ホテル業界の離職率の現状は?主な原因や改善のポイントを解説
ホテル業界は離職率が高いことで知られていますが、その背景には過酷な労働環境や待遇面での課題があるとされています。ホテル業界の離職率の現状を確認し、主な原因や改善のポイントを押さえておきましょう。有名ホテルの離職率の改善事例も紹介します。
ホテル業界の離職率はどれぐらい?
日本のホテル業界の離職率は、他の業界と比較しても高めといわれています。まずは、どの程度の離職率なのか、厚生労働省のデータから確認していきましょう。
ホテル業界の離職率は18~19%程度
厚生労働省による雇用動向調査(令和5年)によれば、宿泊業・飲食サービス業の2023年における入職率は19.8%で、離職率は18.2%となっています。ただし、これは一般労働者(正規雇用の労働者)の場合であり、パートタイム労働者の場合は入職率が40.5%で、離職率が31.9%となっています。
期間限定での雇用も多いパートタイム労働者の場合、一般労働者よりも入職率・離職率ともにかなり高い水準です。ほかの業界に比べて離職率が高い傾向にあり、人材の入れ替わりが激しいことが分かります。
ホテル業界における人材の離職原因は?
ホテル業界において人材の離職率が高い原因を知っておきましょう。以下のように、業務上の負担の大きさや、労働環境の厳しさ、給与水準の低さなどが挙げられます。
業務上の負担が大きい
ホテルでの業務は多岐にわたり、スタッフは接客から清掃・裏方業務まで、多様な仕事をこなす必要があります。一般的に業務内容は担当する場所で異なりますが、小さなホテルでは同じスタッフが複数の仕事を、同時並行で進めているケースは少なくありません。
特にホテル業界は、対人業務で細やかな対応が求められるため、精神的な負担が重くなりがちです。宿泊客からのクレーム処理など、予測困難な対応も必要であり、業務量の調整が難しいことも知られています。こうした負担がスタッフのストレスを増大させ、離職率を引き上げています。
労働環境の厳しさ
ホテル業界は、不規則な勤務体制や長時間労働が日常的に発生するため、労働環境の面でもスタッフの負担になりがちです。繁忙期や週末・祝日などは特に忙しく、休みを取れないスタッフも出てきます。
さらに、早朝から深夜までのシフトが組まれることも多く、生活リズムが乱れがちで、健康面に悪影響を及ぼす可能性もあります。特に昼夜問わず勤務が必要な場合などは、身体的・精神的な負担が重くなり、離職を決断する人は決して珍しくありません。
給与水準の低さや待遇の問題
ホテル業界では、給与水準がほかの業界と比較して低い傾向にあり、特に若年層や新入社員にとっては経済的に厳しい現状があります。労働環境や長時間労働に対して、収入が見合わないと感じる人が多く、離職や転職の原因のひとつとなっています。
また、深夜や早朝の勤務が発生しても、割増賃金やシフト手当が十分に支払われないケースもあり、待遇への不満から離職を考える人も少なくありません。
離職率を改善するためのポイント
ホテルにとって離職率の高さは大きな問題であり、人手不足の解消のため、さまざまな施策を打ち出しているところは多くあります。離職率を改善するためには、以下のように就労環境や待遇の改善が必要です。重要なポイントを押さえておきましょう。
まずは就労環境や待遇の改善が必要
離職率を下げるには、まずスタッフの就労環境と待遇を改善することが大切です。例えば、過酷なシフト勤務の見直しや長時間労働の是正、休暇の取得促進などが必要でしょう。
さらに適切な人員配置により、繁忙期でも業務が過重にならないように取り計らうことで、スタッフが健康的で安定した働き方ができるようになります。
また、給与水準の見直しや、役職や経験に応じた昇給の機会を設けることも重要です。福利厚生の充実によって離職率が改善するケースもあるので、さまざまな施策を通じてスタッフの満足度を高め、長く働きたいと思ってもらえるような工夫が求められます。
人材の教育体制を見直す
スタッフが安心して成長できる教育体制の整備も、離職率の改善に寄与します。多くのホテルでは、業務が多岐にわたる一方で、十分な研修や指導が実施されず、新人が戸惑いや不安を感じやすい状況があります。
職場での不安やストレスは早期離職につながりやすいため、新人がスムーズに業務に適応できるように、教育体制を見直すことも大事です。実践的かつ段階的な研修プログラムを導入し、適切なサポートを提供できる体制を整えましょう。
