エンゲージメントの低下は、社員個人の意欲だけで起こる問題ではありません。評価制度や業務負荷、上司との関係、情報共有のあり方など、組織の仕組みが影響しています。放置すれば、生産性の低下や人材流出にもつながる経営課題です。本記事では、エンゲージメントが低い組織に見られる特徴と、その原因を解説します。自社の課題に合った改善施策を選ぶ方法も紹介するため、組織づくりを見直す際の参考にしてください。
エンゲージメントが低い組織は、主に以下のような特徴があります。
そもそも従業員エンゲージメントとは、社員が会社の理念や目標に共感し、自ら組織に貢献しようとする状態を指します。エンゲージメントが低下しても、すぐに大きな問題として表面化するとは限りません。日常の行動や職場の雰囲気に、小さな変化として表れることがあります。まずは、自社に当てはまる兆候がないか確認しましょう。
エンゲージメントが低下すると、社員の会社に対する愛着や貢献意欲が薄れていきます。
指示された業務はこなしていても、それ以上の行動を取らなくなるのが特徴です。業務改善を提案したり、困っている同僚を支援したりする行動が減り、求められた範囲の仕事だけを行うようになります。
日本では、従業員の8%が仕事に積極的に取り組んでいます。これは東アジア地域平均の18%、世界平均の20%と比較すると低い水準です。また、過去3年間の移動平均から1ポイント上昇しています。
出典:State of the Global Workplace: Japan Country Level Data
会社への愛着や貢献意欲の低下は、日々の勤務態度にも表れます。
以前は率先して動いていた社員が、徐々に受け身になり、自分から提案や相談をしなくなることがあります。現場では、例えば次のような変化が見られます。
一つ一つの行動は、個人の性格や一時的な事情によるものかもしれません。しかし、複数の社員や部署で同じ傾向が見られる場合は、組織の仕組みに原因がある可能性があります。
「最近の社員は主体性がない」と個人の資質だけで判断するのではなく、意見を出しても反映されない、挑戦しても評価されないといった環境になっていないかを確認する必要があります。
エンゲージメントが低い職場では、社員同士のコミュニケーションも減少します。
業務に必要な連絡は行われていても、ちょっとした相談や情報共有、雑談などが生まれにくくなります。その結果、問題を抱えている社員がいても周囲が気づけず、対応が遅れる可能性があります。
情報が特定の担当者や部署に滞留することも問題です。例えば、顧客から寄せられたクレームが担当者の手元で止まり、関係部署へ共有されなければ、同じ問題が繰り返される恐れがあります。
テレワークやシフト勤務、多店舗・多拠点での勤務では、社員同士が自然に顔を合わせる機会が限られます。コミュニケーションを個人の努力に任せるのではなく、情報共有や交流の場を意図的につくることが重要です。
エンゲージメントの低下が続くと、最終的には離職率の上昇という形で表面化します。
特に、業務に精通した中堅社員や、将来を期待されていた若手社員の退職は、組織への影響が大きくなります。残された社員の業務負荷が増え、さらなる離職を招く悪循環に陥る可能性もあります。
厚生労働省の「令和6年雇用動向調査結果の概要」によると、全国の離職率は14.2%でした。業界や企業規模によって水準は異なるものの、自社の離職率が同業他社や過去の実績を大きく上回っている場合は、原因を詳しく調べる必要があります。
退職者の人数だけでなく、退職理由の傾向も確認しましょう。「上司との関係」「評価への不満」「成長機会の不足」など、同じ理由が続いている場合は、組織的な問題が背景にある可能性があります。
エンゲージメントが低い兆候が見られたら、次に原因を特定します。
原因を確認せずに研修やイベントを実施しても、本来の課題と施策が合っていなければ十分な効果は期待できません。ここでは、多くの組織で見られる五つの原因を紹介します。
人事評価への不満は、エンゲージメントを低下させる代表的な原因です。
評価基準が公開されていない、評価者によって判断が変わる、成果を出しても理由が分からないまま低く評価されるといった状況では、社員は努力と評価が結びついていないと感じます。
「頑張っても報われない」と考えれば、必要以上に努力しなくなるのは自然な反応です。本人の意欲不足と決めつけるのではなく、評価制度への信頼が失われていないかを確認しましょう。評価基準が分からないままでは、社員の意欲は向上しません。
長時間労働や過度な業務負担も、エンゲージメントを低下させます。
仕事にやりがいを感じていても、休息を取れない状態が続けば、前向きな気持ちを保つことは困難です。疲労が蓄積すると、周囲を支援したり、新しい仕事に挑戦したりする余裕も失われます。
特に注意したいのが、特定の社員への業務集中です。仕事が速い、頼みやすいといった理由で優秀な社員に依頼が集まり、結果としてその社員が疲弊してしまうケースがあります。
「この働き方を今後も続けられるか」と考えたときに将来を描けなければ、社員は転職を選択肢に入れ始めます。業務量だけでなく、人員配置や業務プロセスそのものを見直しましょう。
社員が持つスキルや強みと、担当している仕事が合っていない場合も、エンゲージメントは低下します。
