んでも撤退の議論・決断をしようとしない。
ノラクラ
さまざまな言い訳をし、変革を回避する。
ミザル・キカザル・イワザル
「見ざる・聞かざる・言わざる」を通して、改革の流れをやり過ごす。
マンテン
全てのリスクをつぶして満点の報告書がないとアクションを取れない。
カイケツゼロ
課題の指摘などは巧みだが、解決策を出せない。
チェンジマネジメントの4つのポイント
ここでは、チェンジマネジメントにおける4つのポイントを解説します。
1.外の「モノサシ」で高い目標を設定する
チェンジモンスターの弊害から脱却するには、外部の視点から高い目標を設定することが重要です。
第一に、国内の競合だけでなく、グローバルの競合をベンチマークすること。そして第二に、資本市場の視点で、株主価値を高めるための経営メカニズムを取り込むことです。こうした外のモノサシで高い目標を設定することで、改革起動のトリガーにすることができます。
2.改革リーダーの人選
経営層に改革の覚悟を決めさせるには、抜本的なやり方を導入することが必要です。
これを実践するために重要なことは、腹がすわり、改革を推し進められるリーダーを人選すること。こうした覚悟を持った改革リーダーを立てることでチェンジモンスターに対処することができます。
3.改革成功にはハイリターンで
異質で難易度が高く、リスクの高いチャレンジが課せられる改革リーダーには、リスクに応じたリターンで報いる必要があります。
リターンが見合わないと、改革とは逆方向のリスク回避行動を取りかねないため、ハイリターンや抜擢人事によって、リスクとリターンのバランスをとることが重要です。このように改革リーダーがリスクをとる環境を整えることで、チェンジモンスターを対処することが可能になります。
4.改革支援ツールで武装
改革リーダーに、プロジェクト・マネジメントのツールを与えることも極めて重要です。
株式会社 ボストンコンサルティンググループでは、目標とチームの役割・任務を1枚の大きなシートにした「改革ビジョンマップ」、組織変革の典型的なパターンを描いた「チェンジ・カーブ」、戦略の方向づけやマネジメントを簡単なスタディで評価・提言できる「企業診断キット」、社内サーベイによって改革の意識状態を定量評価できる「組織モニター」が主に使われています。実務的には、コンサルティング会社からの支援によって、改革ツールを武装することが現実的でしょう。
チェンジマネジメントの5つのプロセス
変革は、一時的な混乱を生み、パフォーマンスの低下を引き起こすリスクがありますが、チェンジマネジメントは、このリスクを最小化し、変革がもたらすベネフィットを最大化する効果があります。ここでは、日本マネジメント協会が示す「チェンジマネジメント実践ガイド」に基づき、チェンジマネジメントのプロセスを5ステップで解説します。
参考:⼀般社団法⼈⽇本チェンジマネジメント協会:「チェンジマネジメント実践ガイド」
1.変革の診断
一つ目のフェーズは、変革の診断です。
組織に与える影響を精査し、組織の受け入れ可能性を調査します。具体的には、変革人材や変革に影響を受ける者を洗い出し、変革へのカルチャーや力量、準備状態の評価を行います。そして、変革リーダーがプロジェクトを理解し、コミットしているかとともに、リスクや成功の見込みを診断します。"
2.変革の戦略策定
二つ目のフェーズは、変革の戦略策定です。
あるべき姿に変革させるアプローチを検討し、チェンジマネジメント戦略を策定します。変革を達成するため、変革プロジェクトの規模やスコープなどを踏まえて、以下を策定します。
・コミュニケーション計画
・スポンサーシップ戦略
・ステークホルダーエンゲージメント戦略
・チェンジインパクト戦略とチェンジレディネス戦略
・教育・トレーニング戦略
・ベネフィット実現戦略
3.変革の計画策定
三つ目のフェーズは、変革の計画策定です。変革推進のために必要なアクション、スケジュール、リソースの計画「チェンジマネジメント計画」を策定します。チェンジマネジメント戦略では、WHY(なぜ)とWHAT(なに)を定義するのに対し、チェンジマネジメント計画ではHOW(どのように)を定義します。