また、スキルアップやキャリア形成の支援として、外部講習や資格取得支援の導入も効果的です。スタッフが自信を持って仕事に取り組み、将来への成長を感じられる環境が離職防止に役立ちます。
ツールを活用して業務効率化を進める
近年は、ホテル業務を効率化できるツールやシステムが、数多くリリースされています。うまく活用することでスタッフの業務負担を大幅に軽減できるので、結果的に離職率の低下にも寄与します。施設のニーズや環境に合ったツールを選択し、業務の見直しや効率化を図りましょう。
例えば、ワークフローやタスク依頼機能をはじめ、社内チャット機能なども利用できる「TUNAG」ならば、ホテル業務の効率化やコミュニケーションの円滑化が可能です。マニュアルの作成もできるので、新人の教育や研修などにも役立つでしょう。この機会にぜひ、導入をご検討ください。
ホテル業界における業務改善の事例
有名ホテルの業務改善により、離職率の低下に成功した事例を紹介します。各ホテルがどのような課題を抱えており、どういった施策で解消に至ったかチェックしてみましょう。
株式会社BP
ウェディング事業を中心に、ホテル、レストランの運営や、映像事業、不動産事業、保険事業など、幅広いサービスを展開する株式会社BP。
アルバイトを含めて従業員数が2,000名を超える同社では、 頑張りをしっかり褒める「承認」によって、組織への定着を促したいと考え、TUNAG(ツナグ)を導入しました。
TUNAGでは、サンクスカードや日報の運用、リファラル採用を通じて社員の定着率を高める取り組みを実施しています。
取り組みの結果、TUNAG導入前後でアルバイト定着率が63%から93%にまで改善しました。
また、アルバイトスタッフからの紹介採用をTUNAGで促進させたことで、採用単価1万円未満でアルバイトを3ヶ月で300名採用できたといいます。
※出典:アルバイト定着率が30%改善、3ヶ月で300名採用:BPが「友達に紹介したくなるバイト先」を作るまで
シェラトングランドホテル広島
シェラトングランドホテル広島では、人材の離職率の低下と定着率の向上を目指して、2015年から3年間かけて、契約社員を正規雇用のスタッフに任用替えしました。キャリアアップを目指して転職を図る人材が多かったため、正規雇用を増やしたことで、退職する人材を大きく減らすことに成功しています。
さらに、一人一人のスタッフと話し合いをし、個人の事情をきちんと配慮してワークライフバランスの向上を図りました。子育てや家庭の事情に配慮した結果、結婚・出産といったライフイベントを機に退職する人材も減り、優秀なスタッフに長く働いてもらえるようになったようです。
※出典:24時間営業、離職率高いホテル業界の常識を覆す施策を次々に | ひろしま企業図鑑
金太郎温泉
富山県魚津市の金太郎温泉では、これまで人手不足が続いており、一部のスタッフに無理を強いて来たため、疲弊して退職してしまった事例が多数ありました。当該スタッフに十分な説明や、動機付けがされていなかったことが、主な原因のようです。
そこで、育成したいキーマンに上司が十分な説明・動機付けを行いました。十分な支援を約束したことで、スタッフが仕事に前向きに取り組めるようになり、離職率も改善しています。
※出典:冨山・魚津市 お肌よろこぶ濁り湯の宿 日本の名湯 金太郎温泉(富山県魚津市)|改善事例一覧 ホテル旅館”カイゼン”で人手不足解消!宿泊業の生産性向上事例集|観光庁
ホテル大雪
北海道にある層雲峡温泉ホテル大雪では、これまで料飲社員の長時間勤務が長く改善されておらず、新規スタッフの定着が困難な状況でした。時間短縮への取り組みもされていなかったため、社員の負担が減らずに、離職率が高止まりしていたようです。
そこで、正社員の勤務シフトを細かく設定し直し、シフトのパターンを大幅に増やしたことで、時間差出勤を可能にしました。その結果、スタッフの仕事が遅くなる場合でも、遅番勤務者がカバーできるようになり、労働時間の短縮に成功しています。
※出典:層雲峡温泉 ホテル大雪|改善事例一覧 ホテル旅館”カイゼン”で人手不足解消!宿泊業の生産性向上事例集|観光庁
離職率の改善はまず労働環境の整備から
ホテルの離職率の改善には、労働環境の整備が最優先です。勤務体制の見直しやスタッフの待遇の向上、業務効率化を積極的に進めるようにしましょう。皆が安心して働ける環境を提供することで、優秀な人材にも長く働いてもらえるようになります。
また、スタッフが離職する理由はさまざまなので、原因をきちんと調べた上で、有効な改善策を打ち出すことも大事です。ほかの施設の業務改善事例も参考にしてみましょう。