例えば、人と話すことや顧客への提案が得意な社員が、長期間にわたり定型的な事務作業だけを担当していれば、自分の強みを生かせないと感じるでしょう。
同じ仕事を繰り返し、成長している実感を持てない状態も問題です。会社で働き続けても新しい経験を得られないと感じれば、社外に成長機会を求める可能性があります。
直属の上司との関係は、社員のエンゲージメントを大きく左右します。
仕事の方針が示されない、相談しても話を聞いてもらえない、努力を認めてもらえないといった状況が続けば、上司だけでなく会社への信頼も失われていきます。
部下のエンゲージメントを高めるには、管理職自身が安定して働ける環境を整えることも欠かせません。
対話や評価に関する研修だけでなく、業務量の見直しや相談先の整備など、管理職への継続的な支援が必要です。
企業の規模が大きくなるにつれて組織の階層化が進み、承認手続きが増大すると、社員の主体的な行動が阻害される傾向があります。
現場からボトムアップで改善案を出しても、数多くの部署や上司からの承認を得るまでに膨大な時間を要したり、提出した提案の進捗や結果が本人にフィードバックされなかったりすることがあります。こうした状態が繰り返されると、社員は「意見を発信しても無意味だ」と捉えるようになり、自発的な提案を手控えるようになってしまいます。
この課題を解決するためには、既存の承認手続きや各種会議、定期報告書などを徹底的に見直し、真に必要なプロセスのみに絞り込むことが求められます。同時に、現場への適切な権限移譲を推進し、社員の提案に対して必ずその後の結果や評価をフィードバックする仕組みを構築することが不可欠です。
エンゲージメントが低い原因を把握したら、自社の課題に合った施策を選びます。
流行している施策をそのまま取り入れるのではなく、どの課題を解決するために実施するのかを明確にしましょう。ここでは、基本となる五つの施策を紹介します。
流行している施策をそのまま取り入れるのではなく、どの課題を解決するために実施するのかを明確にしましょう。ここでは、基本となる五つの施策を紹介します。
経営理念やビジョンは、社内に掲示するだけでは浸透しません。
社員が自分の仕事と会社の方向性とのつながりを理解できるよう、日常の業務に落とし込んで伝える必要があります。
例えば、「顧客を第一に考える」という理念を掲げるだけでは、社員が取るべき行動は明確になりません。問い合わせへの対応基準や、顧客の声を共有する方法など、実際の業務に結びつける必要があります。
理念が判断基準として機能すれば、社員は上司の指示を待つだけでなく、自ら考えて行動しやすくなります。
社員が会社の方向性を理解できない背景には、経営陣からの情報発信が不足している場合があります。
発信する際は、決定事項だけでなく、その判断に至った背景も説明しましょう。「何を決めたか」だけでなく、「なぜ決めたのか」が分かると、社員の納得感は高まりやすくなります。
一方通行の発信にしないことも重要です。社員が質問や意見を寄せられる場を設け、経営陣が反応を返すことで対話が生まれます。
社員にとって、日常的に会社を代表する存在は直属の上司です。そのため、管理職の関わり方はエンゲージメントに大きく影響します。
まずは、部下の業務状況や悩み、キャリアについて話す1on1を仕組みとして定着させましょう。
ただし、実施回数を増やすだけでは十分ではありません。進捗確認や指示だけで終わると、部下にとっては通常の業務面談と変わらないためです。上司が部下の話を聞き、成長や課題を一緒に考える場にする必要があります。
管理職がプレイヤー業務で余裕を失っている場合は、業務量の見直しも必要です。研修だけで解決しようとせず、部下と向き合う時間を確保できる環境を整えましょう。
社員同士のコミュニケーションは、自然に発生するとは限りません。テレワークやシフト勤務、多店舗・多拠点で働く企業では、意図的に接点を設計する必要があります。
具体的には、次のような取り組みが考えられます。
普段から関係が築かれていれば、問題が発生した際にも早めに情報を共有できます。コミュニケーション施策を、業務を円滑に進めるための仕組みとして設計しましょう。
エンゲージメントを高めるには、社員が安心して働き続けられる環境を整えることも欠かせません。
柔軟な勤務制度や休暇制度、ハラスメント相談窓口などは、働きやすさを支える基盤になります。ただし、制度を用意しても、利用すると評価が下がると感じられていれば活用されません。管理職への周知や業務分担の見直しも必要です。
全社一律の施策ではなく、サーベイやヒアリングの結果を基に、部署や勤務形態ごとの課題に合った対応を行うことが大切です。
エンゲージメントが低い組織では、社員の主体性やコミュニケーションが低下し、最終的には離職率や生産性にも影響が表れます。
改善の出発点は、現在の状態を可視化することです。従業員サーベイで全体の傾向を確認し、1on1やヒアリングを通じて数値の背景を把握しましょう。その結果を基に、適切な改善施策を検討します。
重要なのは、施策を一度実施して終わらせないことです。実施後に再びサーベイや面談を行い、従業員の意識や行動が変化したかを確認します。成果が見られなければ、施策の内容や運用方法を見直しましょう。