社内アンケートは業務改善に意味ない?活かすための工夫や質問例を解説
業務改善を実現するためには、まずは社内の現状と課題を把握することが必要です。社内アンケートはそのための有効な手段のひとつとされています。
しかし、社内アンケートを実施したものの業務改善にはつながらなかったというケースが少なくなく、「社内アンケートは業務改善に意味がない」という声もあります。
社内アンケートは適切な方法で行わなければ無駄になってしまう恐れが高い施策です。今回は、社内アンケートが業務改善につながらない原因と社内アンケートを効果的に実施して業務改善を実現する方法について解説し、アンケートの具体的な質問例を紹介します。
社内アンケートは業務改善に意味ない?
社内アンケートを業務改善に活かすためには、「現場の声を的確に把握すること」と「それを業務に反映させること」が必要です。
現場の声が的確に把握できない大きな要因は「従業員が本音を出さない」ことです。また、たとえ本音を出したとしてもそれが「業務に反映されない」のであれば意味がありませんし、次回以降のアンケートで従業員が本音を控えるようになってしまいます。
従業員が本音を出さない
従業員が本音を出さない(出しにくい)理由には以下のようなものがあります。
- 心理的安全性が低い
- 誰がどんな回答をしたか会社(上司・経営層)にわかってしまうおそれがあるため、人事評価への影響などを考慮して本音を出さない(会社に忖度してネガティブなことは書かない)
- 意義が感じられない
- アンケートの目的・用途が不明、過去のアンケートが業務に反映されず「社内アンケートで本音を答えても無駄」という認識が広がっている、などの理由でわざわざ本音を出そうとはしない
- 回答の負荷が大きい
- 質問事項が多すぎる、回答のために大量の記述が求められる、などの理由でアンケートが大きな負担となり従業員の多くが適当な回答で済ませてしまう
- 質問の仕方に問題がある
- 質問文が曖昧で答えにくい/質問文の言い回しにより特定の回答に誘導されてしまう(例:「一般的には○○とされていますが、あなたもそう思いますか/会社として○○することを検討していますが、あなたは賛成ですか」)
- 選択肢に中間的指標(「どちらともいえない」など)が含まれており多くの従業員が思わずそれを選んでしまうため本音が出にくい
社内アンケートで問題点を挙げても業務に反映されない
社内アンケートを実施しておきながら経営層が結果に向き合わず、会社の認識とずれている回答や会社にとって都合の悪い回答は(意識的にまたは無意識的に)無視してしまうというケースが少なくありません。
また、アンケート結果をもとに打ち出された改善施策がたんなる言葉だけのもので、結局のところ業務には何ら変化が生じなかったというケースもしばしば見られます。
アンケートで問題点を挙げても業務に反映されないのであれば、アンケート自体が無駄な業務だったということになります。「社内アンケートは無意味」という認識が広まって従業員が以後のアンケートで本音を控えるようになったり、会社に対する幻滅感から従業員エンゲージメントが低下したりするおそれもあります。
社内アンケートを業務改善に活かすための工夫
社内アンケートを業務改善に活かすためには、「従業員の本音を引き出す」ことと「アンケート結果を業務に反映させる」ことが必要です。
「従業員の本音を引き出す」ためには、以下のような工夫が有効です。
- 心理的安全性を確保するための工夫
- 「匿名形式にする」「基本情報(性別・年齢・部署・役職・勤続年数など)の回答を求める場合、実質的に個人特定につながらないよう注意する」「Web・デジタルツール上で実施し、結果閲覧の権限を厳重に制限・管理する」など
- 意義を感じさせるための工夫
- 「アンケートの目的や業務改善への活かし方を公表し、社内に周知する」「アンケートに関する社長メッセージを発信し、経営側の本気度を示す」など
- 回答の負荷を小さくする工夫
- 「質問数を絞り、質問文を必要十分な長さにとどめる」「主に選択式(選択肢から選ぶ方式)の質問で構成し、記述式(回答を文章で記述する方式)の質問は必要最小限にとどめる」など
- 質問の仕方に関する工夫
- 「質問をできるかぎり具体的にする」「中立的な言い回しにする」「選択肢に中間的指標は入れない」など
「アンケート結果を業務に反映させる」上では、アンケート結果(現場の声)を経営層が真摯に受けとめて分析し、現場の実態にそくした実効性のある改善施策を打ち出すことが必要です。さらに、施策の浸透度合いや成果を(再度の社内アンケートなどで)モニタリングすることにより、業務改善を着実に進めることができます。
業務改善のための社内アンケートの作り方
業務改善に向けた社内アンケート作りの進め方と注意点を解説します。
アンケートの目的を明確にする
まずはアンケートの目的を明確化する必要があります。目的が曖昧なままだと適切なアンケートを作成できず、従業員に回答する意義を感じさせることもできず、現場に負荷ばかりかけて業務改善にはつながらないという結果に陥りがちです。
アンケートの目的としては、「業務改善の課題を深掘りする」方向と「課題を広く浅く拾い上げて業務改善の目標を探る」方向が考えられます。
経営層が現時点で把握・実感している課題をもとに業務改善の目標を立て、その課題・目標に関わる項目に絞り込んでアンケートを構成することにより、課題を深掘りできます。逆に、多様な側面から少数ずつ質問事項を拾って「広く浅い」アンケートを作成することで、社内の問題を幅広く収集して業務改善の課題と目標を明確化することも可能です。
今回のアンケートで割愛した課題や、アンケート結果から新たに浮上した課題については、次回以降のアンケートで追求していきます。