4.変革の導入
四つ目のフェーズは、変革の導入です。チェンジマネジメント計画における実行状況のモニタリングを行い、次のような取り組みで変革の導入を推進するほか、必要に応じて計画を修正します。
・チェンジマネジメント計画のモニタリング
・リソース計画実行のためのコミュニケーション計画
・スポンサーシップ計画
・ステークホルダーエンゲージメント計画
・教育、トレーニング計画
5.新しい状態の維持
五つ目のフェーズは、新しい状態の維持です。変革の導入後、状況をモニタリングし、期待する成果がでているかをレビューします。また、必要に応じて、変革の定着対策を講じ、新しい状態を維持できるよう促します。
チェンジマネジメントのフレームワーク3選
チェンジマネジメントのフレームワークはさまざまありますが、ここでは、主なチェンジマネジメントのフレームワークを紹介します。
①レヴィンの「3段階モデル」
クルト・レヴィンは、変革の成功には、次の3段階のプロセスが必要と述べています。
・フェーズ1:解凍
・フェーズ2:変革
・フェーズ3:再凍結
変革には、既存の方法論や価値観などの組織文化を壊し(解凍)、それらを学習や制度構築などによって変化させ(変革)、新たな方法論や価値観を構築させる(再凍結)という3段階のプロセスを経て、新たな組織文化を定着させるというモデルです。
参考:⼀般社団法⼈⽇本チェンジマネジメント協会「クルト・レヴィン:チェンジマネジメントの古典から変革成功の本質を学ぶ」
②コッターの「変革の8段階のプロセス」1996年版
ジョン・P・コッターは、企業変革には次の8段階のプロセスを順に実施することが必要と提唱しています。
・第1段階:危機意識を高める
・第2段階:変革推進チームを結成する
・第3段階:ビジョンの策定
・第4段階:ビジョンの伝達
・第5段階:社員のビジョン実現へのサポート
・第6段階:短期的成果を上げるための計画策定・実行
・第7段階:改善成果の定着と更なる変革の実現
・第8段階:新しいアプローチを根付かせる
途中、ひとつでも省略してしまうと、満足のいく成果を上げることができないとし、この明確でわかれやすいステップは世界中のリーダーにおける変革ロードマップの基盤になりました。
参考:⼀般社団法⼈⽇本チェンジマネジメント協会:「コッターの変革の8段階のプロセスは古い?!今の時代のチェンジマネジメントプロセスとは」
③キューブラー・ロスの5段階のモデルをベースとした「チェンジカーブ」
現代でも多く使われている「チェンジカーブ」は、1960年代、精神科医キューブラー・ロスによる「5段階のモデル」がベースとなっています。
この5段階のモデルは、病で死を控えた人間が死を受容するまでの心理プロセスで、このモデルを元に、多くの研究者やコンサルタントが「チェンジカーブ」という心理プロセスをモデル化しました。このチェンジカーブには、次のような心理的な段階をモデル化しています。
・第1段階:否定
・第2段階:怒り
・第3段階:抵抗
・第4段階:落ち込み
・第5段階:受け入れ
・第6段階:試み
・第7段階:発見
・第8段階:統合
組織メンバーは、大きな変化が起こったときに、このような段階を経ることを踏まえて、チェンジマネジメントでは計画を立てます。
参考:⼀般社団法⼈⽇本チェンジマネジメント協会:「チェンジカーブとは?変化を受け入れる過程を知るチェンジマネジメントフレームワーク」
まとめ
本記事では、組織変革を成功に導くチェンジマネジメントについて、概要や成功事例、フレームワークを解説しました。企業の変革には、この変化に抵抗し、チェンジマネジメントの障壁となるチェンジモンスターの存在が大きな課題として直面します。
本記事を参考に、チェンジモンスターをよく理解して上手く対処するとともに、フレームワークを活用し、チェンジマネジメントを成功に導きましょう。"
参考:⼀般社団法⼈⽇本チェンジマネジメント協会「コッターの変革の8段階のプロセスは古い?!今の時代のチェンジマネジメントプロセスとは」