質問事項の作成
アンケートの目的に沿って質問事項を作成します。
課題を洗い出すために網羅的なアンケートを作成しようとしてしまいがちですが、それでは従業員に過剰な負荷がかかり、本音を引き出しにくくなります。質問数は必要最小限に絞りましょう。
また、曖昧・難解・長文の質問や回答の誘導につながる質問は避け、選択式の質問では中間的指標を選択肢から排除します。質問事項の選択や質問文・選択肢の作成においては、中立的な視点を持つことが重要です。「会社としての答え(こういう課題があるはずだ/こうすれば改善するはずだ)」が先に立ってしまうと、質問構成が偏って効果的な実態把握ができなかったり、回答を誘導してしまったりしがちです。
質問の分野を絞ることは必要ですが、各分野において質問事項・選択肢をバランスよく配置することも重要です。社内アンケート運営の担当部署だけで作成すると偏りやすいので、各部門から意見・フィードバックを受けながら作成するとよいでしょう。
業務改善につながる社内アンケートの質問例
業務改善の課題・目標は、以下の3分野に分けることができます。ここでは、分野ごとに効果的な質問例を列挙します。
- 業務負担の平準化(最適化)
- 業務環境の改善
- 業務の効率化や無駄の削減
業務負担の平準化を図る質問
業務量や残業・休憩時間、業務分担などの適切さについて質問します。
- 業務量は適切ですか
- 休憩時間は十分に確保できていますか
- 残業時間は適度な範囲に収まっていますか
- 特定の人に業務が集中することはありますか
- 役割分担が不明確・不適切なために業務の負担が増していると感じることはありますか
- 上司は適切な業務調整を行っていると感じますか
- 経験・スキルに応じた業務分担になっていると思いますか
業務環境を改善する質問
職場の物理的環境やコミュニケーション・対人関係、心身の健康、モチベーションなどに関して質問します。
- 職場の温度や明るさは適切に保たれていますか
- 作業スペースの安全性は保たれていますか
- 部署内のコミュニケーションは十分だと思いますか
- 上司に相談したり意見・要望を伝えたりしやすいですか
- 業務により精神的なストレスを抱えることはありますか
- 休日・休暇は十分に取得できていますか
- やる気のわく職場環境だと感じますか
- スキルアップできる職場環境だと感じますか
- 自分の裁量が過度に制限されていると感じることはありますか
業務の効率化や無駄の削減につながる質問
業務の効率性の度合いや業務上の無駄・障害などについて質問します。
- 業務上の連携はスムーズに行われていると思いますか
- 部門間連携は十分に行われていると感じますか
- 社内のDX化は順調に進んでいると思いますか
- 時間が無駄になっていると感じることはありますか
- 無駄だと感じる作業・ルールなどがあれば教えてください(記述式)
- 設備やシステムの不足のために業務がはかどらないことはありますか
- 使いにくくて業務の妨げになっている設備やシステムがあれば教えてください(記述式)
社内アンケート結果を業務改善にどう活かすか
社内アンケート結果をもとに業務改善のための施策を検討する際には、業務改善の4原則「ECRS」を活用すると効果的です。ECRSでは、おおむね「Eliminate(排除)→Combine(結合/分割)→Rearrange(交換)→Simplify(簡素化)」の順で業務を見直します。
Eliminate(排除):不要な仕事を減らす
第一に、排除できる不要な仕事がないか検討します。例えば定例の会議・打ち合わせや形式化した検査・報告など、慣例として続いているだけで、排除しても事業に影響のない仕事を抽出します。
また、社内で遂行することに無理が生じている業務をアウトソーシングしたり、社内リソース・市場動向に照らして回復が難しい低迷中の部門を売却したりすることも検討します。
Combine(結合/分割):まとめられる仕事はまとめ、分けるべき仕事は分ける
排除できない(事業にとって必要な)仕事については、できるだけひとつにまとめて効率化することを考えます。例えば、同種の業務を行っている部署・拠点を整理・統合したり、業務システムを導入して間接業務を一部門に集約したりすることを検討します。
逆に、担当部署を分けて分担体制にした方が効率化できる仕事がないかどうかも検討します。
Rearrange(交換):仕事のやり方を変える
排除と結合/分割により事業・業務の贅肉がそぎ落とされ、必要十分な仕事がスリムな形で残ります。この仕事について、要素の入れ替え(工程の順序や担当者の入れ替え、作業場所の変更など)によって生産性や業務効率が向上できないか検討します。
Simplify(簡素化):シンプルにする
交換を検討したのち(またはそれと並行して)、仕事を全体的に簡素化して生産性を向上することができないか検討します。例えば、デジタルツールやFA機器を導入して業務を自動化したり、業務の標準化・マニュアル化によって現場での判断・対応・連携を迅速化・最適化したりする方法を考えます。
まとめ|社内アンケートを業務改善に活かすためには
社内アンケートを業務改善に活かすためには、社内アンケートの目的を明確化した上で、その目的に沿いながら従業員の立場に立ってアンケートを作成・実施する必要があります。
アンケートの結果(従業員の声)を経営層が真摯に受けとめ、ECRSなどの考え方を活用して実効性のある改善施策を打ち出し、成果をモニタリングしながら施策を推し進めることも求められます。
アンケートの作成や実施、施策のモニタリングについては、コミュニケーション・情報共有機能や集計・分析機能を持つデジタルツールの活用が大きな助けになるでしょう。